アマチュア無線家は警察官が声をかけてきた場合、冷静で協力的な態度を心掛ける必要があります

野外でアマチュア無線を運用している際に不審者として警察へ通報されたり、職務質問を受けるアマチュア無線家は、筆者を含めて世間には意外と多いもの。警察官といえば、モービルハムを嗜んでいる我々無線家にとっては野外や公道でよく接する公職ですが、モービルハムで車にアンテナをつけているとパトカーに止められたり、移動運用では警察を呼ばれることは決して珍しいことではありません。不法無線局の取り締まりは専門機関である総務省総合通信局が第一義的に行うほか、警察との合同取り締まりも行っています。しかし、警察独自の取締りも行っており、以下の記事にて車に局免の切れたアマチュア無線機を載せていた人がパトロール中の警察官からのお声がけから、最終的に電波法違反で検察に書類送検された実例を紹介しています。

局免失効状態でアマチュア無線機を車内設置し書類送検→略式起訴決定

 

これら『不法無線局』取り締まりの一環として、正規に免許された無線家の我々もまた、警察官にお声がけされている現状というわけです。警察官に声をかけられると、どのようになってしまうのでしょうか。職質される側のアマチュア無線家である筆者自身の体験、そして職質する側の警察関係者の主張も含めて詳しくご紹介いたしましょう。

野外でアマチュア無線を運用していると警察を呼ばれることも

無線機メーカーのアイコムさんのHPにはベテランハムたちの興味深いエピソードが満載ですが、その中には『道の駅での運用時、警察に不審者として通報された』というお話が紹介されています。

No.14 道の駅移動運用(4) | BEACON | アイコム株式会社

このお話のOMさんは全国の道の駅を旅し、それぞれの駅から移動運用するのが趣味の方だそうですが、道の駅で車を止めて長いアンテナを伸ばして運用をしていると、気がついたら警察官が窓ガラスをコンコンと叩いたそうです。

大抵の場合、移動運用ではアンテナを設置します。

OMさんが『何か?』と尋ねると、その制服の警察官は「怪しい人物がいると通報が入ったので」と一言。どうやら、アマチュア無線家を外国のスパイではないかと疑ったそうです。もっとも、道の駅で深夜に無線をしていると警察以外にも変な人に声をかけられることが多いそうで「ジュース買うのでお金をくれ」と言われるなど、怖い思いをしているそうです。

何も悪いことをしていないのに制服姿の人たちに声をかけられると、緊張してしまうのは筆者だけでしょうか。好きな漫画は野獣警察と湾岸ミッドナイトです。

ほかにも、いろいろなアマチュア無線家の方々のサイトを拝見させていただくと、同じように警察の職務質問で不愉快な思いをしている人が多いようです。とくに山の上や道の駅で長時間にわたって、長いアンテナを立てて移動運用をやっているハムは職務質問の対象となっているのが現状のようです。中には無線機が液晶表示だからという理由で「これ違法機だね」と言った北海道巡査も。

http://ja8tdl.at.webry.info/201204/article_2.html

恐らく、パーソナル無線の違法改造機である”スペシャル機”と混同しているのかもしれませんが、上記のエピソードを読む限り、必ずしもアマチュア無線を理解している警察官ばかりではないようですので、声をかけられたら少々面倒なことになるやも知れませんね。

職務質問を受けた際は無線機、従事者免許証と無線機に備えてある証票(シール)を見せたら、あとは余計なことを言わないほうが良いですよね。それでも上述の北海道巡査のように、無知なのか、かまかけなのか、変なことを言ってくる場合もありますので、どちらにしろ不快な思いをすることが多いかもしれません。

※追記 2018年、証票は廃止となりました。

2018年、無線局免許証票(シール)廃止へ!今後はモービル運用では局免を車に積むようになるの?徹底検証!

 

一方で、そのような不快な思いをしないために、車に「アマチュア無線運用中」といった張り紙をして不審な人物と思われないようにする無線家もいるようです。

職務質問する警察側の主張

以下の動画にて、「警察職員」が公共の場所においてアマチュア無線やライセンスフリー無線をやっている趣味の方々に、どのような意図で職務質問を行っているのか、またそのような無線家が、一般の方から通報されないようにするにはどのようにしたら良いのかというアドバイスを述べています。

この動画について、多くの人がどのようにコメントをしているのか、コメント欄も興味深いものです。

アマチュア局はどのような対応が必要か

車に妙なアンテナがあがっているのを見つけ「免許拝見」を行う事が多い警察官。私たち正規に免許を受けたアマチュア無線局も、ときにどう接すればいいのかよくわからないこともある、謎の多い公職であるのではと思います。とはいえ、一般論としては警察官に課せられた職務と使命は公共の安全と秩序の維持。警察に対して私たち地域住民が協力することは地域社会や公共の安全に貢献するための重要な手段と言えるでしょう。したがって、それぞれの地域住民であるアマチュア無線家が警察官との信頼関係の醸成に努めることは、当然有意義であると考えます。

また、忘れてはならないのが職務質問は任意に基づいて行われるということです。したがって、仮に拒否を主張して拒んでも、それは本来当然の権利とも言えます。そこで、前述の話に戻りますが、警察官が職務質問をなんのためにするのかと考えた場合、公共の安全と秩序の維持という理由になりますので、すなわち、積極的に協力することで地域社会の安全が守られ、最後は住民個々の利益に帰結するというわけです。

一般的に、警察官は警察学校で第二級陸上特殊無線技士の資格を講習で取得している無線従事者であること、警察学校へ総合通信局の職員が出向いて不法無線取締のテクニックを教授しているなどの理由から、アマチュア無線が国家資格の必要な趣味の無線であることを理解しています。セオリーとして、まずは従事者免許証の提示を求めるでしょう。無論、アマチュア無線運用中のアマチュア局は従免を携行する義務があるので、警察官に求められた際は速やかに提示をする必要があります。

以下はあくまで筆者個人の感想であり、”すべき”という主張ではありませんが、以下のような対応で考慮していくのが適切かと考えています。

  1. 冷静に対応する:
    • 警察官が声をかけてきた場合、冷静で協力的な態度を心掛けることが重要と考えます。「ここで何をしているのか」と尋ねられた際に「アマチュア無線の運用をしている」こと、さらに必要に応じて、無線通信の特性やアマチュア業務に関する知識を簡潔に説明することが重要と思います。
  2. 従事者免許証を提示する:
    • アマチュア無線の運用中、従免(従事者免許証)は必ず携帯する必要があります。すぐに提示できるようにしておくのが重要と思います。これにより、アマチュア無線の国家資格を所持していることを示すことができます。
    • ただし、モービル運用の場合でも、局免(無線局免許状)を車に積む法的な義務はありません。以前までは局免の代わりに『証票シール』があり、移動する無線局は備え付ける必要がありましたが廃止されています。この知識をアップデートできていない警察官が多く「無免許を疑われる」ことによる不愉快な対応の原因は大抵ここにあるようです。それを防ぐため、それぞれのアマチュア無線家が独自の判断で局免(無線局免許状)のコピーを車に積む場合もあります。
  3. 通信の透明性を確保する:
    • 警察庁では北朝鮮、中国及びロシアが様々な形で対日有害活動を行っていることを把握しており、平素からその動向を注視し、情報収集・分析等を行っています。
    • したがって、警察官は対日有害活動を行う国や工作船に係る秘密通信をアマチュア無線家が行なっているのではないかと疑いの目を向けています。
    • アマチュア無線の運用目的や場所について簡潔に説明することで、警察官に理解を促すことができます。
    • アマチュア局の通信が透明であり、適切な周波数で運用され、電波法やアマチュア無線の規則を守った法令遵守の上で、技術研究を目的に運用している旨を伝えることが重要と考えます。
  4. 言葉遣いに注意する:
    • 職務遂行中の警察官に対して敬意をもって対応し、礼儀正しい言葉遣いでコミュニケーションを図るのが建設的であると考えます。
  5. 協力的に情報提供する:
    • 警察官が求める範囲内で必要な情報を協力的に提供します。無駄な対立を避け、円滑なコミュニケーションを心掛けるのが大切と考えます。
    • 警察官の不適切な態度が問題となる場合、できるだけ証拠を収集しておくことが重要と考えます。言動を録音や詳細に記録するのが大切と考えます。
    • これらの情報は警察本部監察官室へ苦情申し立ての際に提供することで、当時の対応の信憑性を高め、後の検証に役立つことがあります。
  6. 警察の装備に興味を示さない:
    • 警戒されて詰問され、拘束時間が延びる可能性があります。※お前のことだろ。

これらのアプローチにより、アマチュア無線家と警察官の間で円滑な対話が成り立つ可能性が高まると考えます。彼ら警察官自身も2陸特という国家資格を持ち、警察無線という業務無線を扱っていたり、各都道府県警察の中には警察職員で結成されたアマチュア無線クラブがあったりするのですから、もう少しアマチュア無線に理解があってもよいのではないかとも思います。なにより山岳救助などではアマチュア無線家からの通報、連携が必要になる場合もあります。

しかし、警察無線の歴史を見ると、警察側としては例のグリコ森永事件によってアマチュア無線に理解を示すどころか、激しい憎しみを持たざるを得ないという事情もあるようです。グリコ森永事件では犯人グループがアマチュア無線で犯行計画を打ち合わせし(それを傍受して当局に通報したのもまた、善意のハムだった)、当時アナログだった警察無線へ、改造したアマチュア機などで妨害をも行っていました。

また、当事は受信改造されたアマチュア無線機などで警察無線を傍受した者らに、取り締まり情報が容易に漏れていたことも原因でしょう。これらのことから警察無線は80年代末の時点でデジタル化へと進みました。

アナログ警察無線と妨害の歴史

 

ただ、それほど不愉快な職務質問をいまだかつて受けたことがない筆者は幸いなのかもしれませんが、そもそも、どういう目で私たちアマチュア無線家が一般の方や警察官に見られているのかと思うと、ちょっぴり悲しいものがあります。

JARLでは『アマチュアはよき社会人であれ』というスローガンを標榜しています。

今後もわたしたちハムが真摯にルールを守って正しく運用し、ハムをしない方々にも理解を深めてもらう以外に方法はなさそうですが、昨今ではハムでありながら詐欺を行う人間もおり、なかなか難しいのが現状です。