広帯域受信機で聴ける無線、聴けない無線は?

現在のアマチュア無線機には広帯域受信機能(ワイドバンド機能)が備わっている機種が多く、例として筆者のお勧めするYAESUのハンディ機『VX-3』にも搭載されています。

しかし、アマチュア無線機に搭載される広帯域受信機能は本格的ではありません。

そこで、アマチュア無線のみならず、航空無線や各種業務無線、さらに低い周波数のHF帯など、幅広い無線交信を聞きたい(受信)のであれば『広帯域受信機(ワイドバンドレシーバー)』がおすすめです。筆者が使用しているIC-R6は現時点でアナログ受信機としては最高の性能を持っています。

また、広帯域受信機は無線機ではないため、送信機能がありません。つまり、免許や資格が不要で、どなたでも扱えます。

電波法では『「無線局」とは、免許人及び無線設備並びに無線設備の操作を行う者の総体をいう。 ただし、受信のみを目的とするものを含まない。』としていますが、取締りを行う総合通信局では『電波を発射しなくても、電波を発射できる状態で無線機を使用していれば、不法無線局の開設罪に問われる場合もある』としていますので、絶対に電波を発射できる状態で無線機を使用しないようにお願いします。

アマチュア無線機の広帯域受信機能と広帯域受信機の比較
  • アマチュア無線機の『広帯域受信機能』は限定的
  • 広帯域受信機は幅広い周波数と各種の電波形式に対応する
  • 広帯域受信機はアマチュア無線の資格や免許がなくても扱える
  • 無資格者が送信可能状態のアマチュア無線機を受信機がわりに使う法的リスクがない

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広帯域受信機で聴ける無線、聴けない無線は?

現在、国内で販売されている広帯域受信機にはアナログ受信専用とアナログ・デジタル受信両対応の2種類があります。アナログ無線とは特殊な変調方式ではなく、例えばラジオ放送のようにAM、FM方式を基本とするもので、これらはアナログ広帯域受信機で受信が可能です。

この数年、総務省では新たな電波利用ニーズに応えるため、周波数再編を進めており、将来的にはこれらアナログ無線を徐々にデジタル無線へと置き換える計画です。2024年現在では公的機関の無線、鉄道やタクシー、ライフライン無線、防災行政無線、報道連絡波などがデジタル化されています。2024年現在、これら一部のデジタル無線に対応したデジタル受信機も普及してききましたが、まだまだ高価なのがネックです。

2024年現在、受信できる無線各種

地域によって受信できる無線は異なる場合があります。

どの地域でも受信できる無線

アマチュア無線(アナログ&デジタル)

現在、アマチュア無線にもアナログ方式とデジタル方式の2種類がありますが、VHFの144MHzと、UHFの430MHzならば、全国各地で運用されているので全国的に受信可能です。どちらのバンドも直進性が強く、電離層で反射しにくい性質を持っているため利用者が多く、簡易なアンテナでも普段はおよそ50キロ圏内でこれらの周波数帯域で多くの交信が聞けるでしょう。430MHzでは宇宙空間のISSのレピーターを介した交信を受信することもできます。

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一方、さらに低いHFと呼ばれる短波帯は電離層に反射して遠くまで伝わる性質を持ち、SSB(のうちのLSBモード)と呼ばれる減衰の少ないモードによる通信のため、より遠方の局同士の交信を受信できることがあります。筆者は北海道で東北、北陸、関東、関西、四国、沖縄までほぼすべての地域の交信を7MHzで毎日受信しています。日中から夜11時ごろにかけて日本全国はもとより、1500キロ先の外国のアマチュア局の声やモールスがお祭り騒ぎのように賑やかに聞こえています。IC-R6はSSBに非対応ですが、約半額で買えるSSB対応ラジオ(簡易ワイヤーアンテナ付属)で受信可能です。

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また、災害とは切っても切れないアマチュア無線では災害発生時、被災した局やボランティアの局などが非常通信を行います。大規模な災害でなくとも、山岳事故、海難事故などで救援が必要な際に非常通信が行われる場合もあり、アマチュア無線は情報収集において疎かにできません。

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また、1部ではデジタルモードが使用されています。これはC4FMと呼ばれる4値FSKの一種で、 アマチュア無線のほか、デジタル簡易無線、業務無線などで利用されています。アマチュア無線におけるC4FMではGPS測位で得た位置情報などを無線機のディスプレイに表示できますが、やはりデジタル対応の無線機や受信機でなければ復調できません。

航空無線(アナログ)

航空機と地上の管制が交信するVHF帯エアバンドでは、50キロ先を低空で飛ぶヘリやセスナの交信も聞こえてきます。航空無線と一言で言っても、航空管制、航空会社のカンパニーラジオ、さらにはUHF帯にある航空自衛隊専用のGCI、HF帯にはSSBモードの洋上管制まであり、様々な楽しみ方があります。

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洋上管制もまた低いHF帯を利用するため、全国各地で受信可能。有名な自衛隊版・洋上管制『厚木オーシャニック』では陸海空の航空機が交信しており、コンディション次第で真っ昼間から聞こえてきます。戦術の通り、これらHF無線の受信にはSSB対応ラジオが必要です。大きなアンテナは必ずしも不要です。

業務無線(アナログ)

かつて150MHz帯、468MHz帯などは民間事業者、それにアナログ消防無線など多数いましたが、現状では激減しております。近所に事業者があれば、これらのアナログ業務無線をまだ使用している可能性があります。また140MHz帯では極少数ですが、土地改良区など準公的機関が現在も使用している場合があります。

消防署活系無線(アナログ)

それまでは政令指定都市の消防本部のみ免許されていましたが、2016年の消防無線(指令波)完全デジタル化に伴い、全国各地で使用が緩和されました。基本的には現場の隊員同士で交信するアナログ無線ですが、訓練における指令波の代替や、ハチの巣駆除での使用など意外と普段から使用されています。反転秘話が使用される場合もありますが、アルインコの最新受信機DJ-X100(受信改造済み)なら復調可能です。

デジタル消防無線は聞けないが聞けるアナログ消防無線もある!

デジタル簡易無線(登録局・免許局)(デジタル)

上記のアナログ業務無線に置き換わりはじめているのが467.00000MHz~467.40000MHzまで6.25kHz間隔の65波で免許されている467MHz帯のデジタル簡易無線(免許局)です。一方、業務並びにレジャー使用ができるのが351MHz帯のデジタル簡易無線(登録局)です。免許局では一般的な事業者が免許されています。登録局では企業、店舗、学校行事、常備消防&消防団、そしてレジャー局(フリーライセンス局)と、全国で使用者が増えていますので、受信できる機会は多いでしょう。2023年に登録局のチャンネル数が大幅に増えました。

デジタル簡易無線(登録局)とは?

一部地域で受信できる無線

やはり無線を使用する事業者は都市部に集中しています。

報道連絡波(デジタル)

事件事故が発生した際に活発になるマスコミ無線で、取材中のレポーターとスタッフがテレビ局と連絡を取り合います。山頂設置のテレビ中継局が近くにあれば、報道連絡波用のアンテナも併設されている場合があるため、受信しやすい場合もあります。

デジタル・報道連絡波(放送連絡波)の受信について

タクシー無線(デジタル)

それまでアナログ方式で24時間受信できていたタクシー無線も、今やすべてデジタル無線です。受信方法にはクセがありますが、多くの場合受信は可能です。やはり多くの事業者が集まる市町村、客の多い都市部である方が受信できる機会が多いでしょう。DJ-X100(受信改造済み)では、テキストデータによる乗客情報を受信して、内容を窺い知ることもできますが、同機の特殊機能を使うにあたっては電源投入時、画面上に『漏洩した場合は電波法違反による刑事罰が課されることを理解している』という文面が表示され、同意が必要です。

デジタル・タクシー無線の受信方法

デジタル警察無線・デジタル消防無線は聞けない

2023年現在、AOR、アルインコ、アイコムなどのメーカーから各種デジタル無線に対応している受信機が出揃い、上述のデジタル報道連絡波、デジタル簡易無線、デジタルタクシー無線のほか、米国警察や在日米軍も使うPublic Safety(公共保安)P25規格なども受信して復調できます。しかし、それでも受信できないデジタル無線があります。

デジタル無線対応の受信機と聞くと『デジタル警察無線は聞けるの?』と思う方もいるかもしれません。日本の警察無線はすでに80年代から90年代にかけてデジタル化されましたが、初期のデジタル警察無線はそのデジタル・スクランブルが突破された歴史があります。これは過激派や一部の無線マニアによるものでしたが、当時と現在の技術的及び法的な事情は大きく異なることに留意が必要です。最新のデジタル警察無線ではさらに複雑なスクランブルによる暗号化が実装された上に、警察の自営回線と民間の通信会社の回線を併用したIP無線になっており、それまでのアナログ無線や、その他のデジタル無線の感覚では受信ができません。

ただ、昨今では受信機単体での復調より、PCと連携させてなんらかのソフトウェアで解読を試みようとする人も増えています。よって、解読できるか否かは個人の技量にもよるため『できない』と断じることは適切ではないかもしれません。

しかし、法改正が行われ、デジタル暗号化された通信を第三者が解読することが違法とされたことで、解読の目的によっては法的なリスクが生じるようになりました。これら暗号通信である警察無線などを解読・復調することについては、アルインコ社が『電波法に違反し罰則がある』と言及しているので、解読を試みないでください(※当該の文言は同社公式サイト上から削除されています)。

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【2023年版】災害発生時に活発になる災害対策系無線の周波数解説

広帯域受信機のまとめ

このように、広帯域受信機があれば、様々な周波数を受信することができますが、警察や消防など重要なデジタル通信は技術や法的な面で復調ができないと理解していただければ幸いです。

また日本国内で受信するのは問題がなくても、一部の国では広帯域受信機の持ち込みが法律で規制されている場合もありますので、海外旅行へ受信機を持っていく場合は事前に該当国の大使館へ確認するなど調査が必要です。フレンドシップデーなどで在日米軍基地内に無許可あるいは隠して持ち込まないようにも注意が必要です。憲兵隊からの厳しい取り調べが待っていますので、充分にご注意ください。

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