消防無線(デジタル/アナログ )の解説

消防無線の受信

消防署と隊員および消防車両が交信するデジタル消防無線は市販の受信機では傍受できません。

消防無線が260MHz帯デジタル方式化した理由

秘匿性の向上による利用高度化および、電波資源の有効利用の観点

しかし、今般のデジタル化の一方で広帯域受信機で聞けるアナログ消防無線が全国で一斉に増えました。きちんと解説します。

2016年にデジタル化した消防無線

平成28年5月31日まで使用されたアナログ方式の150MHz帯消防指令波は各消防本部独自の自営無線通信として運用され、基地局の消防署から支署や車両(移動局)などへ出場指令を出すほか、活動中の隊員から本部へ状況伝達する際に使用されました。

アナログ無線のため、市販の広帯域受信機で受信が可能でしたが、ついに2016年(平成28年)3月をもって、すべての市町村で260MHz帯デジタル方式消防救急デジタル無線通信システム化へ更新したと総務省消防庁が発表。

それでは消防無線について、まずは現在主流の新たなデジタル消防無線の特徴などから詳しく解説していきましょう。

消防救急無線通信システムのデジタル化の特徴……情報秘匿と文字データによる情報伝達

新しい260MHz帯デジタル方式消防救急デジタル無線通信システムは、通信方式にSingle Channel Per Carrier(SCPC方式)を採用。さらに消防独自の音声コーデック方式秘話も使用されています。また260MHz帯デジタル方式消防救急デジタル無線通信システムでは、これまで消防救急アナログ無線で不可能だった『車両動態管理および文字等のデータ通信』も可能になりました。文字データによる情報伝達によって詳しい水利位置、患者情報などを消防本部から現場の隊員に指示できます。

デジタル新型消防無線機はドクターヘリにも搭載されるようになり、病院などの拠点を離陸したドクターヘリは現場到着まではFMの医療用周波数で単信または複信方式で情報伝達を行いますが、現場上空になると消防無線を使って現場の各消防本部の隊員らと詳細な要請内容の交信をします。

そして、これまでアナログの消防無線では140MHzから150MHz台のいわゆるVHF帯が割り当てられていましたが、今回のデジタル化に伴い、これまでよりも高い帯域の260MHz帯へと移行しています。260MHz帯はUHFに近くなるため、論理的には以前のVHF帯よりも通信距離が短くなり、とくに山などでは不感地帯が発生する懸念も指摘されています。

それまでの140MHzから150MHzといったVHF帯の電波では、状況次第で広範囲に届く場合もあるため、消防・救急波として公開されている近隣市町村の周波数を受信機に入れてメモリースキャンしておけば、昼間は聞こえない遠い地域の消防無線でも、深夜の電離層の変化によって傍受ができました。

東京消防庁のみTDMA方式

全国の消防ではSCPC方式を採用していますが、唯一、東京消防庁のみが時分割多元接続のTDMA方式を採用しています。その理由について、周波数が50波以上もある大所帯であることが挙げられます。この膨大な消防と救急業務の各周波数を運用するため、25kHz幅の1波に4チャンネルが入るTDMA方式を採用しています。ただし、一部の車両には近隣県の消防と連携が取れるように、SCPC方式の無線機も搭載されています。参照元 https://radiolife.com/tips/45081/

また、デジタル無線特有の仕様として電波が弱いと変調に不具合が生じ、音声が断続してしまい、正常に受信(復調)できないという特徴や、PTTボタンを押してから実際に送信されるまでにタイムラグが発生してしまいます。これは現在民間で広く普及している「デジタル簡易無線(登録局・免許局)」でも同じです。

とくに消防無線では人命救助の現場で使用されるもっとも重要な無線であることから、消防活動において指示の遅れによる危険性が指摘されており、現場においては全く交信ができない状態に陥る可能性を指摘する消防団員の声を以下の記事で報じています。

デジタル通信はクリアに聞こえる半面、アナログ式の時代は建物や山の陰でもわずかに聞こえた音声が全く聞こえないこともあり、 郡部の消防本部などからは「はっきり聞こえるか、全く聞こえないかのどちらかというのは不安もある」「電波が入りづらくなった」との指摘もある。 消防庁によると、3月末で全国の消防救急無線のデジタル化が終了したという。

典拠元
http://www.kochinews.co.jp/?&nwSrl=354801&nwIW=1&nwVt=knd

一方、デジタル消防無線のアンテナは消防車両に取り付けられるタイプでは以前よりも短くなり、アンテナメーカーからドルフィン型アンテナも登場しています。

関係者以外は傍受不可能に

今回の消防無線デジタル化にあたり最も際立った点として、事実上現在販売されている広帯域受信機ではデジタル指令波が一切受信できなったことが重要です。

これまでのアナログ無線のように市販の無線機や受信機を使った第三者による傍受および復調が困難になったことが最大の特徴です。ただ、困難と言っても、技術的に完全に不可能かどうかは今後のAI等の解析アプリケーションの進化にもよるため、不明です。※法的な側面もあります。

デジタル消防無線受信機が一切市販されていない現状では一般人どころか、消防団員もデジタル消防無線に対応した受令機が無ければ受信ができません。

これまで、アナログ消防無線の時代における消防団員は非番時などにも対応するため、個人的に市販の広帯域受信機を使って消防無線を傍受していました。また、消防団専用として消防団波という153.35MHzの専用波もありますが、こちらも新たな認可は下りず、将来的にデジタル化されるものとみられています。

アルインコなどアマチュア無線機メーカーからもデジタル消防無線を受信できる「受令機」が発売されていますが、総務省消防庁の指導によって消防関係者向けに限定されているため、どのメーカーも一般人への販売は自主規制しており、製品の特性上その仕様すら関係者のみしか開示せず、一般の人の質問へは答えられないとしています。

警察無線同様、消防無線もデジタル暗号化されており、それを第三者が不正に解読を試みようとすると、電波法違法になります。これについてはアルインコ社のサイトで以下のように説明がなされております。

今のアナログのような感覚で受信できるレシーバーはありません。警察や消防のような無線は、製造に必要な部品の入手、秘話コードや運用形態が高いセキュリティレベルで守られており、仮に受信機だけを手に入れたとしても、通信を聞くことはできません。また、デジタル秘話化された無線通信をデコードすることは電波法に違反し罰則がありますから、そのような装置をまともなメーカーが一般向けとして製造販売することもあり得ません。

引用元 アルインコ株式会社公式サイトhttps://www.alinco.co.jp/faq/contents_type=322#F20171115001

※2023年現在、上記の文言は削除されています。

アルインコ社では「消防団員様でも、個人のご購入はできません。」とのことです。

アルインコ社公式サイト
http://www.alinco.co.jp/product/prod_item.html?itemId=I20130411001

ところが、以前一度だけヤフーオークションにデジタル消防無線用受令機が出品され、大問題になったことがあります。

<出所を尋ねる質問etc. 6時間後に出品取り下げ!>厳重な流通管理と盗難防止が施されるはずの「デジタル消防救急無線受令機」がヤフオクに登場

https://www.hamlife.jp/2016/06/24/yafuoku-dj-xf7/

このように、デジタル消防無線では無線機のみならず、受令機も含めて大変厳重に管理されているはずですが、オークションにかけられたことがあるのは事実です。しかしやはり、一般人がデジタル消防無線を傍受するのは現在では困難、不可能に近いでしょう。アナログの広帯域受信機で聞こうとしても、警察無線同様にデジタルノイズだけで音声に復調することはできません。

逆にアナログ署活系無線は全国の小規模消防に使用が緩和された

でも、本当に『消防無線』は傍受不可能になってしまったのでしょうか……?いいえ。消防無線には466.3500~466.5500MHz(12.5kHzステップおよびFM)を使う『署活系無線』という系統もあります。実は今、デジタル化して聞けなくなった指令波とは逆に、署活系無線は活発化しています。

消防署活系は火災現場などで消防隊員が使う無線ですが、これまで署活系無線は政令指定都市などの大規模消防局でしか配備と運用が認められず、政令指定都市以外の小規模な市町村の常備消防(消防本部)では運用が認められなかったのです。

それが今回のデジタル化に伴って、総務省が規制緩和を行い、現在では政令指定都市以外の全国の消防で使用が許可されています。

また、消防無線としてはかなり自由度が高い無線ともされており、ラジオライフさんのサイトにこのような興味深い説明もありました。

消防無線はアナログ波の署活系でデジタルを聞く

消防無線の署活系は運用方法に自由度があり、いろいろなシステムが作られています。その1つが、260MHz帯のデジタル消防無線中継システムです。消防本部と消防車を結ぶ260MHz帯のデジタル波を受信した消防車は、車載の中継装置でFMモードに変換。466MHz帯のアナログ波で送信されるのです。
(文/さとうひとし)

引用元 ラジオライフ.com
http://radiolife.com/security/7632/

上記のようにデジタル化された指令波であっても、一部の消防本部では独自運用として、アナログの署活系に変換して現場の隊員に伝える場合もあり得ます。

ただし、消防本部によっては反転式秘話を施している場合があります。その際は反転秘話に対応したアルインコのDJ-X100(受信改造済み)が活躍します。

そのほかの消防関連周波数

VHF帯の150MHz帯に割り当てられた防災相互波(158.35MHz)もアナログ用周波数ですが、大規模災害時のために残されているようです。こちらは複数地域にまたがる大規模災害などが起きた場合に活用が想定される一方、警察や自衛隊などとの大規模な合同訓練でも使います。

近隣の消防組合と連絡を取るために平時でも使うことがあり、たとえば、ある市消防本部が遠方の市消防ヘリに用件を伝達するため、隣接の消防組合に伝達を要請する時などに158.35MHzが使用されます。

また、防災相互波はVHF帯だけではなく、UHF帯の466.7750MHzでも割当てられており、消防本部では466MHz帯を使う署活系無線機に、466.7750MHzもプリセットされていますので要メモリーです。

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消防用語

消防無線では専門用語が飛び交います。

その一部をご紹介いたします。近隣の災害発生状況を知る上では消防無線は欠かせない存在なのは事実ですから、消防救急用語を覚えておきましょう。

消防車両は各コールサインを持っています。○○タンク、○○指揮、など。○○の部分は市町村消防本部名称です。大抵は本部自らが公開しネット上で誰でも見られる情報になっています。

南十勝消防事務組合無線通信運用規程
http://www.minami119.hiroo.hokkaido.jp/sab_8/reikisyuu/reiki_honbun/au05901001.html

上田地域広域連合消防通信運用規程
http://www.area.ueda.nagano.jp/reiki/honbun/08300600.html

美作市消防無線交信要綱
http://www.city.mimasaka.lg.jp/static/reiki/reiki_honbun/r140RG00000722.html

印西地区消防組合消防通信規程運用要綱
http://fire-inzaichiku.eco.coocan.jp/reiki_int/reiki_honbun/aw29400851.html

用語は消防局によって異なります。以下は無線技術雑誌などに掲載されていた例です。

用語 概要
カガイ
加害
マルショー
傷病者
マルヨン
火災で命を失った人
マルソン
自損行為
マルキュー
要救助者
マルヨイ
酒酔い
マルゲン
現場
ナナマル状態
パニック状態
マルセン
有線連絡
CPA
心停止
CPR
心肺蘇生法
特命出場
人員補充のための追加出動
イチマルマル
警察官 ※イチイチマルではない。本部によってはそのまま「警察」と呼称する場合もある。
口頭指導
119番オペレータが通報者に電話で救命方法をレクチャーすること。

消防無線のまとめ

このように消防指令波がデジタル化によって聞けなくなってしまったからといって、せっかく買った広帯域受信機を手放す必要は今のところまだありません。

多くの地域ではむしろ、今まで運用もされておらず、聞こえなかった署活系無線が突然活発になっているのです。なお、消防団ではデジタル簡易無線(登録局)の配備が全国で進んでいます。デジタル消防無線機の一部には、デジ簡機とも相互交信できる機能を持ったものもあります。

デジタル簡易無線とは?『免許局』と『登録局』の違いなどを解説