国会の警備は警察が担当していない!?三権分立の下、独自の警備要員「衛士」を有する日本の国会

日本の国会では、衆議院と参議院の両院が、警察の直接的な関与を受けることなく独自の警備を行っています。

これは、三権分立の原則に基づき、国会が自ら警備や治安維持の責任を負うためです。

警察官は日常的に国会内に立ち入ることは許されず、議長の許可がなければ、例外的に総理大臣などの警護を行うSP(警護担当警察官)以外、国会内での警備に関与できません。

国会衛視の存在と役割……警察官が担う範囲と国会衛視との違い

このため、国会内の警備は「国会衛視」と呼ばれる専門職員が担当しています。

国会衛視は衆議院事務局または参議院事務局に所属し、特別職国家公務員として、国会内の警備および治安・風紀維持を担っています。

区分 内容
職名 衛士(えいし)
所属 参議院事務局警務部または衆議院事務局警務部(それぞれの院の事務局に属する)
身分 国家公務員(特別職)
制服 儀礼服・通常制服あり(濃紺の詰襟型など)。儀式時は儀礼刀も装備
主な勤務場所 国会議事堂内(参議院・衆議院の本会議場・委員会室・各所警備区域)
基本的職務
  • 議場および委員会室内の秩序維持
  • 不審者の排除・警戒
  • 来訪者の案内および通行管理
  • 国会議員への議場誘導・儀礼的な護衛
特別な職務
  • 国会開会式や天皇陛下の御臨席時の儀衛
  • 衆参両院の議長命令による排除(議場からの議員排除など)
  • 緊急時の避難誘導や消防活動の支援
勤務体制 交代制勤務・日直や夜勤あり。警備体制は厳重
採用方法 衛視採用試験(高卒程度)または転職採用。警察・自衛隊等の経験者優遇
特徴
  • 警察官が立ち入れない「国会」という日本の立法府を守る特異な職域
  • 国会法第114条により付与される議院警察権を持つ
  • 国会の自衛消防隊も衛士が務める

彼らは、国会法第114条に基づき、限定された警察権を持ち、現在、衆参両院で約500名の国会衛視が勤務しています。

警察官が担当するのは国会外周や周辺の警備であり、あくまで国会内部での治安維持は国会衛視が行っています。

国会衛視の制服と装備品……“武装”の検討

国際的なテロリズムの脅威を受け、2015年にはISIL(イスラム国)が日本に対するテロ予告を行ったことを契機に、国会衛視にもけん銃を持たせる議論が行われました。

2025年現在、国会衛視は警察官のような、けん銃による武装は許されていませんが、今後の情勢に応じてその武装が強化される可能性があります。

制服を着用し、腰に特殊警棒を着装した衆議院所属の女性衛視。対刃防護衣および特殊警棒での武装は近年になって行われた特別な措置。画像の出典元 公共放送NHK公式サイト『永田町・霞が関のサラめし 国会をハードに守る「衛視」のランチ』

国会衛視は警察官と似た制服を着用し、肩にエポレット、紺のズボン、制帽を着用していますが、警察官と明確に区別される点も多くあります。

例えば、国会衛視は警察官と逆に階級章を右胸に着け、上腕部の記章の位置も異なります。

衆議院の門前で警備を行う衛視。門衛などの一部の警備要員については特殊警棒、盾やさすまたなどの装備も配備されていることがわかる。画像の出典元 公共放送NHK公式サイト『永田町・霞が関のサラめし 国会をハードに守る「衛視」のランチ』

また、普段は警備活動時に呼び子を携行し、丸腰で業務を行っています。ただし、近年では出入り口を固める門衛など一部の衛視については特殊警棒を常時携行しています。

限定的な警察権を与えられた国会衛視ですが、現状ではけん銃の貸与は許されておらず、普段は制服のポケットに呼び子だけを携行し、丸腰で両院内部において警察権の行使を行っています。

衛士、議員の騒乱を鎮める

議員による騒乱を鎮圧し、秩序回復の人にあたるのも衛士です。

耐火アサルトスーツにMP5短機関銃の機動隊……国会歴史上初となる警察官による対テロ訓練

2014年10月、カナダ・オタワにある連邦議会議事堂で発生した銃撃事件は、世界中に大きな衝撃を与えました。

その余波は遠く離れた日本の国会にも及び、かねてより懸念されていた内部への不審者侵入事案と相まって、国会内における対テロ警備の必要性が改めて浮き彫りに。

これを受けて、警察庁・警視庁・国会の三者が協議を重ねた結果、2015年7月、ついに国会史上初となる警察官による大規模なテロ対応訓練が実施される運びとなりました。

訓練当日、議事堂の廊下に姿を現したのは、全身を黒ずくめの耐火アサルトスーツに包み、手には海上保安庁や自衛隊の特殊部隊でも使用されるMP5短機関銃を携えた、警視庁機動隊の銃器対策部隊員たちでした。

彼らは静かに国会内を索敵し、やがて「犯人」を発見。照準は正確に肩へと定められ、狙撃によって制圧するというシナリオが展開されました。

さらに、犯人が投げ捨てた爆発物に見立てたリュックサックに対しては、爆発物処理隊が迅速に対応し、処理作業を完了。

一連の訓練は、現実さながらの緊迫感の中で進められました。

そして一部関係者の間で囁かれたのが、訓練に参加した隊員の中に、SAT(特殊急襲部隊)の隊員が混ざっていたのではないかという憶測です。

SATとは、警視庁警備部警備第一課直轄の特殊部隊であり、通常の機動隊とは異なる立ち位置にあります。

特に犯人役として登場した、どこか只者ではない雰囲気を纏った角刈りの男──その動きの鋭さ、演技とは思えぬ緊張感。

あの男こそ、現役のSAT隊員だったのではないかと、一部の指摘があります。

警察の銃器.2 『特殊銃』MP5から自衛隊89式、対物狙撃銃まで