【見破り術】覆面パトカーのアンテナ進化論──ユーロ偽装から車内ビルトイン化の最前線…進化の歴史を追え!

当記事では覆面パトカーのアンテナの種類について解説します。

警察本部通信指令室とパトカーが確実に交信できる車載通信系については、すでに解説の通りですが、アンテナの偽装が重要になる覆面パトカーでは、それまで自動車電話型の「TLアンテナ」や、アナログテレビ受信用のダイバシティ・アンテナに偽装された「TAアンテナ」などが長らく主流とされてきました。

また、アンテナの秘匿がそれほど重要でない警護車など一部の車両では、現在でもアマチュア無線や業務無線風のアンテナが配備されているケースも見られます。

そして2025年現在、各都道府県警察の捜査車両において普及がめざましいアンテナが、2010年ごろから全国的に配備が始まった「ユーロアンテナ」です。

ただし2021年には、デジタル警察無線がAPR方式から次世代型のIPR方式に置き換えられました。

それに伴い、気になるのは車内アンテナの増加傾向です。

IPR方式導入以前にも、地デジ用フィルムアンテナに偽装した外部アンテナレス化を図った事例は、高知や徳島など四国地方を中心に見られましたが、IPRへの更新と同時に、着脱が容易なユーロアンテナを車内のリアトレイに秘匿設置するケースが全国的に増えています。

筆者はこれを「偽装」から「秘匿」への変化と捉えており、覆面パトカーのアンテナレス化が全国に波及している印象を受けています。

この動きの背景には、2014年に発生した「覆面パトカーのアンテナ窃盗事件」が関係している可能性もあります。事件後、警察庁が各警察本部に対して、より一層の秘匿措置を求めたと推測されます。

当局側としては、できるだけ早期に外部アンテナレス化を進めたい意図もあったと考えられます。

さらに、アンテナをドアミラー内部に仕込んで完全に秘匿してしまうという特許まで警察庁が取得しており、ここまで来ると、もはや生半可な知識では覆面パトカーを見分けるのは難しくなっています。

それでもなお、覆面パトカーを象徴する外見上のディティールとして、いまだに語られるのが、後付けの外部露出型アンテナです。

それぞれの時代の流行に合わせて、市販のアンテナに偽装するという涙ぐましい努力が続けられてきたこともまた、忘れてはならない事実です。

本記事では、こうした覆面パトカーにおけるアンテナの歴史と、現在に至るアンテナ事情について解説しました。

F1型アンテナ(ラジオ用ロッドアンテナ偽装タイプ)

1970年代から1980年代にかけて、覆面パトカー(私服用無線車)に配備された無線アンテナとして使用されたのが、純正のラジオアンテナを模した電気興業製のロッドアンテナ「F1型ホイップアンテナ」でした。

このF1型ホイップアンテナは、車両に元々装備されているラジオ・ロッドアンテナと換装する形で取り付けられることが一般的でしたが、純正アンテナをそのまま残しつつ、その片側に増設されるといった運用形態も見られました。

純正のラジオロッドアンテナとは異なり、F1型アンテナの特徴は、その構造上、伸縮することなく常に垂直に展張された状態を保っているという点にあります。

このF1型アンテナは、覆面車両用の「偽装」アンテナとしては、まさにその元祖と呼ぶにふさわしい存在であり、当時としても極めて高いレベルでの偽装に成功していたと言えるでしょう。

TLアンテナ(自動車電話用アンテナ偽装タイプ)

ダイヤモンド SR-780 144/430MHz帯2バンド自動車電話型アンテナ SR780

1980年代、民間の移動体通信の先駆けとして自動車電話が一大ブームとなり、急速に普及しました。

この時期に登場したのが、全長約60センチほどの、トランクリッドに設置するタイプのNTT製自動車電話用アンテナです。

そして、これを警察が模倣して開発・導入したのが「TLアンテナ」と呼ばれるものでした。

特に1990年代に入ると、このTLアンテナは全国の警察本部で急速に普及。警察が使用するTLアンテナは電気興業製で、元々NTTの自動車電話用アンテナに偽装していたことから、NTTやNTT DoCoMoのステッカーを丁寧に貼り付けるという徹底ぶりが見られました。

しかし1990年代後半以降、携帯電話の爆発的な普及により自動車電話そのものが衰退。これに伴い、同型アンテナを装着した一般車両はほとんど見られなくなりました。

現在でも、無線アンテナとしてこのTLアンテナを装着しているのは、警察、タクシー(日本アンテナ製の450MHz帯使用)、そして一部のアマチュア無線愛好家(ダイヤモンド社製品)程度に限られます。

こうした背景を踏まえて、警察では新たに、トランクリッドに基台のみを残し、アンテナ本体はトランク内部に横向きで秘匿設置するという運用方法も採用されています。

TLアンテナは見た目よりも全長があるため、一般的なアマチュア無線用のTLアンテナとは若干異なる雰囲気を持っています。また、装着位置は車両後方から見て右側に取り付けられることが多いものの、左側に設置された例も確認されており、明確な設置基準はないようです。

TLアンテナは『ステッカー』がポイント

TLアンテナに貼られているステッカーのうち、NTTのステッカーならVHF帯専用アンテナで、NTT DoCoMoのステッカーならVHFとUHFの共用アンテナだった。後者はデュプレクサ(分波器)を用いれば、1本のアンテナでWIDEと基幹系が運用可能。

参考文献 ラジオライフ1996年2月号(株式会社 三才ブックス)

一方、1980年代に一世を風靡したパーソナル無線用のオレンジトップ・アンテナのような、折衷型のアンテナも存在しました。これは当時の安展工業(現在のアンテン)が製造した製品です。

現在では、覆面車両に新たに装備されることはなくなりつつあるTLアンテナですが、外観上の偽装や秘匿の必要があまりない白黒のパトカーや、警備部が運用する警護車などでは現役で使用され続けています。

警護車はSPがVIP警護のために使用する各種装備搭載の特殊な防弾車両

中にはトランクリッドに2本、あるいは4本のTLアンテナを装備した車両も珍しくありません。

TAアンテナ(テレビ放送受信用アンテナ偽装タイプ)

次いで登場したのが、アナログ波のテレビ放送受信用アンテナに偽装した無線アンテナです。

このアンテナは、取扱説明書によると正式には「日本アンテナ 無線用ホイップアンテナ TVダイバーシティ型」と称されます。つまり、これまでの電話用アンテナに代わり、テレビ受信用アンテナへの偽装が行われたということになります。

このモデルは、今から20年以上前にカー用品メーカー・SEIWAから発売されたテレビ受信用アンテナ「シティロードT17型」を模した外観となっており、日本アンテナが2010年頃まで製造していました。

しかしながら、2025年現在においては、一般車両はもちろん、捜査用車両であってもこのタイプのアンテナを装着している例はほとんどなく、すでに旧世代の装備となっています。かつては、ミニバン型の捜査覆面車両などに「シティロード・ダイバーシティ偽装タイプ」が搭載されていました。

このTAアンテナの特徴のひとつとして、エレメント(アンテナの棒状部分)が折れ曲がってしまいやすいという点があります。特に上段のエレメントカバーが欠損したまま運用されている車両も存在します。

これは元になったセイワの民生品仕様。下段のエレメント後端が膨れておらず、また同軸線が平たく、二本組みである点が、警察無線用との違い。

また、無線の送受信性能を維持するため、下段のエレメントのみ後端が完全にカバー内へ収納できない構造になっている点も特筆されます。同軸ケーブルの引き込み方法にも特徴があり、セダン型の覆面車両ではリアウィンドウ上部のサイドに、ミニバンやSUV型ではルーフ上に装着されるのが一般的でした。

通常、セダン型覆面ではリアガラスの両脇に左右対称に装着されることが多いものの、片側のみの装着や、ルーフ中央への設置といった、例外的な配置も見られました。

なお、この日本アンテナ製TAアンテナには複数のタイプが存在し、基台部分がマグネット式やフック式などの違いがあるほか、車種ごとに対応したバリエーションも用意されていました。

特に注目されるのは、両側とも無線の送受信用であるタイプだけでなく、片側がテレビ受信用、もう片側が無線の送受信用となっている特殊な構成のモデルが存在していたことです。

かつて、オークションでは実物の日本アンテナ製の無線通信用、それに実物のセイワ製テレビ受信用まで10万円以上で取引されていました。

ただし、このTAアンテナには構造上の欠点もあります。エレメントを展開した状態でうっかりトランクドアを全開にしてしまうと、細いエレメントにドアが接触して曲がってしまうことがありました。実際、エレメントが曲がった状態の覆面車両が多いのは、これが原因と考えられます。

特に高速道路交通警察隊や交通機動隊の交通取締用覆面車両では、違反車両を停止させたのちに、表示板などの装備をトランクから取り出す場面が頻繁にあるため、この種の事故が起こりやすかったとされます。もちろん、頻度は低いとはいえ、機動捜査隊や所轄警察署の覆面車両にも同様のリスクが存在していました。

また、アンテナの存在を目立たせたくないという理由から、エレメントをあえて伸ばさずに運用する例も多く見られました。しかし当然のことながら、エレメントが短い状態では無線の送受信性能が低下します。

後年にはアンテナ本体を後部座席や荷室に収容し、必要時のみ展開する「秘匿型」の運用も試みられました。

なお、シティロード型のTAアンテナにおいて、民生用と警察用で異なる点は、同軸ケーブルの太さ、そして下段のエレメントロッドの後端が膨らんでおり、完全に収納できない構造になっている点です。

全国的に見れば、日本アンテナ製のこのシティロード・ダイバーシティ偽装タイプが主流でしたが、一部の警察本部ではパナソニック製の「TY-CA39DA型」や、さらに小型化されたオリジナル意匠のモデルが並行して配備されていた例もあります。

ユーロアンテナ(ヘリカル型アンテナ)

TAアンテナの後継として警察車両に広く採用されるようになったのが、2010年頃から全国で配備が進められている「ユーロアンテナ偽装型アンテナ」です。

このアンテナは、近年の国産車にも標準装備されることが多い、いわゆる「ユーロアンテナ」の外観を模したもので、内部にはヘリカル構造を持つ無線用アンテナが内蔵されています。2025年現在において、警察車両における偽装アンテナとしては最もスタンダードな存在となっており、その汎用性と偽装性の高さから、高い評価を受けています。

実際、このユーロタイプのアンテナは、交通取締用の覆面車両や、刑事部門の捜査用覆面車両、さらには日産エルグランドをはじめとするミニバン型の車両に至るまで、幅広い車種に装着されています。

また、警備部門が警護イベントなどで複数の無線系統を必要とする際には、追加のアンテナが増設されるケースがありますが、そうした場合にもこのユーロアンテナ型が好んで使用されます。その理由は、装着と取り外しが容易で、目立ちにくいデザインでありながらも高い無線性能を有しているためです。

現在、警察が配備しているユーロアンテナ偽装型には主に2種類が存在します。一つは日本アンテナ製の「MG-UV-TP」で、こちらはエレメントがチルト(角度調整)可能なタイプです。もう一つは電気興業製で、こちらはエレメントが固定式のモデルです。

なかでも圧倒的な採用率を誇るのが、日本アンテナ製のMG-UV-TPです。その柔軟な設置性と堅牢な構造により、交通覆面から警護車両に至るまで、多くの現場で標準装備として採用されています。

なお、両機種ともにアンテナの接続にはNP型の同軸コネクタが使用されており、無線機器との確実な接続が可能となっています。

このように、ユーロアンテナ偽装型は、かつてのTAアンテナの役割を引き継ぎつつ、より現代の車両環境に適応した形で発展を遂げており、今も警察車両における主要な偽装アンテナです。

日本アンテナ製ユーロアンテナ偽装タイプ MG-UV-TP

現行品はMG-UV-TP(TAG)で、底面のネオジウム磁石が塩化ビニル素材で覆われた仕様です。

警視庁高速隊のフェアレディZにおいて、当初はユーロアンテナが1本のみ搭載されていましたが、その後増設が行われました。このように、TAアンテナが旧世代となった今、特にルーフやトランクのスペースが限られている車種では、制服用のパトカーにもユーロアンテナが活用されています。

また、ユーロアンテナは407.725MHzに対応する「3周波共用型」も存在しており、これにより旧型のカーロケ、いわゆるパトカー動態表示システムで使用されていたデータ通信用周波数に対応。

3周波共用型MG-UV-TPの形状は、これまで使用されていた基幹系(VHF)や署活系(UHF)の2周波共用型と変わりません。

ただし、旧型のカーロケシステムは一部を除いて全国的に廃止されており、現在の新型カーロケシステムでは、VHF帯域を使用したAPRの重畳方式や、NTTドコモのFOMA回線によるデータ通信が行われています。FOMA方式の場合、データ通信専用のモノポール・アンテナ(通称・タスポアンテナ)が、助手席Aピラー脇のダッシュボード上に搭載されており、これは日本電業工作社製です。

警察さんのパトカーの『カーロケ』および『カーロケナビ』の仕組みと機能の解説

ただ、外観こそ市販車にも見られる標準的なユーロアンテナですが、「後付けアンテナ」である以上、同軸ケーブルの処理には依然として課題も。

とくに問題となるのは、アンテナ本体よりもむしろケーブルの存在感です。リアガラスに沿わせて這わせた同軸ケーブルが、固定が甘いとズルリと滑り落ちたり、浮いてしまったりと、これが視認性の面でも偽装効果の面でも「ボロが出る」結果となります。

そのため、覆面パトカーに装備されるMG-UV-TPでは、一般車両と比べてアンテナがリアウインドウの縁ギリギリに設置されている例が多く見られます。これは、同軸ケーブルを目立たせず、かつ丁寧に処理するための措置です。

具体的には、ケーブルを自己融着テープで保護した上でリアウインドウの溝に沿わせ、車体と一体化するように埋め込んで処理されます。ミニバン型の車両では、さらに「ピタック」と呼ばれる専用の留め具を使用して、しっかりとケーブルを固定する例もあります。

なお、このケーブル処理は通常、リアウインドウの左右どちらかに沿って車内に引き込まれますが、その仕上がりは都道府県警察によって差があり、手際の良い自治体では美しく処理されています。一方、雑な処理がなされた車両では、同軸ケーブルが浮き上がったり垂れ下がったりと、明らかに不自然な外観となってしまいます。

加えて、こうした不備は見た目の問題にとどまらず、無線機器としての送受信性能にも悪影響を及ぼす可能性があるため、放置することはできません。ただし、ケーブルの修理や再処理を担当するのは現場の警察官ではなく、警察職員や、地域の指定業者によって行われています。

MG-UV-TPの欠点を克服したWH-UV-TPも存在

このように、MG-UV-TP最大の弱点は同軸ケーブルが車外に露出してしまう点。この「後付け」の宿命を克服するために開発されたのが、日本アンテナ製「WH-UV-TP」です。

WH-UV-TPは、車種標準装備のユーロアンテナと換装する形式で装着可能なタイプであり、最大の特長は同軸ケーブルが車外に一切露出しない点です。これにより、外観からは完全に純正アンテナと見分けがつかず、偽装性能が格段に向上。

日本アンテナの共通取扱説明書によると、MG-UV-TPはマグネットで簡易的に固定する方式、WH-UV-TPはアンテナベースの穴を活用した「穴開け式」に分類されています。構造上、WH-UV-TPのほうが確実な固定ができ、耐久性や秘匿性の面でも優れています。

一般的な市販車に装着されている純正のユーロアンテナは、先端から根元まで一体型のラバー素材で作られていますが、MG-UV-TPとWH-UV-TPはいずれもアンテナの先端がプラスチック素材になっているという共通の特徴を持っています。

この細部を見れば識別は可能ですが、WH-UV-TPが装着されている車両を走行中に見分けることは、まず不可能といってよいでしょう。

もっとも、必ずしも全ての配備車両が偽装効果を最優先しているとは限らず、たとえば純正でユーロアンテナが装備されていない車種に対してMG-UV-TPを後付けしてしまうなど、配備側の判断によって偽装の効果を損ねてしまうケースも。

また、すでに標準ユーロアンテナが取り付けられている車両にさらに偽装アンテナを装着した結果、逆に違和感を与えてしまうような「偽装の失敗例」も一部で確認されています。

中には、標準のユーロアンテナのすぐ近くに偽装型ユーロアンテナを設置している覆面パトカーも存在します。

この傾向が特に顕著に見られたのは、捜査用覆面車両として全国に国費で大量配備されたスバル・インプレッサ・アネシス。同車は、ルーフ後部にすでにユーロアンテナが標準装備されているため、偽装する場合には、標準ユーロアンテナの隣やその後ろ、さらにはリアトランクリッドに追加で設置されます。

また、同様に国費導入されたホンダ・フィットやスズキ・スイフトといった車種においても、標準ユーロアンテナの近くに偽装型が追加されるパターンが見られました。これらのケースでは当然ながら外観上不自然であり、せっかくのユーロアンテナ偽装型の利点が活かされていない失敗例と言えるかもしれません。

一方、ある警察本部長の公用車として配備されたトヨタ・クラウンマジェスタでは、屋根に標準のドルフィンアンテナが装備されているほか、リアトランクリッドにもユーロアンテナが設置されており、アンテナの秘匿にはやや難があるようです。

さらに不思議なことに、エレメントを通常とは逆の前側に倒している例も多く見受けられますが、その方がルーフの反射によって電波の受信効率が上がるのかどうかは明らかではありません。

なお、警察以外にも、国土交通省の緊急車両において、日本アンテナ製MG-UV-TPと同型のユーロアンテナが装備されている例があるようです。

MG-UV-TPとほぼ同じ外観で、タクシー向けのMG-450-TP

日本アンテナでは、MG-UV-TPとほぼ同じ外観を持つタクシー無線向けの製品「MG-450-TP」も販売されています。

警察用のMG-UV-TPが、150MHzおよび350MHzの2波共用タイプであるのに対し、MG-450-TPはタクシー無線で使用される450~470MHz帯域のシングルバンド仕様。

MG-450-TPは警察用のアンテナではありませんが、見た目は全く同じなので、ネットオークションやフリマサイトなどでは、商品名に「覆面パトカー」といったキーワードを含めて販売される例も確認されています。

覆面アンテナ風『MG-450-TP』による430MHz帯送受信実験動画

電気興業製ユーロアンテナ偽装タイプ

EKワゴンのミニパトに搭載された電気工業製ユーロアンテナ。


電気興業製ユーロアンテナは情報が少ないため、モデル名、仕様など詳細が判然としません。

大阪府警での配備率が高いようです。日本アンテナ製とともにほぼ同時期から配備されていますが、全国的に配備率は低いようです。

エレメントの角度をチルトできないのが特徴です。

ユーロアンテナのまとめ

このように一見違和感がないように見えても、後付け感があり、バレやすい点が玉に瑕。

しかし、車に詳しくない人には標準のアンテナなのか、後付けの偽装アンテナなのかが判別できず、一定のカムフラージュには成功していると評価できるでしょう。

また、このユーロタイプアンテナについては、覆面パトカーが後部座席のヘッドレスト後ろのスペースに鉄板を敷き、その上でアースを取って車内に設置するという荒業的な運用が複数例として確認されています。

アマチュア無線&業務無線風アンテナ……こ、これは偽装じゃないんだからね!これでただの業務車かハムの車に見える

こちらは偽装アンテナではなく、業務用やアマチュア無線風のアンテナ。

 

ダイヤモンド M150-GSA モービルアンテナ M150GSA

業務局風のモービル・ホイップ・アンテナをトランク脇に立てたインプレッサ・アネシスの捜査車両。ルーフのユーロアンテナは車種標準のもの。

アマチュア無線型モービルホイップ・アンテナの例

このタイプのアンテナを、デジタル警察無線用アンテナに偽装して、覆面パトカーのトランクリッドにTLアンテナのように基台を取り付けて装備しているケースが見られます。

全長はおおよそ30センチから60センチ程度で、細い針金状のエレメントを備えている点が特徴です。また、スプリングベースを採用していることが多くなっています。

モービル運用で定番となっている145MHz/430MHzの両バンドに対応したアマチュア無線用アンテナや、300MHz/400MHzを使用するデジタル簡易無線用アンテナと長さがほぼ同じであることから、似た周波数を利用する警察無線においても使い勝手が良いと考えられます。

しかし、やはり”セダン”でこんなアンテナをつけるのは熱心なアマチュア無線家くらいで、あとは一部の官公庁くらいなもの。

ただ、偽装しているのではなく、無線用アンテナ本来の姿を堂々とさらけ出し『働くセダン』しているところはむしろ好印象です。

車内アンテナ

秘匿アンテナは究極の盗難防止策となるのか

ここでは、車内に完全に隠された特殊なアンテナの事例、いわゆる「車内完全秘匿型アンテナ」についてご紹介いたします。

アンテナの完全秘匿に成功したクラウン交通覆面。

これは外部に堂々と設置されたアンテナとは正反対のアプローチであり、少々アンフェアにも感じられる形態です。

偽装をさらに超える、高度な秘匿性を持ったこの車内設置型アンテナは、近年、特に捜査用や交通取り締まり用の覆面パトカーで多く採用されております。これまで覆面パトカーの目印となっていた各種外部アンテナの代わりに、より目立たない内部設置へと移行が進んでいるのです。

このような車内アンテナの運用は、2000年代初頭から目立ち始めましたが、実際にはもっと以前から存在していたようです。たとえば、雑誌『ラジオライフ』1989年8月号には、京都府警本部の覆面パトカーが車内アンテナを採用していたとの読者投稿が掲載されており、秘匿の試みは当時から行われていたことがうかがえます。

この事例では、スバル・シグマの車内後部、前席の背面と後席の足元中央に、全長60センチほどのホイップアンテナ「アンテン工業 DB-3」を垂直に設置するという大胆な手法が取られていました。

車内秘匿型アンテナの運用には主に2種類。一つは、もともと外部用として設計されたアンテナを、工夫して車内に設置する方法。もう一つは、車内専用に設計されたアンテナを用いる方法です。

当初は針金型のアンテナやTAアンテナを室内に持ち込む運用が始まり、その後はユーロアンテナも室内化されるようになりました。年々巧妙さ(あるいは強引さ?)を増す覆面パトカーの秘匿技術は、現在、交通取締用として全国各地に導入されているトヨタ・210系クラウン・アスリートでも見られるようになりました。

特に注目されるのが、リアトレイ右側のスペースです。それまで210系クラウン・アスリートのルーフに設置されていたユーロアンテナが、ある日突然撤去され、車内のリアトレイに置き換えられていたという事例が増えております。多くの場合、濃いスモークフィルムが貼られているため、実際に車両へ乗せられて初めて気づくというパターンも少なくありません。

(出典:http://www2.famille.ne.jp/~mst-hide/back20/20061.html)

また、かつて大阪府警では、ステーションワゴン型の交通取締用覆面パトカーとして日産・ステージアが配備されておりました。同車両も完全に外部アンテナを排した運用を実現しており、車種の特性もあいまって、その秘匿性の高さが話題となりました。

雑誌『ラジオライフ』2005年2月号には、「大阪府警ステージア交通覆面のアンテナの謎」という記事が掲載されております。筆者・大井松田吾郎氏による現地取材の結果、ステージアのリア・ラゲッジルーム内のサイドウインドウ側に、マグネット基台付きのスプリングベース・ホイップアンテナが上下逆さに設置されていたことが判明しております。

同氏はステージアという車種選定、そしてアンテナ秘匿設置を”微妙”と評したうえで『交通覆面でここまでの隠蔽工作は”取締りのための取り締まり”を招きかねない』と、やや批判的な見解を述べています。

1/43 レイズ RAI'S 日産 ステージア 300RX 2002 大阪府警察交通機動隊車両

なお、よほど珍車だったのか、2006年に京商系のヒコセブンからモデルカーとして『ニッサン ステージア 300RX 大阪府警 交通機動隊覆面車両』が発売されている。

ただ、技術的な面から言えば、本来なら外部に設置すべき車外用無線アンテナを車内設置で運用した場合、アンテナから5W~10W、あるいはそれ以上で発射される高周波や反射波が、無線機ならびに電子機器に与える現象、いわゆる回り込みの影響については不明。

なお、大阪府警における「ステーションワゴン型交通覆面」の伝統は、後にスバル・レガシィツーリングワゴンに受け継がれております。

アコードの捜覆。リアトレイに警察無線用ホイップアンテナを設置。送信すれば乗員や被疑者は髪の毛が逆立ち、被爆しまくり。リアスモークを貼っていないだけまだ良心的。 出典 http://www2.famille.ne.jp/~mst-hide/back13/130808.html

一方で、はじめから車内専用に開発された警察無線用アンテナも登場。

アンテナにおいて、電波の送受信を行う部分は「素子(エレメント)」と呼ばれますが、これらのエレメントが黒色であるため、銀色のロッドアンテナを備えるTAアンテナなどを車内後部に無造作に設置する場合と比べて、非常に目立ちにくくなっています。

たとえば、後部ウインドウの内側に取り付けられたガラスマウントアンテナの例。このアンテナは、外観にほとんど変化を与えずに無線の運用を可能にしており、目立たない運用を実現。

出典 http://www2.famille.ne.jp/~mst-hide/back15/150803.html

実際、コンビニの駐車場でアイスを購入している刑事が乗り込んでいた車の後部に、このアンテナが貼られていたとします。その存在を「無線用アンテナ」だと見抜ける善良な市民が、果たしてどれほどいるでしょうか。

無線機器搭載が隠せる 430MHz帯 ガラス貼り付け ボディーアンテナ

 

このアンテナは全長50センチほどの黒色エレメントを、車内のウインドウ内側に両面テープなどで貼り付けて使用する仕様。エレメントが車外に露出することはなく、また素材そのものも薄くて黒いため、リアガラスの端などに貼りつけられていても、秘匿性は非常に高いといえます。

実際、警察密着系のテレビ番組などを確認いたしますと、香川県警や徳島県警といった四国地方の警察本部において、このタイプのアンテナを搭載した捜査車両が特に多く見られます。

たとえば、徳島県警の名物刑事として知られるリーゼント姿の秋山刑事が乗っていたエアトレック型の捜査用覆面パトカーのリアガラスにも、このアンテナが貼られていました。また、高知県警が使用するスバルWRX型の覆面パトカーにも、同様のアンテナが確認されています。

そのほか珍しいタイプの車内用ガラスマウントアンテナも。出典 世界びっくりカーチェイス2

無線アンテナをドアミラーに仕込んでしまう特許を警察庁は考案している

警察庁が考案した「ドアミラーアンテナ」に関する特許

http://j.tokkyoj.com/data/H01Q/3095114.shtml

上記のサイトでは各種の特許の考案が確認できますが、その中の一つ『ドアミラーアンテナ』に注目。覆面パトカーのアンテナを隠すための技術として注目されています。

特許出願者が警察庁長官となっているのは、出願の手続き上の便宜であり、警察庁自体がこの研究を行ったことを示しています。

実用新案登録請求の範囲に記載された文面には「見た目がスッキリする(原文ママ)」という一文があります。

見た目がスッキリしており、車両の外観から無線アンテナを目立たせず、周囲にその印象を残さない思惑がありそうです。

V字型車内貼り付け型アンテナが登場

IPRの入れ替えに伴い、車内アンテナの新型としてV字型にエレメントを展開できる車内貼り付け型アンテナが配備されたようです。

New!シャークフィンタイプ

高速隊の覆面パトカー 出典 photo-ac.com

一部の警察本部では、最新型の覆面パトカー用として、新たな偽装アンテナの試験運用が行われています。

このアンテナは、近年の国産車でも多く見られるスタイリッシュなシャークフィン・アンテナを模したデザインとなっています。すでにMCA無線やデジタル簡易無線(351MHz)、アマチュア無線(430MHz)、消防無線(260MHz)などの用途では、フィン型の通信アンテナが実用化されており、今回の偽装アンテナもそれらに倣ったものと考えられます。

外観は一般的なシャークフィン型アンテナに似ていますが、特徴的なのは頂上部から後方に向かって6cmほど、棒状のエレメントらしきものがほぼ水平に突出している点です。

やはり、150MHz帯のような比較的低い周波数帯をフィンアンテナでカバーすることは技術的に難しいためでしょうか。

この突起があることで、いかにも無線通信を行うためのアンテナという印象で、結果として、見た目の秘匿性はやや犠牲になっています。

警察無線の系統 その1『車載通信系(基幹系)』

やはり、こちらも後付けアンテナの宿命として同軸ケーブルがわずかに本体下部から露出。

現時点では全国でも目撃例は多くなく、プロトタイプ段階として一部での試験運用にとどまっている様子。今後改善の余地はあると思われますが、とくに覆面パトカー用として次第に普及する可能性もあります。

覆面パトカーのアンテナのまとめ

以上、覆面パトカーにおけるアンテナの進化とその多様な形態について紹介いたしました。最初は偽装や秘匿を重視したアンテナから、次第に車内に隠されたタイプや、最終的には秘匿や偽装の必要がないアンテナへと進化してきたことがわかります。これらの変遷には、覆面パトカーの捜査車両としての秘匿性向上が主な目的であることがわかります。

また、今後、IPRシステムへの移行により、従来の外部アンテナが車内設置となる可能性もあり、覆面パトカーの外観にさらに変化が見られることが予想されています。それでも、どんなに技術が進化しても、覆面パトカー特有のオーラが車両に残るため、警察車両だと見破られることは避けられないというのがマニアの目線です。

覆面パトカーのアンテナについての流れや今後の進展は、非常に興味深く、警察の技術的な工夫が随所に見られる一方で、車両の外観から見抜かれる危険性も常に存在することが示唆されています。

なお、市販されていない警察用アンテナより、MG-450-TPを購入する方が安全です。

覆面アンテナ風『MG-450-TP』による430MHz帯送受信実験動画

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