いわゆる「覆面パトカー(捜査車両)」において装備されるアンテナは移動体通信の運用に必要不可欠な装備品であるが、保全のための偽装や秘匿が常に重要と言える。
本稿は、覆面パトカーに用いられるアンテナの種類を解説するとともに、その変遷が示す偽装技術の役割と背景を概観する。
覆面パトカーの無線アンテナの概要
従来は自動車電話型の「TLアンテナ」や、アナログテレビ受信用として知られる「TAアンテナ」など、市販品を模した外観で覆面パトカーと悟られない工夫が主流であった。
警護用車両など秘匿性が比較的求められない車種では、アマチュア無線や業務無線に近い形状のアンテナが用いられる例も残っている。
さらに2010年代以降、欧州車で見られるラジオアンテナを模した細いポール型の「ユーロアンテナ」が全国の捜査用車両に急速に普及した。
ところが、2021年に警察無線が従来のAPR方式からIPR方式へ移行すると、アンテナの取り付け方は大きく変わった。
外部アンテナの秘匿化である。
IPR方式への移行に伴い、着脱式のユーロアンテナをリアトレイに取り付ける例や、車内アンテナへ全面的に切り替えて外部から通信装備が確認できない「アンテナレス」仕様の覆面車両が増加したのである。

外観から覆面パトカーを判断することが困難になっているのは、その表れであるが、こうした変化の背景には、2014年に報じられた「覆面パトカーのアンテナ窃盗事件」も少なからず影響したとみられる。
それでもなお、覆面パトカーの通信装備として、2025年現在でも「アンテナ」は必要不可欠である。
とくにこれまで、市販品を模したアンテナで正体を隠す手法は、覆面車両の偽装技術の一段階として広く普及してきた。
以下の項目にて種類ごとに解説をしていくが、さらに詳しい概要解説はそれぞれの個別記事へのリンクから参照されたい。
F1型アンテナ(ラジオ用ロッドアンテナ偽装タイプ)
覆面パトカー草創期を支えた「F1型ホイップアンテナ」─偽装技術の原点
1970年代から1980年代にかけて、日本の警察が使用した覆面パトカー(私服用無線車)において、アンテナの偽装化はすでに始まっていた。
その代表的存在として知られるのが、電気興業が開発したロッドアンテナ「F1型ホイップアンテナ」である。
#昭和の日なので昭和っぽい画像を貼ろう
①②③昭和の覆面捜査車両 F1形アンテナ基台とメクラキャップが懐かしい!
④秘匿アンテナの傑作!ラジオアンテナ擬装の無線アンテナ
電気興業F1形ホイップと移動警電ショートタイプ pic.twitter.com/KyKVFbzi1R— 温故知新 (@PitanAhiru) 2017年4月29日
F1型ホイップアンテナは、当時の市販車に標準装備されていたラジオ用ロッドアンテナの外観を模して設計されており、純正アンテナと極めて類似した形状を備えていた。
そのため、多くの車両では純正アンテナと置き換える形で設置されたが、中には純正のラジオアンテナを残したまま、その反対側に増設する事例もあった。
純正のラジオアンテナは手動で引き伸ばせるが、F1型アンテナは構造上、伸縮できず、常時展開状態を保ち、無線の送受信に特化した仕様となっていた。
しかし、外観上の違和感は少なく、見た目には一般車とほとんど変わらないF1型ホイップアンテナは、その完成度としては、当時でも非常に高水準であった。
覆面パトカーにおける「偽装」アンテナの先駆けとして極めて高く評価された。
後に続くアンテナ偽装技術や秘匿技術の原点ともいえる存在であろう。
TLアンテナ(自動車電話用アンテナ偽装タイプ)
無線ファンの間で「TLアンテナ」と通称されるこのタイプは、トランクリッド部に装着される全長約60センチ前後のアンテナで、90年代にかけt、覆面パトカーに広く採用されたことで知られる。

覆面パトカーの「目印」として長らく知られてきたが、その形状は非常に巧妙で、一般人には見分けがつかなかった点で偽装には高いレベルで成功した。
一見すると、時代遅れの車載電話用アンテナだが、偽装の必要がない警護車では2026年現在でも装備している。
自動車電話ブームが生んだ覆面パトカーの象徴─「TLアンテナ」の系譜
1980年代、日本ではNTTの自動車電話サービスが普及し始め、車両後部にアンテナを装着したスタイルは、当時の先進的な移動体通信の象徴となった。
こうした時代背景の中、主に90年代初頭から、警察車両にも、自動車電話アンテナに類似した外観を持つアンテナが導入されるようになる。

TLアンテナの徹底した偽装ぶり
注目されたのは、その本家アンテナと極めて酷似した外観である。これらのアンテナの中には、NTTやNTTドコモ風のステッカーが貼付された例も確認されており、当時普及していた自動車電話アンテナに近い印象を与えていた。
しかし1990年代後半以降、携帯電話の急速な普及によって自動車電話そのものが衰退。街中でトランクリッド型アンテナを装着した一般車両を見かける機会も減少していった。
現在では、この種のアンテナは警察車両や一部業務用無線車両などで見られる程度となっている。特にタクシー業界では、450MHz帯用アンテナとして類似形状の製品が使用される例もある。
アンテナの設置位置にも一定の傾向は見られるが、車両後方から見て右側に装着された例が比較的多い一方、左側への設置例も存在しており、全国的に統一された仕様が存在するかは明確ではない。
TLアンテナに貼られた「ステッカー」には意味があった
前述の二種類あるステッカーだが、ラジオライフ1996年2月号[雑誌](三才ブックス)によれば、実はTLアンテナに貼られたこのステッカーには意味がある。
NTTのロゴがあればVHF専用、NTT DoCoMoのロゴならVHFとUHFの共用アンテナで、後者には分波器(デュプレクサ)が併用され、1本のアンテナでWIDE、車載通信系の複数系統を運用可能である。
![ラジオライフ1996年2月号[雑誌]](https://m.media-amazon.com/images/I/51ccz0SnBZL._SL500_.jpg)
また、1980年代には安展工業(現在のアンテン)が製造した、パーソナル無線向けのオレンジトップ型アンテナ偽装タイプも存在した。

80年代当時、自動車電話に憧れていた若者は多い一方で、高額な保証金を捻出できる層は限られたため、代替としての移動通信ツールとして火がついたのが「パーソナル無線」であった。その大流行を警察当局が利用したといえる。
後年の装備状況と現在の部分的配備
2000年代初頭まで、全国で配備が普及したTLアンテナ。後年は秘匿運用のため、基台のみを外部に残し、アンテナ本体をトランク内部へ設置したとみられる車両もあった。
2026年現在、新規導入はほぼ行われていないが、警備部の警護車両や、偽装の必要性が低い白黒パトカーの一部では現役で使用されることもある。
警護車の中には、1台の車両に2本、あるいは4本ものTLアンテナを搭載したケースも見られるため、一部ではTLアンテナはその独特の形状と存在感から、依然として「覆面パトカーの象徴」として認知されている。

余談:TLアンテナもどき
興味深いことにこのTLアンテナを模した非自動車電話も流行した。当時の新聞報道で、以下のように報じられている。
自動車電話に憧れて見栄アンテナが流行
乗用車の後部にニョッキリ突出た自動車電話用アンテナ。ところが車内には電話は影も形もないーーこんな車が最近増えてきた。実はこれ、自動車電話用のアンテナに模した静電気放電用のアース。
「電話付きの自動車に見られたい」という“虚栄心”をくすぐるアイデア商品だ。買主はほとんどが10代後半から20代前半の男性。カッコよさを求める若い世代の見栄がかいま見え、ちょっぴりさみしい話ではある。
(引用元 1990年5月23日・中日新聞)
若者の“見栄”感覚に訴えるとされる一種のカーアクセサリーが、自動車用品店で各社から販売されていたようだ。
外見上はTLアンテナを模したもので、実際のNTT製アンテナは全長45センチ、金属塗装が施された本格的な仕様であるのに対し、市販されている製品は長さ35〜60センチ程度で、素材もほとんどがプラスチック製であった。
これらは「アンテナ式静電気放電装置」という名称で販売されており、車体に帯電した静電気を空中へ逃がすという機能がうたわれているが、なかには「ファッション・アンテナ」などと称して、完全に装飾目的の製品も存在する。価格帯は3,000〜6,000円台に分布している。
車体の静電気対策としては、ほかにもチェーンやゴムベルトを地面に垂らして放電させる安価な製品や、ドアハンドルに取り付けるタッチ式の放電装置などがある。しかしながら、実用性よりも“カッコよさ”を重視し、アンテナ型を選択する若者が多いという。
当時の報道によると、NTT春日井支店(愛知県)の話として、同支店管内における1か月あたりの自動車電話の販売台数は平均25台程度にとどまる。
一方で、同市内に点在する十数のカー用品店では、いずれの店舗でも月間10本以上の“見栄”アンテナが販売されていたとのことである。単純計算でも、自動車電話アンテナを装着した車両のうち、実際に電話機が搭載されているのは5台に1台未満と推定されるだろうと記事は報じている。
なお、近年まで、アマチュア無線局向けとして、アンテナメーカーのダイヤモンド社が類似品を販売していた。
TAアンテナ
偽装アンテナ、次の一手はテレビ放送&カーナビ受信用偽装─TAアンテナ

覆面パトカーの装備が一般に知られるたびに、そのアンテナ偽装技術は“次の一手”を打ってきた。
90年代後半、携帯電話の爆発的な流行で、自動車電話が廃り始めると、先述のTLアンテナは目立ち始めた。
その救世主となったのが、カーテレビおよびカーナビの普及である。
つまり、今度は違和感なく溶け込むために、これらのアンテナに偽装したのが、「TVダイバーシティ型」無線アンテナ、いわゆる『TAアンテナ』である。
原型はカーテレビ用のアンテナとして、カー用品メーカー・SEIWAが一般販売していた『CITY ROAD ダイバーシティアンテナ』。
その形式を模したアンテナを老舗アンテナメーカーの日本アンテナが製造した警察専用品が「日本アンテナ 無線用ホイップアンテナ TVダイバーシティ型 / TV-UVTUV』である。2010年頃まで生産が継続されていた。
2000年代初頭にはその偽装性の高さから、覆面パトカーの標準的装備の一つとして、従来のTLアンテナに代わってTAの採用が進んだが、移行期にはTLとTAが混在する並行装備車両も多かった。
概要

TV-UVTUVの原型は、カー用品メーカーSEIWAがかつて販売していた民生用のテレビ受信用アンテナ「シティロードT17(CITY ROAD T17)」であり、その細部を変更し、デザインをほぼそのまま流用したもの。
左右2基で1セットとなる構成が特徴で、愛好家の間では「TAアンテナ」と呼ばれている。
当時はテレビ受信機能付きカーナビが一般化したことで、車両にテレビアンテナが装着されていること自体が不自然ではなくなっていた。
その結果、TAアンテナは外観上の違和感が少なく、覆面パトカーにおけるアンテナ偽装手法として高い有効性を持っていたといえる。
複数バンドに対応するマルチバンド設計のアンテナ

一見テレビ用だが、実際には数種類の警察無線に対応する設計である。
同シリーズは「TV-UV」「TV-UVTUV」「TV-UVTU」の3タイプが存在し、基本形状はほぼ共通。左右のユニットの中身(とケーブル)が異なるだけだ。
対応モデルとバンド構成:
TV-UV
左側:150MHz帯 / 350MHz帯
右側:TV放送受信用TV-UVTUV
左側:150MHz帯 / 350MHz帯
右側:150MHz帯 / 350MHz帯TV-UVTU
左側:150MHz帯 / 350MHz帯
右側:400MHz帯
これらは左右1対・計4本のエレメントを用いて、最大3バンドまでの同時受信が可能な設計となっている。具体的には、
150MHz帯 … 車載通信系(例:154〜161MHz)
350MHz帯 … WIDEシステム向け(例:335〜360MHz)
400MHz帯 … 主にカーロケーター(無線自動車動態表示システム)向け
TV … 地上波テレビ放送受信用
同軸の各タイプの組み合わせは以下のとおり。
TV-UV:左=150/350MHz用同軸、右=テレビ用フィーダー
TV-UVTUV:左右どちらも150/350MHz用(両側とも同軸)
TV-UVTU:左=150/350MHz、右=400MHz用(両方同軸)
ここでの注目ポイントは右側ユニットのケーブル種別。テレビ波用にはフィーダー(平たいケーブル)が使われており、同軸ではない。つまり……
◆ 右ケーブルがフィーダー → “テレビっぽい”可能性アリ
◆ 右も左もフィーダー → 完全にテレビ用、警察無線に非対応
◆ 両方同軸 → 本物の無線運用アンテナの可能性高し!
リア右ユニットから出ているケーブルの断面形状のチェックにより、TAアンテナの正体を把握できた。
このようにTAアンテナは、上下2段構造のホイップエレメントを備え、特に下段のエレメントは無線の送受信に対応。見かけのシンプルさに反して、実はかなり高性能なマルチバンド対応型アンテナだった。
また、アンテナ基部は車種に応じて複数のバリエーションが存在し、マグネット固定式やフック式、さらには車体形状に合わせた専用型などが製造されていた。
参考文献 ラジオライフ2000年2月号
覆面の条件は“アンテナ角度”にあり!?
実はアンテナの展開角度にも秘密がある。説明書によると、使用時は以下のように展開するのが正しい使い方だ。
エレメントは最大まで展開
左右の間隔は約45度
本体は水平より90度=垂直に立てる
つまり、ピンと立った耳のようにV字型で展開されたスタイルが“本物の捜査車両”の条件だ。
とはいえ、これを忠実に守って、真っすぐ天に向かってエレメントを突き立てて運用していた覆面は多くなかった事は、皆さんもご存知の通りである。
設置位置とその傾向
車種によって取り付け位置は異なるが、セダン型の覆面車両ではリアウィンドウの左右両脇に対称配置されるのが基本。
ただし、片側のみの装着(上述したように、モデルによっては一方はTV用であるため)や、SUV・ミニバン型においてはルーフ中央あるいはリア上部に設置される例も存在した。
アンテナの同軸ケーブルはリアピラーやルーフモールを這うように引き込まれていた。
民生用との違い
TAアンテナは、上下2段のエレメント(空中線)構造となっており、特に下段のエレメントが実際の無線送受信を担っている。
このエレメントは、アンテナ基台内に完全に収納されることがなく、構造上わずかに突出している。
この設計により、外見上はシティロードT17とほぼ同一でありながら、通信性能が確保されている。結果的に、これが警察向け製品と民生品との決定的な外見上の違いである。
また、上段のエレメントカバーが破損しやすい、という欠点もあり、実際にカバー欠損のまま使用されている捜査車両も確認されていた。
ほかにも日本アンテナ製と、元となった民生用モデルSEIWA製シティロードT17とでは、以下のような違いがある。
| 比較項目 | 日本アンテナ製TAアンテナ | SEIWA製シティロードT17型 |
|---|---|---|
| 下段エレメント後端 | カバー内に完全に収納されない | 完全に収納される構造 |
| 同軸ケーブル形状 | 丸型(無線用) | 平型・2本組(TV用) |
| 後端形状 | 末端が膨らんでいる | フラットで膨らみなし |
これは元になったセイワの民生品仕様。下段のエレメント後端が膨れておらず、また同軸線が平たく、二本組みである点が、警察無線用との違い。
構造上の欠点と運用上の課題
一方で、TAアンテナには構造上の明確な欠点も存在していた。
エレメントの曲がり事故
アンテナのエレメントは極めて細く、最大展開状態でうっかりトランクドアを開けると、ドアがエレメントに接触して曲がってしまう事故が頻繁に発生した事例が見られた。
特に、高速道路交通警察隊や交通機動隊の交通覆面では、違反車両停止後にトランクから矢印板やコーンを取り出す場面が多いため、この事故の発生率が高かった。
また、頻度は低いながらも、機動捜査隊や所轄署の車両にも同様のリスクがあった。偽装性と通信性能のジレンマ
アンテナの存在を目立たせたくないという理由と破損防止の目的で、エレメントを伸ばさずに運用する例も多かったが、一般論では無線の送受信性能が低下する。ただし、警察無線は山かけ無線(中継)であるため、影響は少ないと言う意見もある。秘匿型運用の導入
こうした問題への対策として、後年にはエレメントを伸ばしたアンテナ本体を後部座席や荷室に収納する「秘匿型(車内アンテナ型)」運用も試みられた。
その他のモデルと地域差
日本アンテナ製のTAアンテナが全国的には主流であったが、一部の警察本部では独自のモデルも併用していた。
パナソニック製「TY-CA39DA型」:全体的にフラットでシティロード型とはやや異なる外観。
都道府県警独自仕様のオリジナルモデル:小型化されたテレビダイバーシティ型で目立たない設計。
市場での人気と現在の状況
2014年の「アンテナ窃盗事件」当時は、マニアの間ではコレクターズアイテムとして評価が高く、オークションでは日本アンテナ製の実物モデルや、SEIWA製の民生品など、新品未使用品のものは10万円〜20万円で取引された例も過去にあった。

2026年現在、TAアンテナはすでに旧式となっており、装備する覆面パトカーは全国で激減している。
ユーロアンテナ(ヘリカル型アンテナ)

無線装備を搭載した覆面パトカーであることを外観から察知されないようにする。この課題に、もっとも洗練された形で応えたのが、ユーロアンテナ偽装タイプである。
前述のTAアンテナは、カーナビ機能のアンテナがラジオアンテナに一本化された市販車が多くなったことで、TAアンテナもまた徐々に姿を消していく。
そして、国産車のラジオアンテナは2000年台初頭、欧州車の流れを受けて、よりスタイリッシュでシンプルなロッド型が流行した。
これがいわゆる『ユーロアンテナ』であり、今度はこれに偽装させた『ユーロ偽装アンテナ』が覆面パトカーように普及した。
一見すると、市販車の標準的な(ラジオやカーナビ受信のみの機能を持った)アンテナに極めて酷似しているが、その内部には、実は高性能なヘリカル(螺旋状)構造が隠され、警察無線用周波数の電波の送受信に特化している。
このユーロアンテナは、2026年現在でも全国の覆面パトカーにおいて極めて広く採用されている。
その特徴は、通信機能を保ちつつも、見た目が一切“無線装備車両”に見えない点にある。
一般的なラジオアンテナにしか見えないその外観は、まさに完成形のひとつである。
ユーロアンテナ偽装型の登場背景

現在、覆面パトカーなどで見られる短く太い棒状のアンテナは、一般に「ユーロアンテナ」と呼ばれる外観を持つものです。
これは欧州車などに見られるショートポール型アンテナに似せたデザインで、車両に装着しても目立ちにくいという特徴があります。
こうしたアンテナは、従来よく見られた左右対象のカーナビ用外部アンテナ(例:TAアンテナ)と比較して外観上の違和感が少なく、秘匿性を重視する覆面パトカーに適しています。2010年代以降、各地の警察車両で類似の形状が確認されるようになっています。
市販品ではないため、内部構造については詳細な公表はありませんが、一般的に用いられるヘリカル構造です。ただし、アンテナは物理的なサイズと性能の間にトレードオフがあるため、警察無線用のVHFとUHFの両用設計がなされていると考えられます。
通信性能だけでなく外観上の秘匿性や車両との一体性も考慮されている点が特徴です。
一方、外観がほぼ同じの市販品『MG-450-TP』は、タクシー無線向けに設計されており、周波数帯は450MHzに明確に仕様化されています。
この二つのユーロアンテナを考察していきましょう。
代表的な2モデルとその違い
現在、警察が配備する「ユーロアンテナ」は、以下の2種類が主流です。
| 製造メーカー | モデル名 | エレメント形状 | 特徴 | 採用比率 |
|---|---|---|---|---|
| 日本アンテナ | MG-UV-TP(など) | チルト可動式(角度調整可) | 柔軟性が高く、堅牢な構造 | 圧倒的に多い |
| 電気興業 | モデル名不詳 | 固定式 | 固定構造 | 少ない |
ひとつは日本アンテナ製の「MG-UV-TP」で、こちらはエレメントの角度を調整できるチルト機構付き。
もう一つは電気興業製で、こちらはエレメントが固定式のタイプ。
このうち、日本アンテナ製MG-UV-TPはその柔軟な設置性と堅牢な構造から、全国の警察車両において事実上の標準装備となっており、捜査車両から交通取締車両、警護車両に至るまで幅広く使用されている。
なお、両機種ともNP型の同軸コネクタを使用しており、無線機器との確実な接続が可能である。
電気興業製ユーロアンテナ偽装タイプ
電気興業製ユーロアンテナは情報が少ないため、モデル名、仕様など詳細が判然としない。
日本アンテナ製とともにほぼ同時期から配備され、とくに大阪府警での配備率が高いようだが、全国的には少ない。
エレメントの角度をチルトできないのが特徴となっている。
日本アンテナ製ユーロアンテナ偽装タイプ MG-UV-TP
MG-UV-TPは、底面には磁石を用いた設置構造が採用されており、車両のルーフの金属面にそのまま装着できるのが利点です。現行モデルではネオジウム磁石が塩化ビニル素材で覆われた仕様となっており、車体への傷防止や設置安定性に配慮された設計となっています。
MG-UV-TPには407.725MHz帯に対応した「3周波共用型」も存在しており、これにより、かつて旧型のカーロケ(警察無線による車両動態表示システム)で使用されていたデータ通信用の周波数にも対応可能です。

この3周波共用型のMG-UV-TPは、従来の基幹系(VHF)、WIDE(現在はIPRに統合)などの2周波共用型と外見上の差異はありません。

旧来のAPRカーロケシステムでは重畳通信や、NTTドコモのFOMA回線を用いたパケットデータ通信が導入されていました。
FOMA方式においては、日本電業工作社が製造していたデータ通信専用のモノポール型アンテナ—通称「タスポアンテナ」—が助手席側のAピラー脇、ダッシュボード上に設置されました。
ユーロアンテナの弱点と課題
外観上の秘匿性に優れるユーロアンテナ風のモービルアンテナですが、後付けである以上、いくつかの課題も指摘されています。
1、同軸ケーブルの処理
まず、同軸ケーブルの処理です。アンテナ本体の外観が自然であっても、車体に沿って配線されるケーブルの取り回しが不自然であれば、かえって目立ってしまう場合があります。特にリアガラス付近を通す配線では、固定が不十分な場合に浮きやたるみが生じ、外観上の違和感につながります。

このような問題を避けるため、一般的にはケーブルを車体の縁や隙間に沿わせて目立たないように処理する方法がとられます。
ミニバン型の車両では、さらに「ピタック」と呼ばれる専用固定具を併用して、確実な固定が図られることもあります。
固定方法や仕上がりの精度によっては、外観上ほとんど識別できない場合もあれば、逆に配線が目立ってしまうケースも見られます。
また、ケーブルの取り回しは外観だけでなく、アンテナ性能にも一定の影響を与える可能性があります。配線の状態や取り付け位置によっては、受信感度や送信効率に差が生じることも考えられます。
こうした施工や調整は、一般的には専門業者や整備担当者によって行われることが多く、用途や車両条件に応じて最適化が図られています。
手際のよい自治体では、ケーブルがほとんど視認できないほど美しく処理されているのに対し、雑な施工がなされた車両では、ケーブルが浮いたり垂れ下がったりと、明らかに不自然な印象を与えてしまっています。
加えて、こうした処理の不備は単なる外観上の問題にとどまらず、無線機器としての送受信性能にも影響を及ぼす可能性があるため、放置はできないものです。
ケーブルの固定や修理、再処理といった作業は、通常、現場の警察官ではなく、技官や、都道府県ごとに契約された指定業者によって行われています。
MG-UV-TPの欠点を克服したWH-UV-TPとは
このようにMG-UV-TPには、同軸ケーブルが車外に露出し、後付けであることが一目でわかってしまうという、致命的な弱点がある一方で、「WH-UV-TP」のように純正アンテナとの換装を前提とした埋め込み型の製品も存在しています。
WH-UV-TPは、車両に純正装備されるユーロアンテナと“換装”する方式を採用し、ケーブルをボディ内部に完全収納できる構造を取ります。車外に配線が残らないため、外観上は純正アンテナと判別不能であり、偽装性は大幅に向上しています。
外観上は完全に市販車の標準仕様に見えるため、偽装性能は非常に高く、車に詳しくない一般人はもちろん、多少車両知識のあっても、走行中にこれを見破ることは困難です。
日本アンテナの共通取扱説明書によれば、MG-UV-TPは磁石固定タイプ、WH-UV-TPは既存ベースの穴を利用する「穴開け式」に分類されます。
後者は固定強度と耐久性、そして秘匿性において優位に立つと言えます。
なお、市販車の純正ユーロアンテナは先端から根元までラバー一体成形ですが、MG-UV-TP/WH-UV-TPはいずれも先端部のみプラスチック製という共通点があります。
2、ユーロアンテナが標準装備の車種に後付けすると違和感でバレる
覆面パトカーの偽装技術において、最も基本とされるのが「目立たないアンテナ配置」であるにもかかわらず、現実には標準ユーロアンテナのすぐ近傍に偽装型ユーロアンテナを増設するという、偽装効果を著しく損ねる例もあります。
警察で配備実績のあるインサイトやインプレッサ・アネシスなどは標準でユーロアンテナを装備していますが、これらの車種にMG-UV-TPを追加した結果、かえって違和感を増幅させた“失敗例”と言えます。
この傾向が特に顕著だったのが、国費により捜査覆面として全国で大量導入されたスバル「インプレッサ・アネシス」です。
同車はルーフ後部に純正ユーロアンテナを備えており、これを生かしつつ偽装アンテナを追加しようとした結果、既存アンテナの隣や直後ろ、あるいはリアトランク上といった場所にMG-UV-TPが装着される本末転倒な例が確認されています。
同様のパターンは、やはり国費導入車両であるホンダ・フィットやスズキ・スイフトなどでも見受けられます。
これらはいずれも標準でユーロアンテナが装備されているため、本来ならばWH-UV-TPへの換装が理想的なはずだが、現場の都合やコストの都合からか、MG-UV-TPが追設されるようです。
一方で、トヨタ・クラウンマジェスタのような幹部車両では、標準装備のドルフィンアンテナに加え、トランクリッド部にユーロアンテナが追加された例もあります。
これは公用車としての機能を優先した結果かもしれないが、車体後部に2系統の異なるアンテナが並立することとなり、秘匿性の面では課題を残しています。
さらに興味深い点として、エレメント(アンテナ本体)を本来とは逆方向、すなわち前方に倒した状態で運用されている車両も一部に存在します。
この理由については明確な技術的根拠は示されておらず、ルーフの反射を利用した受信効率の改善などが想定されるが、実際には習慣的な配置や単なる整備上の便宜による可能性も否定できません。
なお、警察車両に限らず、国土交通省の緊急車両などでも日本アンテナ製MG-UV-TPと同型アンテナが使用されていることがあります。
これは緊急時の無線通信用途に限らず、位置情報送信やデータ通信に使用されることもあり、車種や所属を問わず広範な運用が進んでいる証左なのかもしれません。
MG-UV-TPの類似品で市販品のMG-450-TPとは?
実は覆面パトカーのアンテナによく似ているこの日本アンテナ製のMG-UV-TPには、ほぼ同一の市販品が存在するという、マニアには嬉しいサプライズがあります。

それが、主にデジタルタクシー無線などで使用される450~470MHz帯域に対応した単一周波数専用モデルMG-450-TPです。
見た目は警察無線用のMG-UV-TP(150MHz帯と350MHz帯の二波共用型)と、ほぼ同一ですが、MG-450-TPはVHF(150MHz帯)には非対応です。
このように、見た目こそそっくりでも、周波数特性において明確に別製品であり、無線機器としての互換性はありません。
ただし、外観についてはアンテナの形状・サイズ・色調などに違いがなく、外見のみで両者を判別することは非常に困難です。
MG-450-TPは“見た目だけ覆面パトカー風”の市販アンテナであることから、あくまで視覚的演出を狙って、購入する愛好家も多いようです。

MG-450-TPは本来業務用無線のアンテナであるため、一般的なアマチュア無線ショップでは取り扱いがないものの、業務線取扱店であれば購入でき、警察向けの本家モデルに比べると入手は容易です。
そのため、“本家MG-UV-TPの血を引く由緒正しい代替品”として支持する愛好者の声もある中で、実は受信愛好家にとっては、立派な実用アンテナとしての一面を持っていることはあまり知られていません。
MG-450-TPによる受信実験
筆者も総務省によるアナログ無線の周波数再編計画が推し進められる寸前の数年前、MG-450-TPと広帯域受信機のIC-R6にて“受信実験”を敢行。
118〜140MHzの民間/自衛隊エアバンド、各種業務無線や官波が割り当てられていた150MHz帯、そして役場の防災移動系などが多い460MHz帯、いずれも良好でした。
車のルーフトップにマグネットで設置するアンテナは垂直に立てた場合、広いルーフ面がパラボラアンテナめいた動作をするのが特徴です。
このため、エレメントの短いMG-450-TPでも、ハンディ機付属アンテナでの車内受信に比べれば、感度がはるかに良好である。しかも通常の無線アンテナのようなエレメントの長いモデルに比べ、圧倒的に目立たないと言えます。
MG-450-TPによる送信実験
さらに興味深い話として、一部のアマチュア無線家では、MG-450-TPをアマチュアバンドの430MHz帯用の送受信用アンテナとして流用する実験も行っている例も見られます。
MG-450-TPが、アマチュア無線の430MHz帯用アンテナとしても、その性能は比較的良好です。
この実験を行っているのは、無線ファンからの支持が厚い、免許や資格が不要なフリーライセンス無線を紹介する「ももチャンネル! 【無線と車でアウトドアなYouTuber】」を運営されている『ももすけ』さんです。
なお、本記事内の画像は『ももチャンネル! 【無線と車でアウトドアなYouTuber】』より引用しています。
SWR(定在波比)を測定
まずは、その本来の目的であるデジタルタクシー無線の450MHz域付近のSWR(定在波比)を測定。

画像の出典 ももチャンネル! 【無線と車でアウトドアなYouTuber】
すると画像のとおり1.27。さすがはタクシー無線用アンテナ。450MHzにバッチリと同調するように設計されていることがわかります。一般にSWRは1.5以下が理想とされ、3以下が実用の範囲と考えられるので、この結果はきわめて優秀と言えそうです。
これなら430MHzでも十分実用の範囲になりそうです。実際にマッチングを図っていきます。
430MHzのマッチングは?
アマチュア無線の430MHzのマッチング。なんと、こちらも1.3前後と良好。
ちなみに422MHz帯域の特定小電力トランシーバーの帯域の受信感度をチェックすると、こちらも良好な数値(受信機による受信のため、送信はされていない)でした。
『意外と航空無線や鉄道無線、アマチュアの144MHz帯の広帯域受信も聞けるんじゃないですかね』と、ももすけさんは評価。
なお、エレメントは垂直に立てると良いですよとのことです。

画像の出典 ももチャンネル! 【無線と車でアウトドアなYouTuber】
今回のももすけさんの実験では、実際にアマチュア無線のハンディ機『FT3D』を用いて、レピーターと呼ばれる中継局に搬送波を送信し、自動的に送り返されてきた電波を受ける『カーチャンク』を行なって、返ってきた電波の強度をSメーターで確認するものです。
レピーターとその仕組みについては以下の記事を参照のこと。

レピーターから返ってきた信号強度、つまり電波の強さはフルスケール(つまり、アンテナ3本)とすこぶる良好。

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ももすけさんは前回、アマゾンで低価格の車内設置型の“覆面アンテナ”を購入して受信実験を行なってもいるが、日本アンテナの450TPの予想外の感度に驚いた様子です。
余談だが、レピーターを使って無線交信する方式を『山かけ通信』と呼び、警察無線などではこれが基本。アマチュア無線でも全国各地にアマチュア無線用のレピーターが設置されており、誰でも利用可能です。
警察無線用のMG-UV-TPのような短いアンテナでも、本部と遠方の無線局同士が問題なく送受信できる理由は、まさにこの山かけ通信のおかげなのです。
さらに警察無線では個別PCの車載無線機にも中継機能を備えており、不感地帯ではPC自体が”中継局”になることも強み。

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アマチュア無線や受信専用の運用については、アンテナに対して「技術基準適合証明(いわゆる技適)」による法的な制約がないため、こうした実験は自由に行うことができるのです。
その結果、ももすけさんの実験からは、覆面アンテナ風の『MG-450-TP』を使ったアマチュア無線の430MHz帯での送受信でも問題なく、実用的に運用できることが確認されました。

さらにこのアンテナはマグネット式で簡単に着脱でき、車の印象を引き締めるアイテム。
まさに「キミのクルマが渋滞の先頭に!?」といった気分になり、渋滞の先頭に立つ愛車の姿を思い浮かべると、ちょっとしたワクワク感があります。
「送受信実験」はアマチュア無線にのみ許された実験
念のため誤解のないように申し添えますと、重要な前提として、ももすけさんの今回の実験は「アマチュア無線機による430MHz帯での送受信実験」です。また筆者の過去の実験も「広帯域受信機による受信実験」にとどまっています。
いずれも「デジタル簡易無線(デジ簡)」や「特定小電力無線」による「送信実験」ではありません。
デジタル簡易無線では、使用するアンテナも技術基準適合証明(技適)を受けていなければ使用が認められておらず、もし未認証のアンテナで送信してしまうと、電波法違反の可能性があります。
また、たとえ350MHz帯対応の『MG-UV-TP』であっても、デジ簡用としては技適を取得しておらず、法的には使用できないと考えられます。
したがって、こうしたアンテナを実験目的で使用する場合は、あくまで受信機やアマチュア無線機での利用にとどめるのが重要と言えます。
ユーロアンテナのまとめ
MG-UV-TPを本来の車外設置とは異なり、車内、具体的には後部座席のリアトレイに鉄板を敷き、これをアースポイントとしてアンテナを仮設置する“変則的”な車内運用例も報告されています。
これは配線処理を目立たせたくない事情から来た対応と考えられ、同軸ケーブルが車外に露出しないという点では効果的ですが、本来の電波特性や通信品質には多少なりとも影響を与えるおそれがあります。
結論として、ユーロアンテナはその汎用性と見た目の自然さから覆面パトカーの偽装における“定番装備”となっているものの、施工の丁寧さや車種とのマッチング、そして何より配線処理の巧拙が、偽装効果の成否を大きくさせると評価できます。
このように、ユーロアンテナ偽装型は、かつてのTAアンテナの役割を引き継ぎながら、より現代の車両環境に適応した形で発展を遂げ、いまなお覆面パトカーにおける主要な偽装アンテナとして広く使われています。
アマチュア無線&業務無線風アンテナ

アマチュア無線や業務無線のモービルホイップアンテナをあえて“偽装せず”に堂々と取り付けている覆面パトカーの存在は、非常に興味深い事象である。
今までの涙ぐましい努力はなんだったのか?とも思えてしまう。

可能性としては、一般的な偽装型ユーロアンテナとは異なり、むしろ役所関係の公用車や、あるいは熱心なアマチュア無線家の自家用車を前面に押し出した直球的偽装の可能性もある。
そして、その実体は、警察の捜査用車両、というのがこのアンテナの本質である。
この種のホイップアンテナは、145MHz/430MHzなどアマチュア無線の定番バンドと、警察無線が利用する帯域が近いため、見た目の整合性がとれる利点もある。
全長30〜60センチ前後のエレメントに、スプリングベース付きの構造、そしてトランクリッドやルーフ脇にしっかりと基台で固定されている―これらは一見して“本職”の無線ユーザーの車を思わせる仕様であり、観察者にとっては、「ああ、無線やってる人の車だな」で、見過ごしてしまう可能性もある。
加えて、業務無線風アンテナを備えたセダンは、かつての営業車や行政機関の公用車のイメージとも重なるため、現代的な“覆面”よりもむしろ「レトロな働く車」としての自然さが漂う。
その意味では、偽装というより“キャラ付け”の一種と捉えることもできよう。
実際、SNS上で「第一電波工業製の150MHz帯1/4λアンテナを装備したスイフトの覆面パトカー」の存在が報告されているように、このタイプのアンテナ装備は一定の実例を伴って観察されており、“よく見ると怪しいが、見なければわからない”絶妙なラインに収まっている。
憲政公園にスイフトの覆面いる。アンテナは第一電波の150MHz帯の1/4λのモビホつけてる。 pic.twitter.com/TMFn3gRMdq
— MKS/JF9NQG(RoHS指令準拠) (@683_SRE) 2017年1月30日
つまりこの手法は、ユーロアンテナのように「純正風」で隠すのではなく、「無線やってるっぽい」方向へ寄せて目立たなくする、“逆転の発想”的な偽装ではない“偽装”なのだ。
警察車両であることを隠すための偽装ではなく、むしろ働く車のリアリティを自然に見せるという意味での演出であり、単に“隠す”というよりも“溶け込ませる”ことを目的としたスタイルと思うんだけど、どうですかね。
車内アンテナ
覆面パトカーの存在を見破る「外見的な手がかり」は、年々少なくなっている。
その中でも、特に注目すべきはアンテナの存在だ。
かつては車体に取り付けられた無線アンテナが一種の“目印”となっていたが、現在ではそうした外観上のヒントすら完全に排除されつつある。
とりわけ“車内に完全に隠されたアンテナ”、いわゆる「車内アンテナ」は、もはや偽装やカモフラージュの範疇を超えた、究極の秘匿装備である。
匿アンテナは究極の盗難防止策となるのか
車内に完全に秘匿されたアンテナ、いわゆる「車内設置型アンテナ」は、偽装やカモフラージュの枠を超えた、究極の秘匿手段として知られる。
これは、もはやアンテナを“見せない”というレベルではなく、“存在させないように見せる”技術であり、現代の覆面パトカーにおけるアンテナ設置の最終形態とも言える。
外部アンテナの撤去によって得られるのは、視認性の排除である。車両の外観からは一切の手がかりが得られず、従来であれば即座に見抜かれていたユーロアンテナやモビホも、存在しない以上判断材料にはなりえない。
まさに「アンテナによる特定」ができないという点で、秘匿の徹底が図られている。
この手法には二つの技術的アプローチが存在する。一つは、もともと屋外設置を前提に作られたアンテナを、特殊なアース処理などを施して車内に流用する方法。
もう一つは、最初から車内設置を想定して開発された専用アンテナを使う方法である。
アンテナの完全秘匿に成功したクラウン交通覆面。
特に前者は、覆面車両の黎明期から一部で見られた工夫であり、1989年のラジオライフ誌に報告されたスバル・シグマの例などはその典型だ。
「アンテン工業 DB-3」などの一般市販ホイップアンテナを、シート背面や足元スペースに設置して運用する手法は、外からまったく見えない反面、適切なアースや指向性処理が必要となるため、設置技術の習熟度が問われる。
近年では、210系クラウン・アスリートの一部車両で、リアトレイ内にアンテナが設置され、従来ルーフ上にあったユーロアンテナが撤去されている例が複数確認されている。
もともと同型車ではユーロアンテナの標準設定がないことに加えて、ユーロアンテナですら“見慣れた偽装”として認識され、秘匿性が求められるようになった現状を示す。
リアトレイ設置のアンテナは濃色スモークガラスにより外部からの視認が困難で、注意深く見なければ気づかれない。
ただし、車内設置型は車体鉄板との接触が少なく、ボディアースが取りにくい問題も。性能を確保するには、アース板設置の工夫が必要で、単に「見えなければよい」というものでもない。
一方で、外部から見えないことは盗難や妨害の抑止にもつながり、「アンテナが見えるから狙われる」というリスクの軽減にも寄与している。
総じて、車内アンテナは覆面パトカーのアンテナ偽装・秘匿の流れにおける最終段階であり、その存在は「見抜ける者にしか見抜けない」という構造によって、ますます警察車両の同定を困難にしている。
今後、この技術はさらに洗練され、より広範に導入される可能性が高い。
大阪府警のステージアの例
また、大阪府警による日産・ステージアの交通取締用覆面パトカー配備は、アンテナ秘匿技術の中でも特異である。
この車両は外観に一切のアンテナ類を装備しておらず、一般車両との判別が極めて困難であった点から、当時大きな話題を呼んだ。
雑誌ラジオライフ2005年2月号では、「大阪府警ステージア交通覆面のアンテナの謎」という特集記事が組まれており、大井松田吾郎師匠による詳細な調査によって、その「謎」は明かされた。
それによれば、ステージアのリア・ラゲッジルーム内のサイドウインドウ側面に、スプリングベース付きのホイップアンテナがマグネットベースを介して上下逆さまに設置されていたという。
この設置方法は、一般的なアンテナ設置とは真逆の発想であり、外部に一切露出しないという徹底した秘匿運用であった。

しかも、エレメントの半分は、外へ向けて送受信しやすいように、直角曲がりと75度曲がりに折り曲げてあったというから驚きである。「意味不明」と師匠。
覆面ステージアを追尾してバッチリ撮影された写真も掲載されており、このカラクリがよくわかった。うーん、デジ簡でやってみたい。
一方で師匠はこの設置方法について、「取締りのための取り締まりを招きかねない」とし、車種選定と併せてやや批判的な姿勢を示している。
つまり、秘匿性を追求するあまり、取締の公正性や透明性の観点から疑問が残る、という指摘である。
大阪府警察高速道路交通警察隊
スバル・レガシィツーリングワゴン交通覆面
全国的にも超レア(?)な覆面パトカー。ステージアをはじめ、ステーションワゴンタイプの覆面を導入するのは大阪のお家芸ですね(?)
アンテナを車内設置したりと秘匿性は抜群。取り締まりに活躍もそろそろ年ですかね。 pic.twitter.com/8f4F8OFRO4
— じゃがいもこぞう (@potatosignals1) December 4, 2021
ステージアという車種自体、当時すでに官用車両としてはやや異色であり、その上で車内にアンテナを秘匿するという選択は、技術的には斬新でありながら、運用思想としては挑戦的すぎたとも言える。
その稀少性を物語るように、2006年には模型メーカー「ヒコセブン」から、『ニッサン ステージア 300RX 大阪府警交通機動隊覆面車両』としてミニカー化されている。

その後、大阪府警では秘匿と透明性のせめぎ合い、そして運用上の技術的限界が浮き彫りになった「ステーションワゴン型交通覆面」のコンセプトを、スバル・レガシィツーリングワゴンへと継承している。まだやるんかい!
このような車外用アンテナの車内運用には技術的な課題も存在する。特に、5W〜10W以上の出力で発射される高周波電波が、車内の電子機器や無線機に対して「回り込み」現象を引き起こす可能性がある。
これは高周波の反射や自己干渉によるものであり、通信の不安定化や、機器の誤動作の原因となりうる。
実際、車外設置を前提としたアンテナを室内に持ち込んで使う場合、アースの取り方や放射効率の低下、指向性の変化など、運用上の技術的調整が不可欠となる。
覆面のアンテナ室内に置き始めて分かりにくくなりました。 pic.twitter.com/ATj8Bv9t2b
— KOTA®@FIFTYS Racing (@MONTANAKUMAMOTO) 2017年3月22日
一方で、もはや「秘匿のための改造」すら不要とする、車内専用に設計された警察無線用アンテナも登場している。
これは、従来の外部アンテナや汎用アンテナを無理に室内へ流用していた時代とは一線を画し、警察車両のステルス性を飛躍的に高めたといえる。
アンテナにおいて電波の送受信を担う主要部品は「素子(エレメント)」と呼ばれるが、これらの専用車内アンテナでは、エレメントが黒色かつ薄型素材で構成されており、車内インテリアに自然と溶け込むように設計されている。
たとえば、古典的なTAアンテナや針金アンテナを車内後部に設置した場合、それらの銀色のロッドが車内で異様な存在感を放ってしまうことがあった。
これに対して、黒色のエレメントを用いたガラスマウントタイプのアンテナは、目立ちにくさという点で圧倒的な優位性を持つ。

このガラスマウントアンテナは、車内側からリアウインドウなどのガラス面に貼り付けて使用するタイプであり、車外からの視認性は極めて低い。長さはおおむね50センチ程度とされ、両面テープなどで固定されている。
素材も極薄で黒色、しかも直線的なデザインであるため、リアガラスの端やスモークフィルム越しにはほとんど認識できない。
コンビニでアイスを買って車に戻る刑事の覆面車両にこのアンテナが貼られていたとして、それが「無線用アンテナ」だと即座に見抜ける市民は、おそらくほとんどいないだろう。
実際、警察密着型のテレビ番組などを通じて、四国地方の警察における使用例が多数確認されている。
たとえば、徳島県警で捜査の最前線に立つ名物刑事・秋山氏(リーゼント姿でも知られる)が搭乗する三菱・エアトレック型の覆面車両のリアガラスにも、このタイプのアンテナが取り付けられていた。
また、高知県警が導入しているスバル・WRX型の交通覆面においても、同様の黒色エレメントを貼り付けたガラスマウントアンテナが観察されている。
筆者もアマチュア局用のアンテナを使用したことがあるが、撤去しようとすると紫外線で劣化したエレメントがえらい勢いで「バキッ!」と脆くも折れたのには閉口してしまった。事実上の使い捨てアンテナであり、メルカリにも出せずじまいである。
こうしたアンテナは、単に秘匿性が高いというだけでなく、車両の外観を一切変更せず、一般車両と完全に同化させられるという利点を持っている。市街地や住宅地での張り込み、移動中の監視活動において「目立たないこと」が最優先される状況では、この種の専用アンテナの有用性は非常に高いといえるだろう。
無線アンテナをドアミラーに仕込んでしまう特許を警察庁は考案している
警察庁が考案した「ドアミラーアンテナ」に関する特許
特許情報(http://j.tokkyoj.com/data/H01Q/3095114.shtml)
上記を参照すると、出願人は「警察庁長官」になっている。これは手続き上の都合ではあるが、実際に警察庁がアンテナ技術の開発に関与していることを示す強力な証左である。
特許文面中には、「見た目がスッキリする(原文ママ)」という記述も見られ、車両の外観を極力変えずにアンテナを実装する意図が明確に読み取れる。
ドアミラーアンテナとは、文字通りサイドミラーの内部にアンテナを仕込む構造をもつ。これにより、外部にアンテナを追加する必要がなくなり、無線通信機能を保持しながらも車両本来の形状・印象を完全に維持できる。
New!シャークフィンタイプ

さらに近年では、シャークフィン型アンテナを模した擬装型の新型アンテナも登場。
一般的な乗用車にも多く採用されているため、これを通信アンテナとして応用することは、視覚的なカモフラージュとして理にかなっている。
ただし、上部に通信エレメントと思しき棒状の突起物が突出している場合もあり、完全な秘匿性という意味ではやや課題が残る。
また、フィン型であっても、150MHz帯など比較的低い周波数の運用においては、構造上の工夫が必要とされることから、実用化には依然として技術的なハードルが存在する。
加えて、後付けである以上、同軸ケーブルの露出や取り付け部のわずかな違和感が、鋭い観察眼を持つマニアにとっては見破りのヒントとなってしまうことも否定できない。
現時点では全国でも目撃例は多くなく、プロトタイプ段階として一部での試験運用にとどまっているだが、果たして。
V字型車内貼り付け型アンテナが登場
近年では、なかなかスタイリッシュな車内アンテナも登場している。ガラスマウントタイプと呼ばれるアンテナである。
特に近年の捜査車両(カムリやカローラセダン)では「シャークフィンアンテナ」が標準装備になったことにより、ユーロアンテナによる偽装が、困難化している背景がある。
これに対応するため、一部の警察本部で登場したのが、名称不明の「V字型車内アンテナ」である。

画像の引用元 ラジオライフ2024年 2月号(写真:永野まさる、乾宗一郎、大井松田吾郎)
これはリアウィンドウの内側などに取り付けられた黒いバー状のアンテナとなっており、ガラスマウント型の進化版である。
エレメントがV字に展開されることで電波の指向性や感度を高めながらも、視認性を低く抑える設計となっているようだ。外部から目立たず、ステルス性が高いため、覆面パトカー用アンテナの新潮流といえる。
このアンテナの名称は不明だが、ラジオライフ2024年2月号「警察マニアックス2024」の中の「パトカーマニアックス」で数ページにわたり特集されている。
それによれば、おそらくは警視庁など、一部の首都圏警察本部のみの配備とみられ、2024年時点で全国普及はまだしていない様子。
ちなみに、このアンテナを夜間のコンビニ駐車時で見抜く裏技も紹介している。
夜間、内装が暗くなったときにウィンドウ越しに内部のアンテナが見えやすくなる。
とくに背景に照明があると、貼り付けアンテナのシルエットが浮かび上がる。
このように警察車両は従来の車外アンテナから、ステルス性の高い車内貼り付けアンテナに移行しつつある。
そしてこの記事は、その判別方法と実例を紹介したものであり、観察眼があれば判別は今なお可能であることを教示してくれている。さすがです。
覆面パトカーのアンテナのまとめ
このように、覆面パトカーのアンテナ技術は、外部露出→偽装→車内秘匿という形で進化を遂げてきた。
今や、「アンテナを見せないこと」は、単なる見た目の問題ではなく、任務の成果を左右する重要な技術的要素となっている。
とはいえ、どれほど技術が洗練されようとも、覆面パトカー特有の“空気感”や“気配”を完全に消し去ることはできないというのもまた事実である。
ナンバーの法則性、ドライバーの挙動、そして微妙に浮いた装備の取り付け具合など、鋭い観察眼を欺くには、アンテナ偽装だけでは不十分なのかもしれない。
なお、一般市民が同種のユーロアンテナに興味を持つ場合、MG-450-TPのような市販品を選ぶのが無難といえそうだ(4万円します)。
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