いわゆる「覆面パトカー(捜査車両)」において装備されるアンテナは移動体通信の運用に必要不可欠な装備品であるが、保全のための偽装や秘匿が常に重要と言える。
本稿は、覆面パトカーに用いられるアンテナの種類を解説するとともに、その変遷が示す偽装技術の役割と背景を概観する。
覆面パトカーの無線アンテナの概要
従来は自動車電話型の「TLアンテナ」や、アナログテレビ受信用として知られる「TAアンテナ」など、市販品を模した外観で覆面パトカーと悟られない工夫が主流であった。
警護用車両など秘匿性が比較的求められない車種では、アマチュア無線や業務無線に近い形状のアンテナが用いられる例も残っている。
さらに2010年代以降、欧州車で見られるラジオアンテナを模した細いポール型の「ユーロアンテナ」が全国の捜査用車両に急速に普及した。
ところが、2021年に警察無線が従来のAPR方式からIPR方式へ移行すると、アンテナの取り付け方は大きく変わった。
外部アンテナの秘匿化である。
IPR方式への移行に伴い、着脱式のユーロアンテナをリアトレイに取り付ける例や、車内アンテナへ全面的に切り替えて外部から通信装備が確認できない「アンテナレス」仕様の覆面車両が増加したのである。

外観から覆面パトカーを判断することが困難になっているのは、その表れであるが、こうした変化の背景には、2014年に報じられた「覆面パトカーのアンテナ窃盗事件」も少なからず影響したとみられる。
それでもなお、覆面パトカーの通信装備として、2026年現在でも「アンテナ」は必要不可欠である。
とくにこれまで、市販品を模したアンテナで正体を隠す手法は、覆面車両の偽装技術の一段階として広く普及してきた。
以下の項目にて種類ごとに解説をしていくが、さらに詳しい概要解説はそれぞれの個別記事へのリンクから参照されたい。
F1型アンテナ(ラジオ用ロッドアンテナ偽装タイプ)
覆面パトカー草創期を支えた「F1型ホイップアンテナ」─偽装技術の原点
1970年代から1980年代にかけて、日本の警察が使用した覆面パトカー(私服用無線車)において、アンテナの偽装化はすでに始まっていた。
その代表的存在として知られるのが、電気興業が開発したロッドアンテナ「F1型ホイップアンテナ」である。
#昭和の日なので昭和っぽい画像を貼ろう
①②③昭和の覆面捜査車両 F1形アンテナ基台とメクラキャップが懐かしい!
④秘匿アンテナの傑作!ラジオアンテナ擬装の無線アンテナ
電気興業F1形ホイップと移動警電ショートタイプ pic.twitter.com/KyKVFbzi1R— 温故知新 (@PitanAhiru) 2017年4月29日
F1型ホイップアンテナは、当時の市販車に標準装備されていたラジオ用ロッドアンテナの外観を模して設計されており、純正アンテナと極めて類似した形状を備えていた。
そのため、多くの車両では純正アンテナと置き換える形で設置されたが、中には純正のラジオアンテナを残したまま、その反対側に増設する事例もあった。
純正のラジオアンテナは手動で引き伸ばせるが、F1型アンテナは構造上、伸縮できず、常時展開状態を保ち、無線の送受信に特化した仕様となっていた。
しかし、外観上の違和感は少なく、見た目には一般車とほとんど変わらないF1型ホイップアンテナは、その完成度としては、当時でも非常に高水準であった。
覆面パトカーにおける「偽装」アンテナの先駆けとして極めて高く評価された。
後に続くアンテナ偽装技術や秘匿技術の原点ともいえる存在であろう。
TLアンテナ(自動車電話用アンテナ偽装タイプ)

無線ファンの間で「TLアンテナ」と通称されるこのタイプは、トランクリッド部に装着される全長約60センチ前後のアンテナで、90年代にかけて主に覆面パトカーに広く採用されたことで知られる。

その形状は非常に巧妙で、一般人には見分けがつかなかった点で偽装には高いレベルで成功した。
自動車電話ブームが生んだ覆面パトカーの象徴─「TLアンテナ」の系譜
1980年代、日本ではNTTの自動車電話サービスが普及し始め、車両後部にアンテナを装着したスタイルは、当時の先進的な移動体通信の象徴となった。
こうした時代背景の中、主に90年代初頭から、警察車両にも、自動車電話アンテナに類似した外観を持つアンテナが導入されるようになる。

TLアンテナの徹底した偽装ぶり
注目されたのは、その本家アンテナと極めて酷似した外観である。これらのアンテナの中には、NTTやNTTドコモ風のステッカーが貼付された例も確認されており、当時普及していた自動車電話アンテナに近い印象を与えていた。
しかし1990年代後半以降、携帯電話の急速な普及によって自動車電話そのものが衰退。街中でトランクリッド型アンテナを装着した一般車両を見かける機会も減少していった。
現在では、この種のアンテナは警察車両や一部業務用無線車両などで見られる程度となっている。特にタクシー業界では、450MHz帯用アンテナとして類似形状の製品が使用される例もある。
アンテナの設置位置にも一定の傾向は見られるが、車両後方から見て右側に装着された例が比較的多い一方、左側への設置例も存在しており、全国的に統一された仕様が存在するかは明確ではない。
TLアンテナに貼られた「ステッカー」には意味があった
前述の二種類あるステッカーだが、ラジオライフ1996年2月号[雑誌](三才ブックス)によれば、実はTLアンテナに貼られたこのステッカーには意味がある。
NTTのロゴがあればVHF専用、NTT DoCoMoのロゴならVHFとUHFの共用アンテナで、後者には分波器(デュプレクサ)が併用され、1本のアンテナでWIDE、車載通信系の複数系統を運用可能である。
![ラジオライフ1996年2月号[雑誌]](https://m.media-amazon.com/images/I/51ccz0SnBZL._SL500_.jpg)
また、1980年代には安展工業(現在のアンテン)が製造した、パーソナル無線向けのオレンジトップ型アンテナ偽装タイプも存在した。

80年代当時、自動車電話に憧れていた若者は多い一方で、高額な保証金を捻出できる層は限られたため、代替としての移動通信ツールとして火がついたのが「パーソナル無線」であった。その大流行を警察当局が利用したといえる。
後年の装備状況と現在の部分的配備
2000年代初頭まで、全国で配備が普及したTLアンテナ。後年は秘匿運用のため、基台のみを外部に残し、アンテナ本体をトランク内部へ設置したとみられる車両もあった。
2026年現在、新規導入はほぼ行われていないが、警備部の警護車両や、偽装の必要性が低い白黒パトカーの一部では現役で使用されることもある。
警護車の中には、1台の車両に2本、あるいは4本ものTLアンテナを搭載したケースも見られるため、一部ではTLアンテナはその独特の形状と存在感から、依然として「覆面パトカーの象徴」として認知されている。

余談:TLアンテナもどき
興味深いことにこのTLアンテナを模した非自動車電話も流行した。当時の新聞報道で、以下のように報じられている。
自動車電話に憧れて見栄アンテナが流行
乗用車の後部にニョッキリ突出た自動車電話用アンテナ。ところが車内には電話は影も形もないーーこんな車が最近増えてきた。実はこれ、自動車電話用のアンテナに模した静電気放電用のアース。
「電話付きの自動車に見られたい」という“虚栄心”をくすぐるアイデア商品だ。買主はほとんどが10代後半から20代前半の男性。カッコよさを求める若い世代の見栄がかいま見え、ちょっぴりさみしい話ではある。
(引用元 1990年5月23日・中日新聞)
若者の“見栄”感覚に訴えるとされる一種のカーアクセサリーが、自動車用品店で各社から販売されていたようだ。
外見上はTLアンテナを模したもので、実際のNTT製アンテナは全長45センチ、金属塗装が施された本格的な仕様であるのに対し、市販されている製品は長さ35〜60センチ程度で、素材もほとんどがプラスチック製であった。
これらは「アンテナ式静電気放電装置」という名称で販売されており、車体に帯電した静電気を空中へ逃がすという機能がうたわれているが、なかには「ファッション・アンテナ」などと称して、完全に装飾目的の製品も存在する。価格帯は3,000〜6,000円台に分布している。
車体の静電気対策としては、ほかにもチェーンやゴムベルトを地面に垂らして放電させる安価な製品や、ドアハンドルに取り付けるタッチ式の放電装置などがある。
しかしながら、実用性よりも“カッコよさ”を重視し、アンテナ型を選択する若者が多いという。
当時の報道によると、NTT春日井支店(愛知県)の話として、同支店管内における1か月あたりの自動車電話の販売台数は平均25台程度にとどまる。
一方で、同市内に点在する十数のカー用品店では、いずれの店舗でも月間10本以上の“見栄”アンテナが販売されていたとのことである。
単純計算でも、自動車電話アンテナを装着した車両のうち、実際に電話機が搭載されているのは5台に1台未満と推定されるだろうと記事は報じている。
なお、近年まで、アマチュア無線局向けとして、アンテナメーカーのダイヤモンド社が類似品を販売していた。
TAアンテナ
偽装アンテナ、次の一手はテレビ放送&カーナビ受信用偽装─TAアンテナ

覆面アンテナが一般に知られるたびに、そのアンテナ偽装技術は“次の一手”を打ってきた。
90年代後半、携帯電話の爆発的な流行で、自動車電話が廃り始めると、先述のTLアンテナは目立ち始めた。
その救世主となったのが、カーテレビおよびカーナビの普及である。
つまり、今度は違和感なく溶け込むために、これらのアンテナに偽装したのが、「TVダイバーシティ型」無線アンテナ、いわゆる『TAアンテナ』である。

原型はカーテレビ用のアンテナとして、カー用品メーカー・SEIWAが一般販売していた『CITY ROAD ダイバーシティアンテナ』。
その形式を模したアンテナを老舗アンテナメーカーの日本アンテナが製造した警察専用品が「日本アンテナ 無線用ホイップアンテナ TVダイバーシティ型 / TV-UVTUV』である。2010年頃まで生産が継続されていた。

2000年代初頭にはその偽装性の高さから、覆面パトカーの標準的装備の一つとして、従来のTLアンテナに代わってTAの採用が進んだが、移行期にはTLとTAが混在する並行装備車両も多かった。
概要

TV-UVTUVの原型は、カー用品メーカーSEIWAがかつて販売していた民生用のテレビ受信用アンテナ「シティロードT17(CITY ROAD T17)」であり、その細部を変更し、デザインをほぼそのまま流用したもの。
左右2基で1セットとなる構成が特徴で、愛好家の間では「TAアンテナ」と呼ばれている。
当時はテレビ受信機能付きカーナビが一般化したことで、車両にテレビアンテナが装着されていること自体が不自然ではなくなっていた。
その結果、TAアンテナは外観上の違和感が少なく、覆面パトカーにおけるアンテナ偽装手法として高い有効性を持っていたといえる。
複数バンドに対応するマルチバンド設計のアンテナ
一見テレビ用だが、実際には数種類の警察無線に対応する設計である。
同シリーズは「TV-UV」「TV-UVTUV」「TV-UVTU」の3タイプが存在し、基本形状はほぼ共通。左右のユニットの中身(とケーブル)が異なるだけだ。
対応モデルとバンド構成:
TV-UV
左側:150MHz帯 / 350MHz帯
右側:TV放送受信用TV-UVTUV
左側:150MHz帯 / 350MHz帯
右側:150MHz帯 / 350MHz帯TV-UVTU
左側:150MHz帯 / 350MHz帯
右側:400MHz帯
これらは左右1対・計4本のエレメントを用いて、最大3バンドまでの同時受信が可能な設計となっている。具体的には、
150MHz帯 … 車載通信系(例:154〜161MHz)
350MHz帯 … WIDEシステム向け(例:335〜360MHz)
400MHz帯 … 主にカーロケーター(無線自動車動態表示システム)向け
TV … 地上波テレビ放送受信用
同軸の各タイプの組み合わせは以下のとおり。
TV-UV:左=150/350MHz用同軸、右=テレビ用フィーダー
TV-UVTUV:左右どちらも150/350MHz用(両側とも同軸)
TV-UVTU:左=150/350MHz、右=400MHz用(両方同軸)
ここでの注目ポイントは右側ユニットのケーブル種別。テレビ波用にはフィーダー(平たいケーブル)が使われており、同軸ではない。つまり……
◆ 右ケーブルがフィーダー → “テレビっぽい”可能性アリ
◆ 右も左もフィーダー → 完全にテレビ用、警察無線に非対応
◆ 両方同軸 → 本物の無線運用アンテナの可能性高し!
リア右ユニットから出ているケーブルの断面形状のチェックにより、TAアンテナの正体を把握できた。
このようにTAアンテナは、上下2段構造のホイップエレメントを備え、特に下段のエレメントは無線の送受信に対応。
見かけのシンプルさに反して、実はかなり高性能なマルチバンド対応型アンテナだった。
また、アンテナ基部は車種に応じて複数のバリエーションが存在し、マグネット固定式やフック式、さらには車体形状に合わせた専用型などが製造されていた。
参考文献 ラジオライフ2000年2月号
覆面の条件は“アンテナ角度”にあり!?
実はアンテナの展開角度にも秘密がある。説明書によると、使用時は以下のように展開するのが正しい使い方だ。
エレメントは最大まで展開
左右の間隔は約45度
本体は水平より90度=垂直に立てる
つまり、ピンと立った耳のようにV字型で展開されたスタイルが“本物の捜査車両”の条件だ。
とはいえ、これを忠実に守って、真っすぐ天に向かってエレメントを突き立てて運用していた覆面は多くなかった事は、皆さんもご存知の通りである。
設置位置とその傾向
車種によって取り付け位置は異なるが、セダン型の覆面車両ではリアウィンドウの左右両脇に対称配置されるのが基本。
ただし、片側のみの装着(上述したように、モデルによっては一方はTV用であるため)や、SUV・ミニバン型においてはルーフ中央あるいはリア上部に設置される例も存在した。
アンテナの同軸ケーブルはリアピラーやルーフモールを這うように引き込まれていた。
民生用との違い
TAアンテナは、上下2段のエレメント(空中線)構造となっており、特に下段のエレメントが実際の無線送受信を担っている。

このエレメントは、アンテナ基台内に完全に収納されることがなく、構造上わずかに突出している。
この設計により、外見上はシティロードT17とほぼ同一でありながら、通信性能が確保されている。
結果的に、これが警察向け製品と民生品との決定的な外見上の違いである。
また、上段のエレメントカバーが破損しやすい、という欠点もあり、実際にカバー欠損のまま使用されている捜査車両も確認されていた。
ほかにも日本アンテナ製と、元となった民生用モデルSEIWA製シティロードT17とでは、以下のような違いがある。
| 比較項目 | 日本アンテナ製TAアンテナ | SEIWA製シティロードT17型 |
|---|---|---|
| 下段エレメント後端 | カバー内に完全に収納されない | 完全に収納される構造 |
| 同軸ケーブル形状 | 丸型(無線用) | 平型・2本組(TV用) |
| 後端形状 | 末端が膨らんでいる | フラットで膨らみなし |

これは元になったセイワの民生品仕様。下段のエレメント後端が膨れておらず、また同軸線が平たく、二本組みである点が、警察無線用との違い。
構造上の欠点と運用上の課題
一方で、TAアンテナには構造上の明確な欠点も存在していた。
エレメントの曲がり事故
アンテナのエレメントは極めて細く、最大展開状態でうっかりトランクドアを開けると、ドアがエレメントに接触して曲がってしまう事故が頻繁に発生した事例が見られた。
特に、高速道路交通警察隊や交通機動隊の交通覆面では、違反車両停止後にトランクから矢印板やコーンを取り出す場面が多いため、この事故の発生率が高かった。
同様に頻度は低いながらも、機動捜査隊や所轄署の車両にも同様のリスクがあった。偽装性と通信性能のジレンマ
アンテナの存在を目立たせたくないという理由と破損防止の目的で、エレメントを伸ばさずに運用する例も多かったが、一般論では無線の送受信性能が低下する。ただし、警察無線は山かけ無線(中継)であるため、影響は少ないと言う意見もある。秘匿型運用の導入
こうした問題への対策として、後年にはエレメントを伸ばしたアンテナ本体を後部座席や荷室に収納する「秘匿型(車内アンテナ型)」運用も試みられた。
その他のモデルと地域差
日本アンテナ製のTAアンテナが全国的には主流であったが、一部の警察本部では独自のモデルも併用していた。
パナソニック製「TY-CA39DA型」:全体的にフラットでシティロード型とはやや異なる外観。
都道府県警独自仕様のオリジナルモデル:小型化されたテレビダイバーシティ型で目立たない設計。
市場での人気と現在の状況
2014年の「アンテナ窃盗事件」当時は、マニアの間ではコレクターズアイテムとして評価が高く、オークションでは日本アンテナ製の実物モデルや、SEIWA製の民生品など、新品未使用品のものは10万円〜20万円で取引された例も過去にあった。

2026年現在、TAアンテナはすでに旧式となっており、装備する覆面パトカーは全国で激減している。
ユーロアンテナ(ヘリカル型アンテナ)

無線装備を搭載した覆面パトカーであることを外観から察知されないようにするという課題に、もっとも洗練された形で応えたのが、ユーロアンテナ偽装タイプである。
前述のTAアンテナは、カーナビ機能のアンテナがラジオアンテナに一本化された市販車が多くなったことで、TAアンテナもまた徐々に姿を消していく。
そして、国産車のラジオアンテナは2000年台初頭、欧州車の流れを受けて、よりスタイリッシュでシンプルなロッド型が流行した。
これがいわゆる『ユーロアンテナ』であり、今度はこれに偽装させた『ユーロ偽装アンテナ』が覆面パトカーように普及した。
一見すると、市販車の標準的な(ラジオやカーナビ受信のみの機能を持った)アンテナに極めて酷似しているが、その内部には、実は高性能なヘリカル(螺旋状)構造が隠され、警察無線用周波数の電波の送受信に特化している。
このユーロアンテナは、2026年現在でも全国の覆面パトカーにおいて極めて広く採用されている。
その特徴は、通信機能を保ちつつも、見た目が一切“無線装備車両”に見えない点にある。
一般的なラジオアンテナにしか見えないその外観は、まさに完成形のひとつである。
ユーロアンテナ偽装型の登場背景


ユーロアンテナは、従来よく見られた左右対象のカーナビ用外部アンテナ(例:TAアンテナ)と比較して外観上の違和感が少なく、秘匿性を重視する覆面パトカーに最も適していると言える。
2010年代以降、各地の警察車両で装備が確認され始めた。

市販品ではないため、内部構造については詳細な公表はないが、一般的に用いられるヘリカル構造である。
アンテナは物理的なサイズと性能の間にトレードオフがある。
一方、外観がほぼ同じの市販品『MG-450-TP』は、タクシー無線向けに設計されており、周波数帯は450MHzに明確に仕様化。
本稿ではこの二つのユーロアンテナを考察していこう。
代表的な2モデルとその違い

現在、警察が配備する「ユーロアンテナ」は、以下の2種類が主流である。
| 製造メーカー | モデル名 | エレメント形状 | 特徴 | 採用比率 |
|---|---|---|---|---|
| 日本アンテナ | MG-UV-TP(など) | チルト可動式(角度調整可) | 柔軟性が高く、堅牢な構造 | 圧倒的に多い |
| 電気興業 | モデル名不詳 | 固定式 | 固定構造 | 少ない |
ひとつは日本アンテナ製の「MG-UV-TP」で、こちらはエレメントの角度を調整できるチルト機構付き。
もう一つは電気興業製で、こちらはエレメントが固定式のタイプ。
このうち、日本アンテナ製MG-UV-TPはその柔軟な設置性と堅牢な構造から、全国の警察車両において事実上の標準装備となっており、捜査車両から交通取締車両、警護車両に至るまで幅広く使用されている。
なお、両機種ともNP型の同軸コネクタを使用しており、無線機器との確実な接続が可能である。
電気興業製ユーロアンテナ偽装タイプ
電気興業製ユーロアンテナは情報が少ないため、モデル名、仕様など詳細が判然としない。
日本アンテナ製とともにほぼ同時期から配備され、とくに大阪府警での配備率が高いようだが、全国的には少ない。
エレメントの角度をチルトできないのが特徴となっている。
日本アンテナ製ユーロアンテナ偽装タイプ MG-UV-TP
MG-UV-TPは、底面には磁石を用いた設置構造が採用されており、車両のルーフの金属面にそのまま装着可能。
現行モデルではネオジウム磁石が塩化ビニル素材で覆われた仕様となっており、車体への傷防止設計となっている。
MG-UV-TPには407.725MHz帯に対応した「3周波共用型」も存在しており、これにより、かつて旧型のカーロケ(警察無線による車両動態表示システム)で使用されていたデータ通信用の周波数にも対応可能である。

この3周波共用型のMG-UV-TPは、従来の基幹系(VHF)、WIDE(現在はIPRに統合)などの2周波共用型と外見上の差異はない。
旧来のAPRカーロケシステムでは重畳通信や、NTTドコモのFOMA回線を用いたパケットデータ通信が導入されていた。
FOMA方式においては、日本電業工作社が製造していたデータ通信専用のモノポール型アンテナ—通称「タスポアンテナ」—が助手席側のAピラー脇、ダッシュボード上に設置された。
ユーロアンテナの弱点と課題
外観上の秘匿性に優れる偽装ユーロアンテナだが、後付けである以上、いくつかの課題も指摘される。
1、同軸ケーブルの処理
アンテナ本体の外観が自然であっても、車体に沿って配線されるケーブルの取り回しが不自然であれば、かえって目立ってしまう。
特にリアガラス付近を通す配線では、固定が不十分な場合に浮きやたるみが生じ、外観上の違和感につながる。
これを避けるため、一般的にはケーブルを車体の縁や隙間に沿わせて目立たないように処理する方法がとられます。
ミニバン型の車両では、さらに「ピタック」と呼ばれる専用固定具を併用して、確実な固定が図られることもある。
固定方法や仕上がりの精度によっては、外観上ほとんど識別できない場合もあれば、逆に配線が目立ってしまうケースも見られる。
また、ケーブルの取り回しは外観だけでなく、アンテナ性能にも一定の影響を与える。
配線の状態や取り付け位置によっては、受信感度や送信効率に差が生じさせる。
手際のよい自治体では、ケーブルがほとんど視認できないほど美しく処理されているのに対し、雑な施工がなされた車両では、ケーブルが浮いたり垂れ下がったりと、明らかに不自然な印象を与えている。
ケーブルの固定や修理、再処理といった作業は、通常、現場の警察官ではなく、技官や、都道府県ごとに契約された指定業者によって行われている。
MG-UV-TPの欠点を克服したWH-UV-TPとは
このようにMG-UV-TPには、同軸ケーブルが車外に露出し、後付けであることが一目でわかってしまうという、致命的な弱点がある。
一方で、「WH-UV-TP」のように純正アンテナとの換装を前提とした埋め込み型の製品も存在する。
WH-UV-TPは、車両に純正装備されるユーロアンテナと“換装”する方式を採用し、ケーブルをボディ内部に完全収納できる構造である。
車外に配線が残らないため、外観上は純正アンテナと判別不能であり、偽装性は大幅に向上した。
外観上は完全に市販車の標準仕様に見えるため、偽装性能は非常に高く、車に詳しくない者はもちろん、多少車両知識のあっても、走行中にこれを見破ることは困難である。
日本アンテナの共通取扱説明書によれば、MG-UV-TPは磁石固定タイプ、WH-UV-TPは既存ベースの穴を利用する「穴開け式」に分類される。
後者は固定強度と耐久性、そして秘匿性において優位に立つと言える。
なお、市販車の純正ユーロアンテナは先端から根元までラバー一体成形だが、MG-UV-TP/WH-UV-TPはいずれも先端部のみプラスチック製という共通点がある。
2、ユーロアンテナが標準装備の車種に後付けすると違和感で秘匿性を低下させる
覆面パトカーの偽装技術において、最も基本とされるのが「目立たないアンテナ配置」であるにもかかわらず、現実には標準ユーロアンテナのすぐ近傍に偽装型ユーロアンテナを増設するという、偽装効果を著しく損ねる例もある。
警察で配備実績のあるインサイトやインプレッサ・アネシスなどは標準でユーロアンテナを装備していたが、これらの車種にMG-UV-TPを追加した結果、かえって違和感を増幅させた“失敗例”と言えた。
この傾向が特に顕著だったのが、国費により捜査覆面として全国で大量導入されたスバル「インプレッサ・アネシス」だ。
同車はルーフ後部に純正ユーロアンテナを備えており、これを生かしつつ偽装アンテナを追加しようとした結果、既存アンテナの隣や直後ろ、あるいはリアトランク上といった場所にMG-UV-TPが装着される事例が見られた。
同様のパターンは、やはり国費導入車両であるホンダ・フィットやスズキ・スイフトなどでも見受けられた。
これらはいずれも標準でユーロアンテナが装備されているため、本来ならばWH-UV-TPへの換装が理想的なはずだが、現場の都合やコストの都合からか、MG-UV-TPが追設されるようである。
一方で、トヨタ・クラウンマジェスタのような幹部車両では、標準装備のドルフィンアンテナに加え、トランクリッド部にユーロアンテナが追加された例もある。
これは公用車としての機能を優先した結果かもしれないが、車体後部に2系統の異なるアンテナが並立することとなり、秘匿性の面では課題を残した。
さらに興味深い点として、エレメント(アンテナ本体)を本来とは逆方向、すなわち前方に倒した状態で運用されている車両も存在する。
この理由については明確な技術的根拠は示されておらず、ルーフの反射を利用した受信効率の改善などが想定されるが、実際には習慣的な配置や単なる整備上の便宜による可能性も否定できない。
なお、警察車両に限らず、国土交通省の緊急車両などでも日本アンテナ製MG-UV-TPと同型アンテナが使用されている。
これは緊急時の無線通信用途に限らず、位置情報送信やデータ通信に使用されることもあり、車種や所属を問わず広範な運用が進んでいる証左なのかもしれない。
MG-UV-TPのまとめ
MG-UV-TPについては、本来の車外設置とは異なる運用例も報告されている。
具体的には、後部座席後方のリアトレイ上に金属板を設置し、これを簡易的なグラウンドプレーンとして利用したうえで、アンテナ本体を車内に秘匿設置するというものである。
このように、ユーロアンテナ型のアンテナは、その自然な外観と汎用性の高さから、覆面パトカーを観察する愛好家の間では定番的な装備として知られている。
かつて広く用いられたTAアンテナと比較して目立ちにくく、近年の乗用車のデザインにも違和感なく溶け込むためである。
MG-UV-TPの類似品で市販品のMG-450-TPとは?
日本アンテナ製の警察車両向けアンテナ「MG-UV-TP」には、外観が極めてよく似た市販モデルが存在する。

それが、主にデジタルタクシー無線などで使用される450~470MHz帯に対応した単一周波数帯専用モデル「MG-450-TP」である。
外観は警察無線向けのMG-UV-TP(150MHz帯と350MHz帯に対応した二波共用型)とほぼ共通しているが、MG-450-TPはVHF帯(150MHz帯)には対応していない。

そのため、外見上の類似性は高いものの、周波数特性や用途は異なり、無線機器としての互換性はない。
一方で、その警察車両用アンテナを思わせる外観から、車両の雰囲気づくりやコレクション目的で購入する愛好家も少なくない。
MG-450-TPは本来、業務用無線向けに設計されたアンテナであるため、一般的なアマチュア無線ショップで見かける機会は多くないが、業務用無線機器を取り扱う販売店であれば比較的入手しやすく、警察向けのMG-UV-TPと比べると調達のハードルは低い。
そのため、「本家MG-UV-TPに近いルーツを持つ代替モデル」として評価する愛好家もいる。
また興味深いことに、MG-450-TPは単なる代用品にとどまらず、対応周波数帯においては受信愛好家やアマチュア無線局向けの実用アンテナとしても活用できる性能を備えている。
この点は意外に知られておらず、本機のもう一つの魅力と言えるだろう。
MG-450-TPによる受信実験
総務省によるアナログ業務無線の周波数再編が本格化する直前の数年前、筆者は「MG-450-TP」と広帯域受信機「IC-R6」を組み合わせ、受信性能の検証を行った。
その結果、118~140MHz帯の民間航空・自衛隊航空無線をはじめ、当時各種業務無線や官公庁系無線が多く運用されていた150MHz帯、さらに防災行政無線の移動系などが割り当てられていた460MHz帯においても、比較的良好な受信感度を確認できた。
本来、MG-450-TPは450~470MHz帯向けに設計された単一周波数帯専用アンテナであるが、車両のルーフ上に設置した場合、金属製ルーフがグラウンドプレーンとして機能するため、一定の広帯域受信性能を発揮すると考えられる。
特に、ルーフの後端左右いずれかの設置よりも、ルーフ後端中央付近に設置した場合は、広い金属面を利用できることから、ハンディ受信機付属の短縮アンテナを車内で使用する場合と比較し、受信感度は明らかに有利となった。
また、MG-450-TPの特徴は、業務用アンテナとしては比較的コンパクトな外観にある。
一般的なVHF帯用アンテナのように長いエレメントが車体から突き出さないため、遠目には業務用アンテナとして認識されにくく、車両の外観を大きく損なわない。
そのため、警察車両風の外観を再現したい愛好家だけでなく、目立たない車載受信アンテナを求める受信愛好家からも一定の支持を集めている。
実際には450MHz帯向けの専用アンテナでありながら、受信用途に限れば幅広い周波数帯で実用的な結果を示すこともあり、その汎用性は意外に見過ごされているポイントと言えるだろう。
もっとも、受信専用に装備する場合、高価すぎるのが難点と言える。
MG-450-TPによる送信実験
さらに興味深い事例として、一部のアマチュア無線家の間では、MG-450-TPを430MHz帯アマチュアバンド向けの送受信用アンテナとして流用する試みも行われている。
その一例として知られているのが、フリーライセンス無線や無線関連の情報を発信するYouTubeチャンネル「ももチャンネル! 【無線と車でアウトドアなYouTuber】」を運営するももすけ氏による検証である。
同氏が公開した実験では、本来450~470MHz帯向けに設計されたMG-450-TPを430MHz帯で使用した場合でも、実用上、比較的良好な性能を示す結果が報告されている。
もちろん、設計周波数外での運用となるため、専用設計のアマチュア無線用アンテナと同列に評価することはできないものの、周波数帯が近接していることから一定の性能を発揮することは興味深い点である。
なお、以下の項目で使用している画像については、著作権法上の引用の要件に基づき使用しており、出典は『ももチャンネル! 【無線と車でアウトドアなYouTuber】』であることをここに明記する。
SWR(定在波比)を測定
まずは、本来の用途であるデジタルタクシー無線で使用される450MHz帯付近において、MG-450-TPのSWR(定在波比)を測定した。

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その結果、測定値は1.27を記録した。これはMG-450-TPが450MHz帯に適切に同調するよう設計されていることを示している。
一般に、SWRは1.5以下であれば良好、3以下であれば実用上問題ない水準とされることが多く、1.27という数値は非常に優秀な結果と言えるだろう。
430MHzのマッチングは?
続いて、アマチュア無線で利用される430MHz帯におけるマッチング性能についても検証が行われた。
その結果、430MHz帯においてもSWRは1.3前後と良好な値を示した。
本来は450~470MHz帯向けに設計されたアンテナでありながら、周波数が近接する430MHz帯でも十分に実用的な特性を示した点は興味深い。
さらに、422MHz帯を使用する特定小電力トランシーバーの周波数付近についても受信状況を確認したところ、良好な受信結果が得られたという。
なお、特定小電力トランシーバーの周波数帯検証は受信機による受信性能確認であり、送信試験ではない。
検証を行ったももすけ氏は、「意外と航空無線や鉄道無線、アマチュア無線の144MHz帯などの広帯域受信にも使えるのではないか」との見解を示している。
また、同氏によれば、MG-450-TPはエレメントを垂直に立てた状態で使用することで、本来の性能を発揮しやすいとのことである。

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今回の実験では、FT3Dを用いて、430MHz帯レピーターへのアクセス試験も行われた。
検証方法は、レピーターと呼ばれる中継局に搬送波を送信し、その応答として自動的に送り返される信号を受信する、いわゆる「カーチャンク」である。
アマチュア無線では、レピーターが正常に起動したかどうかや、送受信環境の状態を簡易的に確認する手法として広く知られている。
今回の実験では、MG-450-TPを接続したFT3Dからレピーターへアクセスし、返送されてきた信号の強度を無線機のSメーターによって確認することで、実際の運用環境に近い条件でアンテナ性能を評価している。
単にSWR値を測定するだけではなく、実際に電波を送信してレピーターからの応答を受信するという手法を採用した点は興味深い。
机上の測定結果だけでは把握しにくい実運用上の性能を確認する試みとして、実践的な検証と言えるだろう。
なお、レピーターの仕組みや運用方法については、以下の記事で詳しく解説しているので参照されたい。

レピーターから返送された信号の強度、すなわち受信信号レベルはフルスケールを示しており、非常に良好な結果となった。
少なくとも今回の検証環境においては、MG-450-TPが430MHz帯で十分実用的な性能を発揮していることがうかがえる。

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ももすけ氏は過去にも、インターネット通販で購入した低価格な車載用アンテナ(販売元が”覆面アンテナ”と呼称する製品)を用いて同様の比較実験を行っている。
しかし今回の検証では、日本アンテナ製のMG-450-TPが予想以上に良好な結果を示したことに驚いた様子であった。
余談ではあるが、レピーターを介して通信エリアを拡大する方式は、無線業界では一般に「山かけ通信」と呼ばれている。
高所に設置された中継局が電波を中継することで、見通し距離を大幅に延ばすことができる仕組みである。
警察無線や消防無線をはじめとする業務無線では古くから活用されており、アマチュア無線においても全国各地にアマチュア無線用のレピーターが設置されている。
警察車両に装備されるMG-UV-TPのような比較的短いアンテナであっても、遠距離の無線局と安定した通信が可能なのは、アンテナ単体の性能だけでなく、このような中継システムの存在によるところが大きい。
さらに警察無線の一部システムでは、車載無線機側に中継機能を持たせることで、電波が届きにくい地域において通信エリアを補完する仕組みも採用されている。
こうしたネットワーク構成によって、単純なアンテナ性能だけでは説明できない通信能力が実現されているのである。
今回の結果を見る限り、MG-450-TPは430MHz帯のアマチュア無線においても実用性を備えており、少なくともレピーターアクセスを中心とした運用では良好な性能を示したことが確認された。
警察車両用アンテナを思わせるその外観は、無線愛好家や自動車愛好家の心をくすぐる要素の一つと言えるだろう。
もちろん実際に渋滞の先頭へ出られるわけではないが、愛車に装着した姿を眺めていると、どこか特別な車両になったような気分を味わえるのも、このアンテナならではの楽しみ方である。
実験結果に関する補足と法的な注意点
このように、アマチュア無線や受信専用の用途では、アンテナに関する制度上の制約を受けないため、さまざまなアンテナを用いた技術的検証を比較的自由に行うことができる。
その意味でも、今回の実験は業務用アンテナの流用可能性を探る興味深い企画として、視聴者からも評価が高い。

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そして今回の実験結果を見る限り、MG-450-TPは450MHz帯専用アンテナとして設計されているにもかかわらず、近接する430MHz帯でも良好な整合特性を示し、さらに受信用途においては想像以上に幅広い周波数帯で活用できる可能性を秘めたアンテナと言えそうだ。
車体ルーフがグラウンドプレーンとして機能することや、アンテナ本体だけでなく同軸ケーブルを含めた系全体が受信に寄与することもあるため、設計周波数から離れた144MHz帯付近であっても、実用上は十分な受信性能を示す。
このようにMG-450-TPは、本来の用途である業務用無線向けアンテナとしてだけでなく、受信実験やアマチュア無線分野における技術的な検証対象としても注目を集めている。
最後に誤解のないよう補足しておくと、今回ももすけ氏が行った検証は、アマチュア無線機を用いた430MHz帯での送受信実験および受信機での422MHz帯受信検証である。
また、筆者が過去に行った検証についても、広帯域受信機による受信実験にとどまっている。
いずれの事例も、デジタル簡易無線(登録局)や特定小電力無線機を用いた送信実験ではない点に注意が必要である。
特にデジタル簡易無線では、無線機本体だけでなく、使用できるアンテナについても技術基準適合証明(技適)の認証範囲が関係するため、認証対象外となるアンテナへ交換して送信を行った場合、法制度上の適合性に問題が生じる可能性がある。
また、仮に警察無線向けモデルであるMG-UV-TPが350MHz帯に対応していたとしても、それだけをもってデジタル簡易無線用アンテナとして使用できるかは注意を要する。周波数が近いことと、法令上の適合性は別問題だからである。
したがって、こうした業務用アンテナの特性を検証する場合は、受信機による受信実験や、免許を受けたアマチュア無線局における適法な範囲での実験として実施することが前提である。
アマチュア無線&業務無線風アンテナ
覆面パトカーのアンテナと言えば、一般車両に溶け込むことを目的としたユーロアンテナ型や純正アンテナ偽装型がよく知られている。
しかし一方で、アマチュア無線や業務無線で使用されるモービルホイップアンテナを、あえて目立つ形で装着している車両も確認されており、これは非常に興味深い事例と言える。

一見すると、「これまでの偽装努力は何だったのか」と思ってしまうほどである。
しかし見方を変えれば、一般的な偽装型アンテナとは異なり、行政機関の公用車や業務車両、あるいは熱心なアマチュア無線家の車両を装うという、別方向の擬装と捉えることもできる。

そして実際には、その正体が警察の捜査用車両であるという点に、この種のアンテナ運用の面白さがある。
このタイプのアンテナは、145MHz帯や430MHz帯などアマチュア無線で広く利用される周波数帯向けのものが多い。
外観上も業務無線アンテナと大きな違いがないため、一般の観察者から見れば「無線好きの人の車」や「業務車両」と映ることが少なくない。
全長30〜60cm前後のホイップエレメントにスプリングベースを備え、トランクリッドやルーフサイドに専用基台で固定された姿は、まさに典型的なモービル無線局そのものである。
そのため、無線に詳しくない人であればもちろん、ある程度知識を持つ人であっても「アマチュア無線家の車だろう」と判断してしまう可能性がある。
実際、SNSなどでは、第一電波工業製とみられる150MHz帯用1/4λホイップアンテナを装着したスイフトの捜査用車両が目撃されたとの報告も見られる。
憲政公園にスイフトの覆面いる。アンテナは第一電波の150MHz帯の1/4λのモビホつけてる。 pic.twitter.com/TMFn3gRMdq
— MKS/JF9NQG(RoHS指令準拠) (@683_SRE) 2017年1月30日
「注意深く見れば気付くが、意識しなければ見過ごしてしまう」という点にある。
覆面パトカーの偽装手法としては派手さこそないものの、周囲の先入観を逆手に取った興味深いアプローチではないか。
車内アンテナ
覆面パトカーの存在を見破る「外見的な手がかり」は、年々少なくなっている。
その中でも、特に注目すべきはアンテナの存在だ。
かつては車体に取り付けられた無線アンテナが一種の“目印”となっていたが、現在ではそうした外観上のヒントすら完全に排除されつつある。
とりわけ“車内に完全に隠されたアンテナ”、いわゆる「車内アンテナ」は、もはや偽装やカモフラージュの範疇を超えた、究極の秘匿装備である。
秘匿アンテナは究極の盗難防止策となるのか
車内に完全に秘匿されたアンテナ、いわゆる「車内設置型アンテナ」は、偽装やカモフラージュの枠を超えた、究極の秘匿手段として知られる。
これは、もはやアンテナを“見せない”というレベルではなく、“存在させないように見せる”技術であり、現代の覆面パトカーにおけるアンテナ設置の最終形態とも言える。
外部アンテナの撤去によって得られるのは、視認性の排除である。
車両の外観からは一切の手がかりが得られず、従来であれば即座に見抜かれていたユーロアンテナやモビホも、存在しない以上判断材料にはなりえない。
まさに「アンテナによる特定」ができないという点で、秘匿の徹底が図られている。
この手法には二つの技術的アプローチが存在する。一つは、もともと屋外設置を前提に作られたアンテナを、特殊なアース処理などを施して車内に流用する方法。
もう一つは、最初から車内設置を想定して開発された専用アンテナを使う方法である。
特に前者は、覆面車両の黎明期から一部で見られた工夫であり、1989年のラジオライフ誌に報告されたスバル・シグマの例などはその典型だ。
「アンテン工業 DB-3」などの一般市販ホイップアンテナを、シート背面や足元スペースに設置して運用する手法は、外からまったく見えない反面、適切なアースや指向性処理が必要となるため、設置技術の習熟度が問われる。
近年では、210系クラウン・アスリートの一部車両で、リアトレイ内にアンテナが設置され、従来ルーフ上にあったユーロアンテナが撤去されている例が複数確認されている。
もともと同型車ではユーロアンテナの標準設定がないことに加えて、ユーロアンテナですら“見慣れた偽装”として認識され、秘匿性が求められるようになった現状を示す。
リアトレイ設置のアンテナは濃色スモークガラスにより外部からの視認が困難で、注意深く見なければ気づかれない。
ただし、車内設置型は車体鉄板との接触が少なく、ボディアースが取りにくい問題も。性能を確保するには、アース板設置の工夫が必要で、単に「見えなければよい」というものでもない。
一方で、外部から見えないことは盗難や妨害の抑止にもつながり、「アンテナが見えるから狙われる」というリスクの軽減にも寄与している。
総じて、車内アンテナは覆面パトカーのアンテナ偽装・秘匿の流れにおける最終段階であり、その存在は「見抜ける者にしか見抜けない」という構造によって、ますます警察車両の同定を困難にしている。
今後、この技術はさらに洗練され、より広範に導入される可能性が高い。
大阪府警のステージアの例
また、大阪府警による日産・ステージアの交通取締用覆面パトカー配備は、アンテナ秘匿技術の中でも特異である。
この車両は外観に一切のアンテナ類を装備しておらず、一般車両との判別が極めて困難であった点から、当時大きな話題を呼んだ。
雑誌ラジオライフ2005年2月号では、「大阪府警ステージア交通覆面のアンテナの謎」という特集記事が組まれており、大井松田吾郎師匠による詳細な調査によって、その「謎」は明かされた。
それによれば、ステージアのリア・ラゲッジルーム内のサイドウインドウ側面に、スプリングベース付きのホイップアンテナがマグネットベースを介して上下逆さまに設置されていたという。
この設置方法は、一般的なアンテナ設置とは真逆の発想であり、外部に一切露出しないという徹底した秘匿運用であった。

しかも、エレメントの半分は、外へ向けて送受信しやすいように、直角曲がりと75度に折り曲げてあったというから驚きである。「意味不明」と師匠。
覆面ステージアを追尾してバッチリ撮影された写真も掲載されており、このカラクリがよくわかった。うーん、デジ簡でやってみたい。
一方で師匠はこの設置方法について、「取締りのための取り締まりを招きかねない」とし、車種選定と併せてやや批判的な姿勢を示している。
つまり、秘匿性を追求するあまり、取締の公正性や透明性の観点から疑問が残る、という指摘である。
大阪府警察高速道路交通警察隊
スバル・レガシィツーリングワゴン交通覆面
全国的にも超レア(?)な覆面パトカー。ステージアをはじめ、ステーションワゴンタイプの覆面を導入するのは大阪のお家芸ですね(?)
アンテナを車内設置したりと秘匿性は抜群。取り締まりに活躍もそろそろ年ですかね。 pic.twitter.com/8f4F8OFRO4
— じゃがいもこぞう (@potatosignals1) December 4, 2021
ステージアという車種自体、当時すでに官用車両としてはやや異色であり、その上で車内にアンテナを秘匿するという選択は、技術的には斬新でありながら、運用思想としては挑戦的すぎたとも言える。
その稀少性を物語るように、2006年には模型メーカー「ヒコセブン」から、『ニッサン ステージア 300RX 大阪府警交通機動隊覆面車両』としてミニカー化されている。

その後、大阪府警では秘匿と透明性のせめぎ合い、そして運用上の技術的限界が浮き彫りになった「ステーションワゴン型交通覆面」のコンセプトを、スバル・レガシィツーリングワゴンへと継承している。まだやるんかい!
このような車外用アンテナの車内運用には技術的な課題も存在する。
特に、5W〜10W以上の出力で発射される高周波電波が、車内の電子機器や無線機に対して「回り込み」現象を引き起こす可能性がある。
これは高周波の反射や自己干渉によるものであり、通信の不安定化や、機器の誤動作の原因となりうる。
実際、車外設置を前提としたアンテナを室内に持ち込んで使う場合、アースの取り方や放射効率の低下、指向性の変化など、運用上の技術的調整が不可欠となる。
覆面のアンテナ室内に置き始めて分かりにくくなりました。 pic.twitter.com/ATj8Bv9t2b
— KOTA®@FIFTYS Racing (@MONTANAKUMAMOTO) 2017年3月22日
一方で、もはや「秘匿のための改造」すら不要とする、車内専用に設計された警察無線用アンテナも登場している。
これは、従来の外部アンテナや汎用アンテナを無理に室内へ流用していた時代とは一線を画し、警察車両のステルス性を飛躍的に高めたといえる。
アンテナにおいて電波の送受信を担う主要部品は「素子(エレメント)」と呼ばれるが、これらの専用車内アンテナでは、エレメントが黒色かつ薄型素材で構成されており、車内インテリアに自然と溶け込むように設計されている。
たとえば、古典的なTAアンテナや針金アンテナを車内後部に設置した場合、それらの銀色のロッドが車内で異様な存在感を放ってしまうことがあった。
これに対して、黒色のエレメントを用いたガラスマウントタイプのアンテナは、目立ちにくさという点で圧倒的な優位性を持つ。

このガラスマウントアンテナは、車内側からリアウインドウなどのガラス面に貼り付けて使用するタイプであり、車外からの視認性は極めて低い。長さはおおむね50センチ程度とされ、両面テープなどで固定されている。
素材も極薄で黒色、しかも直線的なデザインであるため、リアガラスの端やスモークフィルム越しにはほとんど認識できない。
コンビニでアイスを買って車に戻る刑事の覆面車両にこのアンテナが貼られていたとして、それが「無線用アンテナ」だと即座に見抜ける市民は、おそらくほとんどいないだろう。
実際、警察密着型のテレビ番組などを通じて、四国地方の警察における使用例が多数確認されている。
たとえば、徳島県警で捜査の最前線に立つ名物刑事・秋山氏(リーゼント姿でも知られる)が搭乗する三菱・エアトレック型の覆面車両のリアガラスにも、このタイプのアンテナが取り付けられていた。
また、高知県警が導入しているスバル・WRX型の交通覆面においても、同様の黒色エレメントを貼り付けたガラスマウントアンテナが観察されている。
筆者が同様のアマチュア局用のアンテナを使用した際は、貼り付け位置を変更しようと思い、剥がそうとした際に、紫外線で劣化したエレメント部分が脆くなっており、破損。このため、事実上の使い捨てアンテナである。

こうしたアンテナは、単に秘匿性が高いというだけでなく、車両の外観を一切変更せず、一般車両と完全に同化させられるという利点を持っている。市街地や住宅地での張り込み、移動中の監視活動において「目立たないこと」が最優先される状況では、この種の専用アンテナの有用性は非常に高いといえるだろう。
無線アンテナをドアミラーに仕込んでしまう特許を警察庁は考案している
警察庁が考案した「ドアミラーアンテナ」に関する特許
特許情報(http://j.tokkyoj.com/data/H01Q/3095114.shtml)
上記を参照すると、出願人は「警察庁長官」になっている。これは手続き上の都合ではあるが、実際に警察庁がアンテナ技術の開発に関与していることを示す強力な証左である。
特許文面中には、「見た目がスッキリする(原文ママ)」という記述も見られ、車両の外観を極力変えずにアンテナを実装する意図が明確に読み取れる。
ドアミラーアンテナとは、文字通りサイドミラーの内部にアンテナを仕込む構造をもつ。これにより、外部にアンテナを追加する必要がなくなり、無線通信機能を保持しながらも車両本来の形状・印象を完全に維持できる。
New!シャークフィンタイプ

さらに近年では、シャークフィン型アンテナを模した擬装型の新型アンテナも登場。
一般的な乗用車にも多く採用されているため、これを通信アンテナとして応用することは、視覚的なカモフラージュとして理にかなっている。
ただし、上部に通信エレメントと思しき棒状の突起物が突出している場合もあり、完全な秘匿性という意味ではやや課題が残る。
また、フィン型であっても、150MHz帯など比較的低い周波数の運用においては、構造上の工夫が必要とされることから、実用化には依然として技術的なハードルが存在する。
加えて、後付けである以上、同軸ケーブルの露出や取り付け部のわずかな違和感が、鋭い観察眼を持つマニアにとっては見破りのヒントとなってしまうことも否定できない。
現時点では全国でも目撃例は多くなく、プロトタイプ段階として一部での試験運用にとどまっているだが、果たして。
新型車内貼り付け型アンテナが登場
近年では、なかなかスタイリッシュな車内アンテナも登場している。ガラスマウントタイプと呼ばれるアンテナである。
特に近年の捜査車両(カムリやカローラセダン)では「シャークフィンアンテナ」が標準装備になったことにより、ユーロアンテナによる偽装が、困難化している背景がある。
これに対応するため、一部の警察本部で登場したのが、名称不明の「車内アンテナ」である。

画像の引用元 ラジオライフ2024年 2月号(写真:永野まさる氏、乾宗一郎氏、大井松田吾郎氏)
これはリアウィンドウの内側などに取り付けられた黒いバー状のアンテナとなっており、ガラスマウント型の進化版である。
エレメントがV字に展開されることで電波の指向性や感度を高めながらも、視認性を低く抑える設計となっているようだ。外部から目立たず、ステルス性が高いため、覆面パトカー用アンテナの新潮流といえる。
このアンテナの名称は不明だが、ラジオライフ2024年2月号「警察マニアックス2024」の中の「パトカーマニアックス」で数ページにわたり特集されている。
それによれば、おそらくは警視庁など、一部の首都圏警察本部のみの配備とみられ、2024年時点で全国普及はまだしていない様子。
ちなみに、このアンテナを夜間のコンビニ駐車時で見抜く裏技も紹介している。
夜間、内装が暗くなったときにウィンドウ越しに内部のアンテナが見えやすくなる。
とくに背景に照明があると、貼り付けアンテナのシルエットが浮かび上がる。
このように警察車両は従来の車外アンテナから、ステルス性の高い車内貼り付けアンテナに移行しつつある。
そしてこの記事は、その判別方法と実例を紹介したものであり、観察眼があれば判別は今なお可能であることを教示してくれている。さすがです。
覆面パトカーのアンテナのまとめ
このように、覆面パトカーのアンテナ技術は、外部露出→偽装→車内秘匿という形で進化を遂げてきた。
今や、「アンテナを見せないこと」は、単なる見た目の問題ではなく、任務の成果を左右する重要な技術的要素となっている。
とはいえ、どれほど技術が洗練されようとも、覆面パトカー特有の“空気感”や“気配”を完全に消し去ることはできないというのもまた事実である。
ナンバーの法則性、ドライバーの挙動、そして微妙に浮いた装備の取り付け具合など、鋭い観察眼を欺くには、アンテナ偽装だけでは不十分なのかもしれない。
なお、一般市民が同種のユーロアンテナに興味を持つ場合、MG-450-TPのような市販品を選ぶのが無難といえそうだ(4万円します)。
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