各項目に飛べます
国際規格に基づく略語「Q符号」と、アマチュア無線のハム用語とは?
アマチュア無線では、日常の会話とは異なる、独特な略語や用語が多く使われています。この記事では、その中でも特によく使われる「Q符号(Qコード)」と、アマチュア無線愛好家のあいだで一般的に使われている通称「ハム用語」について、わかりやすく解説いたします。
Q符号とは何か?
まず、「Q符号」とは、国際電気通信連合(ITU)の憲章に基づく無線通信規則で規定された、三文字の略号のことです。本来は国際的な電信通信(CW)での運用を効率化するために用いられたもので、アマチュア無線の分野でもその一部が日常的に使われています。
使用されるQ符号の種類は決して多くはありませんが、基本的な運用において知っておくと便利なものがいくつかあります。たとえば、以下のような符号がよく使われています。
-
QRV(運用しています)
-
QRA(本来は“自局名”ですが、オペレーター名の意味も)
-
QTH(送信場所)
-
QSO(交信)
-
QRZ(どなたか呼びましたか?)
-
QSL(交信証の交換)
- QSY(周波数変更)
これらは交信中のやりとりを簡潔にするための略号であり、初心者の方でもすぐに使いこなせるようになります。
交信例と使用の実際
実際の交信では、次のようにQ符号やハム用語が自然に使われています。
-
「145.120MHzにQSYします。よろしくお願いします」
-
「QRAはタナカ、QTHは大阪です。今日はこちらからQRVしています」
-
「QRZ?どなたかこちらを呼びましたか?」
-
「今日は楽しいQSOをありがとうございました!」
なお、すべてのオペレーターがすべてのQ符号を使うとは限らず、「QSL(交信証の交換)は行わない」という方もいらっしゃいます。
アマチュア無線の用語事情 ハム独自の略語と、その意味
このようにアマチュア無線の世界では、独自の用語体系があり、略語が飛び交っています。基本的なQ符号を覚えておくことで、よりスムーズで楽しい交信が可能になります。はじめは少し戸惑うかもしれませんが、繰り返し使うことで自然と身についていきます。
しかし、実際の交信現場では「アマチュア無線用語」と、それ以外の無線分野で使われてきた用語とが混在することもしばしばあります。また、国際的に通じる用語と、国内ローカルのみで通じる用語もあり、両者の違いを正しく理解し、状況に応じて使い分けることが大切です。
国内独自の表現も
また、アマチュア無線では、Q符号とあわせて「ハム用語」と呼ばれる独特な言い回しも使われています。こうした言葉には、正式なものとそうでないものがあり、なかには日本国内でしか通用しない表現も含まれますので、使用には注意が必要です。
〜使い方には注意も必要〜
たとえば、交信中によく耳にする「FB」という言葉は、「非常に良い」「素晴らしい」といった意味で使われます。その反対語としては「BF」があり、「よくない」「状態が悪い」といった意味になります。
また、「セブンティースリー(73)」という表現もアマチュア無線特有のもので、「さようなら」や「ではまた」といった別れのあいさつとして使われています。
これらの表現は、Q符号のように国際的な規則で定められたものではなく、ハムの世界で育まれてきた慣用表現です。そのため、くだけたニュアンスが多く、親しみやすいのが特徴です。
とはいえ、これらの略語やスラングを過度に使用することには注意が必要です。実際、「正式ではないハム用語は好ましくない」と考えるベテランオペレーターも少なくありません。
その理由はなぜでしょうか。
正式ではないハム用語が敬遠される理由
なぜなら、それらの言葉の発祥が、“アマチュア無線以外の無線”であることも多いためです。
趣味の無線はアマチュア無線のみならず、CB(市民ラジオ)無線や、かつて存在したパーソナル無線などがあります。
したがって、アマチュア無線の交信では、これらの無線用語が一部混ざるケースもあります。しかし、これに対しては否定的な声も多く聞かれます。
その背景には、次のような理由があるとされています。
-
アマチュア無線として正式な表現ではない
-
法令上、根拠がない用語である
-
言葉遣いがカジュアルすぎる
さらに、CB無線やパーソナル無線の一部利用者が過去にマナー違反とされる行為を行っていたとの見方もあり、その印象から、これらの用語に拒否反応を示す人が今なお存在しているのが実情です。
したがって、これらの理由から、「そうした用語の使用は避けるべき」と主張をするオペレーターもいます。使い方には個人差があるため、軽い気持ちで発した表現が、相手に不快感を与えてしまう可能性があるため、注意が求められます。
「お稼ぎください」という表現に驚き
とはいえ、ユニークな表現そのものには、やはり面白さを感じています。最初は「何のことだろう?」と戸惑うような表現もありますが、アマチュア無線以外の分野で使われてきた用語にも、興味深いものが多く存在しています。
たとえば、1993年に刊行された『まんがでわかるハム用語(CQ comics)』という書籍では、実際に「お稼ぎくださいって、なにを稼げばいいのだろう」と題された章で紹介されており、こうした言葉が無線文化の一部として取り上げられていたことがわかります。
この表現はもともと、CB無線やパーソナル無線の世界で使われていたもので、「仕事で稼ぐ」という意味ではなく、「交信局数を稼ぐ」といった意味合いで用いられていました。
非常に独特な言い回しですが、実際に使われていた背景を知ると、なるほどと納得できる面もあります。
ちなみに、「仕事」のことは「コマーシャル」と表現するそうで、これもまた無線用語の世界ならではの特徴といえるでしょう。
この本はハム用語に限らず、交信の進め方やマナーについても詳しく解説されているため、興味のある方は一読してみるのも良いかもしれません。
通話表(フォネティックコード)を覚えよう
業務無線の国家試験でも実技で出題される重要項目
アマチュア無線に取り組むなら、通話表、いわゆるフォネティックコードもぜひ覚えておきたいところです。
これはアマチュア無線に限らず、たとえば「航空特殊無線技士」の国家試験でも実技試験で出題される項目です。
映画などで耳にしたことがある方も多いかもしれませんが、現在の無線通信では「欧文通話表」と呼ばれる規格が一般的に使われています。たとえば「A」は「アルファ」、「B」は「ブラボー」といった具合にアルファベットに対応した語を用いて、通信中の聞き間違いを防ぐために使用されます。
アマチュア無線においても、実際にフォネティックコードは非常に重要な要素であり、これを習得しておけば、航空無線などの他分野でもスムーズに理解できるようになります。
将来的に「航空特殊無線技士」など、他の無線資格の取得を考えている方にとっても、通話表の知識は有用です。興味があるなら、早めに覚えておくとよいでしょう。
文字 | 使用する語 | 文字 | 使用する語 | 文字 | 使用する語 | 文字 | 使用する語 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
A | Alpha | H | Hotel | O | Oscar | V | Victor |
B | Bravo | I | India | P | Papa | W | Whiskey |
C | Charlie | J | Juliet | Q | Quebec | X | X-Ray |
D | Delta | K | Kilo | R | Romeo | Y | Yankee |
E | Echo | L | Lima | S | Sierra | Z | Zulu |
F | Foxtrot | M | Mike | T | Tango | ||
G | Golf | N | November | U | Uniform |
実際の試験体験から
筆者も以前、「航空特殊無線技士」の試験を受けたことがあります。
送話(話すほう)の試験では、試験官を前にしても緊張せず、すべての文字を一切間違えることなく、正確に発声することができました。「はじめます、本文」から始まり、最後の「終わり」まで、しっかり通して言えました。
しかしながら、書き取り(聞いて書くほう)の試験は非常に難しく、焦って聞き逃してしまい、不合格となってしまいました。
現在は無事に合格しましたが、やはりフォネティックコードの正確な聞き取りと理解は、しっかりとした訓練が必要だと痛感しました。
アマチュア無線ならではの言い換えも存在
アマチュア無線では、正式なフォネティックコードとは異なる、独自の言い換えを用いる局もあります。
たとえば、
-
「J(ジュリエット)」を「ジャパン」や「ジュリ・エイト」
-
「E(エコー)」を「エドワード」
-
「Z(ズールー)」を「ザンジバル」
といった具合です。
とくに「ジュリ・エイト」という呼び方をする局も存在しますが、これは正直なところ意味が分かりづらく、筆者も8(エイト)エリアに住んでいた当初は特に困惑しました。
こうした呼び方は、日本のアマチュア無線文化に根付いたものといえます。ですので、「非正規だ」と切り捨てるのではなく、知識として知っておけば交信の幅も広がることでしょう。
ただし、「航空特殊無線技士」のように実技試験が課される国家資格の場では、こうした独自の言い換えは通用しません。試験ではあくまで正式なフォネティックコードの使用が求められます。
まずは、国際的に定められた正しい通話表をしっかりと覚えておくことが何よりも大切です。
和文通話表もあります
また、「あさひのあ」、「いろはのい」など、無線電話通信に使う通話表で、日本独自の和文通話表もあります。
和文通話表 | |||
あ | 朝日のア | は | はがきのハ |
い | いろはのイ | ひ | 飛行機のヒ |
う | 上野のウ | ふ | 富士山のフ |
え | 英語のエ | へ | 平和のヘ |
お | 大阪のオ | ほ | 保険のホ |
か | 為替のカ | ま | マッチのマ |
き | 切手のキ | み | みかさのミ |
く | クラブのク | む | 無線のム |
け | 景色のケ | め | 明治のメ |
こ | 子供のコ | も | もみじのモ |
さ | 桜のサ | や | ヤマトのヤ |
し | 新聞のシ | ||
す | すずめのス | ゆ | 弓矢のユ |
せ | 世界のセ | ||
そ | そろばんのソ | よ | 吉野のヨ |
た | タバコのタ | ら | ラジオのラ |
ち | チドリのチ | り | りんごのリ |
つ | ツルカメのツ | る | るすいのル |
て | 手紙のテ | れ | れんげのレ |
と | 東京のト | ろ | ローマのロ |
な | 名古屋のナ | わ | わらびのわ |
に | 日本のニ | ゐ | ゐどのゐ |
ぬ | 沼津のヌ | ||
ね | ネズミのネ | ゑ | かぎのあるゑ |
の | 野原のノ | を | 尾張のヲ |
ん | おしまいのン |
名前や難しい単語もはっきり伝えられる
和文通話表も活用してみましょう
無線では、名前や地名、ややこしい単語などを相手に正確に伝えるために、「和文通話表(わぶんつうわひょう)」と呼ばれる言い換え表現も使われます。
たとえば、自分の名前を伝える際には、次のように活用できます。
田中さんの場合
「私の名前は、タバコの『タ』、名古屋の『ナ』、為替の『カ』、“タ・ナ・カ”と申します」
鈴木さんの場合
「私の名前は、すずめの『ス』、すずめの『ス』に濁点、切手の『キ』、“ス・ズ・キ”と申します」
このように言い換えることで、無線特有の音の聞き取りづらさをカバーし、よりスムーズに相手に伝えることができます。
特に、名字や単語が聞き取りにくい場面では大いに役立つ表現です。
この「和文通話表」も合わせて覚えておくことで、交信の精度がぐっと高まり、やり取りもさらに円滑になるでしょう。
まとめ……用語の使い方、「正しいかどうか」を決めるのは誰か
これまで本稿では、「正規のアマチュア無線用語ではない言葉は、親しいフレンド局以外との交信では使わないほうがよい」といった立場を取ってきました。
しかし、改めて考えてみると、「その言葉を使うのが良いか悪いか」を断定的に述べること自体が、筆者の立場として適切なのか疑問を抱くようになりました。
そのため、筆者としては中立な立場に改めつつも、「用語の使い方には少し注意したほうがよい」といった穏やかな提言にとどめることにしました。読者の皆さまには、その点をご理解いただければ幸いです。
いずれにせよ、アマチュア無線は本来、互いに楽しく交信を楽しむための趣味です。しかし、同じ趣味を共有する者同士だからこそ、言葉の選び方には少しだけ気をつけたいところです。
状況に応じて空気を読みながら、相手に敬意を払い、適切な表現で交信することが、より良い無線ライフにつながるといえるでしょう。