局免を失効させた状態でアマチュア無線機を車内に設置し、検挙。その処罰の内容が赤裸々に……。
この生々しいお話の出典は『ラジオライフ2020年2月号』に掲載された『アマチュア無線緊急レポート 』という読者投稿。
一般論ですが、アマチュア無線に関する電波法違反事件では第一義的に、警察の取り調べと立件、検察に送致されると起訴するか、不起訴にするか調べが行われます。
裁判所に起訴され、裁判となって有罪となった場合は罰金などの処分を受けます。
また総務省からは無線従事者としての業務停止処分や免許取り消しの行政処分が。
なお、これはあくまで一例です。一般論として個別のケースがすべてに当てはまるわけではありませんことを念頭におかれることをお願い申し上げます。
Contents
『アマチュア無線緊急レポート 』について話題
投稿者(仮にAさんと呼びます)は94年に従事者免許証を取得し、開局申請を行って実際の運用を行い、同年には交通事故現場での救助要請でアマチュア無線が役立った経験もあるそう。
しかし、次第にその熱も冷め、5年目となる1999年には再免許申請をせず、免許切れ。
それでも開局時に申請した日本マランツのハンディ機『C460』に愛着があったAさん。
車内のハンドル周りのアクセサリーとして同機をその後も車載したそうです。
Aさんはその間、無線機の電波を発射しなかったとのこと。
しかし、その主張は通用しませんでした。
その理由とは。
Aさん、2018年12月に摘発される
発覚は”車のアンテナが気になった”警察官
Aさんの場合も、おそらくほかの違反者と同様に警察官が車両についているアンテナを確認、次いで車内の無線機を確認することで、お声がけとなったようです。
言うまでもなく、モービル局は警察官からの職務質問と免許確認は不可避。
当サイトでもアマチュア無線家と職務質問という内容で記事にしております。
もちろん、警察官に声をかけられたとしても、正規に免許を受けている限りは心配無用。
さて、Aさんが自転車に乗った警察官から職務質問を受けたのは、免許の期限が切れて9年目となる2018年12月24日のこと。場所は自宅付近の路上です。
車にアンテナが取り付けられているのを見て不審に思ったのか、警察官は何度か往復。
次に車内の運転席にあった無線機を見つけ、Aさんに説明を求めました。
アマチュア機であることを告げたAさん。すると警察官は従事者免許証の提示を要求。Aさんは従事者免許を取得していたものの、不携帯。
おそらくAさん本人はアマチュア無線を運用しているつもりは全くないため、従免を携帯しなければならないという考えがなかったものと筆者は推測します。
Aさんは自宅内を探しても従免が見つからず、警察官に提示できません。
Aさんにその気がなかったにせよ、アマチュア無線を運用する場合は従免は必ず携帯しますから、警察官に求められ提示できないとなれば、その心象は良くないはず。
代わりにAさんは過去のコールサインを警察官に伝えると、警察官は署活系無線で本署に確認。
その結果、Aさんの局免はすでに失効状態にあることを確認。さらに3人の警察官がパトカーでやって来ました。
「あなたの無線局免許状は失効していますよ」
警察官に告げられたAさん。
おそらくですけれども、Aさん自身も『そんな事は知ってますよ』と思ったんじゃないでしょうか。
しかし、そう単純なものではありませんでした。
局免切れが発覚したAさんに対して警察官は詰問。
総勢4名の警察官に任意同行を促され、自分の車に警察官1名を同乗させ、Aさんは近隣の所轄警察署へ。
Aさんが警察署に着くと、3名の捜査員が待ち構えており、すぐさま無線機、アンテナ、ケーブルを車からはずすように促します。
Aさんの主張が通用しなかった理由
それは、無線機を外部電源およびモービルアンテナに接続し、電波が発射できる状態で車載していたため。
局免を失効させた状態でアマチュア無線機を車載し、それをアンテナや外部電源に繋いでいたのでは普段から無免許での運用を疑われても仕方がありません。
電波が発射できる状態の無線機に対して、総合通信局ではどのような見解を示しているのか、以下の記事で紹介しています。
原則として、無線局免許を受けていない場合、電波発射の有無にかかわらず電波を出せる状態となっていれば、電波法第4条違反になり不法無線局の開設罪にあたる
Aさんの車の状態
記事によれば、警察官に現認された際のAさんの車は以下の状態。
- ルーフ上のドア近くにショートタイプのモービルアンテナを搭載
- 無線機は電源を切っていた状態
- 無線機は外部電源に接続され、電波が発射できる状態
以上について、記事(184ページ目)で写真と共に触れられています。
「局免失効状態でアマチュア無線機を使用した」電波法違反容疑での取調べ
Aさんの取調べを行った捜査員が従免と局免の区別がついていなかったことはともかく、取調べは5ヶ月の間に3回。その間、仕事を休まざるを得なかったAさん。
取調べは一般的な刑事事件同様、甘くはなかったようです。
誘導尋問の手法はほかの多くの事件同様、電波法違反でも使われているようです。
刑事が取調べで主に何を聞いたのか、詳細も全て『ラジオライフ』2020年2月号にあります。
ただ、今回のAさんの体験談の中で『逮捕された』という記述はなし。
おそらく、Aさんが捜査に協力的かつ、逃走や証拠隠滅の恐れもなかったという理由だと推測します。
その後、Aさんは電波法違反事件の被疑者として顔写真、指紋の採取などが行われたのち、検察庁へ送致。
女性検事「電波は出さなくても無線機の電源を入れたことはあるでしょう?」→「入れたかも・・・・・」からの略式起訴決定
警察から検察へ送致をされれば、次は検察官による厳しい調べが待っています。
検察庁での調べは新人の若い男性検察官とベテランの怖い女性検察官だったようです。
被疑者にある程度の理解を示す人情派の(フリをする)検事と、イケイケ派の検事のコンビで懐柔しながらの調べはよくあるもの。
ベテラン女性検察官から何度も「電波を発射したことはあるか」と詰問されるAさんですが「それはない」ときっぱり否認。
すると質問を変えてきます。「一度くらい電源を入れたことはあるでしょう」と。
それに対して、Aさんは「あるかもしれない」と答えました。記事を読む限り、結果的にこの一言が起訴を決定づけた印象を受けます。
またAさんによれば、証拠品として押収された無線設備は返還を希望しない形に誘導された模様。
コレも検察のテクニックなのか、Aさんはこの『返還不要』を承諾することが、あたかも一種の不起訴との『交換条件』のように錯覚。
実際はただのエサで、結果として略式起訴(裁判官による書面審査のみにて100万円以下の罰金又は科料を科す簡易な手続き)が決定されます。
略式起訴後は地裁から罰金の略式命令を受けたAさん。車内に局免切れのアマチュア無線機を不法開設するといくらの罰金となるのでしょうか。
その罰金の額までも詳細に『ラジオライフ』2020年2月号に掲載されています。
略式命令書には、安くない罰金額および、”納付できないときは労役所に留め置く”という一文も。
総合通信局による解説
東海総合通信局公式サイトでは取り締まりを受けた際の流れを以下のポイントごとに解説しており、刑事処分についても言及しています。
Q2-2 路上取締りで警察に捕まったらどうなるの?
警察官による取り調べが行われます。その間、身柄・車両とも拘束され、一定時間運行できなくなります。その後は検察庁に送致されて起訴され、裁判によって刑罰が決定されます。無線設備については、証拠品として司法警察員に押収されます。
Q2-3 電波法での罰則はどうなるの?
電波法の規定に基づき、“1年以下の懲役又は100万円以下の罰金”の罪に問われます。更に、重要な無線局に妨害を与えると、“5年以下の懲役又は250万円以下の罰金”に処せられることになります。軽い気持ちで始めると、大変なことになります。
引用元 東海総合通信局公式サイト https://www.soumu.go.jp/soutsu/tokai/denpa/kansiqa/index.html
警察官による摘発から検察への送致、起訴と裁判、有罪判決により罰金刑…と、上述の読者投稿の体験談と同じ流れになっています。
『自分の二の舞にならないように各自免許の期限を確認してほしい』と投稿者
当サイトは法的な面について言及できる立場にありませんので、あくまで一般論でしか言えませんが、アマチュア無線における電波法違反の場合、起訴、不起訴の判断は検察庁、そして起訴されれば最終的に有罪か否かは裁判所が判断します。行政処分は総務省が科します。
そのため、総合通信局の公式サイトに発表されている行政処分(行政罰)の内容や、その情報をただ毎回転載しているサイトを見るだけでは、行政処分の内容は知り得ても刑事処分(刑事罰)の内容まで窺い知ることは到底できません。
したがって、アマチュア無線による電波法違反事件において、どのような刑事罰が下されたのかは裁判を傍聴するか報道を見るか、今回のような当事者による体験談がなければ、なかなか公にならないと言えます。
もっとも、今回の事件のような略式裁判は実質的に傍聴ができませんし、普通裁判になるのは実例として、客引きでアマチュア無線を業務利用して逮捕された過去の事件のように悪質で大掛かりなものでしょう。
さて、今回のAさんの手記を読む限り、ポイントとして以下の点が挙げられます。
・Aさん自身にアマチュア無線の運用という認識はなかった
・電波は発射しておらず、アクセサリーの感覚で車内に設置していただけ
・アンテナに接続していた
・一度くらいは電源を入れたかもしれない
結果として、これらの主張は警察および検察側に何ら通用せず、電波法違反で起訴され裁判所に罰金刑という刑事処分が下されるという厳しい判断になったのが現実でした。
そう、重要な点は「電波の発射の有無」ではなく、「(無線機が)電波が発射可能状態下にある、または直ちにその状態に移行できること」なのです。
なお、類似ケースですが、総合通信局では言い逃れの定番セリフを公表してくれていますので以下の記事でご紹介しています。
免許がないのに電波が発射できる状態のアマチュア無線機を車内設置した人が取締りの際に使う定番の言い訳があるって総合通信局の人が言ってた
いずれにせよ、『職務質問から助手席に警察官を乗せての警察署出頭、検察へ書類送検→女性検察官のネチネチ追求からの略式起訴→具体的な罰金額まで詳細に明かされた生々しいレポート』…というのが今回の読者投稿です。
『このレポートが無免許運用を実行しようとしている人、すでにしてしまっている人へ反面教師となれば…』、と述べているのは筆者ではなく、実際の投稿者のAさんその人です。
Aさんは今回の顛末がすべて自分に責任があることを自覚のうえで、『自身の二の舞にならないよう、各自免許の期限を確認してほしい』と結ばれています。