万が一の災害発生時、携帯電話等での救援要請が行えない場合、私たち一般のアマチュア無線局も、その立場と所有する設備から減災に貢献できるボランティア活動があります。
それが本項でご紹介する『非常通信』です。
非常通信とは?
無線局は原則、電波法第52条により、免許状に記載された目的又は通信の相手方若しくは通信事項の範囲を超えて運用してはならない決まりです。
アマチュア局であれば、本来許されているのは『アマチュア業務』のみ。
令和3年からは地域ボランティアといった社会貢献活動や消防団の活動でも使用できるように電波法が改正されました。
ただし、同法第52条の第4号の規定に基づく非常通信(地震、台風、洪水、津波、雪害、火災、暴動その他非常の事態が発生し、又は発生するおそれがある場合において、有線通信を利用することができないか又はこれを利用することが著しく困難であるときに人命の救助、災害の救援、交通通信の確保又は秩序の維持のために行われる無線通信)等を行う場合は、免許状の目的等にかかわらず運用ができます。
これがアマチュア無線を使って非常通信ができる根拠となっています。
JARL公式サイトでは『アマチュア局の非常通信マニュアル(PDFファイル)』として、その詳しい手順を示しています。

アマチュア無線が災害時に有用である理由
通信インフラが強固
2008年に公開されたスタジオジブリのアニメーション映画『崖の上のポニョ』は、子供向けのファンタジー映画でありながら、災害や緊急時の対応についても考えさせられる要素が含まれています。

基本的に携帯電話回線やモバイル通信などの通信インフラは基地局を介した中継通信。
地震や台風などの災害が発生すると、設備の損傷、電力の供給が不安定になるなどして基地局の機能が停止し、通信が行えない場合があります。
一方、アマチュア無線局のうち、自宅等の固定局は通常、家庭用のコンセントからの電源供給で運用される場合が多いものの、前述のアニメ映画同様、発電機があれば停電時でも稼働できます。
また、ハンディ無線機や自家用車に備えられたモービル無線機であれば、通常は独立した電源を使用するため、充電池や車の燃料が続く限りは災害が発生しても通信を維持できます。
![CQ ham radio (ハムラジオ) 2009年 08月号 [雑誌]](https://m.media-amazon.com/images/I/517gVsvKyqL._SL500_.jpg)
さらに、アマチュア無線では基本的に相手の無線機と直接交信(レピーターを介した中継通信も可能です)しますから、大災害発生時においては全国に38万局(令和2年度時点)あるアマチュア無線局の大きなネットワーク特性を活かし、地域を超えた救援の通信を行うことができます。
これらが災害時にアマチュア無線が有用である理由であり、広域かつ速やかな情報伝達手段として優れた利点と言えます。
これまで95年1月の阪神大震災、2011年3月の東日本大震災ではアマチュア無線が被災地からの通信、人命救助に貢献しています。
非常通信の性格は『ボランティア精神』
総務省によれば、実際の非常時において、非常の事態が発生し又は発生するおそれがあるかどうか、有線通信を利用できないか又はこれを利用することが著しく困難であるかどうか、人命の救助、災害の救援、交通通信の確保又は秩序の維持のためかどうかの判断は、アマチュア局の免許人が判断するものであり、非常通信は状況に応じてアマチュア局が柔軟に行えるものとしています。
ただし、その際アマチュア局の免許人はあくまでボランティア精神で行うものとしています。

非常通信に準じた制度は外国でも同じく、実施されています。
社会貢献活動等によるアマチュア無線の活用が可能になったことで「非常通信」は変わる?
総務省の方針は『今後も非常通信の制度に変更なし』
今般、民間ボランティア、公務員などによる地域活動など、社会貢献活動によるアマチュア無線の活用が認められました。
一方で総務省では災害時等における非常通信について、今後も制度に変わりはないとしてます。
総務省では社会貢献活動によるアマチュア無線の活用により、非常通信であるかどうかにかかわらず、非常災害時(事前・直前準備、訓練含む。)から災害復旧時まで、継ぎ目のない支援がアマチュア無線により行うことが可能となったとしており、アマチュア無線の社会貢献活動等の範囲内の運用であれば、非常通信の報告(電波法第80条第1項)についても不要となるとしています。
※出典 総務省電波利用ホームページ アマチュア無線の社会貢献活動での活用に係る基本的な考え方
非常通信の際は呼び出し周波数または非常通信周波数を使用
非常通信はアマチュア局に認めらたアマチュアバンド内において通常行われますが、その際はHFからUHFの各帯域ごとに定められた呼び出し周波数または非常通信周波数を使用します。
例えば、VHFの144MHz帯では145,00MHzは呼び出し周波数兼非常通信周波数となっているほか、145,50MHzが非常通信周波数となっています。
参考サイト 一般社団法人 日本アマチュア無線連盟『アマチュアバンドプラン(PDFファイル)』 https://www.jarl.org › bandplan20200421 PDF
当サイトでも、一般的な非常通信用周波数や災害時に活発になる無線の周波数を以下の記事でまとめています。

万が一の非常通信に備え、あらかじめの資格取得と局免を
電波法を基にした一般論ですが、平時におけるアマチュア無線の運用で従事者免許証(資格)と無線局免許状(局免)が必要であるように、万が一の災害発生時にアマチュア無線で非常通信を行う場合に備えて無線機を自宅や車に設置しておく場合でも、必ずあらかじめ資格を取得し、開局申請して局免交付を受けるようお願いいたします。
遭難通信と非常通信は異なる
『非常通信』と類似する通信に『遭難通信』があります。
『遭難』という言葉のイメージから、山岳地帯で登山者が陥った非常事態を連想させますが、本来、遭難通信は船舶の海難ならびに航空機の重大な危機が発生した場合に行われる緊急の通信です。
したがって、山岳での遭難などは前述の『非常通信』を行うこととなります。
普段からの電波のコンディションチェックや、どの場所から送信した場合に遠距離と交信できるかの確認のためにも、平時からコミニュケーションと訓練を兼ねた運用がおすすめです。
非常通信について参考になるサイト
非常通人における公的機関やJARLの考え方は下記URLを参考にされてください。
総務省アマチュア局による非常通信の考え方
http://www.tele.soumu.go.jp/j/ref/material/amahijyo/JARL
アマチュア無線局の非常通信マニュアル
http://www.jarl.or.jp/Japanese/2_Joho/2-4_Hijou/index-manual.htm
また、http://www.cosmos.zaq.jp/cosmos/team7043/kanham2013_bou_jarloo.pdfではJARLの職員で元電波監理局職員の方の防災シンポジウムにおけるアマチュア局の非常通信訓練のあり方に関する発言録ですが、非常通信の実際の実施と実施後の総務省への対応などが事細かく記載されていて大変興味深いです。
この中で、実際の非常通信においては「”非常”は三回でなくてもいい」とか「非常通信を行ったからといって、総務省にあとで怒られることはありません。むしろ人命を救助すれば電波の日に表彰されます」など興味深いお話がいっぱいです。
このようにアマチュア無線による非常通信は万が一の災害時、人命救助にも活用されています。
2014年、熊本県で震災をきっかけにお坊さんグループが防災チーム結成
災害時、このようなボランティアで非常通信を行うため、全国各地にはアマチュア無線家で構成された協力団体がそれぞれ設置され、普段から自治体や消防などと合同で訓練を行っています。
熊本県で2014年に編成された僧侶らの防災チーム「浄土真宗本願寺派熊本教区アマチュア無線リーグJKAL」では、アマチュア無線を使った災害時の情報収集と人命救助を活動目標としています。
JKAL設立に携わったのは浄土真宗本願寺派熊本教区の10人の僧侶ならびに6人の門徒だそうです。
中でも正元寺の寺添和南住職は若いころのエピソードとして、交通事故の現場に遭遇し、アマチュア無線による救助要請を行ったことでアマチュア無線は『命綱』であると認識されたそうです。
寺添住職はメンバーとともに愛車に何本もアンテナを立てて車載無線機を積み込み、非常事態に備えています。
典拠元 https://www.asahi.com/articles/ASLBH3CGYLBCTLVB004.html
まとめ
以上のように、非常通信は災害時にとても重要な役割を担っている通信として、過去の災害でも活用されています。
アマチュア無線は通信手段としては最古のテクノロジーですが、災害時に最も力強い通信手段であり、アマチュア無線家は被災時の通信確保に頼りになる存在です。
この信頼性の最も高い防災通信拠点が日本の全国いたるところにすでに広く点在するわけですから、アマチュア無線は我々が今後も後世に残していかなければならない文化ですし、減災技術であります。
- 電波法第52条に「非常通信」が定められ、地震、台風、洪水、津波、雪害、火災、暴動その他非常の事態が発生した場合、その通信が認められている
- 非常の事態が発生し又は発生するおそれがあるかどうか、有線通信を利用できないか又はこれを利用することが著しく困難であるかどうか、人命の救助、災害の救援、交通通信の確保又は秩序の維持のためかどうかの判断はアマチュア局の免許人の柔軟な判断に委ねられている
- アマチュア局の免許人はあくまでもボランティアで非常通信を行う
- 非常通信であっても、あらかじめ無線従事者資格と局の免許状を取得していなければ使用はできない
このようにまとまりました。
なお、テレビアニメ『ミームいろいろ夢の旅』の第73話(1984年)にて、まさにアマチュア無線と非常通信について言及されており、非常に興味深いため、下記ページにて詳しく解説しています。

非常通信の連絡設定を目的とした4,630kHzの有効性について
災害時、アマチュア無線局は各アマチュアバンドに設定された非常通信用周波数や呼び出し周波数を聴取し、必要に応じて非常通信を行う場合があります。
この“アマチュア局と非常通信”に関連し、“非常通信の連絡設定を目的”とした重要な周波数である「4,630kHz(A一A電波四、六三〇kHz)」があります。
詳しく見ていきましょう。
※4630kHzの運用や有効性については、アマチュア無線局の間でも見解が分かれる部分があります。この記事は、現行制度および過去の法令に基づく情報を整理したものであり、特定の立場を代表するものではありません。客観性を保ちつつ適切に留保したものと思いますが、あくまで個人の一意見としてご了承願います。
非常通信における4,630kHの制度上の位置づけ
総務省令電波法施行規則では以下のように記載されています。
無線電信により非常通信を行う無線局は、なるべくA一A電波四、六三〇kHzを送り、及び受けることができるものでなければならない。
「A1A電波(形式)」とは、モールス符号(CW)などの電信に用いられる振幅変調(AM)の電波です。

また、無線局運用規則第百三十条および同第百三十四条では以下のように明記されています。
第百三十条 A一A電波四、六三〇kHzは、連絡を設定する場合に使用するものとし、連絡設定後の通信は、通常使用する電波によるものとする。ただし、通常使用する電波によつて通信を行うことができないか又は著しく困難な場合は、この限りでない。
第百三十四条 非常の事態が発生したことを知つたその付近の無線電信局は、なるべく毎時の零分過ぎ及び三十分過ぎから各十分間A一A電波四、六三〇kHzによつて聴守しなければならない。
つまり、4,630kHzは日本国内で自然災害などの非常事態が発生した際、アマ局が他のアマ局だけでなく、自衛隊などの救援機関とも非常時に直接交信する運用が想定されているわけです。
注意点
ただし、非常通信に関しては、「他の通信業務に優先して妨害を受けず、また妨害を与えることなく行うことができる」とされており、公的機関との直接通信を明確に制度化しているわけではない点に留意が必要と言えます。
ですから、「警察や海上保安庁、自衛隊と直接連絡ができて、救援が容易にできる」というのはあくまで概念であり、理想でありますが、明確に明示されていない以上、これらの機関側にとっては義務ではないと言えます。
このため、4,630kHzにおいても、その位置付けはあくまで連絡設定のための打ち合わせ用周波数です。
また、4,630kHzはCWモードでの運用が前提であり、音声による通信(SSB等)は認められません。そのため、実際に活用するにはモールス通信の知識と習熟、そして3アマ以上の資格が必要です。
ただし、引用した無線局運用規則第百三十条の通り「通常使用する電波によつて通信を行うことができないか又は著しく困難な場合は、この限りでない」とされていますので、他の周波数を使用することも問題ないと解釈できます。
特徴:4630kHzと他の非常通信周波数
1. 4,630kHz(モールス通信/CW)
制度上の位置づけ:
非常事態発生時にA1A(CW)で救援機関と連絡が取れる
運用モード:
CW(モールス信号)限定。
使用資格:
3アマ以上(モールス通信可能な資格)でなければならない。
メリット:
短波帯のため、電波が国内の広範囲に届きやすい。
混信に強く、短文の情報伝達には向く。
デメリット:
電信の習熟が必要。
自衛隊・警察など公的機関側にCW受信設備や人材が限られる可能性がある。
実績:
運用例は不明。災害時に実際に使われた明確な事例は不明。
4,630kHz帯に関するアマチュア局の運用実態
4,630kHz帯は定期的な訓練にも使用されています。ただし、過去にこの周波数が実際の災害対応において運用されたかどうかについては、現時点で明確な事例は確認されていません。
また、この周波数をアマチュア局が使用するには、免許申請時にあらかじめ4,630kHzの使用を含めた周波数指定を受けておく必要があります。これは電波法およびアマチュア業務の運用規定に基づくものであり、無許可での運用は認められていません。
市販されている大手メーカー製のHF帯対応アマチュア無線機の多くは、技術的にはこの周波数に対応しています。
しかしながら、すべてのアマチュア局が事前に4,630kHzの使用申請を済ませているわけではありません。
結果として実際の災害時に即応できる体制が十分に整っているとは限らない状況です。
このような背景から、制度的に使用可能であることと、実際に現場で即時的活用できるかどうかは別の問題と言えます。
制度的意義と実効性の評価が分かれる点
というのも、その制度的意義について疑問視する意見も一部のアマチュア局の間にあるのです。
つまり、非常時であっても通信相手の側にモールス信号の運用スキルや資格が求められるため、実際に連絡が成立する可能性は限定的ではないかとの懸念です。
そのため、この周波数にこだわらず、災害時などの非常時においては、より平易な運用が可能な他の周波数帯(以下で解説)で対応すべきとする立場も見られます。

まとめ
要点をチェックします。
4,630kHzは非常時の“連絡設定用周波数”として法令に定められている。
非常通信でアマチュア局が使用できる。普段から訓練も行われている。
しかし、現行制度には「公的機関がアマチュア局へ応答しなければならない」という義務はない。
したがって、公的機関と“直接交信できる”という表現は 制度的保証ではなく、あくまで運用上の概念や理想である。
非常時はUHFやVHFも実用的であるため、稼働できる無線設備を使い、音声通話(SSB、FM、デジ簡など)を用いて救援の通信を行うのが現実的。4,630kHzに必ずしも限定しない方がいい。
アマチュア無線の非常通信活動では、「資格・設備・平時の訓練」がすべてそろって初めて効果が発揮されるため、制度と運用のギャップは大きい。
実際の災害時には4630kHzに限らず、稼働できる無線設備を使い、音声通話(SSB、FM、デジ簡など)を用いて救援の通信を行うのが現実的。
つまり、4,630kHzの制度上の位置づけは、ある程度明確ですが、現実的な運用における有効性については「理想ではあるが……」として、評価が分かれているのが現状です。
災害時においては、4630kHzに限定せず、利用可能な無線設備と周波数を用いて非常通信を行うのが現実的かつ実務的な対応と言えるでしょう。
まとめると以下のようになるでしょう。



















































































