何らかの不明な通信の傍受に関しては是認されるべき個人の趣味の範疇と考えられますが、傍受する際は当該工作機関から十分に適切な社会的距離を保つ必要があります

 

何者かが北朝鮮とモールス信号で連絡を取り合っているらしきことを公然と揶揄するタレント

画像の出典 『水曜日のダウンタウン』

深夜、何気なくチューニングしたHF帯で、何者かが淡々と数字のみを読み上げる奇妙な音声が聞こえてきたら、あなたはかつてのスパイ映画のような世界にいます。それは世界各地に散らばり、当地で何らかの工作に従事している各国工作員への指令、Numbers Stationかもしれないからです。

HF無線通信は一般的に長距離通信に使用されますが、その多くは正規の商用通信であったり、アマチュア無線局、研究機関による通信実験など、合法的な通信です。

しかし、HFの概要解説ページで説明の通り、HF帯、いわゆる短波無線は電離層の利用で世界中と交信できることから、各国の軍隊や諜報機関でも工作員や、その協力者との連絡に使用します。これらの場合、一部では非合法の通信となる可能性を孕んでいます。

その隆盛はやはり冷戦時代で、当時の東西両陣営がこのようなスパイ映画まがいの”秘密指令”とも言うべき機密性の高い軍事通信や機密情報の伝達をHF帯で行っていました。現代ではSNS上において、ロシアやウクライナの情報戦を垣間見ることがありますが、ときには敵対国の国民に向け、地下放送とも呼ばれる謀略めいたプロバガンダ放送なども行われました。

不定期に周波数を変更する局、同じ周波数を長期にわたって使用する局がありますが、現代においては復調困難なデジタルモードによる秘話化が一般的に行われ、通信の機密性を保護するために様々な技術が使用されています。

高級受信機やHF無線機不要!HF帯でSSBモードを使う洋上管制や海上自衛隊アツギオーシャニック、HFアマチュア無線の7MHzが簡単に聴けるお手頃SSB対応BCLラジオは評判通り高性能

日本でもかつて、人気のアマチュア帯の7MHz、そのオフバンド帯(アマチュア局に認められていない帯域)において、グリコ・森永事件の犯人と推定される者たちの連絡に使用されるなど、HF帯の無線通信は何とはっきりとは言えませんが、他とは違った性質で、一種独特のアンダーグラウンドの雰囲気を漂わせることがあります。

不明な通信や放送の種類

不明な通信にはアマチュアバンドとそのオフバンドによる『アンカバー』、音楽愛好家による不法な『海賊放送』、さらにある国が敵対する国の一般民衆に自国の主張を伝えることを目的とした『地下放送』、ある国の工作員や諜報員といった、いわゆるスパイ行為を行う者へ、その国の政府が指令などを暗号で伝えるための『乱数放送』など、世界的に大がかりな謀略めいたものまで様々です。これら、理解し難い奇妙な内容の一方的放送または通信を行い、自局のコールサインを明示しない不明な無線局、あるいは偽装する無線局を逃すまいと、耳をそばだてているのは世界中のBCLマニアです。何気ない短波放送の中にこそ、秘密の指令が含まれていることもあります。

アンカバー

グリコ・森永事件に関連して捜査当局が追及した例もあるアマチュア無線のアンカバー通信

アマチュア無線で許可された7MHz帯はコンディションにもよる空電のひどい時間を除けば、その交信距離は全国規模で、アマチュア無線家には人気です。アマチュア無線帯域の使用に関する法的規制は各国で異なりますが、許可されない帯域での通信は『オフバンド』と呼ばれ、禁止されているにもかかわらず、それを行うものを『アンカバー(アンカバー局)』と呼びます。我が国の電波法上では『不法無線局』として摘発の対象となります。

アマチュア無線の歴史上、オフバンドはHF帯に限らず、VHFやUHFでも発生しています。オフバンドによるアンカバー通信が行われる目的は、免許された正規の帯域では利用者が多かった当時のアマチュア無線の活況ぶりがあります。つまり、周波数に空きがなかったり、他の正規局からの傍受を防ぎたい思惑があったと考えられます。とくに携帯電話やインターネットがなかった時代はアマチュア無線が手軽な連絡手段となっていたことから利用者が多く、本来はアマチュア業務しか認められないにもかかわらず、それ以外の一般的な企業の営利利用、さらには犯罪者などによって使用されることもありました。

アマチュア無線の不法無線局の取締りとは!

1984年・1985年に起きた企業脅迫事件『グリコ・森永事件』に関連して、その犯人と推定される者たちが84年の10月に430MHz帯域、さらに同年12月にはアマチュア無線で許可された7MHz帯に近いオフバンド帯で、その犯行の打ち合わせらしき通信をしたことは、当時のアマチュア無線家や捜査当局を大いに注目させました。当時、北海道や大阪の正規のアマチュア局が偶然これらの通信を傍受し、捜査当局へ情報提供を行なったのです。のちの犯人と称される人物から報道機関に届いたとされる手紙には『無線マニア』を自称していたという報道もあります。

海賊放送

東西対立と民衆のフラストレーションが生んだ歴史

不正規の放送という事象をオーバーシーで俯瞰した場合、その時代の国際情勢に注意を払う必要があります。通常、ラジオ放送は国から正規に免許されたラジオ局が行いますが、それ以外の個人や団体が行う非公式な方法で運営される放送を一般に『海賊放送』と言います。

とくに東西対立の激しかった過去において、当時のソ連型社会主義圏であった東欧の人々の中にもアメリカのポップスを好む人々は多くいました。しかし、東側陣営諸国では西側の文化を厳しく規制し、正規のラジオ番組ではそれが放送されません。したがって、それらの人々のフラストレーションが海賊放送を発生させた理由の一つと考えられます。

日本では上述の東西対立はあまり関係がないものの、音楽やディスクジョッキーを好む個人による趣味の延長で、正規に放送免許を得ずに無許可でFM局を模倣した形態で行う不法無線局という観点では、1979年の八王子市の『FM西東京(JONT-FM)』、1985年の東京都港区の『KYFM』、2011年の日野市の『JOUT-FM百草』の摘発例があり、いずれも国内の海賊放送の代表例として知られています。

地下放送

謀略放送とも。陰謀めいた大掛かりな心理戦の一環

『地下放送』も東西対立の激しかった過去、東西陣営で顕著に見られ、特定の社会的、政治的、文化的なメッセージを伝える対外宣伝目的で運営されました。多くの場合、放送団体や送信所の所在地を偽装し、あたかも正規の放送のように見せかけた上で、ある国が敵対国の国民へ一方的な主張を伝えるためのプロパガンダを目的として放送されます。その目的から謀略放送とも呼ばれます。

戦時中に多く見られ、敵対国政府の検閲を回避しやすいことから、敵対国の戦況劣勢を伝えたり、自国の強大性や発展を誇示するなどして敵対国の国民や兵士を欺き、その情緒に訴えて心を挫き、厭戦ムードに持ち込む心理戦としての一環です。

例としてWW2中の1943年から1945年まで、日本政府当局が米国をはじめとする連合国側に対して、ラジオ・トウキョウ放送(現在のNHK)の番組を使った対外宣伝ラジオ放送『ゼロ・アワー(The Zero Hour)』があります。『ゼロ・アワー』は日系の女性または、日本軍の捕虜となった連合国軍の男性兵士が司会を務める英語の放送で、戦況概要、米国の流行歌、そしてアメリカ兵の家族や友人へのメッセージを読み上げることもありました。アメリカ兵にとっては心の支えとなることもありましたが、その所々には連合国軍兵士の士気を挫こうと様々な挑発的メッセージが織り交ぜられており、実態は謀略放送そのものです。

当初は旧日本軍の捕虜となった連合国軍の男性兵士によるディスクジョッキーでした。中には日本の当局からのDJ任用を拒んだ兵士もいましたが、強い圧力により従わざるを得ませんでした。日本の謀略に加担したくない彼らの一部は人間としての普遍的な理想、キリスト教の価値観といった内容の放送を行うにとどめ、ささやかな抵抗を試みたようです。

その後は日本国内に在住する日系アメリカ人の民間人女性起用を参謀本部の少佐が発案し、運用開始。すると、敵国のプロバガンダ放送であるにもかかわらず、太平洋戦線従軍中の米兵らは彼女らに憎しみを向けるどころか、半ば親愛の情を持ったのか『東京ローズ』と呼び始めました。東京ローズは数十名いたとされ、その中の一人にはWW2開戦直前、飛行機で太平洋横断中に行方不明になり、日本軍に秘密裏に囚われたという説もあるアメリカ人女性飛行士アメリア・イアハートがいたという噂もありますが、事実は不明です。

Tokyo Rose - Zero Hour (A Graphic Novel): A Japanese American Woman's Persecution and Ultimate Redemption after World War II (English Edition)

Tokyo Rose – Zero Hour (A Graphic Novel): A Japanese American Woman’s Persecution and Ultimate Redemption after World War II (English Edition)

この『東京ローズ』は米国で1946年には早くも映画化されていますから、当時相当な人気があったことを裏付けているでしょう。無線機から流れる米国の歌謡曲に聞き耳を立てる米軍兵士たちですが、『こんにちわヤンキーの坊やたち、こちらは日本のお姉さんよーん・・・』と流暢な英語で自分たちを揶揄する女性の声にぎょっとします。ベテランらしき兵士がニヤリとして『こいつはトウキョーローズさ・・フヒヒ』と坊やたちに教えています。

もちろん、これは娯楽映画なので、演じている東京ローズは実際の彼女らではなく、いかにも米国人の女性アナウンサーの声です。一方、下の動画は米国国立公文書館所蔵の動画で、実際に当時従事していた東京ローズの一人、アイバ・トグリ・ダキノ(戸粟郁子)による再現です。東京ローズたちは自分を『みなしごのアニー』と名乗ることもありました。

 

両者の声を聞き比べると、ご覧の通り、実際の東京ローズは明らかに日本人女性然とした声ですが、その愛くるしさのある声かつ、彼らの母国の言葉で、ときに軍事的に性愛的に挑発し、ときに同情を寄せる”東京ローズ”は米軍兵士の熱狂的リスナー、アニーオタを獲得しました。しかし日本当局の目論見通り(!?)、彼ら米軍兵士の心を挫き、士気を低下させたかという観点では日本の心理戦が成功したか不明です。

日本政府当局が行った米国兵士向け謀略放送『ゼロ・アワー』に出演した”東京ローズ”の一人、戸粟郁子は『みなしごアニー』を自称し『彼方たち米国海兵隊が恐れるカミカゼがいつも彼方たちの艦艇を狙っているわ。かわいそうなものね』『”みなしごアニー”が音楽を届けるわよ』『また明日のこの時間に放送するから、それまでいい子にしていてね』など、戦争の進行状況を日本側の有利に強調して伝え、前線の米兵を挑発する一方で同情を寄せるなど、巧みなツンデレで日本側のプロバガンダ工作を担いました。さらには彼ら米兵が故国に残してきた妻や最愛の女性を引き合いに出し『彼女たちは今ごろ貴方ではない他の男とベッドの上かもしれないわよ・・日本のお姉さんは同情するわ』など、薔薇のように甘く刺々しい情緒的な性愛ワードを使って煽る”東京ローズ”は米軍兵士を虜にしました。ツンデレの元祖は日本の謀略放送の女性だったっておい。画像の出典 NHK公式サイト『NHKアーカイブス』

終戦後、GHQや米国当局は”東京ローズ”の戦争責任を追及するため、その正体を探りました。しかし、関係者を執拗に問い詰めても、名乗り出たのは日系人のアイバ・トグリ・ダキノ(戸粟郁子)のみ。結局彼女は米国市民権を持ちながら日本の当局に協力した戦争責任を追及され、巣鴨プリズンに11カ月間の投獄後、米国に送還され、国家反逆罪で追訴を受けます。懲役10年の判決を受けた戸粟は7年間の服役ののちに釈放され、3年間の保護観察処分が下されました。その名誉は1976年のフォード大統領の特赦による市民権回復、2006年の米国退役軍人会による表彰まで取り戻せず、同年の表彰直後、安堵したのか、彼女は90歳の人生を閉じました。戦争に翻弄され、苦難の人生を歩んだ日系女性と言えます。東京ローズは日本でもドラマやミュージカルにもなり、描かれました。

一方、当然米国側も謀略放送を行いました。それが『ザカライアス放送』と呼ばれるもので、日本側の放送と比べ、一貫して日本側に無条件降伏を促す政治的主張となっています。

余談ですがこれらラジオを使った政治的な謀略放送以外のメディアを使った工作においては、アニメーション映画などもあり、米国では1943年、日本のニュース番組をパロディにした『Tokio Jokio』というアニメが作られています。戦時中、プロパガンダ映画は敵国を嘲笑し、自国の士気を高めるために制作されましたが、その多くは差別と偏見をはらんだ内容でした。これらは日米放送戦争とも呼ぶべき事象でした。

乱数放送

日本人拉致との関連性を指摘されているA3放送

我が国の周辺では、かつて北朝鮮の国営放送局である平壌放送(Voice of Korea)が行ったとされる『A3放送』と呼ばれる乱数放送が有名です。AMモード(ダブル・サイドバンド)の表記が”A3”であることからその名称がついたこの放送は、北朝鮮政府による同国工作員または協力者への暗号通信手段として長年にわたり使用されたことが広く報じられています。

国営放送局が正規の番組放送の所々に暗号文を入れていたのです。その内容は判然としませんが、実際の元工作員への取材を元にした報道によれば、A3放送による指示の一つには、対日有害活動の中でも最も被害が深刻と言える日本人拉致の指示も指摘されています。それに関連し、我が国領海内で発生した工作船事件の前にA3放送が活発化したという話もあります。

海上保安庁の『海上保安資料館北朝鮮工作船展示』では、2001年の九州南西海域工作船事件で実際に同工作船が搭載していたアイコム製のハンディ機やHF受信機、モールス用の電鍵が展示されています。

A3放送は通常、数学的なランダムのパターン、つまり乱数を読み上げることで本来の受信者以外の受信者にとっては理解しがたい情報を送出することが目的とされています。また、A3放送はときに北朝鮮政府が主に西側の敵対国や、韓国、日本の諜報機関を欺くため、偽りの政治的なメッセージや指示をも含ませていたとも考えられています。外部の敵対的監視者に傍受されていることを逆に利用し、無用な混乱を引き起こす欺瞞工作は軍事通信の常套手段です。

A3放送の主な特徴

A3放送のスタイルは一般的な番組放送の合間、数分の間に行われる『乱数放送』です。最もよく知られた手法に『乱数表』があり、北朝鮮の日本国内工作員には事前に乱数表が渡され、ランダムな数字の暗号電文を読み上げるA3放送を短波ラジオなどで受信した工作員は手元の乱数表と数字とを照らし合わせ、暗号を複号していく作業を行います。

  1. 特定の周波数帯域: A3放送は通常、平壌放送の周波数を使います。例として657kHzと3320kHzが確認されています。
  2. 短い放送時間: 通常、数分間の放送です。
  3. 乱数表による暗号化: A3放送はランダムな数字を利用した暗号電文であり、受信する工作員は事前に配布された乱数表と照らし合わせて復号します。
  4. 理解し難い内容: 内容そのものも暗喩が使われているとされ、部外者が具体的なメッセージの内容や目的を理解するのは困難です。

したがって、このような放送を受信するため、短波ラジオ類を所持する工作員が多く、警察に摘発された北朝鮮工作員の所持品リストに短波無線機や受信機が含まれることも珍しくありません。

高氏は小さいときにある親戚の家に行った際、屋根裏に入ろうとしたところ激怒されたことがあり、その数年後に工作員をその親戚の家で匿っていたことが判明。乱数放送を受信するラジオなどが没収されたことも明かしていた。

出典 北朝鮮からラジオで日本の工作員に指示? 夜中に流れる「乱数放送」をスタジオで公開 https://times.abema.tv/articles/-/8671495

ただ、657kHzや3320kHzで放送される平壌放送のAM放送に限って言えば、通常のAMラジオ放送かつ日本国内の放送局と近似の周波数であり、また非常に送信出力が強力であるため、市販の安価なAMラジオまたはSSBモードのない短波ラジオで難なく受信できます。

A3放送のように、国営放送局からの一方的な暗号電文の送信のみ(双方向ではない)以外にも乱数放送専用の周波数があるとされます。

この『日本国内で活動する工作員=短波無線』という図式は、かつてのフィクション作品でもよく描かれたトレンドで、例えばかわぐちかいじ作『黒い太陽』のほか、釋英勝作『ハッピーピープル I LOVE JAPAN』などにおいて『工作員の自宅押し入れに隠された短波無線機』が登場します。

A3放送は表向きには2000年に終了したとされますが、形を変えつつも、その本来の目的のために継続運用されているようです。現在は通常のラジオ放送を装って歌謡曲を放送するなどしていますが、実は本放送の曲並びに選曲の順序が工作員への暗号になっている可能性が指摘されており、北朝鮮国内で知られた『反日曲』を流すことで、なんらかの指令に代える例もあるとされています。

また、同じ偽装手法として通信制大学の課題放送を装う例も指摘されています。この場合、テキストのページ数を淡々と読み上げるなど、古典的な乱数表に準じた手法が用いられます。

近代の北朝鮮もインターネットによる連絡を利用することも珍しくないとされていますが、インターネットは政府情報機関による監視をすり抜けることは困難です。したがって、アナログの短波無線が併用されています。

軍事目的と推測される無線局

上述の乱数放送などは工作員への指令という明確な目的がありますが、さらに奇妙な”放送局”も存在します。これらは極めて軍事目的の通信である可能性が高い無線局ですが、その目的が不明なものもあります。

『UVB-76』

ロシアのモスクワ近郊の村から4625KHzまたは6998KHzにてブザー音が発信されるUVB-76″ザ・ブザー”などはその代表と言えます。

“UVB-76″は “The Buzzer” という呼び名でも広く知られていますが、ソ連時代から現在まで続く『目的不明の無線局』で、SSBモードにて短いブザー音を24時間絶え間なく送信しています。

ごくまれに人間の音声で英数字を読み上げることもありますが、その目的については電離層の研究、モスクワが他国から核攻撃を受けず無事であることを他の地域の軍部隊へ知らせる目的であるなど、陰謀論めいた推測もされていますが、いまだその放送の目的は解明されていません。

以下の動画でライブ放送を聴くことができます。不気味なブザーの音にご注意ください。

 

通常の放送では特定の周波数帯域(4625KHzまたは6998KHz)で連続的に奇妙で耳障りな古めかしいブザー音を発信しますが、ごく稀に音声メッセージやナンバーステーション形式のメッセージが読み上げられます。

  1. ブザー音: “UVB-76″の最も特徴的な要素と俗称の由来が連続的に鳴り続ける耳障りなブザー音です。この音は24時間365日にわたって放送されています。
  2. 音声メッセージ: 時折、ブザー音の中に音声メッセージが挿入されます。これらの音声は通常、ロシア語で行われ、英数字の列を読み上げることがあります。
  3. ナンバーステーション: この放送はナンバーステーションとしても知られており、時折、暗号化されたメッセージやナンバーの羅列を送信します。これらのメッセージの具体的な意味や目的は不明です。
  4. : “UVB-76″の正確な目的や運用者については多くの仮説や陰謀論めいたものも存在していますが、公式には認められていません。一部専門家は軍事や国家安全保障に関連した通信に使用されている可能性を指摘しています。

UVB-76の正体を解明する試みが続けられていますが、その正確な目的や運用者については公には明らかにされておらず、今も謎に包まれています。この放送は数十年にわたって存在し、世界中のアマチュア無線愛好者や短波リスナーによってモニタリングされ、議論の的になるのみならず、謎に満ちた怪電波発信源のためか、近年では何者かにより、同周波数がジャックされ、日本の美少女アニメの主題歌『うまぴょい伝説』やK-POPの『江南スタイル』が放送されるなど甚大な被害も受けています。

『ジャパニーズスロットマシン』

一方、謎の短波無線という点では我が国にも千葉県内などの自衛隊施設から送信されているデジタル変調方式の短波無線がHF無線受信家の間で知られています。これは海上自衛隊の通信施設から送信される、通称『ジャパニーズスロットマシン』と呼ばれる奇妙な電波ですが、その名称の由来はずばり、デジタル変調の音がパチスロ台の電子音と似ているから。

どうやらはじめてこの周波数による電波を発見した外国人の間でつけられた名称のようですが、言われてみれば、あのパチンコ店のパチスロ台が出す、聞いてると妙に引き込まれる『キュンキュン』という洗脳にも似た特有の音とそっくりで、やってないのにパチンコ依存症になりそうです。

その正体は不明ですが、通信内容は自衛隊の通常の任務に関するものであるという指摘もあるものの、高度なデジタル変調のために復調は不可能とされています。通信内容は海上自衛隊潜水艦への極秘指令(沈黙の艦隊)、もしくは海外にいる自衛隊・別班員への工作指令との目されていますが、本当に自衛隊の任務に関する無線なのか詳細は不明です。

自衛隊無線の各帯域(HF、ローVHF、UHF)ごとの受信方法解説

電波妨害・電波ジャック

とくに軍事やテロなどにおいて、敵軍や警察など治安機関の無線局が使う周波数と同じ周波数を大出力で送信し、その無線通信、ミサイルの誘導などを意図的に妨げる行為を電波妨害と呼び、軍事の分野では電子戦とも呼ばれます。前述のロシアの軍用無線局に対して日本の美少女アニメの主題歌を流しかけられた事案はまさに本来の無線通信や放送が第三者に乗っ取られた電波妨害の例ですが、一般的な軍用の妨害装置から送出される妨害電波自体は意味のない信号であるため、この記事における『傍受』とはあまり関連がありません。ただし、電波ジャックの場合はなんらかの政治的メッセージ性が含まれる場合があります。

軍用無線局・警察無線局への電波妨害・電波ジャック

各国では陸海空軍に電子戦に対応した妨害電波送信装置が配備されており、日本でも航空自衛隊にEC-1と呼ばれる電子戦機が配備されています。また、日本の治安情勢に関しては昭和59年7月ころ、滋賀、京都、奈良、和歌山の各府県警察無線が日を変え時間を変えて電波妨害を受けたほか、同年9月19日、自民党本部が中核派の非公然組織である「人民革命軍」に襲撃された『自由民主党本部放火襲撃事件』において、ほぼ同時に警視庁の複数の警察無線の電波が約40分間の電波妨害を受けて警察活動が混乱する騒動も発生しています。また、警察無線への妨害のうち、何者かがその電波を乗っ取った上で警察活動への不満を表明したり、日本警察と直接関係のない世界平和への祈り、さらに偽の指令を出す事例があり、これは電波ジャックと言えます。

放送局や防災無線への電波ジャック

メッセージ性のある電波ジャックという観点では、何者かが政治的主張を含ませた電波により、テレビ局などの放送局による正規の放送を不法に奪取し、乗っ取る場合も見られます。日本国内では85年に杉並区の防災無線が何者かにより電波ジャックされ、特定の選挙候補者が20分以上にわたって誹謗中傷される『杉並区防災無線電波ジャック事件』が発生しています。無線の起動用周波数にトーンスケルチ(制御信号トーン)を含ませた重畳(ちょうじょう)方式であった当時の防災行政無線は第三者による電波ジャックに無防備であったことから起きた事件です。また、87年には米国イリノイ州シカゴで地元テレビ局のニュース番組「The Nine O’Clock News」の放送中、仮面を被った男が、奇妙な空間の中で意味不明の言葉を喋り続けたり、自らの尻を女性にムチで叩かせる不可解な映像が流れる『マックス・ヘッドルーム事件』が発生しています。あまりにも内容が意図不明であり、政治的主張があるのかは不明です。2022年、ロシアウクライナ戦争では、ウクライナ支援を表明しているハッカー集団がロシア国営テレビ局のシステムをハッキングし、放送をのっとっています。なお、日本では放送局に対する電波ジャックを「放送信号割り込み」と呼びます。

わが国の情報機関による傍受体制

このように外国政府工作機関、工作員等による非公然な通信や放送は日本国内の工作員への指令に使われている可能性があるため、国家の安全保障や犯罪捜査を担う情報機関(諜報・防諜を担う公的機関)による傍受体制が行われています。

我が国政府において非公然な通信や放送の監視を担う情報機関には自衛隊情報本部、警察庁警備局があり、それらを統括するのが前述の組織から出向した職員で構成された内閣情報調査室の国際部と考えられます。

このような外国の無線通信などを傍受、分析する作業をシギント(SIGINT; Signal Intelligence)と呼びますが、 日本各地にあるそれぞれの情報機関の傍受施設で諜報や防諜スペシャリストらが、戦後から現在まで長年にわたってA3放送を傍受、分析しており、その詳細なプロトコルやアルゴリズムに関する知見も有しているとされます。

日本とソ連・北朝鮮との間の情報交換を無線でやり取りしているのでは、との疑いを当時の公安警察は厳しく監視していた。

引用元 アイコム株式会社公式サイト https://www.icom.co.jp/personal/beacon/ham_life/ja3ig/5035/

また一方では、国際的な無線愛好者グループや民間のシギント専門家などもHFアマチュア無線機や通信型受信機を用いてA3放送を受信し、その解読や解釈を試みてきましたが、生成された乱数や文字列がランダムであること、そもそもとして乱数表の入手が極めて困難である事情から暗号の解読、複合が難しく、外部のアマチュア無線愛好者や興味本位の解読者がこれらの放送をモニタリングして解読しようと試みても、内容を正確に復号することは困難と言え、一般にはこれら北朝鮮政府の行う非公然通信の全容は依然として不明です。

ただ、これら非公然の放送や軍事通信の傍受に関しては是認されるべき個人の趣味の範疇と考えられますが、その目的はあくまでHF帯通信における電波伝搬の技術的研究にとどめ、傍受者自身と当該工作機関の間には十分に適切な社会的距離を保ち、特定国政府の主義主張、思想に感化されたり、安易に共感しない姿勢が必要です。

とくに北朝鮮等、対日有害活動を行う外国政府への親疎の態度によっては警察のみならず、自衛隊による監視対象となる可能性があります。市民の監視は陰謀論ではなく、我が国の治安政策において実際に行われている情報保全および情報収集活動の一環と考えられています。