HF無線の世界はアングラだった・・・やべえ通信まとめ(傍受の際は当該工作機関から十分に適切な社会的距離を保つ必要あり)

深夜、何気なくチューニングしたHF帯で、何者かが淡々と数字のみを読み上げる奇妙な音声が聞こえてきたら、あなたはかつてのスパイ映画のような世界にいます。

それは世界各地に散らばる各国の工作員に対する秘密の指令かもしれないからです。

HFの概要解説で説明の通り、電離層反射によって世界中と遠距離交信できる短波無線(HF)。

正規の商用通信、官庁の無線局、そしてアマチュア無線局など、合法的な通信が大多数の一方、遠距離通信に適した特性であることから、各国の軍隊や諜報機関でも工作員やその協力者との連絡に使用する場合も。

その際はアマチュア無線の帯域が利用された上で、アマチュア局同士の交信として偽装されたり、アマチュア局に許可されていない帯域で通信(オフバンド)がされる場合もあります。

このような通信は非合法となる可能性を孕んでいます。

その隆盛はやはり冷戦時代で、当時の東西両陣営がこのようなスパイ映画まがいの”秘密指令”とも言うべき機密性の高い軍事通信や機密情報の伝達をHF帯で頻繁に行っていました。

このような短波無線を用いて、スパイがやりとりをしていた背景のある歴史的事件としては1940年代の『ゾルゲ事件』が有名です。

現代ではSNS上において、ロシアやウクライナの情報戦を垣間見ることがありますが、ときには敵対国の国民に向け、地下放送とも呼ばれる謀略めいたプロバガンダ放送なども行われました。

不定期に周波数を変更する局、同じ周波数を長期にわたって使用する局がありますが、現代においては復調困難なデジタルモードによる秘話化が一般的に行われ、通信の機密性を保護するために様々な技術が使用されています。

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日本でもかつて、人気のアマチュア帯の7MHz、そのオフバンド帯(アマバンドの帯域外)にて、グリコ・森永事件の犯人と推定される者たちが犯行の打ち合わせのやり取りをするなど、HF帯の無線通信は何とはっきりとは言えませんが、他とは違った性質で一種独特のアンダーグラウンドの雰囲気を漂わせることがあります。

不明な通信や放送の種類

不明な通信にはアマチュアバンドとそのオフバンドによる『アンカバー』、音楽愛好家による不法な『海賊放送』、さらに、敵国の一般民衆に自国の主張を伝えることを目的とした『地下放送』、ある国の工作員や諜報員(スパイ)へ、指令などを暗号で伝えるための『乱数放送』など、世界的に大がかりな謀略めいたものまで様々です。

これら、理解し難い奇妙な内容の一方的放送または秘密通信を行い、自局のコールサインを明示しない不明な無線局、あるいは偽装する無線局を逃すまいと、耳をそばだてているのは世界中の短波ラジヲを愛好するBCLマニア、それにアマチュア無線家たちです。

アンカバー

アマチュア無線におけるアンカバーについて、以下の記事で解説しています。

アマチュアバンド、そのオフバンドによる不明な通信『アンカバー』

海賊放送

東西対立と民衆のフラストレーションが生んだ歴史

不正規の放送という事象をオーバーシーで俯瞰した場合、その時代の国際情勢に注意を払う必要があります。

通常、ラジオ放送は国から正規に免許されたラジオ局が行いますが、それ以外の個人や団体が行う非公式な方法で運営される放送が『海賊放送』です。

東西対立の激しかった当時のソ連型社会主義圏であった東欧の国々。それらの人々の中にもアメリカのポップスを好む人は多くいました。

しかし、民主主義陣営である西側の文化に東側陣営諸国の人民が感化されることを東側当局者が恐れ、厳しく規制。

当然、正規のラジオ番組では西側の曲は放送されません。

したがって、それらの人々のフラストレーションが海賊放送を発生させた理由の一つと考えられます。

日本では上述の東西対立はあまり関係がないものの、音楽やディスクジョッキーを好む個人による趣味の延長で、正規に放送免許を得ずに無許可でFM局を模倣した形態で行う不法無線局の例があります。

1979年の八王子市の『FM西東京(JONT-FM)』、1985年の東京都港区の『KYFM』、2011年の日野市の『JOUT-FM百草』の摘発例はいずれも国内の海賊放送の代表例として知られています。

地下放送

謀略放送とも。陰謀めいた大掛かりな心理戦の一環

『地下放送』も東西対立の激しかった過去、東西陣営で顕著に見られ、特定の社会的、政治的、文化的なメッセージを伝える対外宣伝目的で運営されました。

多くの場合、放送団体や送信所の所在地を偽装し、あたかも正規の放送のように見せかけた上で、ある国が敵対国の国民へ一方的な主張を伝えるためのプロパガンダを目的として放送されます。その目的から謀略放送とも呼ばれます。

戦時中に多く見られ、敵対国政府の検閲を回避しやすいことから、敵対国の戦況劣勢を伝えたり、自国の強大性や発展を誇示するなどして敵対国の国民や兵士を欺き、その情緒に訴えて心を挫き、厭戦ムードに持ち込む心理戦としての一環です。

例として戦時中の日本の当局が行った『ゼロ・アワー』があります。

戦時中、日本軍が行った対外宣伝ラジオ放送『ゼロ・アワー(The Zero Hour)』とは

乱数放送

日本人拉致との関連性を指摘されているA3放送があります。

【陰謀論とラヂオ】日本人拉致との関連性を指摘されている北朝鮮によるA3放送とは?

 

軍事目的と推測される無線局

上述の乱数放送などは工作員への指令という明確な目的がありますが、さらに奇妙な”放送局”も存在します。

これらは軍事通信の可能性が極めて高い無線局ですが、その目的が不明なものもあります。

『UVB-76』

ロシアのモスクワ近郊の村から4625kHzまたは6998kHzにてブザー音が発信されるUVB-76″ザ・ブザー”などはその代表と言えます。

おそらく、世界で最も短波放送受信マニアから注目度が高い無線局です。それゆえに妨害が行われることもあるようです。

【陰謀論とラヂオ】ロシア軍の短波無線局『UVB-76』が電波ジャックされ日本の美少女アニメの主題歌『うまぴょい伝説』が流れた?

『Japanese Slot Machine(ジャパニーズスロットマシン)』

一方、謎の短波無線という点では我が国にも千葉県内などの自衛隊施設から3MHz-10MHzの海上移動通信に割り振られた周波数を使い、USBモードで送信されているPSK変調のデジタル信号がHF無線受信家の間で知られています。

これは千葉県内にある海上自衛隊の通信施設から送信される、通称『ジャパニーズスロットマシン』と呼ばれる奇妙な電波。

その名称の由来はずばり、デジタル変調の音がパチスロ台の電子音と似ているから。

言われてみれば、あのパチンコ店のパチスロ台が出す、聞いてると妙に引き込まれる“キュンキュン”という洗脳にも似た特有の音とそっくりで、やってないのにパチンコ依存症になりそうです。

しかし、その通信内容については高度なデジタル変調のために復調は不可能とされ、不明。

海上自衛隊の施設から送信される海上移動通信用周波数であることから、潜水艦などへの極秘指令、もしくは海外にいる自衛隊・別班員への工作指令ともされ、こちらも陰謀論マニアには堪らない魅力があるようです。

しかし、本当に自衛隊の任務に関する無線なのか詳細は不明です。

自衛隊無線の各帯域(HF、ローVHF、UHF)ごとの受信方法解説

電波妨害・電波ジャック

とくに軍事やテロなどにおいて、敵軍や警察など治安機関の無線局が使う周波数に同じ周波数を大出力で送信し、その無線通信、ミサイルの誘導などを意図的に妨げる行為を電波妨害と呼び、軍事の分野では電子戦とも呼ばれます。

前述のロシアの軍用無線局に対して日本の美少女アニメの主題歌を流しかけられた事案はまさに本来の無線通信や放送が第三者に乗っ取られた電波妨害の例ですが、一般的な軍用の妨害装置から送出される妨害電波自体は意味のない信号であるため、この記事における『傍受』とはあまり関連がありません。

ただし、電波ジャックの場合はなんらかの政治的メッセージ性が含まれる場合があります。

軍用無線局・警察無線局への電波妨害・電波ジャック

各国では陸海空軍に電子戦に対応した妨害電波送信装置が配備されており、日本でも航空自衛隊および海上自衛隊に電子戦機が配備されています。また、日本の治安情勢に関しては昭和59年7月、滋賀、京都、奈良、和歌山の各府県警察無線が日を変え時間を変えて電波妨害を受けたほか、同年9月19日、自民党本部が中核派の非公然組織である「人民革命軍」に襲撃された『自由民主党本部放火襲撃事件』において、ほぼ同時に警視庁の複数の警察無線の電波が約40分間の電波妨害を受けて警察活動が混乱する騒動も発生。

また、警察無線への妨害のうち、何者かがその電波を乗っ取った上で警察活動への不満を表明したり、日本警察と直接関係のない世界平和への祈り、さらに偽の指令を出す事例が過去にあり、これは電波ジャックと言えます。

放送局や防災無線への電波ジャック

メッセージ性のある電波ジャックという観点では、何者かが政治的主張を含ませた電波により、テレビ局などの放送局による正規の放送を不法に奪取し、乗っ取る事例も。

日本国内では85年に杉並区の防災無線が何者かにより電波ジャックされ、特定の選挙候補者が20分以上にわたって誹謗中傷される『杉並区防災無線電波ジャック事件』が発生しています。無線の起動用周波数にトーンスケルチ(制御信号トーン)を含ませた重畳(ちょうじょう)方式であった当時の防災行政無線は第三者による電波ジャックに無防備であったことから起きた事件です。

また、87年には米国イリノイ州シカゴで地元テレビ局のニュース番組「The Nine O’Clock News」の放送中、仮面を被った男が、奇妙な空間の中で意味不明の言葉を喋り続けたり、自らの尻を女性にムチで叩かせる不可解な映像が流れる『マックス・ヘッドルーム事件』が発生しています。あまりにも内容が意図不明であり、政治的主張があるのかは不明です。

2022年、ロシアウクライナ戦争では、ウクライナ支援を表明しているハッカー集団がロシア国営テレビ局のシステムをハッキングし、放送をのっとっています。

なお、日本では放送局に対する電波ジャックを「放送信号割り込み」と呼びます。

わが国の情報機関による傍受体制

このように外国政府工作機関、工作員等による非公然な通信や放送は日本国内の工作員への指令に使われている可能性があるため、国家の安全保障を担う情報機関(諜報・防諜を担う公的機関)や捜査機関による傍受体制が行われています。

我が国政府において非公然な通信や放送の監視を担う機関には自衛隊情報本部、警察庁警備局があり、それらを統括するのが前述の組織から出向した職員で構成された内閣情報調査室の国際部と考えられます。

また、このような外国の無線通信などを傍受、分析する作業をシギント(SIGINT; Signal Intelligence)と呼びますが、 日本各地にあるそれぞれの機関の傍受施設で諜報や防諜スペシャリストらが、戦後から現在まで長年にわたって傍受、分析しており、その詳細なプロトコルやアルゴリズムに関する知見も有しているとされます。

日本とソ連・北朝鮮との間の情報交換を無線でやり取りしているのでは、との疑いを当時の公安警察は厳しく監視していた。

引用元 アイコム株式会社公式サイト https://www.icom.co.jp/personal/beacon/ham_life/ja3ig/5035/

また一方では、国際的な無線愛好者グループや民間のシギント専門家などもHFアマチュア無線機や通信型受信機を用いてA3放送を受信し、その解読や解釈を試みてきましたが、生成された乱数や文字列がランダムであること、そもそもとして乱数表の入手が極めて困難である事情から暗号の解読、複合が難しく、外部のアマチュア無線愛好者や興味本位の解読者がこれらの放送をモニタリングして解読しようと試みても、内容を正確に復号することは困難と言え、一般にはこれら北朝鮮政府の行う非公然通信の全容は依然として不明です。

まとめ

HFにおける非公然の通信をご紹介いたしました。

余談ですが、1996年のアメリカ合衆国のSF映画『インデペンデンス・デイ』(Independence Day)では、米軍統合司令部が地球外生命体への反撃を日本の自衛隊含む世界各国の軍隊に呼びかける際、その通信はまさにHF帯の周波数によるモールスでした。

通常の衛星通信などが不能になるなか、世界各国と連絡がつき、宇宙人に一矢報いるチャンスを得たことに驚く米国大統領に「こんな古臭いモールスで」と米海兵隊の将軍は自嘲気味に答えています。また、同作では『ニューヨークのハム無線愛好者たちが日本へ流した噂によりますと、軍隊は反撃による全滅を恐れ云々』と、ニュース番組のアナウンサーが読み上げるシーンもあります。

HF無線の世界は一種独特のアンダーグラウンドの側面もあり、人を惹きつける要素があります。

しかし、これら非公然の放送や軍事通信の傍受に関しては是認されるべき個人の趣味の範疇と考えられますが、その目的はあくまでHF帯通信における電波伝搬の技術的研究にとどめ、傍受者自身と当該工作機関の間には十分に適切な社会的距離を保ち、特定国政府の主義主張、思想に感化されたり、安易に共感しない姿勢が必要です。

とくに北朝鮮等、対日有害活動を行う外国政府への親疎の態度によっては警察のみならず、自衛隊による監視対象となる可能性があります。

市民の監視は陰謀論ではなく、我が国の治安政策において実際に行われている情報保全および情報収集活動の一環と考えられています。

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