この記事では自衛隊が使う各種無線の概要をご紹介します。各周波数帯の特徴や概要のみ紹介するもので、公開されていない戦術用周波数そのものは掲載しておりません。
陸海空自衛隊や在日米軍では、それぞれが各固定翼および回転翼航空機を配備運用しており、主に通常の訓練飛行、演習、公開イベント、そしてスクランブル発進時のGCIなどさまざまな交信が予測されます。受信機からヘリのローターの大きな爆音越しに聞こえるパイロットの声は迫力満点です。
基本的には自衛隊機も民間空港同様の管制用周波数や近隣のフライトサービス局とも交信しますが、自衛隊の管制独自に割り当てられた周波数も持っており、これらミリタリーエアバンドを受信する場合、とくに覚えておきたいのが、140MHz帯および225MHzから399MHzまでをAMモードで受信できる広帯域受信機が必要であるということです。これについては広帯域受信機のページをご覧ください。
陸上自衛隊の無線

陸上自衛隊のヘリコプターは基本的に有視界飛行で低高度を飛ぶ上に、VHF帯エアバンドの中でも電波の飛びが良い118MHzから142MHzまでを使って交信します。118MHzから120MHz帯は陸自機、民間機ともに管制との交信に使用しますが、陸自ではさらに130MHz帯の後半から142MHz帯までを使用する場合があります。
広帯域受信機はともかく、ワイドバンド機能をもったアマチュア無線機では陸自の航空無線を受信する場合に実はちょっとクセがあります。140MHz帯をFMで受信することはできても、AMモードでの受信に対応していない場合があるのです。当然、陸自のヘリ無線もAMモードの航空無線。そのような機種では聞けません。
自衛隊機はコールサインを持っている
3自衛隊ではそれぞれ機種別にコールサインを持っています。たとえば、日本全国どこでも見られる陸上自衛隊の多用途ヘリUH-1Jならコールサインは『ハンター』。 近隣に陸自の駐屯地があれば必ず飛来してきますから、チャンスは多いでしょう。
UH-1Jは最近、救難に使われることは少ないようで、山岳遭難でも海難事故でもUH-1Jよりもパワーのある機種UH-60Jを配備する航空自衛隊の専門部隊「航空救難団」の活躍が多いようです。

空自のUH-60J全天候型救難ヘリコプター。鮮やかで派手な青色の機体カラーはレッキとした洋上迷彩だ。機首に高性能レーダーや外部燃料タンクも備え、航続距離も長い。航空救難団は警察や防災ヘリで対処ができない高度な救助活動で活躍する『最後の砦』と呼ばれる。

陸自の観測ヘリOH-1のコールサインは「オメガ」
ほかにも大型ヘリのCH-47なら『キャリアー』、偵察ヘリのOH-1なら『オメガ』、最新のオスプレイは『ヴィーナス』などなど。その一方で、日本に12機しかない最強のAH-64Dロングボウアパッチ攻撃ヘリのコールサインは『アパッチ』、さらに上級国民専用機EC225LP スーパーピューマも『ピューマ』と、機種名そのままの場合もあります。これらの機体が編隊飛行の場合は『コールサイン+フォーメーション』という名称になります。
陸上自衛隊のローVHF
遠い昔、少年たちが送信改造した無線機を使い、許可されていない周波数帯にてこっそりと電波を出して遊んでいたら、ある日本政府直轄の緑色系部隊(旧・郵政省バイク部隊ではない)の周波数とたまたま被ってしまい、探知されて制服の人が家庭訪問にやってきて『ウチに入らないかい?無線できるよ(ニコッ』と言われたりしたという背筋が凍るほっこりする伝説を聞いたことがありませんか?そんな闇の読者投稿ありません。
ともかく、陸自では30.000MHz〜59.975MHzのローVHF帯(FMモード)において、特科、普通科、諸科共通波など、複数のバンドがあるようです。『近隣部隊と混信しないように配慮しつつ、毎年シャッフルされている』という話もありますが、さすがに戦術用周波数。アメリカの天才美人女優で発明家のヘディ・ラマー(wikipedia)が発明した周波数ホッピング技術を前身とする技術や、最新のデジタル秘話がかかっていれば、復調は不可能でしょう。

ヘリと地上隊員などが交信する陸自の作戦用HF無線。周波数は定まっておらず、結構範囲は広い。
とくに駐屯地や演習場に陸自ヘリが離着陸する際は地上の誘導員と調整するため、40MHz帯の複数でなんらかの短い感覚の信号を確認できますが、デジタル秘話のため、解読はできません。推測するに陸自特有の短い交信でしょうか。

そもそも、なぜ陸自のHF無線でアナログとデジタルが混在しているのか、すべてデジタル秘話にしないのはなぜか?という観点ですが、『ラジオライフ』2000年6月号によれば、アナログ波しか送受信できない旧型無線機を使用し、新型に更新されていない地方の部隊があるようなのです。これは今から23年前の話なので、現在は違う可能性もあります。とはいえ、現在も記念祭などで陸自のHF通信が聞けるシーンもあるようです。
ほかにも第一空挺団が毎年の『降下訓練始め』やその他の自衛隊イベント時にて空自の輸送機から降下をする際、地上の誘導員とコース指示の連絡を300MHz帯前半ですることも有名です。また『基地内警備波』と呼ばれる150MHz帯の無線はアナログとデジタルが混在しています。
航空自衛隊の無線
空自には航空救難団が編成されていますが、航空事故等が発生した場合、4MHz帯のある周波数が活発になります。ほかに輸送機が海外派遣時、洋上飛行する際は6MHz、12MHz帯のある周波数を使用する場合もあります。HFもいいのですが、空自の戦術用周波数『GCI』はミリタリーエアバンドの中で、最も魅力的かもしれません。その理由とは?
はるか2万フィート上空から聞こえる空自のGCIとは
通常、航空自衛隊は定められた訓練空域にて戦闘機同士による格闘訓練を行うほか、射爆撃場で地上目標に対する攻撃訓練も行っています。

航空自衛隊では通常の管制波とは別に『GCI』と呼ばれる作戦用のUHFの225MHzから399MHzまでの帯域を使います。『GCI』は本来は純粋に”地上要撃管制”の意味であり、その管制用周波数なのですが、現在はその訓練や部内連絡用の非公開周波数も含めてGCIと呼ぶのがこの業界の慣しです。これら空自の訓練や”実戦”で使用されるGCI用周波数はは公開されておらず、自分でサーチが基本。GCIはそれぞれチャンネル指定され、RL誌によればその数なんと1000ch。
サーチにややクセがあるものの、受信時の迫力は満点。先輩パイロットから新人への指導はやはり厳しく、遥か上空2万フィートから聞こえてくる戦闘機同士や地上要撃管制との臨場感満点の無線交信に、受信機の前で震えることもあります。訓練中の交信は日本語、英語が混在。周波数のサーチ方法は上記の記事をチェック。マニアは24時間体制でサーチして追っかけています。
自衛隊だろうと国交省だろうと米軍だろうと聞けるのを知らんのかな。
GCIの周波数が非公開なだけで、それすらアナログだし航空無線の周波数帯だからタイミングさえ良ければ聞ける。
陰謀論者の動物アイコンは知能が低い。 https://t.co/Nzb5QLVDkf— タニマスカーレット (@servent_nm7) August 11, 2023
男は黙ってGCI受信(もちろん学齢児童生徒女子も黙って受信するのは自由だからね❤️)。
国際緊急周波数
国際緊急周波数は自衛隊専用ではなく各国の軍隊が使用する世界共通の周波数ですが、日本の領空を侵犯した外国機がいた場合、侵犯機に対して自衛隊機が英語や中国語、ロシア語などを使って警告をすることがあります。普段は使用されないこの国際緊急周波数が騒がしくなれば、日本の周辺がキナ臭いことになっていると考えていいでしょう。

上述のGCIと共に使用されることが多く、警告された領空侵犯機はおとなしく日本の領空外へ出なければ、自衛隊に実力を行使されるか、深く領空侵犯した場合は日本国内の基地へ強制着陸させられるので、国防の最前線の交信が傍受できます。韓国海軍に火器管制レーダーを照射された自衛隊機が問い合せのために使用したのもこの周波数です。詳細は下記記事にて解説しています。
航空祭で無線を聞こう!
3自衛隊のイベント中でも、航空自衛隊の航空祭は毎年何万人もの客が訪れるビッグイベントです。その来場者の中には耳にイヤホンをつけた人がいます。多くの場合、彼らは美少女アニメの主題歌を聴いてはいません。広帯域受信機でエアバンドを傍受し、今まさに目の前を通過する自衛隊機の飛来を待っているのです。

航空祭でとくに迫力があるのはなんといってもブルーインパルスの交信です。演技を行うブルーインパルスは通常、6機編隊で飛行展示をします。ブルーインパルスとタワーが行う無線交信をワッチすると、ブルーの演技の開始時刻、編隊の飛来方位、”スモークナウ”のタイミングなど展示する次の演技の概要がわかるので、ブルーを狙う地上のアマチュアカメラマンには好都合です。ただ、当日にどの周波数を使うのかは直前までわからない場合が大半ですから、事前の情報収集は必須です。おっと。無線で聞いた内容の”窃用”にはくれぐれもご注意を。
2023年現在、航空自衛隊入間基地公式サイトでは『Q30 受信機の持ち込みは可能か? A 持ち込み可能ですが電波法に違反の無きようお願いいたします。』としていますが、昨今の在日米軍基地ではイベント時にて基地内に受信機を持ち込んで無線傍受をする人に対して神経を尖らせており、基地内での傍受をしないように要請するケースも見られます。
海上自衛隊の無線
やはり、日本の本土と遠い海洋をゆく海自艦艇との通信はHFが使用されています。海自の洋上管制隊がHF通信における主用な業務を担っており、6MHz帯を使用したSSBモードの『アツギオーシャニック』が知られています。
航空管制隊には、洋上管制所があります。
洋上管制所は、地球の裏側まで電波が届くHF無線機を使用し、航空機の位置通報の中継、管制承認の伝達等、洋上を飛行する航空機に様々な支援を行っています。
※一部させていただきました。#航空集団60周年
#航空管制隊
#洋上管制所 pic.twitter.com/h05EAKJTmo— 海上自衛隊 航空集団司令部 (@jmsdf_af) September 10, 2021
離島における急患発生時、出動した救難飛行艇との交信は迫力があります。
HFかつSSBモードの無線を受信できる機材については、SSBモード対応の上位機種の受信機、オールモードのHFアマチュア無線機、SSB対応BCLラジオなどが必要です。以下の記事にて解説しています。
余談ですが、海上自衛隊の通信施設から奇妙な電波が送信されていることをご存知でしょうか。これは通称『ジャパニーズスロットマシン』と呼ばれるもので、HF帯で送信されているデジタル波ですが、海自潜水艦への指令、もしくは海外にいる自衛隊・別班員への指令と見られています。いねえよそんなもの(笑)
海上保安庁の航空無線
海上保安庁の任務は日本の海洋権益の保護、密入国と領海侵犯への対応、海上犯罪の取り締まり、そして救難です。犯罪の取り締まりについては被疑者に傍受されることで不利益が生じますから、警察無線同様にデジタル無線を使用しています。私たち航空無線愛好家とは関係がないのでデジタル無線については割愛します。
海保の無線通信のうち、最もポピュラーなのは通常の航空機運用と救難活動(Search and Rescue・通称SR)で主に使われるカンパニー波130.300MHzと134.500MHzの二種です。
夏ともなれば、レジャーで海水浴へやってきた大学生などの若者グループが、女にいいところ見せようとしてバナナボートで出航し、離岸流で沖へ流され帰れなくなるのが毎年の風物詩。地元漁協の活躍、それに海上保安庁の「Mission Banana Boat」も増加する季節です。変なミッション名をつけるんじゃない(笑)
海保の海難救助では巡視艇やボンバルディア捜索救難機による広範囲な捜索活動と、ヘリコプターによる要救助者のピックアップが主な任務です。
前述の海上自衛隊がHFを使うのと同じく、海保でも広い海域で活動する理由から6MHz帯や9MHz帯のHFにて通信をする場合があります。こちらも当然、犯罪捜査に関わるものはありません。
なお、「国際VHF」の呼び出しチャンネルは非常用チャンネルにも指定されており、海上保安庁が交信する場合もあります。
在日米軍の無線
三沢や関東や沖縄など、米軍基地がある場所では米軍飛行場の管制周波数に合わせるだけでok。米軍基地が近くにない北海道などの場合は航空自衛隊機との合同訓練での交信を狙いましょう。デジタルのP25仕様無線機も配備しているようで、基地警備等に使用しているようです。基本的に日本の電波法の管轄外にいるので、思わぬ帯域で周波数を発見することもあるそうです。
自衛隊の航空無線のまとめ
このように3自衛隊ではそれぞれが運用する航空機の管制や、GCIという特別な周波数を使って日々の任務を行っていますが、使用される周波数帯はHFからUHFまで実に様々。なお、HFのSSB受信には当サイトが推奨しているIC-R6では非対応ですが、比較的高価なHF対応受信機やHFアマチュア無線機のほか、1万円程度のSSB対応BCLラジオでも受信できます。
自衛隊機がどんな帯域の無線を使うのか、機体のアンテナから考察してみるのも良いでしょう。ヘリの尾部付近に細い手すり状の部品があれば、HF用のワイヤーアンテナです。陸海空自衛隊のヘリに備わっている装備で、固定翼機も備えている場合があります。ただ、自衛隊HFも近年では平文より秘話が増えている状況であり、衛星通信も多用されており『昔は良かった』との嘆きも多く目にするようになりました。自衛隊だけでなく、周辺諸国の軍用HFに耳を傾けてみるのも良いかもしれません。あまり大きいHFアンテナ建てると公安に視察されますけどね。
余談ですが、硫黄島に赴任している自衛隊員は余暇にアマチュア無線のHF帯でCQを出していたようです。
基本的に管制波は広く市販の冊子で掲載されており、古くから知られているものですが、空自のGCIといった周波数は自分で調べることが基本となります。”GCIマナー啓発活動”をするつもりはありませんが『GCIは自分で調べ、調べた周波数は墓まで持って行く』が業界の古くからの慣しとなっています。
昔、某誌のライターがやばいの載せすぎて自衛隊出禁なりました。