かつての映画やドラマといった娯楽作品へのアマチュア無線の登場機会は意外と多いもの。
中でも円谷プロ作品の特撮物、当時の刑事ドラマにもかなりの頻度で登場したそうですが、漫画やアニメの世界ではどうでしょうか。
この記事ではアマチュア無線が登場するマンガやアニメ、そして映画など、筆者が知るかぎりの作品をご紹介していきます。
以降の記述には物語・作品・登場人物に関するネタバレが含まれます。
とてもお得な情報が記事の中程にありますので、お見逃しなく!
- 『カモシカ』
- 少年の町ZF
- 幻の大岩魚アカブチ(“釣りバカたち”より)
- マイコン刑事
- Amazon Kindle Unlimitedに入会すると、月額980円で追加料金なしで読めます
- ブラックジャック「ハローCQ」
- おもしろ無線部員のり子ちゃん
- アマチュア無線の出るアニメ作品
- その他のキャラ
- アマチュア無線が登場した映画やドラマ
- まとめ
『カモシカ』
『Match the Hatch』や『ようこそ庄太郎小屋へ』、『私の甲子園』など、スポーツからアウトドア、フライフィッシングまで幅広い知識を持つ漫画家、鎌田洋次氏。
その氏の作品『カモシカ』にて、女性山岳救助隊員が、雷の影響で発生するノイズをもとに状況判断を行い、その後の救助活動に活かすという、アマチュア無線機搭載ラジオの意外な使い方が描かれています。
本作は2003年に出版され、2026年現在では、Amazonの電子書籍サービス『Kindle Unlimited』に加入していれば追加料金なしで読むことができます。
民間の山岳救助組織『連邦山岳救助隊』に入隊した新人救助隊員・棚垣芯子は、もともと東京の企業でOLとして働いていました。しかし、山岳救助ヘリ会社で救助隊員を務めていた父を事故で失ったことを契機に、父の意思を継ぐ形で山岳専門の救助隊員へと転身します。
作中で明言されているわけではありませんが、この「山岳救助ヘリ会社」は、かつて日本国内に存在した『トーホーエアーレスキュー社』をモデルにしている可能性があると考えられます。
山岳救助を題材とした漫画『岳 みんなの山』に登場する「昴エアレスキュー」のパイロット・牧英紀も、実際に同社でパイロットを務めた篠原秋彦氏をモチーフにしているとされています。
『トーホーエアーレスキュー社』は東邦航空株式会社の子会社であり、社長兼パイロットだった篠原秋彦氏は、出動回数約1700回、救助した遭難者数2000人以上という実績を持つベテランでした。しかし2002年、長野県大町市の鹿島槍ヶ岳での救助活動中に殉職。同社もその後解散し、救助事業が継承されることはありませんでした。
篠原氏は生前、「会員制民間救助体制の確立」を構想していたとも言われています。本作に登場する新人隊員・棚垣芯子が、父の意思を継いで救助活動に身を投じるという設定は、あくまで筆者の推測ではあるものの、篠原氏の理念や事績を反映している可能性があります。
さらに興味深い点として、当時トーホーエアーレスキュー社が使用していた救助用ヘリ『アルウェット SA315B ラマ』が、長野県穂高町の『カモシカスポーツ穂高店』敷地内に設けられていた芝生帯ヘリポートを、出動時に利用していたという証言があり、作のタイトルに少なからぬ影響を与えていたとすれば、興味深く思います。
さて、本作でアマチュア無線家が注目するのは、第7話「知識の裏付け」のシーンです。
主人公の棚垣芯子、先輩の馬越、リーダーの花森ら女性隊員3人が、山岳警備中に一本立て、ベースキャンプと定時連絡を行う場面では、リーダーの花森がハンディ型のアマチュア無線機を使用しており、439MHzのFMモードであることが確認できます。
この周波数帯は、アマチュア無線におけるレピーター交信で使用される帯域であり、作中ではおそらくレピーター局を介した通信を描写しています。

花森は交信中に無線機に雑音が入ったことに気づきますが、この場面で特に注目されるのは、雷によるノイズがFMではなくAMに影響している点です。雷の影響は一般的にAMラジオに現れやすく、FMにはほとんど影響しません。
休憩後、パトロールを再開した一行は、足に怪我をした男性登山者を発見。単独での下山が困難であると判断した花森は、ヘリによる救助を提案します。しかし、男性登山者は山岳保険に未加入のため、無料である県警のヘリを希望します。
ところが県警のヘリは別現場へ出動中で、すぐには来られないという連絡がベースキャンプから入ります。民間のヘリであれば即座に出動可能ですが、費用は100万円に及びます。

この高額な費用を前に、男性登山者は渋い表情を見せます。そこで芯子は男性登山者に付き添って、徒歩での下山を提案しますが、花森は却下。
花森は「AMラジオに入る雑音の間隔が短くなっている。雷が近づいている証拠」と、無線機を見せながら説明します。これにより、花森のハンディ無線機にはAMラジオ受信機能が搭載されていると考えられます。この機能を活用して、花森は雷の接近を察知し、適切な判断を下したわけです。
結果として、花森のベテランならではの経験と、的確な知識の裏付けが登山者の命を救うことになりました。
ときには偶然の影響も考えられますが、電波と気象・自然現象の間には、偶然だけでは説明できない関連性があり、アウトドアや登山でも、天候の予知や予測にも応用されていることは、広く知られています。
たとえば、AMラジオを受信していると、突然「ガリガリ」や「ザリザリ」といったノイズが聞こえますが、これは雷放電によって発生する電磁波(空電)がラジオの受信に影響を与えていることを示しています。
一般に、AMラジオでこのようなノイズが入る場合、その範囲内、つまりおおよそ半径50キロメートル圏内で雷が発生する確率が高いことを示し、さらに、ノイズの間隔が短くなると雷が近づいており、逆に間隔が長くなると雷は遠ざかっていることを示しています。
この観測方法は、振幅変調(AM)の特性を利用したもので、ノイズに弱いAMラジオの特性を逆手に取り、天候予測の手段として活用できることを示しています。一方で、雑音に強く音質の良いFMラジオ(周波数変調)では、このような予測は行えません。

参照元の『AMラジオの雑音による雷放電の検知』という項目において、雷の接近にラジオの雑音を利用するにはNHK第1や第2放送などのAM放送を受信する必要があるとしています。
以上のように、山岳地帯におけるアマチュア無線機による連絡手段だけでなく、アマチュア無線機に搭載されたAMラジオ受信機能を用いた天候予測(特に雷の接近判断)という、非常に実用的かつ興味深いシーンが描かれた本作。
実際、無線機にAMラジオ放送の受信機能が搭載されていれば、雷による空電ノイズの間隔から天候悪化の兆候を簡易的に把握する手段として活用できます。
山岳環境のように天候の急変が命に関わる場面では、AMラジオ本来の役割である天気予報の情報入手と同様に、登山者やアウトドア愛好家にとっては大きな判断材料となるでしょう。

スタンダード製のハンディ型アマチュア無線機 VX-3 には、独立したAM/FMラジオ受信機能が搭載されており、ラジオ放送を聴きながらアマチュアバンドやエアバンドなど、各種ユーティリティ無線の待ち受け受信が可能です。この機能性の高さから、製造終了後も、多くのユーザーに人気があります。
一方で、重厚で頑丈な筐体を持ち、登山者やアウトドアマンから絶大な支持を得ているベストセラー機 FT-60 には、意外にもAM/FMラジオ放送受信機能は搭載されていません。
この点を踏まえながら、ラジオ受信を含む多機能なハンディ機を選んでみるのも、よいかもしれません。
少年の町ZF
1976年から79年まで『ビッグコミックオリジナル』にて連載された小池一夫氏原作、平野仁氏作画の「少年の町ZF」
人間の血液を求める宇宙人により、人間がバンパイアにされて侵略される世界、そしてそれに対抗すべく日本の少年たちが知恵と勇気を振り絞って戦う物語です。
過酷な運命を生き抜く彼らの物語は”ゾンビもの”でもあり、冒険サバイバル漫画でもあり、アマチュア無線が出るのも自然な流れ。
作中、ハム少年として活躍していたのが、村地日出男と向井洋介という二人。
彼らはある日の夜、アマチュア無線で交信中、東京上空に現れたUFOの編隊『ラボック光』を目撃。
バチコン(コンディションばっちり)で無線交信中のアパッチ・ジェロニモ局こと村地日出男。ケツアゴの方がトマト局こと向井洋介。
空に何かを発見した向井が慌てて村地に空を見るように伝える。

ただ、引用したページの次項にて『無線(アマチュア)交信中に・・・』とキャプションこそあるものの、ご覧のように村地と向井は『上から呼んでも下から呼んでもトマト局へ』とか『ジェロニモ局、そ、空を見るんだッ!!』などと発しており、明らかにアマチュア局のコールサインではないという点はご了承ください。
UFO研究家にはおなじみの『ラボックライト事件』といえば、テキサス州ラボック近郊で謎の光が目撃された1951年の事件。
目撃した11人の少年らのうち、5人がラボックライト事件を知っている様子は当時のUFOブームの高さを思わせます。
ところで、当時宇宙人ブームの頃、子供たちが”目撃例”として描いた宇宙人の姿は当時流行していた手塚治虫さんの絵や特撮モノの怪人にすべからず似ているのがなんとも言えません。
翌日彼ら11人の少年は東京郊外の高尾山へ、UFO着陸の可能性を探りに集うなか、自転車に無線機をつけた「チャリンコモービル」で颯爽と”交信”するのが村地と向井。
「天気がよくてFB、FBですよ~」などとご機嫌な彼らですが、高尾山でのUFO探しに自ずと集まった11人の少年は、それ以外の人類との命運を分けることになるとは誰も思っていなかったのです。
見せ場は物語後半。村地が自分たちと同じ”非バンパイアの人類”を探してCQを出し続けた結果、”ある方法”でバンパイア化を防いでいた女性化学者が応答、クライマックスへ。少年らは思わず歓喜の涙を流します。しかし、女性研究者の身体はすでに……。
幻の大岩魚アカブチ(“釣りバカたち”より)
昭和48年6月3日の『少年マガジン』が初出となる矢口高雄さんの「釣りバカたち」。その中の一編「幻の大岩魚(オオイワナ)アカブチ」では、アマチュア無線の交信で情報交換を行い、友好を深め、実際にアイボール(釣りミーティング?)する若者が描かれています。
70年代当時、若者同士のコミニュケーションツールとして最先端だったアマチュア無線を描いた王道的な内容で、とても面白かったです。

矢口高雄さんといえば、テレビアニメ化もされた『釣りキチ三平』が代表作であり、同氏の描く、雄大かつ懐かしさのある自然の情景と素朴なキャラクター、釣りというレジャー趣味に没頭し、日本全国を釣り行脚していくいい歳こいた弁護士資格を持つかっこいい兄貴など、魅力は無尽蔵です。
本作『幻の大岩魚(オオイワナ)アカブチ』では、詳しくアマチュア無線の運用目的やコールサインなどの概要説明が行われています。

東京・世田谷のとある一軒家。そこにはピンちゃん(JH1WXY)の自室を改造した立派な“シャック”がありました。リグのダイヤルを回転させ、コイルと真空管の温もりに包まれた空間で、彼女は毎日のようにシゲちゃん、シンちゃんとラグチューに花を咲かせています。
そんなある日、7MHzでの彼女のCQに応答したのは、東北在住の「トリプルXくん」ことJA7XXX局。コールサインを聞いた瞬間、ピンちゃん(JH1WXY)は絶句。
実際、過去には当時の電監から『XXX』のサフィックスが何例か発給された記録はあるものの、総務省の検索ではいまや影も形もない幻の存在です。ピンちゃんの「WXY」すら霞んで見えるほどですね。
やがてラグチューを重ねるうち、ピンちゃんはトリプルXこと中村吾郎くんに心を引かれていきます。思い立ったら一直線、彼女はハム仲間のシゲちゃん、シンちゃんを引き連れて、特急に乗り込み9時間。たどり着いたのは7エリア……漫画『釣りキチ三平』の舞台でもある東北の地。きっと、矢口氏の生まれ故郷の秋田かもしれません。

ここからが勝負とばかりにショルダー型のハンディ機を肩に掛け、駅前で堂々と個別呼び出しを始めようとするピンちゃん。しかし、そこに現れたのはすでに待ち構えていた「トリプルX」くんこと中村吾郎本人。あまりにスムーズすぎるアイボールに、4人は思わず顔を見合わせます。
そして招かれた彼の自宅。リビングの片隅には眩いばかりの最新リグ「FT-101」が鎮座。シゲちゃんもシンちゃんも、銘機中の銘機に圧倒されながら、彼らはただ羨望のまなざしを送るしかなかったのです。
「これが……最新のFT-101!」
「すげえ……噂どおり、真空管の光が生き物みたいに呼吸してる……」
FT-101は現代でも20世紀不朽の銘機として神格化されています。

ともかく、やはりこの作品を今読んで当時の時代背景を思うのは、当時の若者同士のリアルタイム・コミニュケーション・ツール、“昭和のインターネット”こと、アマチュア無線の絶大なる威力です。まだパソコン通信すら普及していなかった時代に、都会と地方の若者たちがほぼリアルタイムでつながり、情報や噂を飛ばし合ったのですから。
令和の視点で振り返ると、このやり取りは誰がなんと言おうと“昭和のSNS”だったと思います。
もちろん、その“共有された”ラグチューの話題は幅広かったでしょう。今週の週刊少年マガジン連載の「釣りキチ三平」の展開、テレビやラジオが扱えない下品なネタや、オカルトやUFOブーム、さらには謎の当たり屋のナンバー情報まで(!?)―電波を通じて瞬時に地方から東京から全国へ拡散していったと思われます。
しかも当時は、手軽にHFでの電波を全国に向けて叩き出せる資格不要の「CB無線」も空前のブーム。ハンディ・トランシーバーひとつで日本全国がつながる時代だった……と考えると、今のスマホ時代と都会と地方のリアルタイムな情報の格差など、そうそう変わらないのでは?違うのは物流と地方ごとの文化だけ?

画像でご紹介した通り、本編にはアマチュア無線の目的や概要、多様なQ符号、カード交換の習慣など、驚くほど細かい解説が盛り込まれているのが興味深いですよね。矢口氏本人、もしくはアシスタントさんの誰かにハムがいたと考えてもおかしくないでしょう。
筆者自身も小学生の頃、釣り好きの友人の影響で『釣りキチ三平』を読みはじめ、『釣りバカたち』や『ふるさと』『蛍雪時代』『9で割れ!』など数々の矢口作品に触れてきました。
しかし、矢口氏の漫画にアマチュア無線が登場するのはおそらく、本作だけであり、矢口氏本人がハムであったかどうかは不明です。
もし無線免許を持たず、周囲のハムからの助言だけでこれほどまでリアルに描いていたとすれば、やはり矢口氏のエンターテイナーとしての力量に驚愕です。
一方、平成版『釣りキチ三平』では、魚紳さんがパソコンやインターネットを駆使し、三平くんも携帯電話(魚紳さんのものであるが)を使うなど現代的な描写が見られたのも面白いです。
また、矢口氏といえば、ドキュメンタリー的作品『激濤(げきとう) Magnitude7.7』で日本海中部地震を描いたことでも知られています。

同氏によれば、東日本大震災の津波被害も作品化を考えていたそうですが、残念ながら体調不良のため実現しなかったとのこと。本作『激濤』にアマチュア無線は登場していませんが、もし、矢口氏がご健在であれば、防災とアマチュア無線をテーマにした漫画などに期待があったかもしれません。
2020年11月20日、矢口高雄さんがご逝去されました。謹んでご冥福をお祈りいたします。
マイコン刑事
70年代当時、やはり漫画家の間ではアマチュア無線が流行しており、コミック版 最新ハム問題集 (CQ comics)でおなじみの、すがやみつる氏は作画中もラグチュー三昧だったそう。
両手が作業で塞がってしまうときは足元にマイクのフット式PTTを設置し、足でスイッチを踏んでQSOしていたと、ご自身のブログで当時を振り返っていました。
そのすがやみつる氏が別名義の鷹見吾郎として原作を行った漫画作品の中でも、やはりアマチュア無線を取り上げています。
レピーターの解説記事でも触れていますが、鷹見吾郎(すがやみつる氏)原作・下條よしあき氏作画『マイコン刑事』の中の一編です。

第8巻に登場する一編にて、レピーターの仕組みがわかりやすく解説されています。

漫画作品で「アマチュア無線のレピーター」が描写された作品は先述の『カモシカ』に続いて本作『マイコン刑事』があります。
なお、本作『マイコン刑事』にはアマチュア無線だけでなく、パーソナル無線、CB無線なども登場し、目が離せません。
Amazon Kindle Unlimitedに入会すると、月額980円で追加料金なしで読めます
なお、2026年現在、『少年の町ZF』『釣りバカたち』『マイコン刑事』などの名作をはじめ、三才ブックスが刊行する『ライセンスフリー無線完全ガイド Vol.2(三才ムック vol.962)』などの関連書籍は、Amazonの定額読み放題サービス「Kindle Unlimited」に登録することで、月額980円のみで追加料金なしに楽しむことができます。
「Kindle Unlimited」では、三才ムックのアマチュア無線・受信関連書籍を含む100万冊以上の電子書籍(小説、コミック、雑誌、写真集など)が読み放題の対象となっており、過去の『ラジオライフ』特集を再訪するのにも最適です。
もちろん、Kindle専用端末を持っていなくても、パソコンのブラウザやスマートフォン・タブレットのアプリから簡単に受信趣味の資料を手元でいつでも参照できます。この機会に、ぜひ入会をご検討ください。
ブラックジャック「ハローCQ」
手塚治虫氏の名作漫画『ブラック・ジャック』には、アマチュア無線を題材にした「ハローCQ」というエピソードが存在します。
物語では、日本の少年ハムと海外の少年ハムが、アマチュア無線によるDX交信を通じて知り合います。無線越しのラグチューを重ねるうちに友情を深めた二人は、やがて実際に顔を合わせる“アイボール”を約束することになります。
この「ハローCQ」は、2005年のテレビアニメ版『ブラック・ジャック』でも映像化されました。ただし、当時の時代性を反映したためか、原作におけるアマチュア無線での交信は、インターネットのチャットへと置き換えられています。ブラック・ジャック先生自身がパソコンを操作する場面もあり、原作との時代感覚の違いを感じさせる演出となっていました。
作中では、チャット画面で「CQCQ……」と入力するシーンも描かれています。一見すると不思議な表現にも思えますが、現在のFT8など、定型メッセージを主体とするデジタルモードでのアマチュア無線を連想すれば、必ずしも違和感のある描写ではないとも言えます。
おもしろ無線部員のり子ちゃん
なぜこの作品を今まで紹介しなかったのか自問自答しています。ネタが濃すぎるから!?
『JKのアマチュア無線部の漫画ってないの?面白そうなのに』みたいな呟きをたまにXでZ世代がしてますが(実際はおっさんの趣味を女子高生にやらせたいおっさん)、すでに1992年、『ラジオライフ』誌上では、横山公一氏による『おもしろ無線部員のり子ちゃん(NORI子ちゃん)』が連載されていました。
作品の主人公は、アマチュア無線部に所属する女子高生・のり子。そして、セーラーマーズ風のビジュアルを持つ級友・井上アイ子が脇を固めます。感の良い方ならお気づきと思いますが、「井上アイ子」、旧・井上電機、現在のアイコムが元ネタです。
作中では、アマチュア無線だけでなく、警察無線、自衛隊無線、各種業務無線など、“おもしろ無線受信”文化全開の濃厚なギャグが毎回展開されます。当時の『ラジオライフ』読者でなければ理解できないようなネタも多く、まさに専門誌ならではの空気感をまとった趣味密着型四コマ漫画でした。
なかでも印象的なのが、落とし物として拾った『ラジオライフ周波数手帳』のメモ欄に、現職PMの氏名や内線番号がびっしり書き込まれていた、というエピソードです。
それを見た彼女たちがドン引き戦慄する、というオチなのですが、当時は実際に現職警察官にも『ラジオライフ』愛読者が存在したとされており、その“あり得そうな生々しさ”が読者の笑いを誘いました。
1990年代初頭という、まだ業務無線がアナログ中心で、受信文化にも独特の熱気が残っていた時代だからこそ成立した作品だったと言えるでしょう。


『ヨコヤマが行く』のレポート記事も、当時の『ラジオライフ』を語るうえで外せない存在でした。横山公一氏のイラストによる解説は、ラジオライフ本誌のみならず別冊やムックでも数多く使われており、あの独特の親しみやすいカット絵とともに、無線や受信の知識を覚えた読者は少なくなかったはずです。
とくに、専門用語だらけになりがちな無線の世界を、視覚的にわかりやすく噛み砕いて説明する手腕は秀逸でした。受信機の操作法、アンテナの仕組み、警察無線の運用解説など、一歩間違えれば非常に硬くなりがちなテーマの記事にイラストでユーモアを添えいたのが横山氏の強みだったと言えるでしょう。
残念ながら、『おもしろ無線部員のり子ちゃん(NORI子ちゃん)』の『ラジオライフ』誌上での連載は2002年に終了しています。しかし、その後も横山氏は個人誌(同人誌)という形で活動を継続しており、『NORI子ちゃん』や『むせん部部活中!』といった作品を発刊しています。商業誌時代よりもさらに“濃い”無線ネタが盛り込まれており、まさにコアな無線趣味者向けの世界観が展開されていました。
また、現在では『ラジオライフ』のバックナンバーが、Amazonの『Kindle Unlimited』で閲覧可能となっています。
過去の誌面を比較的手軽に読める環境が整ったことで、1990年代から2000年代初頭の“受信文化黄金期”の空気を追体験しやすくなりました。Kindle Unlimitedは月額制の読み放題サービスとして提供されています。
アマチュア無線の出るアニメ作品
ガールズ&パンツァー
アニメ『ガールズ&パンツァー』のテレビシリーズ第10話において、登場キャラクターの武部沙織が「第二級アマチュア無線技士(2アマ)」を取得します。
ただし、劇中の免許証描写には現実の制度と照らし合わせて以下の矛盾や特徴があることが指摘されています。
- 免許番号の不一致: 本来、2アマであれば免許番号の1ケタ目は「2」だが、劇中の番号はそうなっていない。
- 発行者の記載: 現実の2アマ免許証の発行者は「総務大臣」であるが、劇中では「地方総合通信局長」名義。
グッズのICカードケースは、これらの劇中における「間違い」も含めてそのままのデザインで商品化されています。
崖の上のポニョ
2008年に公開されたスタジオジブリのアニメーション映画『崖の上のポニョ』には、災害や緊急時の対応についてアマチュア無線運用シーンを災害時の情報伝達手段という観点から考えさせられる要素が豊富です。ただし、自然災害そのものをテーマとした作品ではなく、評論家からも「主題がわかりにくい」とされることがあります。
ただ、観客によっては自然の猛威と人間の対処という側面から、防災・減災の重要性を連想する要素が散見されることは間違いなく、実際、2011年の東日本大震災以降に改めて本作を見た人々が「災害アニメとして見ると怖さが増す」と評するケースも散見されます。そして、アマチュア無線家からの目線でも、この作品は無視できません。
主人公である5歳の少年・宗助の母、リサ(声・山口智子)が嵐による停電の中、ポータブル発電機を動かして家庭内の家電に電気を供給し、アンテナを設置した上でアマチュア無線機を扱い、内航船『小金井丸』の船長である夫の耕一を呼び出す一連の場面は、無線家の間ではお馴染みですよね。

リサの呼び出しは一般的なものであり、災害時に行われる非常通信ではないことに注意が必要ですが、アマチュア無線で外部と連絡を取ろうとする姿は、リサの強い母親像と共に災害時における有用な情報伝達手段としてのアマチュア無線の重要性を示しており、視聴者に対して防災意識を喚起しているように筆者には思えます。
2011年の東日本大震災発生以降、本作が数年にわたってテレビ放映を自粛されていたという事実は、何とも皮肉なものです。しかし、大規模災害のような極限状況だからこそ、感情に流されない冷静な判断と行動が重要になります。
劇中では、嵐の最中にリサが冷静にポータブル発電機を動かして電気を確保し、アンテナを設置してからアマチュア無線機を運用するまでの一連の流れが描かれます。
そして、アマチュアバンドである50MHz帯で内航船の船長である夫との交信を試みます。50MHz帯、いわゆる“6mバンド”は国内向けの比較的近距離通信に適した周波数帯ですが、スポラディックE層(Eスポ)によって思わぬ遠距離伝搬が発生することもあります。劇中では嵐による通信困難な状況が描かれており、その演出とも巧みに重ね合わされていました。
通信は思うようにつながらず、代わりに宗介が沖合の父親の船へ向けて発光器によるモールス信号を送信します。発光器によるモールス通信も、光を利用した古典的な通信手段として一定のリアリティがあります。無線そのものではないものの、「電波が使えない状況でも情報を伝える」という発想は、古くから海上通信や軍事通信で用いられてきた考え方でした。
リサの発言は「BAKA… BAKA…」というもので、宗介はそれを無言で発光させながら送るのがシュールです。
スタジオジブリ作品には、このような通信・無線描写が他にも散見されます。『天空の城ラピュタ』ではムスカ大佐が味方にモールス信号を送信し、『紅の豚』ではポルコ・ロッソが発光信号を用いて敵へ降伏勧告を行う場面が登場します。
こうした描写は一般視聴者には何気ない演出に見えるかもしれません。しかし、アマチュア無線や通信技術に親しんだ人にとっては、思わずニヤリとさせられる、ジブリ作品ならではの細かなこだわりと言えるでしょう。
リサの自宅が実質的に“海上保安庁の施設”になっている?
これも興味深いのですが、事実上、リサのあの“崖の上”にある自宅は船の航路標識、すなわち灯台と同じ役割を緊急時に果たす存在として描かれています。
昔は灯台守という仕事がありました。これは灯台を維持管理するために灯台の近くの自宅に住み、24時間船の航行の安全のために寄与するという仕事です。
現在、灯台の維持管理は海上保安庁の業務になっており、有人灯台も2006年の女島灯台を最後に全て自動化され、灯台守は消滅しました。
「今、この家は嵐の中の灯台なの。真っ暗な中にいる人は、みんなこの光に励まされているわ」
停電で真っ暗闇の中、リサが宗介に対して発した言葉です。でもね、なんかわかるんですよね。台風の最中にコロッケを買いに行く馬鹿の気持ち。嵐の下でワクワクしながらインスタントラーメン食べてる親子の気持ち。
「クヨクヨしてる暇はないのよ。ねえ、宗介」そんな感じがします。
リサは海上保安庁から委託を受けて“民間灯台”をしているわけではなく、あくまで彼女のボランティア精神でしょう。
なぜ彼女が自宅に発電機や投光器を備えているのか、アマチュア無線の資格を取得し無線を運用しているのか容易に理解できるはず。
船乗りの夫はもちろん、多くの人の身の安全を守るためでしょう。
とはいえ、5歳の子に灯台守を任せる母親の選択。正しいか否かは筆者は容易には判断できません。
それは別として、リサが宗介ひとりにそれを任せられる理由の一つが以下の点ではないでしょうか。

あくまで筆者の考察になりますが、おそらく宗介もリサ同様、アマチュア無線の資格を持っていたからではないでしょうか。
些か不名誉な物言いですが、4アマは試験が最も優しい国家資格です。
5歳の宗介が4アマでも不思議ではありません。
むしろ、宗介がモールス符号を理解し、投光器による発光信号でそれを使いこなしている姿を考慮すれば、3アマの可能性もあります。
幼い子どもであっても、実際に親の影響や興味から無線技術を学び、実際に免許を取得しているケースは少なくありません。

余談ですが、下記のアニメ作品「ミームいろいろ夢の旅」に登場する小学生のキャラクター2人は、使用している周波数帯から上級資格である2アマもしくは1アマとして描かれています。

リサと宗介は離れていても、万が一の際は無線によって互いに安否確認したり、助けを求めることができるからこそ、リサは水も食料も無線機も発電機もある崖の上の安全な家に宗介を置いていったということに他ならないのではないでしょうか。
したがって、リサの放任主義と言い切ってしまうのは些か早計だと思います。
あとは出先のリサ側に無線設備があるか否かですが、見た限りリサの自家用車ミニカトッポにモービル機が付いていたり、アンテナが上がっていたりは不明。
しかし、ハンディ機の1台ぐらい車に積んでいたり、職場に置いていても不思議ではないと思います。
ミニカトッポは色々なものを積んでいましたし、トランクルームに移動運用セットが一式納まっていたりするのかなと想像すると楽しいものです。
また「崖の上のポニョ」では、彼ら親子が名前で呼び合ってるのも特色。
この『家族が名前で呼び合う』という事実を無線のコールサインに関連付けて考えると、彼らが日常的にアマチュア無線でお互いをコールサインで呼び合っていることのダブルミーニングを示唆しているのではないかとも筆者は推察しています。
ただし、台本には「普段全然使っておらず本に埋もれている無線機」という一文がありますので、原作の設定を半ば無視した筆者個人の完全なる推察であることはご容赦ください。
ザ・シンプソンズ
国外ではアメリカの人気テレビアニメ『ザ・シンプソンズ』にてアマチュア無線がたびたび登場し、面白いエピソードを披露してくれます。
原子力発電所に検査官として勤務する主人公のホーマーがライセンスを持っているようで、意外と多くのエピソードでアマチュア無線を描いており、驚かされます。
中でも、シーズン1のエピソード11ではホーマーの息子・バートの交換留学生としてやってきたアルバニアの生徒が実はスパイで、ホーマーの勤務する発電所の情報をアマチュア無線で本国へ送るというエピソードはリアルのスパイ事情を皮肉めいて描いています。

以下のサイトで詳しく紹介しています。https://www.qsl.net/kb9mwr/files/ham/cartoon/cartoon.html
ちびまる子ちゃん
1997年に放送された第2期の第133話「まる子、アマチュア無線にあこがれる」というエピソードでは、まさにアマチュア無線の世界が非常に丁寧に描かれています。
筆者はAmazonプライム会員であった時期に、付帯する動画見放題サービスを利用してこの回を無料視聴することができましたので、その内容をご紹介します(※2026年現在、本エピソードは無料配信の対象外となっており、視聴できません)。
物語は、クラスの秀才・長山君がアマチュア無線の免許を取得したことに興味を持ったまる子たちが、実際に長山君の自宅で無線の運用を見せてもらうという展開です。作中では無線機や交信の描写が細かく、子ども向けアニメとしては異例のリアリティがあります。
「養成講習会でも免許が取れるよ」という長山君のアドバイスを受け、まる子たちは一時的にアマチュア無線家を目指すものの、講習会テキストの難易度の高さ(学校ではまだ習っていない漢字が登場するなど)に圧倒され、あきらめてしまいます。帰り道では顔面蒼白のまま歩くまる子たちの姿が描かれ、最後には“偶然”通りかかった野口さんが、実はすでにアマチュア無線の免許を取得しており、長山君の交信を傍受していたというオチで締めくくられています。ここで、野口さんのあの決め台詞「言えやしないよ…クックック」が電波法に対する皮肉として効いてるのがさらに唸らされます。
そもそも原作者のさくらももこさん(コールサイン:JI2EIT)が実際にアマチュア無線の従事者免許を所持していたことが知られています。
つまり、現実をアニメに当てはめると「ちびまる子ちゃんはアマチュア無線の資格を持っている」という、”なに、その裏設定”みたいな感じなわけです。あ、たまちゃんも取得してますぞ。まじで。
この事実を言葉にすると、思わず笑みがこぼれるほどのインパクトがありますね。タモリさん(JA6CSH)が「へー」を連打しそう。電鍵でな。
平成30年8月15日、ちびまるこちゃんの原作者であるさくらももこさんがお亡くなりになられました。謹んでご冥福をお祈りいたします。
ミームいろいろ夢の旅
二つ目は『ミームいろいろ夢の旅』という80年代に放映されたテレビアニメです。別記事にて詳しく解説していますが、電波法と資格、電波の特性、実際の運用、フォックスハントまできちんと解説された驚くべきアニメです。

小学生の主要キャラが実際のアマ機を操作し、14MHzでのオペレートをそつなくこなす描写は度肝を抜かれ、当時のアマチュア無線教育的価値も高いのですが、放送当時からハム界隈でほとんど知られていなかった点は謎であるうえ、現代でも知名度は低いのが解せません。
理由として、キャラクター表現が“萌え”文化的要素に欠けることや、当時のメディアでの紹介が限定的であったことが考えられますが、各種配信サービスでの配信と、当サイトでの紹介により、ようやく技術的価値が再評価されつつある昨今と言えます。
逆に“非科学的”な当サイトが紹介してしまったことで、アマチュア無線界隈の(科学的な)大御所サイトが紹介できない可能性もあります。
💡 補足:各方面に、すいやせん。
City Hunter3
上記二つの作品以外では『City Hunter3』の11話で悪役がアマチュア無線の433MHzで悪巧みの連絡をしていました。
その他のキャラ
無線ガールズ
icom(株)が「無線ガールズプロジェクト」として、自社製のベストセラー受信機「IC-R6」を擬人化。アイコム関連のアマチュア無線ショップ「デジハムサポート」が直接的に展開。

主要メンバーには『Kira』『Akane』『Sora』(さらに「IC-R15」モデルの『Yuki』も登場)がおり、それぞれIC-R6のカラーバリエーションに対応した衣装を纏っている。
アマチュア無線が登場した映画やドラマ
こちらは実写作品におけるアマチュア無線の描写を取り上げます。
※以降、物語のネタバレにご注意ください
あいつと俺
『あいつと俺』は1980年に制作され、1980年から1984年にかけて東京12チャンネル(現・テレビ東京)で放送された刑事ドラマです。主人公の峰山凡太郎を名優・川谷拓三が演じ、相棒の山田平太を清水健太郎が務めるバディものです。
峰山刑事は、アマチュア無線を趣味とする“変わり者”として描かれている。劇中では、捜査の合間に無線機を操作して交信を楽しむシーンがあり、CQの出し方、コールサインのやり取りなどが細かく描かれていました。
峰山の無線趣味は刑事としての堅苦しさだけでなく、遊び心や人間味を視聴者に印象づける効果もあり、興味深い描写でした。
ただし、峰山への同僚刑事からの目は「どこが面白いのそんなの。趣味悪いよな」などといった具合に、あたりは強い(!?)
『あいつと俺』
ベテラン刑事と新米刑事の2人が日本を旅しながら、行く先々で起こる様々な事件を解決していくロードムービースタイルの刑事ドラマ。地方への出張捜査ばかりを任される、野暮ったくて変人と呼ばれながらも人一倍心の温かいベテラン刑事・峰山に川谷拓三、そんな峰山の生き方に惹かれ、自ら望んで峰山と組んでいる新米刑事に清水健太郎が扮する。また彼らに興味を持ち取材という名目で二人を追いかける雑誌の記者役で、「ひまわり娘」でおなじみの人気歌手、伊藤咲子が出演。ほとんどのシーンが各地のロケで撮影されたぜいたくな作りとなっている。
出典 Amazon
当時の刑事ドラマで、主人公が必ず持っとった3つのアイテムは警察手帳、けん銃、手錠。
峰山は『警察手帳と私物のアマチュア無線のトランシーバー』しか持たない、ちょっと変わり者の捜査一課刑事という設定です。相棒の山田と一緒に毎回全国各地へ出張捜査に向かいますが、その手荷物の中には、しっかりハンディ機が入っています。
峰山は道中や各地でCQ出してポータブル運用で息抜きする…という描かれ方が、それまでの刑事ドラマとは大きく雰囲気が異なります。
”ロードムービースタイルの刑事ドラマ”といえば、『Xファイル』がありますが、もしモルダー捜査官が毎回の出張で、宿泊先のモーテルの窓際からアマチュア無線やってたら…って妄想したらスカリーは呆れます。
ただ、視聴者が期待しがちな「アマチュア無線が事件のきっかけになる」っちゅう展開はなし。
第1話では、峰山がいきなり真冬の北海道・オホーツクを走る国鉄の車内で、鞄からトランシーバーを取り出して堂々とCQ呼び出しを開始するものの、同僚は彼の趣味にまったく理解なし。
車内では電波の送受信環境が悪いから、列車の窓開けて無理やり交信しようとする峰山。相棒の若い新人刑事・山田が『寒いでしょ!』ってピシャリ。

第2話では、別の刑事が旅館で映りの悪いテレビのチャンネル合わせに苦労する横で、峰山はトランシーバーの周波数合わせて受信に夢中しています。
『どこがおもしろいの、そんなの?趣味悪いなあ』
さらに、レストランでパスタを美味そうに頬張る峰山。テーブルの上にはトランシーバー。

地元の女性ライダー“アーマライトM16の女”に『それ何?』って聞かれた峰山は、サラダの具の“ハム”をフォークで刺しながら、『ハム!』と答えます。
『あんた、誰?』
『JR2S○Y!』
”ハムにハムをかける描写”って、意外と多い。『崖の上のポニョ』とか、ミームとか、本作とか。
こんなふうに、本筋とはあんまり関係ない感じで、峰山のポータブル運用シーンがちょこちょこ挟まります。
『太陽にほえろ』では、レギュラー刑事の一人『殿下』が資格を持っており、アマチュア無線の非常通信で事件解決につながる話がありましたが、『あいつと俺』では、峰山の無線趣味が捜査に直接役立つことは……!?
とはいえ、第9話の大分出張で、船酔い&飛行機酔いしながらもトランシーバー片手に交信するシーンでは、川谷拓三の演技が光ります。
CQ呼び出し、相手局からの応答、そしてサブチャンネルへQSYしてからラグチューに至る一連のやりとりが、今まさに43年後の私たちがやっている運用と全く同じで、見入ってしまいます。
最終回の第12話でようやく彼のトランシーバーが、心を悪に染めた青年たちに呼びかけるために使用される場面が描かれていますが、彼ら(特定の局)への呼びかけの際に不特定多数の呼び出しである『CQ、CQ』は変かも?
ちなみにエピソードは全12話。ところが、実際にはたった4話で打ち切り。残りの8話は、なんと4年後の1984年の再放送時にまとめて放映されたとのことです。つまり、制作年は1980年、放映は足掛け4年です。
派手なアクションはないものの、ロードムービー的な作りのおかげで、80年当時の全国各地のいい感じの風景が記録され、情緒と人情あふれる、まさに古き良き刑事ドラマです。
ある意味、無線家には伝説的なドラマでしょうか。
2026年現在『あいつと俺』はAmazonプライムでNihon Eiga Net(月額550円)対象作品として配信されています。
7人のオタク
脚本家によると、「アマチュア無線は冒険アイテム」であるという……。
ミリタリーオタクの主人公・星(演・南原清隆)にスカウトされた格闘技オタクの近藤(演・内村光良)、Macintoshを愛するIT会社の社長・田川(演・江口洋介)、その恋人であるりさ(演・山口智子)、アイドルオタクの国城(演・武田真治)、そして無線傍受オタクの女子中学生・水上令子(演・浅野麻衣子)。
さらに、おたく趣味を封印しながらも正義の心を忘れない、特撮ガガガ(!?)な丹波(演・益岡徹)など、個性豊かな面々が、それぞれの知識を武器に所狭しと活躍。
それぞれの分野に秀でた彼らスペシャリストたちに課せられる任務とは。

出演者は上記に画像を引用した通り、ウッチャンナンチャン、江口洋介、武田真治、山口智子、益岡徹。さらに悪役の中尾彬と豪華メンバーが。
そして、当サイトの推しは、やはり無線傍受オタクである水上令子こと、浅野麻衣子の活躍です。
令子が消防無線を傍受する姿に、もう一人のヒロインである「りさ」(演・山口智子)がドン引きするシーンも印象的です。そう、実は本作には何故か山口智子さんは「りさ」役で出演します。山口智子さんといえば、『ポニョ』で声優として「リサ」を演じています。今にして思えば、これは非常に面白い偶然といえるでしょう。
もっとも、こちらのりさはアマチュア無線従事者ではなく、消防無線を嬉々として受信している無線マニアの女子中学生に絶句する「普通の女性会社員」という役柄でした。
ときはバブル崩壊直後の1992年。東京・某所。昭和の名残が色濃く漂う木造アパートの一室に、謎の男がひとり住んでいる。彼の名は星 亨(ほし・とおる)。常に迷彩服をまとい、口を開けば戦術語り出す、筋金入りのミリタリーオタクだ。
部屋には山積みの軍事専門書、棚からあふれるエアガンと予備マガジン、床に転がるガス缶、そしてなぜか本棚にひっそりと佇む『友だちの作り方』。――そう、彼は決して“悪人”ではない。だが、そのディープな趣味が災いし、仲間以外に交友関係は皆無。
だがある日、彼の平穏(に見える)日々に突如として“作戦開始”の合図が鳴り響く。
アパートの隣室に住む外国人女性ティナが、ある夜、謎の男に襲われたのだ。その男の名は高松。静岡沖の某島を拠点とする、ならず者漁師集団のボスである。密漁で荒稼ぎし、島では「網元」としてのさばる男。島の警察機能はほぼ皆無、海上保安庁も取り締まりに手を焼く、まさに“無法地帯”の主だ。
ティナはかつて高松との間に子をもうけたが、DVに耐えかねて島を脱出、東京で子供・喜一と静かに暮らしていた。だが、高松は突如ティナの部屋に現れ、札束を叩きつけると「連れて帰る」と喜一を連れ去った。
その瞬間、星の中のスイッチが入った。
「俺ぐらいになると、ただのサバゲーじゃ物足りないんだ」
正義感からではない。あくまで自己の欲求――本物の“任務”に飢えていた。
星は立ち上がる。まずは“仲間”集めからだ。彼がスカウトするのは、それぞれのジャンルに特化したオタクたち。メカオタ兼ドルオタ、パソコンおたく、格闘技おたく、そして無線少女。
個々の能力は変態的に特化していても、一部を除いて社会性はほぼ皆無。でも、星にはわかっていた。「偏った才能こそ、作戦には必要だ」と。
かくして――異能のオタクたちは静岡の片隅にある旅館に集結。目的はただひとつ。
「奪われた子供を取り戻す」。
負け続けるミリオタに訪れた、たった一度のチャンス。オレが欲しいのは金じゃない。ミリタリーマニアが描いた夢。オレが仕切る地獄の黙示録。サバゲーフィールドじゃない、リアルな戦場に、オレの夢を埋めるのだ・・・!
みたいな沢田研二みたいな感じで、ひとり燃える星に唆された(?)おたくたち。ややこしい人間模様が交錯する、オタク版『荒野の七人』。かつてないジャンルクロスの予感。
そう、星率いるチームが挑むのは、リアルの戦いだ。サバゲーのルールは、ここには通用しない――。スカウトせよ! 無線傍受オタク――その名は水上令子
というわけで、本作では主人公の星から、おたくたちが各種の方法と様々な場所でスカウトされていく過程が見もの。

どのオタクたちもキャラが立っており、星によるそれぞれのスカウト方法も面白いのですが、そのスカウト方法はぜひ本編を視聴していただくとして、当サイトとして注目したいのはやはり「無線傍受おたく」の女子中学生・水上令子(演・浅野麻衣子)です。
彼女のスカウトから訓練、実戦までの活躍をご紹介。
東京の片隅、流行の最先端とは真逆のベクトルで生きている——そんな少女がいます。SNS?メイク動画?まぶたの上でラメを踊らせてる暇があるなら、彼女は周波数を一つでも多く合わせたい。名前は水上令子。見た目はごく普通の女子中学生。でもその内側には、ちょっと古めのアキバの魂が宿っています。あの時代の「本物志向」、いまだ健在なのです。
彼女のパラダイスは、竹下通りではなく学校の屋上。昼休みになると、クラスの女子たちはダンスを踊っていますが、令子はといえば、ハンディ受信機を手に、テレホンカードの磁気を削るという謎の儀式に勤しんでいます。
彼女の関心は明らかに「中学生女子のテンプレ」から大きく逸脱。憧れの対象はSMAPでもファンシーグッズでもなく、消防無線やコードレスホン。聞こえてくるのは恋バナではなく、「119、こちらXX消防本部。イチマルマル現着済み!」なんて男臭い交信ばかり。でも、そこにこそロマンがあるのでしょう。
そしてある日、事件は起こります。
いつものように屋上で受信機で謎電波をサーチで拾っていた令子の耳に、異様な信号が引っかかります。低い男の声が、繰り返し繰り返し、ひとつの住所を読み上げているのです。
「……渋谷区松涛3の2の5……渋谷区松涛3の2の5……」
合間に流れるのは、時報のような電子音。コードレスホンの漏れ電波でも、自衛隊でも、ましてやアマチュア無線でもない。まるで、都市のノイズに紛れて存在を主張する亡霊のような電波。
その瞬間、令子の目が静かに燃え上がります。
ポシェットの中には、受信機。興奮を押し殺すように、放課後、彼女は制服のまま向かいます。もちろん、あの住所——渋谷区松涛3の2の5。
電波のミステリーに取り憑かれたひとりの少女。
それはきっと、誰の“青春”とも違うけれど、彼女にとっては間違いなく“本物”の旅の始まりです。
政財界の大物たちが邸宅を構える静寂の住宅街。高級車が並び、通学服の少女にはまるで似つかわしくない場所です。
目指す住所の前にあったのは、草に埋もれた洋館風の廃墟。
「ここから……?」
確信を持てぬまま、令子は敷地内へと足を踏み入れます。
古びた階段を上りながら、微弱だった電波が徐々にクリアに。
やがて、それは無線ではなく“肉声”へと変わります。
――そして次の瞬間。
迷彩服の男が、廊下の奥から飛び出してきました。
驚いて逃げ出そうとする令子。ですが、その男、星亨はこう告げたのです。
「わずかな電波を、よくキャッチした」
その言葉に、どこか心がくすぐられる感覚もありました。
しかし、次に出た『キミ(の能力)が欲しい』という星の怪しい言葉に令子はドン引き。
令子は顔をしかめつつも、なりゆきで星のスカウトを受け入れ、メンバーに。
“迷彩男”にスカウトされた無線少女――。
彼女の能力は、これから始まる“任務”に必要不可欠なものでした。
脚本は一色伸幸氏
ここで当サイトの過去記事の「ある80年代アニメの紹介記事」を見た方なら、ピンとくるはず。「少女が無線機(受信機)片手にフォックスハント…!?」
そう、1985年放送のアニメ『ミームいろいろ夢の旅』の一編に、アマチュア無線を題材にした話がありましたが、まさに「少女が無線機片手にフォックスハント」です。驚くべきことにその脚本も「七人のおたく」の原作・脚本を手がけた一色伸幸氏によるものです。驚きのつながりです。


その一色伸幸氏、やはりアマチュア無線には思い入れがおありのようで、アマチュア無線を冒険アイテムと定義。
ホイチョイ3部作って、どうも不思議で、ストーリーは「モテない奴が最後にモテる」し、背景はスキー、アマチュア無線、車、スキューバ、FM電波とか冒険アイテムばかりで、どう考えても男向き。それなのになぜか女性客が詰めかけた。ちなみに企画&脚本製作に女性はひとりも参加していない。
— 一色伸幸 (@nobuyukiisshiki) May 3, 2024
【潜入レポート】熱海に集結せよ――“おたく”たちの旅館ベースキャンプ
星亨が選んだ“精鋭”たちは、ただのおたく集団か、否か。
無線傍受、格闘、PC、アイドル兼メカオタ……それぞれが自分の世界で研ぎ澄まされた、真の「オタク」たち。
彼らはついに、静岡・熱海へと集結。
作戦実行のための拠点となるのは、海沿いの小さな旅館。
しかし、作戦会議の前に繰り広げられたのは、それぞれの趣味に没頭する“日常”。
格闘技オタク・近藤(演:内村光良)
襖の奥からは、何やらうなるような気合の声。
格闘技オタクの近藤は、黙々と肉体鍛錬中です。
汗を拭う姿は、もはやこの旅館が合宿所にしか見えません。
アイドルオタク・国城(演:武田真治)
その隣の部屋では、ある種の“異様な静けさ”が支配していました。
アイドル同人誌の編集作業に没頭するのは、国城。
アイドル誌に貼った付箋とホッチキスの音、そして唐突に入るテレビのCMミュージック。
間髪を入れずにリモコンの録画ボタンを押します。その動き、約0.7秒。IC-R6の100メモリーのスキャンより早い。
「……まさかCoCoが静岡のコンビニをパブ(宣伝)ってるとは……おっ、まだ瀬能あづさいるもんな。まったく……ローカルは宝箱だ」
国城こそ、本作における“最もステレオタイプ的なオタク”像。
武田真治の演技には、背筋がゾワッとするようなリアルさがあります。
OL・りさ(演:山口智子)
その光景に呆然としていたのが、PCオタク・田川に同行してきたOLのりさ。
彼女だけは、この場に「連れてこられた」立場です。
国城に同人誌を980円で売りつけられた直後、今度は星亨のエアガン射撃練習に巻き込まれ、目の前をBB弾がかすめます。
うんざりとした表情で一言も発しませんが、その顔は物語っています。
「私だけはオタクじゃない。この場で私だけが唯一、ふ・つ・う!」
ちなみに公式設定では、彼女の属性は「レジャーオタク」。
しかし、広告でのテロップはあえて「ふ・つ・う」と明記されており、この空間の“異常性”を引き立てる対比となっています。
PCオタク・田川(演:江口洋介)
そんなりさの「普通」な思いとは裏腹に、恋人・田川は本気モード。
普段はソフトウェア開発会社の若き社長ですが、この時ばかりは星の指示でMacintoshにかじりついていました。
任務:偽造音源の製作。
使用する素材は、なんと令子が傍受したコードレスフォンの交信データ。
そこから音声を切り貼りし、“それらしい会話”を作り出す高度な工作に勤しみます。
無線傍受オタク・令子(演:浅野麻衣子)
そしてもちろん、水上令子もまた、自らの“得意分野”に集中していました。
テーブルに向かい、広げたのは分厚い周波数帳。
片手に鉛筆を持ち、傍にはハンディ無線機。
目的は、静岡県内のアクションバンドの傍受。
ちなみに、本作に協力したのは『ラジオライフ』ではなく、ライバル誌「アクションバンド電波」。
スタッフロールにもその名が記載されており、細部にまでこだわった“本気”の姿勢が伺えます。

【傍受と出動】令子の耳が捉えた“955”の緊急電波――作戦前夜の静寂の中で
やがて、無線傍受に集中していた令子のハンディ機が、地元消防局の無線を受信します。
浜松市消防局の消防無線。
広帯域受信機能により、令子の耳に飛び込んできたのは、救急隊から消防本部への容態報告の電波でした。
緊迫の無線傍受――955、944、そして“天使の輪”
「……これ?」
旅館の静けさを破って、傍受された消防無線が復調されます。
『救急浜松1、955。944に移行』
コードの意味を理解できないりさは、傍らの令子にそっと尋ねます。
「きゅーよんよんって……何?」
令子は無言でノートを開き、そこにふたつの記号を描きます。
「倒れた人」のアイコン
「天使の輪っか」
消防無線のコード「944」の意味を悟ったりさは絶句。
緊迫の消防無線に身を強張らせながらも、りさは令子にそっと尋ねます。
「……楽しい?」
少女は当たり前のように微笑みながら一言。
「とても」
このやりとりの、なんとも言えない距離感と余白。
「楽しい……?」と問う“ふ・つ・う”と、「と・て・も」と答える“異端”
“ふ・つ・う”代表・りさの違和感。
一色伸幸さあああああん。・゜・(ノД`)・゜・。
この時のりさは、アマチュア無線どころか、消防無線という存在そのものが未知の領域。
ジュリアナ東京でボディコン姿で踊り明かしている、活発な「レジャーおたく(ふ・つ・う)」――という設定。
演じるのは、山口智子。
それがあれから15年後、「崖の上のポニョ」では介護施設職員となり、アマチュア無線機(しかもHF機!)を扱う母親役に。
【作戦決行】令子のコード151報告、そして高松邸へ
そして深夜、ついに作戦は動き始めます。
令子は斥候として敵地・高松邸へ接近。
旅館にいる星に、ハンディ型アマチュア無線機で状況を報告します。
『高松、151。151』
これは、東京消防庁の通話コードで「出動」を意味する数字。
ミリタリーオタクの星も、さすがに消防無線のコードにはピンとこなかった様子。
『なんだ?151って?』
もちろん、アマチュア無線で通話コードのような暗号を使うのは禁止事項。
さらに、メリット交換(通信同士の同意)なしでの“目的外通信”ということで、グレーゾーンどころか限りなく黒に近い運用です。
※ちなみに、星の使う無線機は見た目ほぼ軍用無線機。従事者免許、持ってるんでしょうか……。
【突入】星の電灯破壊と、近藤の一撃
報告を受けた星たちはついに敵である密漁団ボス・高松の邸宅へ“浸透”します。
先制は星。手にしたエアガンで、家の外灯を正確に撃ち抜きます。
これは当時合法だった3ジュール前後の高威力改造品の可能性大。当時から東京マルイ製電動ガンの標準出力は1ジュール未満でした。
続いて星の指示により、近藤が門戸を正面から蹴破り、突入。
『まさかこのために俺を呼んだのか……?』と不満をこぼします。
……が、直後に発覚する衝撃の事実。
その門戸、実は普通に開けば入れた。
近藤の信頼は一気に崩壊。星に対する不信感が表面化します。
【奪還?誘拐?】喜一を抱きかかえる星
星の目的、それは幼児・喜一の“奪還”。
彼は喜一を抱き上げ、旅館へと戻ろうとします。
それを見た田川(演:江口洋介)が、静かに問いかけます。
「……これって、誘拐なのか?」
“おたく”たちが己の信念と趣味に殉じる中、誰もが法の“ギリギリ”を歩いている。
だが、それぞれが自分の“好き”を信じて、突き進むその姿――。
この夜、熱海の静寂は彼らによってかき乱されていくのです。
おたく、失意の撤収。そして輝く
時はまさに、世紀末の夜。
濃い霧と潮風が混じる漁港の岸壁に、暗い波が打ち寄せていた。そこへ、闇の中からざわめくように現れる高松率いる不良漁師たち。手には釣竿でも網でもなく、錆びた鉄パイプやバール、角材——まるでヒャッハーな世紀末劇場。
逃げ場のない星たち。追い詰められる小さな希望の灯。
しかし、その時。
港の向こうから、甲高い警笛が響いた。
白く鋭い光を放ちながら、海上保安庁の巡視艇がゆっくりと滑り込んでくる。スピーカーから流れる保安官の声は冷静で無機質。
『また出たんだ、例の特攻船(密漁船)が』
高松の手下らは余裕の笑いで手を振る。
「ご苦労様でーす。本土の奴らでしょう」
星、ここぞとばかりに叫ぶ。
「お願いです!本土まで乗せてくださーい!」
当然、事情を知らぬ海保は冷たくスルー。
——絶望。
喜一を取り戻され、暴力で制圧されかけるその時。
りさが静かに、しかし毅然と星からエアガンを奪い取る。
そして、一瞬の行動だった——
BB弾の斉射、巡視艇の照明灯に命中。
弾ける光り、照明が落ちる。
りさの捨て身のアイデア(罰金とエアガン没収で済んだ)で司法警察(海上保安庁)を介入させたのだった。
国城の車内。
「とにかく、ひとまず東京へ戻ろう」
ところが、安堵の空気も束の間、再び角材を持った漁師たちが車を襲撃。
その中の一人が、運転席のダッシュボードに飾られたアイドルのフィギュアを発見。
「……?」
言葉を失う漁師。
その隙を突いて、国城が車を急発進させる。砂煙を上げながら脱出に成功。
だが、激しい追撃と暴力に晒されたオタクたちは、ついに心が折れる。
一時退却。
リーダー格の星と、無口な武闘派・近藤だけが現地に残り、奪還の機会を窺う中、他のメンバーは東京へ帰還。
東京——それぞれの生活へ。
田川は、自作ソフトの開発に没頭すぎて会社が経営難。
国城は、同人誌の資金を持ち逃げされたあげく、
「次の同人誌、どうすんだよ!お金は何に使った!」
と仲間と揉めている。しかも使い込み先は「高橋由美子のネパール写真集追っかけ」だったというオチ。もう取り戻せない。
4-無線おたく令子役の浅野麻衣子さんは公募オーディションで選んだ。当時は公募して1万人以上の中からキャストを選ぶ余裕が、まだあった。ちなみに、役のイメージとは違ったのだけど、我々の目を捉えた少女がいて、彼女にはアイドル役で少し出演してもらった。それが京野ことみさんである。
— 一色伸幸 (@nobuyukiisshiki) November 19, 2022
もしかして、無線オタク少女は京野ことみになる可能性もあったのかもしれません。時の輝き。
一方その頃、令子は星のために静かに動き出していた。
舞台は都内郊外、林の中にあるサバイバルゲームフィールド……、ではないことは確かだった。
迷彩服に身を包んだ男たちが、エアガンを構え、汗と熱気でほこりっぽい空気を揺らす。撃ち合う銃声、『ヒット!』の声、飛び交うBB弾。だが、端を通り過ぎる無関係の親子にはまるで気づかない様子。
ゲーム、中断なし。
——安全意識?なにそれ、という時代。
「すみません……星って人のことで、お話があって」
ゴーグルもせずに立ち入る令子。
本来なら入場禁止のはずだが、誰も止めない。
そこに現れたのが、星のサバゲー仲間兼上司(私は社員、あいつはバイトぉ!)。

「スタンガン? 貸せないねぇ」
そして一言、
「あいつ、肝心なときにビビる。いつも負けチーム。だからあいつは、ひとりチーム。“負けボシ”」
その言葉に、令子の視線がわずかに揺れる。
だが彼女は、諦めなかった。
「もう、貸してもらう必要なんかない」
彼女はそう思ったかもしれない。彼女の手には、BB弾より小さな「再起」の火花が宿っていた。
令子、再起動。
このシーンがあとで、彼女が自ら作った“自衛装置”を手に、不良漁師たちに立ち向かう伏線になります。
サバゲー協力はホビージャパンの月刊アームズマガジンが担当していますが、たぶんこのゲーマーの皆さんは編集部員でしょうか。
無関係の親子がフィールドを通り過ぎてるのにゲームを中断しなかったり、ゴーグルしてない令子をゲーム中に入場させたり(そこはそもそも専用のフィールド?)、今だと炎上する可能性も。実際、近年でも映画「世界は今日から君のもの」のサバゲー中に俳優がゴーグルを外してスマホで通話したため、炎上が起きています。
結局、令子は貸してもらえず、自作します。
帰りの電車、車窓に流れる夕暮れの住宅街をぼんやり見つめながら、バッグから取り出したのは基板と半田ごて、そして古いトランジスタのセット。夜通し組み立てたのは、かつて自作して失敗した試作型・小型パルスショックユニット(これは妄想です)。
不良漁師集団でただ一人の正義漢で隠れオタクの丹波さん登場
一方、星と近藤は反撃の機会を得るべく、再び島へ。
バナナボートと遠泳によるネイビーシールさながらの隠密上陸。月明かりの下、浜辺に身を潜めたふたりは、山中の廃屋を発見。そこを前進基地として立てこもる。
夜。
星は暗視スコープを手に敵情視察を試みるが、番屋で魚を焼いていたため、あっさり発見されてしまう。
「こんなところじゃ、すぐ見つかるぞ」
声の主に思わず身構える星と近藤。だが、相手の顔を見て別の意味で驚いた。
「丹波さん……!? あのホビージャパンのジオラマの……」
「フィギアの神様だ……コミケで買いました。ウルトラマン、ゴレンジャー……」
現れたのは丹波達夫。特撮フィギアに造詣が深い伝説の原型師。今は島の漁師で、高松の手下として働いているが、実はかつては筋金入りのおたく。
丹波は、妻子を得るため、5年前にオタク趣味を封印していた。
だが、先日の漁港で国城の車に飾られたフィギアに目を奪われ、襲撃の手を止めたのは、他ならぬ彼だった。しかも、そのフィギアの原型は自分が作ったものだった。
今いる番屋は、丹波の隠れ作業小屋。
棚の奥には、特撮ものやミンキーモモなどのフィギアが、埃をかぶって整然と並ぶ。
「ジオラマは愛だ。作るぞ……きっちり!」
丹波は、星と近藤の作戦を支援するため、ジオラマによって島の全景を作成することを申し出る。
3人は明け方まで没頭し、ついに島の全貌を再現したジオラマを完成させる。
だが、丹波は言う。
「俺にできるのはここまでだ……。高松は、予想以上に凶悪で強敵だ……。お前たち、もう帰れ……」
そして、黙ってその場を去る。
そして、空が白む中──
星が叫ぶ。
とはいえ、あの「ガガガ」みたいな丹波さんから「帰れ」と一喝されてしまえば、従うしかありません。
星と近藤はついに撤退を決意し、浜津駅のホームで東京行きの電車を待っていました。
しかしその頃、彼らの意思とは裏腹に、かつて散り散りになったオタクたちが、それぞれの想いを胸に静岡の地へと戻りつつありました。
中には、オタクと見なされず“戦力外”だったりさが。星が掲げた“人道的救出ミッション”に心を動かされ、協力を申し出たのです。
ただ一つ、令子が再び現れた理由だけは、いまひとつ明確ではありません。
スタンガンを調達できなかった彼女は、「じゃあ、自作する」と言い出し、再び作戦への参加を懇願します。
その様子に、星は思わず「おまえ……なんで!?」と、不思議そうな表情を浮かべるのでした。
この星と令子の微妙な距離感の描写がまた絶妙で、視聴者の妄想をかき立てます。どうやら令子のほうは、星に対してまんざらでもない様子。“キミが欲しい”のセリフが効いたのかもしれません。
しかし、星の方はオタクのくせに、最初から”普通の女性会社員”であるりさに夢中(まるで電車男のような感覚)。令子のことは、おそらく“サバゲー仲間”くらいにしか思っていない様子です。
それでも、無線傍受オタクとミリタリーオタクということで、どこか波長が合うのでしょうか。もし二人が将来結婚していたら、ラジオライフのペディに仲良く参加していたかもしれませんね。
「第二次作戦開始だーッ!」
そして再び作戦が始まります。令子は敵をハニートラップにかけるべく、高松らのたまり場であるスナックへと化粧をして向かいます。
しかし、そこには大きな壁が――
彼女はまだ女子中学生。色仕掛けには無理があり、ハニトラ作戦は痛々しいほどに失敗。
代わりに登場したのはりさ。彼女は歌と踊りで場を魅了し、高松らの心を一瞬でつかんでしまいます(ちなみに、先日のM16乱射事件で顔は割れているはずですが……?)。この展開に嫉妬した令子は、ハイヒールを無言で軽トラのフロントガラスに投げつけて破壊――このシーン、笑いどころです。
物語後半では、またもアマチュア無線が登場。令子は携帯したハンディ無線機から電波を送り、遠隔操作式の発煙筒を起動させます。この使い方、正直かなりグレーです。
そしてラストに繋がる伏線が──『誰でも空が飛べるシミュレーションソフト』。
星は満足感の達成のために、近藤は真の正義のために、田川は自ら開発したソフトの実証のために、国城は同人誌の印刷資金のために、令子は――もしかすると星のために。そして、仮面男・ダンこと丹波は……高松への積年の鬱憤か、それとも心の奥にあった正義感が芽生えたのか。
りさは? ティナへの同情か、それともただのレジャー気分だったのか。ある意味、ラストで一番魅せてくれるのは彼女でした。
──いずれにせよ、彼らの戦いが再び始まったのでした。
本作は、日本では珍しい「最後にほろりとさせる」バランスの取れたアクション・コメディの金字塔と言える作品です。1992年の公開当時は、まだバブルの余韻が残っており、街の風景や人々の暮らしぶりにも、どこか余裕が感じられます。田川が乗ってるのもフェラーリだし。全体的に“貧乏臭さ”がないのも、本作の心地よさのひとつです。
ところが1994年以降になると、世の中はブルセラ騒動やリストラ問題など、徐々に荒み始め、95年には阪神大震災と地下鉄サリン事件で決定づけられ、日本映画作品に漂う空気も暗くなってしまいがちです。そういった意味でも、絶妙な時期に撮られた一本だと言えるでしょう。
やはり、テレビアニメ「ミーム」のアマチュア無線の話同様、一色伸幸さんの得意とする張り巡らされた伏線が最高。じわじわ来るのがいいですね。
エンディングのスタッフロールでは、それぞれのキャラクターの趣味を象徴するアイテムと共に、彼らを模したフィギュアが登場。
星はもちろんエアガン、近藤は太極拳のウェア、国城は同人誌、田川はMac、令子はアマチュア無線機と、それぞれの個性が楽しく表現されています。
ところが、りさだけは“パスポートと海外旅行のパンフレット”。うーん、やはり彼女はオタクではなく、「ふ・つ・う」のOLだったということでしょうか。
……なんだ、“普通”って(笑)。
本作の取材協力として、 宅八郎、月刊アームズマガジン、季刊武術、月刊MACPOWER、月刊アクションバンド、月刊ホビージャパンなど錚々たる業界の重鎮が名を連ねます。宅八郎さんは早くして亡くなられたのが本当に惜しいです。
ところで、『七人のおたく』から13年が経った2005年、フジテレビはドラマ『電車男』を放映し、社会現象とも言える大きな話題を呼びました。
原作は「2ちゃんねる」のあるスレッドで交わされた実際のやりとりに着想を得たもので、フジテレビが一から創作したわけではないとされています。
もしこれが本当に仕込みではなかったとすれば、非常にうまい題材を見つけたものだと感じます。

ドラマ化にあたっては、『七人のおたく』のように、オタクたちそれぞれが持つ知識や特技を持ち寄り、人助け(?)を行うというコンセプトが根底にありました。
『電車男』も、気弱なオタク青年がネット掲示板を通じて同じ趣味を持つ仲間たちの助言を受けながら、目標に向かって成長していくというプロットであり、本質的には通じるものがあると感じます。
筆者としては、『電車男』を観ながら、13年前に伊豆諸島で散った(散ってません)あのオタク戦士たちの姿が自然と重なり、しみじみと思い出されました。
フジテレビが『七人のおたく』から13年の時を経て、オタクにどのような眼差しを向けて問い掛けるのか、非常に興味深く見守っていました。
結果として、予想以上に初回から面白く、放映時間にはドラマの舞台となっている「2ちゃんねる」の実況スレッドがあったサーバーが落ちる寸前にまでなるなど、その反響の大きさを物語っていました。
ちなみに、フジテレビ出版(現・扶桑社)が1992年に刊行した映画『七人のおたく』の解説本には、次のような肯定的な見解が記されています。
「おたく」とは、心の中に自分だけの小さなパラダイスを持っている人たちのこと。自分にとって、大切にしているものや、自分の好きなジャンルは誰にでもある。その中で時間の感覚を失うほど没頭できる何かひとつのことを持っているのが「おたく」。 そしてそのパラダイスを大切にしながらそれを最大限に楽しめる人こそがおたくなのだ。
出典 「七人のおたく」フジテレビ出版(現・扶桑社)1992年
一方で、脚本家・一色伸幸氏がフジテレビへ本企画を持ち込んだ際には、次のようなやりとりがあったとのこと。
1-80年代後半。宮崎勤事件によっておたくは悪の権化のように見なされ、そもそもアニメ出身だった僕は苛立った。だからおたくが幼児に危害を加えるのではなく、助ける物語を書き、フジテレビ映画部に持ち込んだ。フジの反応はひとことだった。「おたく? それは気持ち悪いからやめようよ」
— 一色伸幸 (@nobuyukiisshiki) November 19, 2022
当時は、宮崎事件の影響もあり、オタクに対する印象が非常に悪かったことがうかがえます。そういった意味では、フジテレビ側も当初はあまり乗り気ではなかったようです。
なお、『七人のおたく』は2022年に『七人のおたく THE STAGE』として舞台化もされており、今なお根強い人気を誇る作品となっています。
リンク 七人のおたく THE STAGE | 公式ホームページ https://mmj-pro.co.jp/cult-seven/
復活の日
『生き残った地球人がアマチュア無線を使って生存する人類に呼びかける』という演出は、漫画の項目で紹介したとおり『ZF』で描かれていました。これは小松左京原作の小説および映画の『復活の日』でも見られます。
ある国が開発したウイルス兵器により、35億もの人々が死亡してしまった地球では南極基地などに少数の人々が生存するのみ。
彼ら各国の南極観測隊員たちはアマチュア無線で”外の世界”との交信を試み、状況の把握に努めようとします。当該シーンでのCQ呼び出しのシーンは見せ場の一つ。

日本の南極観測隊の昭和基地隊員たちが必死のCQ呼びかけをしている最中、アメリカ・ニューメキシコ州にあるサンタフェの農場に住むらしきトビー少年の声をキャッチ。
母親はすでにウイルスに感染し命を落とし、父親も重篤で残されたのは5歳の彼だけだったのです。
おそらく両親のアマチュア無線機でしょうか、トビー少年はそれを使い、泣きながら寂しさと不安を誰かに訴えます。日本の観測隊員・辰野保男:渡瀬恒彦たちは必死にトビー少年に応答し励まそうとするものの、少年はPTTをずっと押しっぱなしにしているため、南極基地からの応答を受けることができません。
彼らは少年を救うことができるのでしょうか。
空と海の間に (原題 Si tous les gars du monde)
「崖の上のポニョ」に見られる”ハムにハムをかける”原点は、どうやら1956年に製作された映画『空と海の間に (原題 Si tous les gars du monde)』にあると言ったら大袈裟でしょうか。
『空と海の間に』は人名救助に奔走する世界各国の人々を描いた作品ですが、発端は”ハム”のボツリヌス菌、そして病原菌に犯された船員たちを救うのも”ハム”、つまりアマチュア無線家たち、という作品なのです。
北海を航行中の漁船「ルトゥス号」の乗組員たちが、腐敗したハムによるボツリヌス中毒で次々と倒れていくところから物語が始まります。船の通常無線は故障していましたが、船長が短波のアマチュア無線機を使って救難信号を発信。その電波を、遠く離れたトーゴやパリのアマチュア無線家たちが受信し、国境を越えた救援ネットワークが形成されていく、という内容です。
特筆すべきなのは、この作品が単なる“通信手段としての無線”ではなく、「世界中の無線家同士の連帯」をテーマにしている点です。冷戦期の作品でありながら、西側・東側、さらには異なる民族や宗教を超えて、人々が無線によってつながっていく姿が描かれています。実際、作中には複数のアマチュア局が登場し、遭難通信をリレーしながら血清を届けるため奔走します。若き日のジャン=ルイ・トランティニャンが演じる若いハムも登場し、無線機の前で夜通し通信を続ける姿は、当時のアマチュア無線文化そのものです。
そのため、この映画はヨーロッパのアマチュア無線家の間では非常に知名度が高く、「この映画を見て無線を始めた」という証言まで残っています。フランスの無線クラブの記事でも、“子供の頃にこの映画を見て無線家を志した”という回想が紹介されています。
現代の感覚で見ると、「まずハムでリレーするより、海岸局や海上保安機関へ直接救難通報したほうが早いのでは?」という疑問は自然です。
ただし、『空と海の間に』が作られた1950年代当時の状況を考えると、少し事情が異なります。
まず、作中の漁船は通常の船舶無線が故障している、という設定でした。そのため、正規の海岸局や救難通信網へアクセスできない状態になっています。そこで、船長が搭載していたアマチュア無線機を使い、偶然受信したハム局経由で情報が広がっていく、という流れでした。
実際の遭難通信運用では、当然ながら最優先は公的救難機関への通報です。現代であれば、EPIRB、DSC、衛星電話、Inmarsat、AIS-SARTなど複数のシステムがあり、ハムによる“人海戦術的リレー”に頼る必要性は大きく低下しています。
とはいえ、この映画はリアリズム一辺倒というより、“国境を越えた無線家同士の善意と連帯”を描く寓話的作品でもあります。つまり、技術的合理性だけを追求した作品ではなく、「善意で世界がつながる」という、戦後アマチュア無線文化の理想主義が主題だったと思うのです。
西ベルリンと東ベルリンの境界を越えて薬品を運ぶ場面では、米兵とソ連兵が協力する描写まで登場します。冷戦期の映画としてはかなり象徴的な演出でした。
余談ですが、日本でも1989年に、『空と海の間に』を強く意識したと思われる2時間ドラマ『空と海をこえて』が放映されています。
物語の骨格は原作と非常によく似ており、ボツリヌス中毒の発生と、遠方から血清を緊急輸送するという展開はほぼ共通しています。ただし、本作ではアマチュア無線は登場せず、1980年代末らしく、当時最先端だったパソコン通信とBBS(電子掲示板)が人命救助の鍵として描かれていました。
舞台は沖縄・八重山諸島の新城島。キャンプへ訪れていた子供たちと引率の大人が、現地調達した食材と不十分な調理が原因でボツリヌス中毒を発症します。しかし、島の電話機は故障しており、外部との連絡手段が絶たれていました。
ところが、電話回線は生きており、子供たちは持参していたノートパソコンにモデムを接続。BBSへ「SOS」のメッセージを書き込み、助けを求めます。
必要とされたのは、フランスのパスツール研究所にしか存在しない特殊なG型血清。人々の善意による国際的な連携によって、血清ははるばるフランスから成田空港へ輸送されます。
さらに、成田到着後は千葉市消防局の救急隊へ引き継がれ、救急車で近隣の自衛隊基地へ搬送。そこから陸上自衛隊の大型ヘリコプターが飛び立ちます。血清はいずこかの基地を経由してジェット機に載せ換えるなどして沖縄へ届けられるのでしょう。
ラストは、新学期を迎えた子供たちが元気に登校する場面で締めくくられます。なお、学校の教師役を演じていたのは加藤茶でした。
1956年版『空と海の間に』が“アマチュア無線による国際救難リレー”を描いた作品であったのに対し、『空と海をこえて』は、その役割をパソコン通信へ置き換えた、1980年代情報化社会版のリメイク作品だったと言えるでしょう。
まとめ
さて、いかがでしたか。いずれも名作揃いです。






























































































