街中で、警察官がPチャンイヤホンを装着している様子を見かけることがあります。これは、警察無線の音声を秘匿性を保ったまま聴取するためのものです。

制服警察官は、通常、携帯型の無線機、いわゆる署活系を携帯していますが、無線機とは別に、指令系の通信(主に110番通報による現場出動指令や緊急指令)を受信するための装備品「受令機」を併用する運用が採られます。
APRが配備された当時使用されたモデルの一つが「APR-WR1」です。リチウム充電池を内蔵し、およそ5〜8時間の稼働が可能でした。
2026年現在は後継のIPRへの移行に伴い、「IPR形受令機(IPR-WR)」が配備されています。

受令機は、通信指令室から発せられる各種の指令情報を効率的に受信することを目的としたもので、送信機能を持ちません。
つまり、無線機のような送受信機能と役割を分担することで、運用上の利便性や通信の確実性を高める意図があります(具体的な機種や運用方法の詳細については公開情報が限られており、都道府県や部隊によって異なります)。
「車載通信系」と「署活系」―2つの通信系統

警察無線は、用途や運用形態に応じて複数の系統に分かれており、地域差はありますが、大きくは広域連絡を担う車載通信系(基幹系)と、地域警察活動を支える署活系に分けて運用されるのが一般的です。


広域連絡を目的とした基幹系では、警察本部の通信指令室から各部隊や車両に対して指令が発せられ、広い範囲での情報共有が行われます。パトカーや航空機などの移動体も基幹系を通じて指令を受けます。
一方、地域警察活動などで使用される署活系では、警察署ごとに受け持つ管轄内での連絡を基本とした運用が行われており、交番勤務員や徒歩警らの勤務員と本署勤務員が日常的な連絡に用いています。

基幹系(車載通信系)無線
VHF帯などを使用し、広域にわたる通信が可能。主にパトカーや警察ヘリなど、移動体に搭載された無線機を通じて指令を受ける系統。マイクロ波による中継や、現行のIPRではインターネット回線が併用される。基幹系(車載通信系)無線の中に、交通や捜査などそれぞれの部門専用チャンネルがある(例:捜査専務系)。署活系無線
各署の管轄区域内で活動する警察官が、所属署とのみ通信を行う警察署単位の系統。UHF帯。
パトカーに乗らない警察官が使う「受令機」と通信システムのしくみ
そして、「受令機」は一般に受信専用の通信機器のため、送信機能を持たない点が特徴です。通信指令室から発せられる指令情報を効率的に把握するための装備として用いられます。
車両に搭載された無線機を使用しない警察官―例えば、交番勤務員として徒歩・自転車で巡回する地域警察官などは、携帯型無線機のほか、このような受信専用機器を併用する運用が行われます。
また、私服で行動する機動捜査隊員なども同様に、現場で受令機を携行し、状況把握に活用しています。

受令機は小型で携行性に優れており、制服勤務員では過去40年以上にわたって胸ポケットなどに収めてイヤホンで聴取の上で使用されていることが知られています。
これにより、現場においても指令系の情報を継続的に把握しやすくなる運用です。
受令機の歴史
かつて車載通信系がアナログ方式だった時代には、「UR-1」「UR-2」「UR-3」の3種類の受令機が配備されていました。
いずれもタバコの箱と同程度のポケットサイズで、県内系および共通系の2つの周波数帯に対応。水晶振動子を内蔵し、スイッチ操作により任意の周波数を切り替えることが可能でした。
アンテナは本体に内蔵されており、富士通製のUR-1の取扱説明書には、イヤホンコードがアンテナの役割を兼ねていることが明記されており、使用時はコードを束ねずに伸ばすよう推奨されています。
これらの受令機はすべて、トーン信号による選択呼出機能(セルコール)を搭載しており、個別呼出し・グループ呼出し・一斉呼出しといった各種の呼出方式に対応。
ポケットベルの使用形態にも似た運用がなされていました。
たとえば110番通報が入ると、通信指令室では即座に該当する所轄署の外勤警察官らに対し、受令機のグループ呼出機能を用いて「ピーピー」「ピュー」といったトーン信号を約3秒間鳴らして注意喚起。その後、指令内容が音声で送信されるという流れです。
UR-2については本体にスピーカーを内蔵しており、イヤホンに加えてスピーカーでも受信音を聴取できます。
またUR-3には専用のアダプター型スピーカーが用意されており、交番などでは据え置き型スピーカー受令機のように使用することも可能でした。
さらに、UR-3は音量を最小にしても完全な消音にはならないという特有の仕様です。
その後、基幹系のデジタル化にともない、新たにデジタル対応の受令機「UR-100」が配備。サイズはアナログ時代のUR-3とほぼ同等で、単三電池1本でおおよそ24時間の連続使用が可能です。
現在も運用の基本は大きく変わっていませんが、デジタル方式への移行により、従来のセルコールは廃止され、代わってデジタル信号音による呼び出し方式が採用されています。
他県の警察本部の通信圏内に入れば、全国の警察で共通配備の受令機で傍受可能
警察無線は基本的に都道府県単位で運用されていますが、広域活動を想定し、各警察本部間で連携できる仕組みが整備されています。
広域災害時などには、他県警との応援活動が行われることもあり、その際には情報共有のための通信体制が構築されますが、具体的な受信範囲や運用方法については公開情報が限られています。
このため、たとえ他県の警察本部の通信エリア内に入っても、所属県警から貸与されている受令機で、その地域の無線通信を問題なく傍受できる運用です。
たとえば、山梨県警の警察官が東京都内に移動した場合でも、自身に貸与された山梨県警の受令機を使って、警視庁の無線を受信可能です。
この事実については、下記に示す報道資料により裏付けられています。
捜査関係者によると、元警察官は山梨県警捜査一課の警部補だった〇九年八月、警察が使う受信機(受令機)二台を東京都八王子市内に持ち出し、警視庁の無線を傍受。
~略~
警察無線は過去には革マル派の活動家が警察無線を傍受したとして逮捕された事件もあり、外部から傍受、解析されないよう対策を強化してきた。
しかし警察備品の受信機を使えば他の都道府県警の無線でも傍受でき、「警察官なら悪意があれば(傍受、録音して)持ち出せてしまう」(捜査幹部)。
警察庁情報通信局の担当者は「広域災害などの際、他地域の無線を聞けるようにする必要がある。
各都道府県警を通じ、無線機の管理体制を厳格にしていくなど対応したい」と話した。
出典 https://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201908/CK2019082302000278.html
また産経新聞でも同様に報じています。
警察無線は暗号化され、外部の機器による傍受は不可能とされる。都道府県警ごとに別の系統で運用されているが、他警察の通信圏内に入れば警察共通のイヤホン型無線受令機で受信できるという。
出典 https://www.sankei.com/affairs/news/190823/afr1908230009-n1.html

警察の装備品は原則として厳重に管理されており、多くの都道府県警では、勤務時間外における私的な持ち出しについても制限が設けられています。
ただし、装備品の運用については業務内容や部門によって異なる場合があり、一部の装備については緊急時の対応を想定した運用が想定されています。
受令機についても、現場での迅速な対応を目的とした装備品として運用されているとされますが、その具体的な携行方法や勤務時間外の扱いについては公表情報が限られており、運用実態は一様ではないと考えられます。
受令機のまとめ
このように、活動中の警察官が耳にイヤホンをしていたら、それは腰の署活系無線とは別に、胸ポケットに入れた受令機にてパトカー向けの無線「車載通信系」で流される警察本部通信指令室からの緊急配備情報や注意喚起などの指令を聴取しているというわけです。
そして本署と連絡をとる場合は腰の署活系無線機(PSW)または、PSD(いわゆる“Pフォン”系の公用モバイル端末)を使用しています。
また、パトカー乗務中の警察官であっても、現場に到着後に一時的に車両を離れて捜索や対応にあたる場合は、車載の基幹系無線からの指令を受け取れなくなる状況に備え、あらかじめ受令機をポケットに携行し、イヤホンを通じて基幹系の指令を常時受信できる運用が採られています。
なお、かつて使用されていた署活系のハンディ無線機や受令機には、電波が地下や建物内に届きにくいという課題があり、重要な指示の伝達が滞るケースもあり、この問題に対応するため、平成23年以降、全ての都道府県において順次、新たな通信インフラが導入されました。
それが、旧・署活系無線の後継として位置づけられる『新・署活系無線PSW(Police Station Walkie talkie)システム』と、データ通信機能を有した端末を活用した『PSD(Police Station Data terminal)システム』を中核とする『地域警察デジタル無線システム』です。
この新システムの導入により、屋内や地下でも安定した通信が可能となり、迅速かつ確実な指令の伝達が図られるようになりました。
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