本稿では、アメリカ国内の警察・消防・救急機関などで使用される「テン・コード(Ten-codes)」について解説する。
米国の警察無線では、「Ten-codes(テン・コード)」と呼ばれる略式通話コードが現在でも多くの機関で使用されている。
これは警察官や通信司令員(ディスパッチャー)が交信内容を簡潔に伝えるためのコードで、「10-4(了解)」などが有名である。
ただし、その内容は全米共通ではなく、州警察・市警察・郡保安官事務所など、各機関ごとに意味や運用が異なる場合がある。
また近年では、大規模災害時の機関連携を重視し、「Plain English(平易な英語)」による交信へ移行する動きも進められている。
なお、日本警察でも無線交信を簡略化するための通話符号や略号が用いられているが、米国式のTen-codeとは体系が異なる。

映画 Nightcrawler では、主人公が警察無線を傍受して事件現場へ急行する描写が登場し、アメリカ警察無線文化の一端が描かれている。

テン・コードとは、「10-」と数字を組み合わせた略式通話コードであり、限られた無線チャンネルの中で通信を効率化する目的で考案されたものである。例えば「10-4」は「了解」、「10-20」は「現在地」あるいは「現在地を知らせよ」といった意味で使用される。
その起源は1940年代にまで遡り、Association of Public-Safety Communications Officials-International(APCO)が標準化を推進した。1970年代には「APCO Project 14」によって無線用語体系の再整理が行われ、全米規模での統一化が図られた。
ただし、テン・コードの意味や運用は州警察、市警察、郡保安官事務所など各機関によって異なる場合も多く、完全に全国統一されているわけではない。
また近年では、州境を越えた災害対応や広域合同捜査の増加により、独自コードがかえって意思疎通の障害になるケースも指摘され、特に2000年代以降は「Plain English(平易な英語)」による交信を推進する動きも広がっている。
テン・コードの発祥―アメリカ警察通信の標準化とそのゆらぎ
警察無線では、短時間で情報を伝達するために、数字を用いた略式通話コードが使用されてきた。その代表例が、アメリカの警察・消防・救急機関などで広く普及した「テン・コード(Ten-codes)」である。
テン・コードは、「10-」に続けて数字を組み合わせる方式で構成されており、「10-4」は「了解」、「10-20」は「現在地」または「現在地を報告せよ」といった意味で使用される。これらのコードは、警察官と通信司令員(ディスパッチャー)の無線交信を簡略化する目的で導入された。
テン・コードが普及した背景には、1940年代当時の無線通信環境がある。警察無線は現在ほど通信品質が高くなく、音声の途切れや雑音も多かった。また、アメリカでは州や自治体ごとに独立した警察組織があり、それぞれの機関が独自の通信方法で運用を行っていた。
だが、通信回線は狭く、混信も多発し、特に緊急時における指示伝達の遅延は深刻な問題だった。利用可能な無線チャンネル数も限られていたため、長文による交信は通信混雑を招きやすかった。
そのため、あらかじめ定義された短いコードを使用することで、通話時間の短縮と通信効率の向上が図られた。さらに、同一内容を定型化することで、通信司令室と現場警察官の間で情報伝達を標準化する役割も担っていた。
「APCOプロジェクト14」としての標準化
1940年代から各地で使用されていたテン・コードは、地域や機関ごとに意味や運用が異なっていた。そのため、州をまたぐ通信や複数機関による合同対応では、同じコードでも解釈が一致しない問題が存在していた。
こうした状況を受け、Association of Public-Safety Communications Officials-International(APCO)は、警察・消防・救急機関向け無線用語の標準化を推進した。その一環として1970年代に整理・再構成されたのが「APCO Project 14」である。
このプロジェクトでは、音声による簡略通信規格として「APCO Project 14 Aural Brevity Code」が策定され、テン・コードを含む各種通話コードの標準化が試みられた。
代表的なコードには、
- 「10-7」=離局・勤務終了
- 「10-20」=現在地
- 「10-33」=緊急通信
などがある。
ただし、APCOによる標準化以後も、実際の運用は各州警察、市警察、郡保安官事務所などによって差異が残り、全米共通の統一規格として完全定着したわけではない。そのため、現在でも地域によってコードの意味が異なる場合がある。
標準化の限界と「独自コード」への分岐
APCOの標準コードは存在していても、各州や郡、市の警察が独自に改変・追加した「ローカルコード」が併用されるようになったのが現場の実情である。
例えば「10-13」はある地域では「警官が負傷した」、別の地域では「天気情報の要求」を意味する、という具合に、同じコードでも意味が異なる事例が増えていった。
こうしたバリエーションは通信の自由度を高める反面、異なる機関同士での連携を難しくする要因ともなった。
テン・コードの終焉とPlain Languageへの移行
2001年の同時多発テロ事件以降、広域災害やテロ対応で複数機関の即時連携が求められる中、異なるテン・コードが意思疎通の障害になるという指摘が高まり、2005年、アメリカ国土安全保障省(DHS)は、災害時の無線交信ではテン・コードを使わず、「プレーン・ランゲージ(平易な英語)」を用いるよう勧告を出した。
この方針を受け、多くの自治体警察も通常業務においてプレーン・ランゲージへの移行を進めており、今日ではテン・コードを廃止する組織も増えている。
テン・コードの遺産
それでもテン・コードは、アメリカ文化の一部として残り続けている。市民の間にも「テン・フォー(了解)」は慣用句として浸透しており、映画や報道現場では今なお耳にすることがある。さらには、ロサンゼルス市警(LAPD)のように、テン・コードとともに独自の三桁通話コード(Radio Codes)を使い分けている例も存在する。
テン・コードは、技術と実務の折り合いをつける中で生まれ、制度として発展し、やがて標準化の限界に直面しながらも、通信の現場に残された「記号の遺産」として、今も静かに生き続けている。
ロサンゼルス市警の「もう一つのコード」──LAPD Radio Codesとは何か
また、先述の映画「ナイトクローラー」の主人公・ルイスはテン・コードのほかに、ロサンゼルス市警(LAPD)が独自に運用する無線通話コード「LAPD Radio Codes」も徹底的に覚えている。

警察無線の世界に足を踏み入れた者が、次に直面するのが「LAPD Radio Codes」の存在である。
テン・コード(Ten-codes)は交信時間を短縮し、簡潔な情報伝達を目的として広く使われてきた一方、LAPD Radio Codesはロサンゼルス市警が独自に運用する通話コードで、主にカリフォルニア州法の条項番号に基づいたものが多く、より具体的な犯罪種別や状況を示すために使われる。「187(殺人)」「211(強盗)」「415(争い)」などはその代表例だ。
つまり、地域色の強い符号言語である。
ルイスも、警察無線を本格的に理解し、現場に先回りする“ストリンガー”になるためには、このLAPD Radio Codesの習得が不可欠だった。テン・コードで「了解」や「現在地」など基本的なやり取りをこなせても、LAPDが交信で用いる三桁コードの意味がわからなければ、肝心の事件の中身を把握できないからだ。
警察無線通信における犯罪種別コード
LAPD Radio Codesの最大の特徴は、「刑法番号(ペナルコード)」に準拠している点にある。たとえば「187」は「殺人事件」、「211」は「強盗」、「415」は「争い・騒音トラブル」など、実際のカリフォルニア州法における犯罪の分類番号をベースにして、無線の通話コードとして使用している。

By LAPD – https://www.joinlapd.com/sites/default/files/styles/large_hero_1920_x_1080/public/Ride-along-Hero.png?itok=DPxIyykc, Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=81614539
このように、ロサンゼルスにおいて警察官が無線で「コード187」と発した場合、それはすなわち「殺人事件が発生」と即座に意味づけられる。現場の警官、通信指令室、そして周辺部隊が、極めて短い符号で犯罪の種別と緊急度を共有できる利点がある。
プレーン・ランゲージの時代における残存コード
プレーン・ランゲージ(明瞭な通常言語)への移行が全米的に進む中で、テン・コードは廃止されつつあるが、LAPD Radio Codesのような地域限定の符号は依然として実務で生きている。これは、LAPDのような大規模な自治体警察が、通信効率の最適化と業務の一貫性を重視しているためであり、また署員間の共通言語としての役割も果たしている。
現に、ロサンゼルス市内では警察無線を傍受して事件現場を追う報道関係者やストリンガーが今なお存在し、彼らもまた、LAPD Radio Codesを業務上の必須知識として身につけている。
コードに込められた現場の現実
たとえば「Code 10」は「女性の叫び声」「家庭内暴力の疑い」「不審な人物あり」といった具体的な状況を一言で伝える場合に使われる。あるいは「Code 6」は「調査中の現場に到着した」、といった部隊の状態報告にも使われる。
つまり、LAPD Radio Codesは、警察官の意図、緊張、そして時には危険すらも短い数字の中に凝縮して詰め込んだ“行動の言語”といえる。
市民にとっての「非公式リスニングガイド」
LAPD Radio Codesは、ロサンゼルス市警の公式文書には明記されていないものの、民間によって整理・公開されたリストが存在する。そのため、一般市民でも学習可能で、実際、事件の早期把握を求める報道関係者、ルイスのようなフリーランスのストリンガーは、これをもとに徹底的に学び、コードが意味するリアルな事件の輪郭をつかみ取っていく。
【代表的なLAPD Radio Codesとその意味】
・Code 2(コード2)
「サイレンなしで現場へ急行せよ」という指示。緊急性はあるが、周囲の騒ぎを避けるため、あえてサイレンや警光灯を使わず、通常走行で現場到着を目指す。家庭内暴力や騒音トラブルなど、過敏な反応を避けるケースで用いられる。
・Code 3(コード3)
即応性の高い事案。または「緊急走行で向かえ」。サイレンや警光灯を適切に使用し、可能な限り最速で現場へ向かうことを意味する。銃撃事件や重大事故など即応を要する場合に使用。
・Code 4(コード4)
「現場は安全。追加の応援不要」。一時的に緊張状態だった場面が収束した際に出される。交信により部隊の重複出動を防ぎ、他のリソースを温存するために重要。
・Code 6(コード6)
「捜査・調査のため現場に到着した」。パトカーが対象地点に入り、何らかの確認・照会に入ったことを示す。追加で「Code 6 Charles(チャールズ)」など特定の状況コードを付けて詳細にすることもある。
・Code 10(コード10)
通報内容に基づき「女性の悲鳴」「異常な行動」「家庭内争い」など不穏な状況が発生している場合に使われる。これは状況の切迫度に応じて使用されるため、警官の緊張が高まる場面。
・Code 20(コード20)
「報道機関への通知が必要な重大事案」。事件・事故の内容がメディアに伝えられる可能性が高く、広報担当者や報道規制が視野に入る。
・Code 37(コード37)
「指名手配車両・人物が関与している疑いあり」。車両のナンバー照会などでヒットした場合に発せられる重要コード。追跡や身柄確保に移行するケースが多い。
・187(ワン・エイト・セブン)
「殺人事件発生」。カリフォルニア刑法第187条に基づく重大事件で、LAPD Radio Codesの中でも最も耳目を集めるコードの一つ。
・211(トゥー・イレブン)
「強盗事件発生」。武器の使用が想定される危険な事案で、しばしばCode 3(緊急走行)とセットで呼び出される。
・415(フォー・フィフティーン)
「争い、けんか、トラブル」。家庭内の口論、路上での喧嘩、バーでの乱闘など、暴力を伴う一歩手前の案件にも広く適用されるコード。
・902(ナイン・オー・ツー)
「救急事案」。負傷者や重体の人物が発生したことを意味し、消防・救急との連携が必要となる。交通事故現場などでも多用される。
これらのコードは、ただの数字の羅列だが、現場の警官の頭の中では、すでに「状況」が浮かんでおり、最短時間で最適の装備選択・行動に移るための「行動語」として機能している。
テン・コードが共通語の役割を果たした一方で、LAPD Radio Codesはローカルな実務知識として根付き、今もストリンガー、記者、リスナーたちの間で“血なまぐさい事件の匂い”を感じ取るための鍵となっている。まさに、本来の意味での警察無線の暗号解読である。
「テン・コード」と「LAPD Radio Codes」の使い分けや交信のリアルな例
このように、テン・コードが「何をせよ」といった行動指針的コードであるのに対し、LAPD Radio Codesは「何が起きているか」「どんな通報か」といった、より具体的な内容を指すコードである。
【実際の無線交信例(想定)】
以下に示すのは、現場で実際に交わされる無線交信の想定例だ。報道関係者が警察無線を傍受し、事件性の高い内容かどうかを判断する際にも、これらのコードの理解が欠かせない。
例1:夜間の銃撃通報に対する初動対応
Dispatch: “Unit 12A45, 10-9? We’ve got a 415 man with a gun, possible 187 in progress, corner of 6th and Spring.”
Unit 12A45: “10-4, Code 3 response. 12A45 en route.”
Dispatch: “Copy that. Additional unit 12A46, respond Code 3. Airship is 10-97.”
Unit 12A46: “12A46, Code 3, ETA 3 minutes. Can we get a 10-29 on suspect vehicle, black sedan CA plate 8SAM321?”
Dispatch: “Stand by… 10-29 returns 10-31, felony want, Code 37 hit.”
解説:
・「10-9」は“繰り返して”という意味
・「415 man with a gun」は“銃を持った男による騒動”
・「187 in progress」は“進行中の殺人事件”
・「Code 3」は“緊急走行で出動”
・「10-97」は“現場到着済み”
・「10-29」は“車両または人物の照会”
・「10-31」は“要注意対象”
・「Code 37」は“指名手配対象の関与”
例2:交通事故と救急の要請
Dispatch: “Unit 15L20, 902 traffic, possible 10-52 at Vermont and Olympic.”
Unit 15L20: “10-4. 15L20 responding Code 2.”
Dispatch: “Copy. Advise if 10-53 is needed. Fire and paramedics standing by.”
解説:
・「902 traffic」は“交通事故(負傷者あり)”
・「10-52」は“救急隊要請”
・「Code 2」は“サイレンなしで急行”
・「10-53」は“消防隊の要請”
まとめ
あるストリンガーの夜
深夜2時17分。ロサンゼルスは空気が乾いていた。静まり返った住宅街の片隅で、黒いダッジ・チャージャーのアイドリング音がじわじわと響いていた。運転席で片手にコーヒー、もう片方の手で警察無線の周波数をなぞっている男。受信機には、「506.8625 MHz」、LAPDのノース・ハリウッド管轄が入っている。
「Units, be advised: 211 in progress, possible 459 suspect still inside, Code 3 response—location 13200 block of Moorpark, Studio City.」
211(強盗)、459(住居侵入)、そしてCode 3(サイレンを使用して急行)。
この街でストリンガーをやっていくには、まず警察無線のコードの意味を一瞬で理解できなければ話にならない。
男はコーヒーをダッシュボードに置き、すぐさまキースイッチをひねってチャージャーのエンジン音を高めた。外観は艶消しブラック、ダッシュボードにはLEDライトバー、トランクには「MEDIA」の黄色いステッカーを貼ってある。助手席にはスキャナー、日本製の動画編集ソフトがインストールされたモバイルPC、Canon製ビデオカメラが無造作に置かれていた。
彼はスマートフォンでGoogleマップを開き、現場までの最短ルートを確認。チャージャーの強力なV8エンジンに火を入れ、夜の街を滑るように駆けた。
到着したとき、まだパトカーのサイレンは聞こえなかった。低層のアパートメントの前で、年配の女性が慌てた様子で何かを叫んでいた。男はすぐにヘッドライトを消し、車の後部に貼られた「PRESS」のロゴ入りマグネットを手早く整えると、助手席からカメラを引っつかんだ。
男はその瞬間を逃さなかった。センサー感度を調整し、明かりを落とした状態でズームを開始。ベルトクリップで腰に止めた受信機(スキャナー)からLAPDの無線が鳴り響く。
「Unit 16A45, Code 6 at scene. Request backup, 13200 Moorpark. Possible 459 suspect barricaded.」
コード6は現着、つまり警官が今現場に到着した合図だった。
チャージャーのルームミラーには、遠くから接近するパトカーの青赤灯が映っていた。撮影を続けながら、息を整えた。彼にとっては、今この瞬間こそが「スクープ」であり「商品」だった。警察が動き出すその直前。彼のカメラはすでに、事件の“最初の30秒”を押さえていた。
・
・

このようなコード交信の内容をリアルタイムで聞き分け、現場の重大性を判断するのがストリンガーや報道関係者の技量となる。単なる単語の知識では不十分で、「状況のニュアンス」を音声から嗅ぎ取る訓練が必要だ。
例えば、「187 in progress」「211 just occurred」「902 traffic with injuries」などは“出し物”(報道価値の高い現場)として扱われ、ストリンガーが違法に改造した偽覆面パトカー仕様の取材車で、現場にかっ飛ばす目安とされている。


日本では当然、警察無線の受信は不可能。ただし、デジタル・マスコミ無線の受信は可能なのでワンチャンスあるかもしれない……!?
























































































