記事内の引用について 画像の出典 ヤフー&ANNさんより
報道のあり方に、あらためて疑問を抱かせる出来事があった。
2023年5月に開催された「G7広島サミット」では、各国首脳の来日とともに、厳重な警備体制が敷かれ、全国的な注目を集めた。その取材の一環として、テレビ朝日は2人の女子大学生に密着し、その様子を報道している。
上記報道によれば、彼女たちは「警察車両の撮影」を目的に現地を訪れたという。動画内では、2人のうちの1人がハンディタイプの機器を手にしており、映像では明確にICOM社製の広帯域受信機「IC-R6」であることが確認できる。

画像の出典 https://news.yahoo.co.jp/articles/30a65643d0494e75fa6a6e967acb26d97776b601
ところが、ナレーションではこう説明されている。
手にはカメラのほか、同じ趣味を持つ仲間たちと連絡を取り合うためのトランシーバーも。警護される要人たちの行動を、独自の情報網を駆使して把握しているそうです。
出典 リンク切れ 女子大学生のお目当ては「警察車両」厳戒態勢…ゼレンスキー大統領「車列」に大満足 5/21(日) 23:35配信
しかし、IC-R6は資格不要の広帯域受信機であり、送信機能は備えていない。すなわち、「仲間と連絡を取り合う」ことは技術的に不可能だ。一般にトランシーバーとは、送信と受信の両方が可能な無線機を指す。
よって、受信機を「トランシーバー」と呼ぶこと自体に、事実との乖離があると言わざるを得ない。
一般的に、大学生が仲間と情報共有する場合には、スマホでSNS、メッセージアプリ(例:LINEなど)を利用するのが通常であろう。
意図的か否かは不明だが、結果として、今回の報道は「受信機」を「トランシーバー(=無線機)」とし、“トランシーバーで同じ趣味の仲間と連絡をとって、独自の情報網を駆使して警護される要人の行動状況を把握している”という設定”を元に、彼女らはその行動を過剰に演出されたようにも見える。
これは、誤解を招くばかりでなく、趣味として無線を扱う一般市民に対して、無用の誤解や不安を与える可能性も。
事実、今回の報道を見た人がSNSにポストしてバズっており、1,400,000ヒットを記録している。
令和の時代に一眼持って警察車両追いかけてアマチュア無線機で連絡取り合ってる女子大生はヤバすぎるwwwwww良すぎるwww
女子大学生のお目当ては「警察車両」厳戒態勢…ゼレンスキー大統領「車列」に大満足(テレビ朝日系(ANN)) https://t.co/c4JNbYsd7p
— HARU🐬 (@JR2BZU) May 22, 2023
いずれにせよ、この報道が事実と異なる機器の扱いを「演出」として含んでいたのだとすれば、視聴者に対する情報提供の精度に疑問符がつく。
報道の現場におけるリサーチや裏付けの重要性、そして放送内容が世論に与える影響について、今回あらためて考えさせられた。
もっとも、受信趣味界隈における“誤解”は今に始まったことではないが。
広帯域受信機はイベントで活用できるのは事実
しかし、広帯域受信機は正しく使用すれば、イベントや災害現場などにおいて関係者の通信を傍受し、現場の動向を知る手段として有用である。彼女たちが今回のサミットに受信機を活用させていたこと自体は理に適っている。
とりわけ、空港や大規模行事の際には、舞台裏の無線交信を聞くことで、公共の安全や運営の仕組みを学ぶことも可能だ。
ではサミット開催期間中、彼女たちがIC-R6で受信対象としていた通信は何か?
おそらく、サミット会場で受信できたであろうアナログ無線は、特定小電力無線、その他業務無線、航空無線の一種である警察ヘリのカンパニーラジオなど限られたものだったはず。
さらに、画面に映る「IC-R6」に装着されたアンテナに注目。これは、コメットと山本無線が共同開発したエアバンド受信用ミドルサイズアンテナで大人気の「CMY-AIR1」と見られる。
アンテナの仕様から判断するに、彼女らのメインの受信対象は航空無線(エアバンド)と見て間違いない。
IC-R6(受信改造済み)は言うまでもなくアナログ受信機だが、とくに2025年現在、エアバンドに強いプロ用機材でもある。
米国のバイデン大統領を乗せたエアフォース・ワン飛来の情報などが収集できたかもしれない。
アメリカのバイデン大統領を乗せたヘリコプターは午後8時50分ごろ、山口県のアメリカ軍岩国基地に着陸しました。
そして大統領を乗せた専用機「エアフォース・ワン」が午後9時9分ごろ、岩国基地を離陸し、日本を離れました。https://t.co/Hm9pvzW4bQ#nhk_video pic.twitter.com/LcvjpD5yN4
— NHKニュース (@nhk_news) May 21, 2023
一方、警察ヘリが警察業務の内容をカンパニーで交信する事はなく、警備の核心に触れる事はないため、カンパニーで警察情報は集まらない。
無論、ヘリテレ連絡波も含めて、デジタル警察無線については高度なデジタル変調+暗号化されており、法的にも解読不可。
残念ながら、アナログ無線専用機のIC-R6では限られたアナログ無線しか受信できないのが現実だろう。
これではせっかくのイベントも、情報収集では物足りない。
今後の大規模イベント受信の対象はマスコミ無線。デジタル対応受信機の出番は飛躍的に多くなる
報道機関の裏を聴く――G7広島サミットに見る“デジタル報道連絡波”の世界
G7広島サミットのような国際会議の現場では、表舞台の警備や外交交渉のほかに、報道陣の「裏側の動き」もまた、現地の緊迫感をかたちづくる要素の一つと言える。
そこで、昨今のデジタル無線受信マニアの間で注目されるのが、報道各社が用いる「デジタル報道連絡波」、通称「マスコミ無線」である。
このような大規模なイベントでは今後、“聞けない警察無線”よりも、多数集まっている報道機関の「デジタル報道連絡波」(マスコミ無線)が受信対象となるかも知れない。
報道連絡波はもともとアナログFMであったが、2016年にデジタル化。オフステップ周波数の設定や秘話コード解析など少し手間がかかるが、当時はAORのデジタル対応受信機AR-DV10で秘話解読が可能であった。
しかし、同機は120,000円を超える高級製品であったため、マニアもおいそれとは手を出せなかったのである。
ところが2023年、アルインコからDJ-X100デジタル対応受信機が発売されると状況が一変。事実上、80,000円以下で誰でも簡単に秘話を解読して、テレビより早い“ニュース速報”を受信できるのだ。
警察無線は高度なデジタル化と暗号化が進み、傍受(=復号)は不可能となった。
だが一方、各テレビ局サブ室と現場取材班やヘリとが連絡用に使用している報道連絡波は、簡易な秘話コードで運用されており、受信機次第ではその通信内容を“聞く”ことが可能である。
その代表的なデジタル秘話対応受信機のひとつが、アルインコ社の「DJ-X100」である。
同機は国内市場向けに販売されている数少ないデジタル対応広帯域受信機で、警備や報道、インフラ事業者のデジタル簡易無線にも対応。加えて、裏コマンドを入力することで秘話コードの自動解析機能も解放可能。警察無線や消防無線のように暗号化されていない限り、相手側の秘話通信を傍受することが可能だ。
実際、報道関係者自らも、同業他社のマスコミ無線波を傍受して他社の動向を探る者もいるとされる。いわば、報道の最前線で繰り広げられる“情報戦”の一端である。
とりわけ、テレビ局や通信社の各現場チームと上空のヘリがやり取りする「デジタル報道連絡波」は、移動ルート、撮影ポイント、会見情報など、ニュース価値の高い断片が流れることも少なくない。
ときには警察に取材した内容、警察からの情報が流れることもある「デジタル報道連絡波」。だからこそ、特ダネの取得に直結しかねない報道連絡波には秘話コードによって、同業他社やフリーランスの特派員(映画「ナイトクローラー」で話題になったストリンガー)に対して極力、秘匿対策を講じているのが現状だ。
それでも、DJ-X100のような受信機を用いれば、誰でも現場情報にアクセスできてしまう。G7のような大規模イベントでは、表面化する映像や記事とは別に、無線を通じて交わされる“舞台裏”の通信に、もう一つの臨場感があるのだ。
結局のところ、今回のG7広島サミットにおいて、緊急車両愛好家の女子大学生が携行していたアナログ広帯域受信機『IC-R6』が、現地での情報収集に実質的な成果をもたらしたかどうかは明らかではない。
加えて、サミット期間中の最大の注目トピックの一つである「ウクライナ・ゼレンスキー大統領の来日」という情報についても、当該学生は受信機からではなく、密着取材を行っていたANNの報道スタッフから口頭で直接伝えられて初めて知ったという。
この結末には、筆者としても複雑な感情を抱かざるを得なかった。
いずれにせよ、彼女らが青色回転灯を装備した特別防弾仕様のBMWを含む、ゼレンスキー大統領の要人警護車列の撮影に成功していたことを願いたい。
まとめ
現場の「見えない導線」を映し出す──アルインコ・DJ-X100が切り拓いた、デジタル無線傍受の現在
イベントの楽しみ方は人それぞれだが、近年、都市部で開催される大規模イベントでは、報道各社がどう動いているのか、実際の最新ニュースより早い情報を報道連絡無線から感じ取ろうとする者が少なくない。
いわば「可視化された報道動線」として、マスコミ無線や各種業務波を傍受する行為が、静かに広がっている。
それを可能にしている受信機の一つが、アルインコ製の広帯域受信機「DJ-X100」である。
手のひらサイズの筐体に、航空無線・アナログ&デジタル簡易無線など幅広いジャンルを詰め込んだこの機器は、プロ・アマを問わず“最新情報”を拾いたい者にとって、今や欠かせない。
さらに「DJ-X100」にはユーザーの設定や操作によって、受信対象がさらに広がるという、メーカー非公開の“裏機能”がある。
一部の愛好家は、「DJ-X100」に隠された非公式な「裏機能」の存在を今なお探している。ユーザーの判断と責任に委ねられるかたちで拡張的な活用ができるのも、この受信機の魅力と特徴だ。
──事件・事故の現場を追う特派員たち──にとって、「DJ-X100」はもはや基本装備のひとつとされているようだ。
しかし、このような傍受行為には、当然ながら法的・倫理的な限界がある。
2025年現在、電波法では暗号化された無線(たとえば警察無線や消防無線)の解読(未遂を含む)は違法だが、航空無線、デジ簡、マスコミ無線のように暗号化されていない(復号の必要がない)無線の受信は合法である。
ただし、非暗号化通信の傍受そのものが処罰の対象でなくとも、内容を第三者に漏らしたり、公開したりする行為はこれまで同様、通信の秘密の侵害として処罰対象となり得る。高度な情報を得る能力があるからこそ、それをどう扱うかが問われる。
その現れとしてDJ-X100発売直後に注目されたのが、タクシー業界の使うPOCSAG(Post Office Code Standardisation Advisory Group)である。音声ではなく文字データ情報だ。「DJ-X100」は、POCSAGデータも受信可能になり、そこにはタクシー利用客の氏名、行き先、迎車時刻など、極めてプライベートな内容が含まれることもある。
ラジオライフ誌編集長はこれについて「慎重な取り扱いを」と警鐘を鳴らしている。特に個人情報については、SNSに転載することのないよう自粛を呼びかけている。
なお、DJ-X100の電源を入れる際には、「通信内容の漏洩には刑事責任が課せられることを理解しているか」という確認画面が表示される。そこで「はい」を選ぶということは、自らその責任と選択を引き受けたことに他ならない。
現代のデジタル無線の受信環境は、DJ-X100の登場で飛躍的に向上した。しかし、手軽であると同時に、深く問われる領域でもある。
便利さの先にある「知る権利」と「刑事責任」の境界線──最新受信機DJ-X100は静かに問いかけている。
情報技術の進化は、今や傍受者にも“リテラシー”が求められる時代に入っている。