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シグナリーファン編集部では、自衛隊の装備や部隊について防衛省の公開情報・公式資料・報道記事・学術文献を継続的に調査・分析しており、それらの調査結果に基づいて記事を構成しています。

【1993年】T-4練習機“謎の不調”の真相──1億円を浪費させた「隊員のいたずら」とは何だったのか?

航空自衛隊三沢基地T-4練習機“謎の不調”の真相──1億円を浪費させた「いたずら」とは何だったのか?

1993年から1994年にかけて、航空自衛隊三沢基地で発生した「T-4練習機の不可解な不調事案」。

原因は、同基地の整備員による電装系統の“いたずら”であったと後に判明したが、結果として1機の飛行停止と1億円規模の経費を空自に強いた。

そこに至るまでの対応と教訓は、単なる不祥事という枠にとどまらない、組織的な盲点を浮かび上がらせている。

自衛隊員のやったクソすぎるいたずらとは?

三沢自衛隊員 1億円ムダづかい

航空自衛隊三沢基地(青森県三沢市)で、T-4中等練習機が隊員の電機系統へのいたずらから、10か月にわたって飛行停止に追い込まれていたことが4月13日、明らかになった。

故障の原因がいたずらとわかるまで、空自は検査や安全対策を繰り返し、そのための費用は1億円にのぼった。出費の適否をめぐり論議を呼ぶのは必至だが、最前線の基地でおきたカラ騒ぎだけに危機管理上の欠点をさらけ出す結果になった。

関係者の話を総合すると’93年 2月から整備中のT-4に、夜間飛行に使う飛行ランプが点灯し、計器類が異常な反応を示す、電気系統とみられるトラブルが続発した。事態を重くみた航空自衛隊は4月から同基地内のT- 4機をいずれも飛行停止とし、原因を究明した。

その結果、基地内の電磁波などによっておきた可能性があるとの結論から、操縦系統の一部に絶縁体を採用するなどの対策を施し、今年1月飛行を再開した。 ところがその後もトラブルが続いたため、基地では2月になって格納庫にビデオカメラを設置。ビデオ映像から第3航空団 整備補給群所属の整備士、A元土長(21)の犯行とわかった。

調べによると、A元士長は整備の際、操縦席に座り、手当たり次第に電気系統のスイッチを入れていた。以前、異状に気付いた周囲の整備士には「どこにも触っていない」などと答えていた。

しかし、A元士長はいたずらを認め、「周りが騒ぐのがおもしろくてやった」と話しているという。

航空自衛隊警務隊は、A元士長を威力業務妨害罪で青森地検八戸支部に書類を送る一方、空自は服務原則違反で停職処分とした。

A元士長は今月、任期切れで退官したが、空自は退職金の支払いを留保している。

いたずらとわかるまでの1年間、三沢基地ではT-4を岐阜県の航空開発実験団に持ち込んだり、空中の電磁波を調べるなど大がかりな調査と事故対策を重ね、対策費は約1億円にのぼった。

空自では1986年9月、茨城県・百里基地でF-15戦闘機のミサイルが電気系統の故障で暴発する事故が発生しており、三沢基地の場合も故障が原因との先入観があったようだ。

しかし、トラブルは整備中の A 元士長が操縦席に入ったときに限って頻繁に発生しているため、いたずらとの見方も当然想定できた。これについて航空幕僚幹部の佐官は「隊員を最初に疑っていては自衛隊は組織として成立たない」と説明している。

引用元 1994年4月14日付け 東京新聞

なぜ整備士の「悪ふざけ」は見抜けなかったのか?

この件の教訓は、「人為的な不正が、技術的な問題に見える」という点である。

「ある特定の整備士が乗った時だけ」だったのが事実であるならば、早い段階で人的要因を視野に入れて検証することは十分可能だったはずだ。

最も深刻なのは、整備士の行為が単なる“いたずら”として片付けられてしまった構造にある。最前線の航空部隊でありながら、人的要因への疑念より先に、機械的トラブルを想定した空自の姿勢には、組織的バイアスの存在が見える。

本人が「周囲が騒ぐのがおもしろかった」と話している通り、動機は極めて幼稚で無責任なものであった。しかし問題は、この行為が一年近くにわたって見抜かれず、1億円もの公費を無為に費やしたという組織の盲点にこそある。

現在であれば、早期にログ記録や監視映像などの情報を使って原因特定が可能な体制も整っている。だが、1990年代のこの事案は、装備や人員が高度化する一方で、「人間の不確実性」にはあまりにも脆弱だった時代背景を如実に表している。

空幕幹部が語った「隊員を最初から疑っていては組織は成立しない」というコメントは、現場の士気や信頼関係を維持するという意味では正論かもしれない。しかし逆にいえば、「内輪の不正には目をつぶる体質」が存在していたとも捉えられてしまう。

「若い整備士の愚行」と片付けるにはあまりにも高くついた。これに1億円という予算が投じられた背景には、平時における危機管理意識の脆弱性そのものである。

また、問題のA元士長は事件後、服務原則違反で停職処分となったものの、ちょうど任期満了で退官し、空自は退職金の支払いを留保する措置にとどまった。このような終わり方が、本当に納税者に説明可能な「けじめ」だったのかという点でも疑問が残る。

自衛隊に入れないはずの人間が普通に自衛隊に入っている。

なぜ?不思議でしょうがない。

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