【お知らせ】
シグナリーファン編集部では、警察装備や運用に関する国内外の公開情報・公式資料・報道記事・学術文献を継続的に調査・分析しており、本記事もそれらの調査結果に基づいて構成しています。

津軽海峡を渡った通報─青森→北海道の警察が110番受けた理由は基地局がつなげた想定外

皆さんは北海道新聞さんや北海道の警察さんは好きですか?僕は大好きです。

今日は連日記録的な灼熱の北海道にまつわる、ちょっと涼しいお話をしたいと思います。

今やスマートフォンが1台あれば、衛星通信によって山の上でも災害時でもつながる可能性が高まりました。

しかし、90年代、携帯電話が普及間もない頃はいろいろな問題が起きていたようです。

特に110番通報などは、都道府県をまたいで、よその管轄の警察本部の通信指令センターにつながってしまうことがあったようですね。

事件事故の初動対応は通信指令室への110番から始まる!通報から現場臨場までのリスポンス・タイムは平均約7分だった

北海道の警察では、このようなことが実際に起きており、青森県警察本部管轄内からの110番通報を受けてしまったようです。

携帯電話の普及が従来の110番通報体制に予期せぬ影響を及ぼしたという点でこの新聞報道は大変興味深いと思います。

携帯電話の普及が警察への通報にも影響を及ぼしている。有線電話を基にした受信範囲を携帯電話の電波が飛越えてしまうためで、青森県からの110番が函館につながってしまった。

いまのところ件数も少なく「深刻な状況ではない」(道通信指令課)というが携帯電話時代”の思わぬ落とし穴のようだ。

今年2月ごろ、道警函館方面本部通信指令室に、男性から携帯電話の110番通報が入った。

「オオマで交通事故なので来てくれ」。同指令室は、現場を渡島管内恵山町の大潤(おおま)地区と判断し、函館中央署の駐在署に連絡。「まだ来ない」と催促の通報のあと、三度めの電話で詳しく確認したところ、男性は「下北半島のオオマだ」と答えた。青森県の大間町が本当の現場というハブニングだった。

110番通報は複数署を集中管理する道警本部を除き、発信地を管内に持つ署につながる。しかし、携帯電話を使っての通報は、最初に電波を受ける「基地局」の場所によって発言地が認定されるため、有線電話を想定したこの原則が崩れるときがある。

「漁船などの利便を考えて、津軽海峡はほぼ全域にわたり電波がカバーしている」(NTTドコモ北海道)ため、大間町からの通報も、函館市内の基地局が電波を受言したらしい。

全道でも「札幌方面の滝川から入るときがある」(旭川方面本部)、「(日高、十勝管内の)日勝峠から通報が寄せられる」(釧路方面本部)など、同じようなケースが起きてきている。

ただほとんどの場合、管轄の署への連絡で対応できているといい、道警通信指令課でも「連携を取って対応しているため心配する状況ではない」と話している。

(引用元 1996年6月23日・北海道新聞)

青森県内から北海道の警察への110番通報。津軽海峡を越えてしまったこの110番。ちょっと驚きですよね。

この問題の本質は以下の2点ですね。

  1. 通報が発信者の「位置」ではなく、携帯電波の「最寄り基地局」に基づいて処理される

  2. 地理的に近接している他道県間、あるいは管轄区域の境界線付近で、意図しない受理が起きうる

固定電話の時代、110番通報は加入電話の「設置場所」が明確であるため、通報エリアと警察署の担当区域が一致していました。

しかし、携帯電話では発信者の物理的位置と、最初に電波を受けた基地局の位置が一致しないことがあるため、通報が別の警察本部にルーティングされるリスクがあったのですね。

NTTドコモが説明しているように、「津軽海峡全域をカバー」している基地局ネットワークの存在が背景にあります。

これは悪天候時や航行中の船舶でも通話を可能にするという海上通信の利便性を優先した結果で、ある意味では電波インフラの成功例でもあるのですが、その一方で「発信地=通報者の現在地」という前提が崩れてしまう事態を招いていますね。

また記事によれば、同じ北海道の警察管内でも滝川市からの110番通報が札幌本部ではなく、旭川方面本部につながってしまうこともあったようですね。

滝川市に旭川ナンバーのパトカーがやってくるんでしょうか?いえいえ、実際にはそういう事はなく、旭本からサッポロンブへ転送されていたようですよ。


【あとがき風オチ】

携帯電話の基地局に揺さぶられ、警察の110番受理体制も少々翻弄された過去。

携帯電話時代の幕開けにあたって、既存の緊急通報体制がどのように揺さぶられたかを示す象徴的な事例なんじゃないでしょうか。

でもご安心を。今時のあなたの街には、ちゃんと「地元ナンバー」のパトカーがやって来くるはず。そうであってほしいですね。

ともかく、1996年当時は、まだGPS搭載スマートフォンもなく、基地局による位置推定が主な手段でした。

現在では、緊急通報時においてもGPS測位が組み込まれるなど制度と技術の進化が見られますね。

たとえば総務省は、2020年代に入って「高精度位置情報(Advanced Mobile Location, AML)」の導入を推進しており、通報者のスマートフォンから自動的に位置情報を送信できる仕組みが整備されつつありますね。

旧方式の携帯電話時代の思わず落とし穴。大潤(おおま)と大間の大まちがいなんて、今では笑い話にもなりませんが、通信指令室の皆さんは、日々広大な北海道をつなぐ神経中枢として奮闘中ですね。

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