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FBIの歴史には、いくつもの記憶に残る重大事件がある。
中でも、1986年にフロリダ州マイアミで発生した「マイアミ銃撃戦(Miami Shootout)」は、FBI史上最悪の銃撃戦として語り継がれている。
この実話をもとに制作されたテレビ映画『In the Line of Duty: The F.B.I. Murders(邦題:FBI 男たちの闘争)』は、ただの犯罪ドラマではない。
常軌を逸した凶悪犯2人によって、マイアミの市民が恐怖にさらされたこの事件は、FBIが制式拳銃の再考を迫られただけでなく、全米の法執行機関における火器と装備のあり方そのものに再検討を促した。
本稿では、この衝撃的な事件の背景そのものと、それを題材にしたテレビ映画の内容について詳しく解説する。
Contents
事件概要
1986年4月11日、フロリダ州マイアミ。銀行強盗と車両窃盗を繰り返していた武装犯2人を追っていたFBI捜査官8人が幹線道路で手配車両を発見。しかし、住宅街で包囲しようとした次の瞬間、銃撃戦が始まり、わずか数分のうちにFBI捜査官2人が殉職、5人が負傷するというFBI史上でも特筆すべき惨劇となった。
事件当日、FBIは連続銀行強盗事件の容疑者であるマイケル・リー・プラットとウィリアム・ラッセル・マティックスの車両を発見し、複数の覆面パトカーで包囲。
しかし、停止を命じた瞬間、容疑者らは従うことなく激しい銃撃を開始した。彼らは.223口径の「ミニ14」ライフル、ショットガン、さらに.357マグナムリボルバーを使用し、FBIに対して容赦なく発砲。
一方、FBI捜査官側の装備は、当時の支給銃であるSmith & Wesson M459(9mm)や、.38スペシャル弾を使用するM10リボルバー、さらには上司の許可を得て携行していた私物のM36、そしてポンプアクションのショットガン程度に限られていた。
この銃撃戦では、FBI特別捜査官のジェリー・ダヴとベンジャミン・P・グロガンが死亡し、他の5人の捜査官が負傷。事件は約5分間続き、約145発の銃弾が交わされた。最終的に、重傷を負いながらも反撃を試みたエドムンド・ミレレス特別捜査官が、容疑者2人を射殺し、銃撃戦を終結させた。
FBI捜査官たちは覆面パトを盾に応戦したが、犯人らの銃撃により穴だらけになり、使用していた拳銃やショットガンでは決定打を与えるには力不足でった。容疑者の体には確かに複数の弾丸が命中していたものの、彼らは容易に倒れることなく、最後まで激しく抵抗を続けた。
またおそらく、犯人らはアドレナリンの分泌量が異常に高まっていたとされる。アドレナリンには痛みを感じにくくさせる作用があるとされている。
犯人たちの正体
FBI捜査官8名を死傷させた犯人は、ウィリアム・ラッセル・マティクス(William Russell Matix)、マイケル・リー・プラット(Michael Lee Platt)の2人である。
項目 | 内容 |
---|---|
氏名 | ウィリアム・マティクス、マイケル・プラット |
経歴 | 共に元軍人(海兵隊・陸軍)、退役後に交友。犯罪傾向を強める。 |
動機 | 金銭目的・車両強盗が主だが、犯行における殺傷にためらいがない。 |
特徴 | 銃器に精通、冷静で戦術的。逃走のための暴力行使に積極的。 |
事件の影響 | FBIの火器選定・訓練体系の全面的見直しへと発展。 |
いずれも30代前半の白人男性で、互いに元軍人という経歴を持っていた。
年 | 出来事 |
---|---|
1951年 | ウィリアム・マティクス誕生(米国イリノイ州)。後に海兵隊入隊。 |
1954年 | マイケル・プラット誕生(米国フロリダ州)。後に陸軍へ。 |
1970年代 | 両名とも軍を除隊し民間へ。以降、知人を通じて知り合い共犯関係に。 |
1985年〜 | 中古車を餌にした強盗・殺人・銀行強盗を繰り返す。遺体も発見される。 |
1986年4月11日 | マイアミ郊外でFBIとの接触。銃撃戦が発生し、双方に死傷者。 |
マティクスは元海兵隊員。プラットは陸軍出身で、射撃に関して非常に高い技量を持っていたとされる。2人は軍を除隊後に知り合い、やがて強固な共犯関係を築くようになる。
表向きは「勤勉で礼儀正しい中流の男たち」という印象を周囲に与えていたが、裏では次第に重武装化しながら犯罪に傾倒していった。犯行の動機は、金銭的な困窮や社会への不満といった単純なものではなく、明確な強盗目的に基づいた計画性と、強い攻撃性が背景にあった。
犯行の手口と残虐性
2人は明らかに殺人をためらわない常習性と異常性を帯びていた。彼らは合法・非合法な手段による銃の入手を繰り返し、セミオートライフル(Mini-14)や拳銃、ショットガンなどで武装し移動していた。彼らは銀行や警備輸送車を襲撃するだけでなく、中古車販売を装って個人から車を奪い、被害者を殺害するという冷酷な手口をとっていた。
事件の数日前にも、ある被害者が失踪。のちに2人の犯行によって殺害されていたことが判明している。
FBIとの接触と銃撃戦の引き金
1986年4月11日、FBIは2人の特徴に一致する車両を主要道で発見。7台の車両で包囲しようとしたその瞬間、犯人側は即座に発砲し、ライフルと拳銃で応戦した。捜査官の車両は不意を突かれ、車内で被弾した者もいた。
結果として、FBI捜査官2人が殉職(ジェームズ・リスカ、ベンジャミン・グロガー)し、5人が重軽傷を負う激しい交戦となったが、最終的に犯人2人も射殺された。
精神性と犯罪性の分析
マティクスとプラットには精神疾患の診断歴などは確認されていないが、後の報道や分析では、軍歴と過去の対人トラブル、さらには支配・制圧願望の強さが行動の根底にあったのではないかとされている。
とりわけプラットは、軍隊での訓練を応用したかのような銃撃戦を展開し、極めて精確な射撃と高い戦術的行動を見せた。彼の冷徹な判断力と容赦のなさが、FBIにとって致命的なダメージとなったといわれる。
出典:
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GunMag Warehouse:Guns of the ’86 Miami Shootout – An In-Depth Look
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Intelligence Wiki:1986 FBI Miami Shootout
FBIの検証と公式見解
米軍の使う5.56x45mm NATO弾を乱射する犯人による極めて激しい銃撃戦事件は、FBIおよび全米の法執行機関に大きな衝撃を与えた。
FBIによれば、以下のように見解を述べている。
私たちの銃は彼らを阻止できませんでした。さらに、犯人の武器はより強力で、弾丸は一部の捜査官が着用していた防弾チョッキさえも貫通するほどでした。この悲劇を受けて、FBIは捜査官が携行する火力、彼らが着用する防弾チョッキ、彼らが受ける事件対応訓練に大きな変更を加えました。
参照文献:FBI公式サイト『マイアミでの致命的な銃撃戦』https://www.fbi.gov/news/stories/fatal-firefight-in-miami
この事件はFBIの装備、特に拳銃に対する姿勢を根本から揺るがせた。現場の捜査官が使用していたのは、主に.38スペシャル弾を用いるリボルバーや、当時制式採用されていたセミオートの9mm拳銃。いずれも、相手の体を貫通しても即時停止力に欠け、重装備の犯人2名に対して十分な制圧ができなかったという指摘がなされた。
この事案を受けてFBIは、携行火器の口径や装弾数、防弾装備の防護レベル、事件対応時の実戦訓練内容などについて制度的見直しを実施。10mmオートや後年の.40S&W弾の導入に繋がる転換点となったのである。
さらにその後、FBIは弾丸の貫通力や停止力、精度などに関する大規模な見直しを実施。これを受けて1990年代には.40S&W弾を用いるセミオート拳銃の導入が進み、制式拳銃としてSIG P226、後にGlock 22などの採用へとつながっていく。
それについては以下の記事で詳しく解説している。
FBIマイアミ銃撃戦(1986年)における武器の比較
使用者 | 武器 | 種類 | 弾薬 | 備考 |
---|---|---|---|---|
犯人(プラッタ & マティクス) | ルガー Mini-14 | セミオートライフル | .223レミントン | 単発だがM16と同じ5.56x45mm NATO弾を使用 |
S&W M586 | リボルバー | .357マグナム | ||
S&W M3000 | ショットガン | 12ゲージ | ||
FBI | S&W M459 | セミオートピストル | 9×19mmパラベラム | 当時FBIが採用していた9mmピストル |
S&W M469 | セミオートピストル | 9×19mmパラベラム | コンパクトモデル | |
S&W M13 | リボルバー | .357マグナム(.38スペシャル装填) | 一部の捜査官が使用 | |
S&W M36 | リボルバー | .38スペシャル | コンシールドキャリー用 | |
レミントン 870 | ショットガン | 12ゲージ | FBI車両に搭載 | |
M16(限定使用) | セミ/フルオートライフル | 5.56×45mm NATO | ごく一部の捜査官が所持 |
当時のFBIの標準拳銃は、S&W M13 3インチバレルの通称「FBIスペシャル」であった。これは、.38スペシャル仕様のM10をベースに、.357マグナム弾に対応するモデルとしてFBIの要望により誕生したものだった。さらにFBI捜査官の一部で使用していた9mmオートでも、犯罪者に対する抑止力不足が明らかだった。
また当時、FBIによるアサルトライフルの使用は厳しく規制され、FBI捜査官は負傷や死亡のリスクが高い状況でのみ使用を許可されていた実情があった。
また、捜査官は、事前にアサルトライフルを効果的かつ安全に使用するため、厳格な訓練が必要である。
そして、この事件を元にしたテレビ映画が存在する。この作品の構成や演出、そして見どころを紹介しているので、もし興味がある場合は、次のページへと読み進めて欲しい。