「法執行機関の銃が変わった日 ~マイアミ銃撃戦とノースハリウッド事件~」二つの事件とは・・?

アメリカの法執行機関(LE=Law Enforcement)の装備が大きく変わる契機となった歴史的事件が二つあります。

「1986年 FBIマイアミ銃撃戦」と「1997年 ノースハリウッド銀行強盗事件」です。

どちらも市街地で発生した激しい銃撃戦であり、以後の装備体系に大きな影響を与えました。

1986年のFBIマイアミ銃撃戦では、FBI捜査官が二人の武装強盗と銃撃戦となり、「9mm弾では威力不足」との問題が浮上。

これを受け、FBIはS&W製10mmオート拳銃・モデル1076を約1万丁発注。以降、FBIは「大口径重視」へと方針を転換します。

1997年のノースハリウッド事件では、重武装した強盗犯と警察が市街地で長時間の銃撃戦となり。拳銃では対応困難な現実が明らかに。

アメリカ各地の警察に「パトロールライフル(主にAR-15)」の導入が進むきっかけとなりました。

FBIの「大口径信奉」を決定づけたマイアミ銃撃戦

1986年4月11日、フロリダ州マイアミで発生したマイアミ銃撃戦では、FBIの特別捜査官10名以上が武装強盗2名を追跡し、激しい銃撃戦に突入。FBI側にも死傷者が出る惨事となり、以後の装備と戦術に大きな見直しが迫られました。

実際の銃撃戦現場の写真

現場には、容疑者の車両やFBIの捜査用車両、銃撃戦によって損壊した車体の破片や薬きょうが散乱している様子が写されており、事件の激しさを物語っています。

この事件は、法執行機関において戦術研究の教材として扱われることが多く、いまなお教訓として語り継がれています。

FBIマイアミ銃撃戦と「9mm問題」

FBIマイアミ銃撃戦と「9mm問題」

1986年4月11日、フロリダ州マイアミ。FBIの捜査官たちは、連続強盗事件の容疑者2人を追跡していました。張り込みの最中、容疑者の車両が現れ、FBIは複数の覆面パトカーと無線連携によってこれを包囲します。

しかし、FBIが停止を命じた瞬間、容疑者らは従うどころか、激しい銃撃を開始しました。彼らは.223口径の「ミニ14」ライフル、ショットガン、さらに.357マグナムリボルバーを使用し、FBIに対して容赦なく発砲したのです。

一方、FBI捜査官側の装備はというと、当時の支給銃であるSmith & Wesson M459(9mm)や、.38スペシャル弾を使用するM10リボルバー、さらには上司の許可を得て携行していた私物のM36、そしてポンプアクションのショットガン程度に限られていました。

なお、当時のFBIの標準拳銃は、S&W M13 3インチバレルの通称「FBIスペシャル」。これは、.38スペシャル仕様のM10をベースに、.357マグナム弾に対応するモデルとしてFBIの要望により誕生したものでした。

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銃撃戦は極めて激しく、FBI捜査官たちは車両を盾に応戦しますが、使用していた拳銃やショットガンでは決定打を与えるには力不足でした。容疑者の体には確かに複数の弾丸が命中していたものの、彼らは容易に倒れることなく、最後まで激しく抵抗を続けたのです。

この事件は『In the Line of Duty: The F.B.I. Murders』としてテレビ映画化もされており、凄惨な10数分におよぶ銃撃戦が生々しく再現されています。画像の出典『In the Line of Duty: The F.B.I. Murders』

しかし、捜査官は9mmオートと38口径のリボルバー。一方で、容疑者らのライフルは米軍の使う5.56x45mm NATO弾。

FBIの覆面パトは穴だらけになり、捜査官たちに重傷を負わせていき、FBIの捜査官Jerry L. DoveとBenjamin P. Groganの2名が殉職、5名が負傷。

この事件をきっかけに、「9mm弾では威力が不足する」という議論がFBI内で高まり、以後、より高威力の拳銃弾や装備への移行が加速することになります。

FBIマイアミ銃撃戦(1986年)における武器の比較

使用者 武器 種類 弾薬 備考
犯人(プラッタ & マティクス) ルガー Mini-14 セミオートライフル .223レミントン 高威力でFBIに大きな損害を与えた
S&W M586 リボルバー .357マグナム
S&W M3000 ショットガン 12ゲージ
FBI S&W M459 セミオートピストル 9×19mmパラベラム 当時FBIが採用していた9mmピストル
S&W M469 セミオートピストル 9×19mmパラベラム コンパクトモデル
S&W M13 リボルバー .357マグナム(.38スペシャル装填) 一部の捜査官が使用
S&W M36 リボルバー .38スペシャル コンシールドキャリー用
レミントン 870 ショットガン 12ゲージ FBI車両に搭載
M16(限定使用) セミ/フルオートライフル 5.56×45mm NATO ごく一部の捜査官が所持

FBI側の9mm弾(115gr FMJ)が、犯人を迅速に無力化できなかったことが「9mm問題」として議論され、これが後の.40S&W弾の採用につながりました。

しかし、ぎりぎりのところで容疑者2人も射殺され、銃撃戦は終結。後の調査によれば、犯人たちに薬物使用の形跡はなかったそうです。

おそらく、アドレナリンの分泌量が異常に高まっていたのでしょう。アドレナリンには痛みを感じにくくさせる作用があるとされています。

ともかく、当時のFBIが支給していた9mmオートや.38口径のリボルバーでは、犯罪者に対する抑止力不足が明らかになりました。

全米の法執行機関で進んだ「リボルバーからオートへ」の流れ

この当時、まだ多くの法執行機関ではリボルバーが主力のサービスガン(制式拳銃)として使われていました。

しかし、この事件をきっかけに、全米の警察や連邦機関では、主力拳銃をリボルバーから半自動拳銃(オート)へと切り替える動きが加速。

FBI「もっと威力のある弾が必要だ!」→ 10mmオートへ

また、このFBIは、「9mmや.38口径では不足だ。もっと威力のある銃が必要だ」と痛感しました。

その結果、一発で確実に制圧できる銃を求めたFBIはS&W(スミス&ウェッソン)と共同で新たな拳銃を開発。

シングル・スタックマガジンに9発の10mm弾を装填可能の「スミス&ウェッソン・モデル1076(M1076)」です。

なお、同時に10mm仕様のH&K MP5/10も導入されました。

10mmオートとは?

もともと10mmオート弾は、1984年に登場した「ブレン・テン」というオートピストル用に開発された専用弾でした。弾そのものの性能評価は良好でしたが、肝心の銃本体は品質が悪く、市場で普及しませんでした。

とくに初期ロット・・そいつが一番のハズレ。

スライドの耐久性がクソすぎて、下手したらブローバックで割れるとか、危険な代物でした。

銃はともかく、そんな「10mmオート弾」に注目したのが、S&WとFBIでした。


しかし……まさかの問題発生

鳴り物入りで導入されたM1076ですが、反動が非常に強かったため、現場の捜査官たちからは不評でした。

FBIは1万丁を発注したものの、実際に受領したのはわずか2,400丁。

上の動画のアメリカ人さんのコメントによれば、「FBIは最初のロットに問題があったため、修理のためにS&Wに送り返し、すべての銃がS&Wパフォーマンスセンターで検査されたものの、ある時点でFBIは返品を希望しないと判断し、S&Wは中古のLEO市場(中古の警察けん銃・大放出祭り〜来れ!コレクター・マニアはん)に流した」・・とのことです。

これは・・・どこぞの国の警察用けん銃にも通じるものがあるのではないですか?

日本警察特別仕様の「P230」……「日本警察の迷走」「採用は不適切」とまで評された1丁

巻き込まれた他機関とその後の展開

1990年には、バージニア州警察もS&Wの10mmに注目し、「モデル1026」を約2,200丁発注しました。これはFBIの1076とほぼ同じで、銃身が5インチとやや長い仕様でした。

なお、バリエーションには、モデル1026、1046、1066、1076 (FBI モデル)、1086 があります。

しかしこちらも、FBIが推奨した「低反動の弾薬」で調子が悪く、結果的に1994年にはすべてをSIG P228(9mm)に切り替えました。

FBI公式拳銃の座を得かけたM1076ですが、結局は不遇な末路をたどったピストルとなってしまいました。

1988年からは、SIG P226/P228がFBIのサービスガンとして正式に支給

FBIでは、監督官の承認があれば、特定の基準を満たした拳銃を個別に使用することもできました。

そして1988年からは、SIG P226/P228もFBIのサービスガンとして正式に支給されるようになりました。

.40S&W口径のグロック22&23」を配備

最終的には、10mmオート弾のケース長を約4mm短くし、低反動に調整した.40S&W弾が開発され、10mm弾に取って代わる形で採用されました。

1997年、FBIはフルサイズのグロック17(9mm)の.40S&W口径版「グロック22」および、そのコンパクトモデル「グロック23」を、特別捜査官向けに正式採用しました。

東京マルイ GLOCK 22 18歳以上ガスブローバック

一方、セミ・コンパクトのグロック19をベースに、口径を9mmから.40S&Wに変更したのがグロック23。

ガスブローバック G23F

さすがG19同様コンパクト。日本警察のSATでもおなじみです。ただし、「あのビデオ映像」からは9mmのG19か、.40S&WのG23かわからんのが実情です。

都道府県警察では3種類の回転式および、2種類の自動式けん銃が主流

FBIさん、今度は9mmに原点回帰

ところが2016年、FBIは再び方針転換。「.40S&Wよりも9mmの方が優れている」と判断し、グロックの原点モデルであるG17とG19を、改良型の『G17M』および『G19M』として、サービスガンに採用。

引用元 https://www.recoilweb.com/the-unobtainable-fbi-glock-17m-is-now-obtainable-153654.html

30年前には「9mmは威力不足だ!」とされていたにもかかわらず、結局そこに戻ることになったわけです。

しかし、それにはきちんとした理由がありました。

現代の9mm弾は、1980年代当時のものと比べて大幅に性能が向上しており、これは30年間の現場での知見と技術の進化を踏まえた決定といえます。

実際にFBIアカデミーの教官が発表したコラムでは、次のような理由が挙げられています。

  • 9mm弾の方が他の弾薬より安価である

  • 1マガジンあたりの装弾数が多い

  • 反動が穏やかで連射性能に優れる

  • .40S&Wと比較して、銃本体の耐久性が高い(※専用設計の銃を除く)

  • どれだけ威力が高くても、命中しなければ意味がない(シャア理論)

つまり、「より速く、正確に多くの弾を当てる」ことが、致命的な一撃よりも効果的であるという観点から、「速射性・装弾数・操作性・コストパフォーマンス」などあらゆる面でバランスの取れた9mm弾とセミオート・ピストルは、法執行機関にとって最適な選択である、と結論づけられたようです。

1997年2月28日、『ノースハリウッド銀行強盗事件』が全米警察でのパトロールライフル導入のきっかけに

実際の犯罪が、警察の装備更新のきっかけとなった事例は、もうひとつあります。

それが、1997年2月28日に起きた「ノースハリウッド銀行強盗事件」です。

ロサンゼルスのノースハリウッドで、重武装した2人の強盗犯がバンク・オブ・アメリカを襲撃したことで、アメリカ中の警察装備がガラリと変わることになりました。

この事件が後に、全米の警察が「パトロールライフル」という新たな武装を導入する分水嶺になるとは、その場で応戦していた警察官はもちろん、現場近くのガンショップにM16を借りに走った警察官ですら、当時は思いもよらなかったことでしょう。

装備が違いすぎる――ノースハリウッド銀行強盗事件

1997年2月28日、カリフォルニア州ロサンゼルスのノースハリウッドにあるバンク・オブ・アメリカ支店に、2人の男が強盗に入りました。

これまでの武装強盗と違うのは、彼らが桁違いの装備で自分たちをガチガチに固めていた点です。一般的な銀行強盗がピストルやリボルバー程度であるのに対し、この2人は56式小銃(AK-47の中国製コピー)、HK-91、さらに左右の太ももに9mmハンドガンを携行。頭には不透明なヘルメット、身体には自作の防弾装備を着用していました。

特に防弾装備に関しては、ケブラー製の防弾ベストを複数縫い合わせて全身を覆うという徹底ぶりで、あらゆるダメージに耐えうる仕様となっていたのです。

そして彼らは、この装備に身を固めた彼らはそのまま銀行を襲撃、すぐさま包囲した警察と銃撃戦を展開――

「AR15、借してくれ」― スポーツショップで武器を調達

犯人側は自動小銃を持っていたにもかかわらず、ロサンゼルス市警(LAPD)の警官側の主力装備は9mmのハンドガン、せいぜいショットガンだけ。

対応力の差は明らかで、現場では弾が飛び交い、周囲は無法地帯と化しました。

「くっそ……こっちの9ミリ弾や.38スペシャルじゃ、あいつらのボディアーマー貫通せんやんけ!!」

「まじで!? ほな、どうするんすか、巡査部長!!」

「……ちょっと武器を調達してくる!ついてこいや!」

――数分後、ローカルなガンショップ「ボブのガンショップ」

ガララッ!

店主ボブ「あん? おお、警官さん、テレビ見てましたで。大変な事件やな・・」

巡査部長「ああ、緊急事態や!セミオートのライフルかなんかあるやろ?貸してくれ!!」

ボブ「……AKはないけど・・AR-15、レミントン700ボルトアクションありまっせ」

巡査「こんなのが普通に買えるなんて・・」

巡査部長「.223(5.56mm)弾もありったけ頼む! あるだけでええ!」

ボブ「はいよ、AR-15。こっちはCAR-15、5.56mmの弾箱、ほな、まずセーフティ確認してな……(CAR-15を手渡す)」

巡査部長、M16を両手で受け取り、素早くスライドを引いてチャンバーを確認!

巡査部長「よし……問題なし!」

ボブ「弾はこの箱な。標準的なFMJ(フルメタルジャケット)や」

巡査部長「文句言ってる場合ちゃうわ!マガジンも貸して! できるだけ満タンで!」

ボブ「……ほな、マグ10本あるわ」

巡査部長「 ほな、借りてくで!!」

ボブ「……支払いは誰が?」

巡査部長「市長につけといとくれ!」

――そして、LAPDはガンショップで調達したM16を手に、史上最悪の銀行強盗との戦いに挑むのであった・・

AR-15系「パトロールライフル」導入のきっかけに

なお、上記のガンショップに駆け込んだ警官たちですが、戻ってきた頃にはすでに事件は終息しかけており、間に合わなかったというのが実情のようです。

本事件を下敷きにした映画『44ミニッツ』では、カートを老人から10ドルで買ってまで銃を運んでいた警官ががっくり肩を落とすシーンが描かれていましたが、それもあながち誇張ではなかったのかもしれません。

この事件をきっかけに、米国警察の武装方針は大きく変わりました。

「パトロールライフル」という名称で、アサルトライフルを正式に警察に支給する流れが始まりました。多くはAR-15ベースのSIG SAUER M400などで、セミオート専用の仕様が中心です。

SWATのような特殊部隊が自動小銃を使うのは当然としても、今では一般のパトカー、さらには一部の白バイにまでパトロールライフルが積まれるようになりました。

日本のSIT(刑事部特殊班)がセミオートのMP5を使っているのと、ある意味で似たような話と言えるかもしれません。

刑事部の『SIT』と警備部の『SAT』の違いはひとつだけ

日本ではどうか──自動小銃の配備は進んでいるのか?

日本の警察、とくにパトロール活動を担う地域警察官における「自動小銃(セミオート)」の配備、アメリカと比べるまでもなく、全く行われておりません。

ただ、それ以外の部門では2015年、日本経済新聞が「一部の銃器対策部隊に自動小銃を配備する検討がされている」と報道しました(※1)。

しかし、それから10年が経過した2025年現在も、実際に配備されたとの公式情報や、公開訓練における映像などは出てきていません。

警視庁のSITやSATにおいては89式自動小銃の配備を公表していますが、主力はMP5(セミ/バースト/フル)であり、それ以上の重武装化はまだ進んでいないようです。

一方、2020年に発足した「沖縄県警察国境離島警備隊」は、例外的な存在として注目されています。

これは日本初の“国境警備隊”として設立され、尖閣諸島や宮古・石垣エリアの警備強化を目的とした部隊です。

自動小銃の配備が公式に発表されており、隊員たちは陸上自衛隊の水陸機動団からスキューバ訓練を受けているとも言われています。

装備の詳細は明らかにされていませんが、89式小銃の余剰在庫が転用されている可能性や、海水に強い20式小銃が使用されている可能性も考えられます。

(※1)参考:「警察、対テロ向けに新装備検討」日本経済新聞 2015年12月18日
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG18H8M_Y5A211C1CR8000/

警察の銃器.2 『特殊銃』MP5から自衛隊89式、対物狙撃銃まで

 

 

「法執行機関の銃が変わった日 ~マイアミ銃撃戦とノースハリウッド事件~」まとめ

このように、アメリカの法執行機関における銃火器の歴史を語る上で、1986年のFBIマイアミ銃撃戦1997年のノースハリウッド銀行強盗事件は大きな転換点となったわけです。

これらの事件は、装備の時代遅れ武装した犯罪者に対する火力不足という共通の問題を浮き彫りにし、それぞれの事件後に警察の武器体系が大きく変わるきっかけとなりました。

結論 – 事件が変えた法執行機関の武器

事件 問題点 影響
FBIマイアミ銃撃戦(1986年) 9mm弾の停止力不足 10mm/.40S&Wの導入
ノースハリウッド事件(1997年) 拳銃 vs. アサルトライフルの火力差 警察にパトロールライフル(AR-15)導入

FBIマイアミ銃撃戦は主として「拳銃弾の見直し」を、ノースハリウッド事件は「警察の火力増強」を促したわけです。

一時期、FBI=大口径けん銃の代名詞だったのも、FBIのトラウマとも言えるのかもしれません。これらの事件がなければ、アメリカの法執行機関は今とは異なる武器体系を採用していたかもしれません。

なお、日本警察でも「犯罪者側の武装の悪質化と脅威により、一部警察官の拳銃が大口径化した」という似たような事例があるようです。

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