この記事を読むと、警視庁SPのけん銃は過去25口径だったこと、そして38口径に変更された理由、さらに現在のSPで主力の最新式けん銃について知ることができます。
2025年現在、全国の警察本部警備部では、地域警察官が主に使用するサクラやエアウェイトなどのリボルバー型けん銃に加え、高威力かつ装弾数に優れた自動式けん銃も複数配備されています。
特に最近では、SP(要人警護官)が装備するけん銃の種類も多様化しており、用途に応じた幅広いバリエーションが見られます。
しかし、これは『今でこそ』のお話で、かつてのSPのけん銃といえば、25口径や32口径と非力だったのです。
実はアメリカ本国においては、.25ACP弾を皮肉るジョークがたくさんあります。例としてこんな冗談をご存知でしょうか。
「チミい、25口径で人を撃っちゃいかんぞ。撃った相手がカンカンに怒ってぶん殴られるからな」
筆者が上述のジョークを知ったのはかなり古い銃器雑誌に載っていた、さるライターのコラムでした。銃器ライターたちは毎月意見を発表する場を持っており、筆者のようなマニアは彼らの一言一句に耳を傾けていたのです。
ともかく、これはアメリカでは有名な「威力や信頼性の面で護身用としては心もとない.25ACPに頼ることのリスクを示唆する寓話」だったのです。実際のセルフディフェンスは法執行では.380ACPや9mm以上の弾薬が推奨されるのが現在の一般的な傾向です。
とはいえ、携帯性・隠匿性・信頼性を優先する状況では、今でも.25ACPを選ぶ人は一定数存在します。とりわけ歴史的・文化的な意味合いのあるモデルが多いため、コレクターには根強い人気があります。
もちろん、冗談もあれば、冗談を知らない人、冗談が通じない人もいるのは言うまでもありません。 ユーモアは一部の人にとっては得意ではないのです。とはいえ、この冗談を持ってして、25口径は非殺傷銃器だなどとするアメリカ人はいません。重要な点は至近距離での被弾と命中箇所です。
そして興味深い話が今回のコラムで取り上げる「日本の要人警護官はかつて.25ACPで総理大臣を警護していた」という歴史的な事実です。
Contents
1975年のSP発足時の主力は32口径のFNブローニングM1910と25口径のCOLT .25
SPが所属するのは警視庁警備部。なお、他の道府県警察では警備部の中に公安課を置いていますが、警視庁では公安部として独立させています。
補足説明→警視庁公安部(公安警察)の役割
それまでの日本の首相警護官と言えば、威力よりも携帯しやすさ、そして国民感情へ配慮する目的もあったのか、群集を不必要に畏怖させる大型けん銃よりも、手のひらに隠れるほど小さなけん銃を選定した経緯が。

けん銃の早撃ち訓練をする警視庁要人警護警官(SP)。創設当時のSPでは32口径のFNブローニングM1910を配備。出典 時事通信社
警視庁にSPが正式に発足したのは1975年9月13日。当事の主力銃器は32口径のFNブローニングM1910と25口径(.25ACP弾)のCOLT M1908 .25 automatic(コルト・ベストポケット)という超小型けん銃。
彼らは当時の公開訓練にて、これらの銃を披露。

こんな小さなサイズで、日本の総理大臣は護られていた…。
現在、機動捜査隊などに配備されている32口径のSIG P230よりもさらに小型のCOLT M1908。
しかし1992年3月、自民党の党三役である金丸信・前副総裁が、足利市にて右翼団体関係者の男から、2000人の観衆の前でけん銃を3発発射される狙撃未遂事件が発生。
厳重警戒にあたっていた警察当局、SPらを震撼させました。
おりしも当事は暴力団からのトカレフ押収量が増加していた時期。
一般人までもが所持していたトカレフは、それまで国内で流通していた違法けん銃よりも殺傷力が強く、一気に社会問題化。
警察庁では当時国内で1000丁以上のトカレフが出回っていたと推定しています。

トカレフけん銃 写真引用元 警察白書 https://www.npa.go.jp/hakusyo/h07/h070102.html
しかも、本来軍用けん銃だけに『貫通能力が非常に強い』トカレフ。
トカレフ相手では当時の警察が配備している防弾チョッキでもまったく太刀打ちできず、防弾ガラスと特殊鋼を装備した警護車がピアッシングされてはたまりません。
VIPがトカレフで狙われた場合、それを守り、『動く壁』となる警視庁SPの持つ25口径けん銃で対処できるか、反撃する間もなく、SPが命を落とすのではないかと云う危機感が現場で一気につのったのです。
SPが配備する小型けん銃『コルト・ベストポケット』が使う.25ACP弾は各国の警察など治安機関でポピュラーではなく、当時の制服警察官に広く配備されていた38口径のニューナンブM60に比べ、最大で30%ほども威力差があり、あまりにも非力でした。
ついには1992年7月、東京都町田市にて立てこもり事件が発生し、トカレフを持った被疑者と対峙した神奈川県警機動捜査隊員が殉職。
この事件で被疑者の発射したトカレフの弾丸は最初に被弾した県警機捜隊員の心臓を貫き、後方の別の捜査員の足に命中。
こうして、金丸信前自民党副総裁狙撃事件や、トカレフ拳銃の押収量増加とそれに関連する事件の多発を背景に、警視庁では『要人警護官(SP)』が携行していた25口径けん銃の威力不足が深刻な問題として議論されました。
その結果、同年11月4日までに、SPの携行けん銃を25口径から38口径へと切り替える方針が正式に決定され、事実上の大口径化が実現しました。
93年7月に開催予定の東京サミットや、翌年4月の天皇陛下の沖縄植樹祭出席など、大型警備が控えている警察当局では、年末から38口径タイプのけん銃に切り替えを始め、要人警護に万全の構えで臨みました。
また、SPでは銃の大口径化と平行して、すぐに銃を取り出せるよう、けん銃の着装方式も右腰のヒップホルスターから左脇吊り下げ式(ショルダーホルスター・タイプ)等に変更を決定。
このように、警視庁SPは当時脅威であった威力の強いトカレフけん銃に対抗するため、それまで口径の小さなけん銃から地域警察官と同じ38口径の回転式けん銃に代えることで、対抗策を講じたのです。
余談ですが、このような凶悪犯罪に対抗するために捜査当局が、けん銃の口径と威力をアップさせた例としては、アメリカのFBIの例があります。
近年は25口径はすでに任務用としては退役済みと見られています。また、ホルスターに関しては、現在見られる報道では腰に着装しており、ショルダーホルスターは見られません。
そして、現在のSPでは口径だけでなく、装弾数にも優位性を持つセミ・オートマチック方式のけん銃が貸与されています。さらに見ていきましょう。
現在の警視庁SPが配備するけん銃
現在では、警視庁のSPは地域警察官に貸与されている回転式けん銃『サクラ』(.38スペシャル)よりもハイキャパシティかつ、連射しやすく、人体への殺傷力が強い高威力・高信頼性の半自動式けん銃(9mm)に移行しています。
主に三種類が確認されています。
ベレッタ92

時事通信社の報道から引用した写真に見られるように、米軍が近年まで制式けん銃として配備し、捜査一課特殊班(SIT)も使う威力の強いイタリア製の9ミリ口径の軍用けん銃『ベレッタ92』。
厚生労働省の一部も使ってますね。労働基準監督官にも支給してください。労災隠し。
SPではないですが、栃木県警察ではベレッタ90-Twoの課金仕様も使っています。
グロック

SPの手に鈍く輝くG-SHOCKとグロック17オートマチック。引用元・産経デジタル
オーストリア製のポリマーフレーム拳銃「グロック」が日本の警察で使用されていることが初めて明らかになったのは、2002年に開催されたサッカーワールドカップを控えた時期でした。
それまで徹底的に秘匿されてきた警視庁の特殊急襲部隊(SAT)の訓練映像を、警察庁が報道向けに異例のかたちで公開したのです。その映像の中で、航空機内への突入訓練を行う隊員が構えていた拳銃のサイズから、9mm口径のG19とみられるサブコンパクトサイズのモデルでした。
上記に産経デジタルから引用した写真に映るSPが持つモデルはサイズや外観から、9mm口径のG17、または.40S&W口径のG22である可能性があります。なお、スライド側面にフルオート切り替え用のレバーは見られなかったため、瞬時に弾幕を形成するようなG18型ではないと考えられます。
グロックはもともとオーストリア軍の制式拳銃として開発されたもので、現在では世界各国の軍・警察機関に広く採用されています。日本の警察も例外ではありません。グロック社の公式プロモーション映像では、世界各国の警察機関のエンブレムが次々と映し出されますが、その中に警視庁の徽章も含まれており、日本でも制式配備されていることがうかがえます。
いつの間にか、警視庁もグロックを高く評価し、積極的に運用するようになったというわけです。2025年には『EXPO 2025 大阪・関西万博』警備において、大阪府警の地域警察官へもグロック45の配備を行っています。なんかもう、地域警察にとってグロック45はイベント・ピストル化しとるやん。
H&K USP
こちらはH&K USPです。SATのけん銃としておなじみのほか、陸上自衛隊特殊作戦群でも2004年から使用しているポリマーフレームのけん銃です。グリップが太すぎます。
H&K P2000

SP。その手にApple watchとP2000
こちらのSPは同じくドイツH&K製のP2000を携行。USPコンパクトをさらに高性能に改良したモデルがP2000です。
Gun Professionals17年2月号B01M286QJT | ホビージャパン | 2016-12-27

画像の引用元 https://www.handgunhero.com/compare/heckler-koch-p2000-vs-heckler-koch-usp
左がP2000、右がUSP。両者を並べると、その小ぶりなサイズさが分かります。
フルサイズのUSP、そのコンパクト版ですら「太くて握れない」として、ある国の女性警察官を泣かせているそうです。

けん銃界の恵方巻、USP&USPコンパクト。やめなさい(笑)画像はトイガン
ともかく、そのグリップの太さを改良したのがP2000とのこと。ジェンダーレスけん銃ですね。なんで東京マルイさんは出さないんでしょうかねえ。
M38ボディーガード・エアウェイト
余談ですが、サクラけん銃のトイガンをモデルアップするタナカ社によれば、日本警察ではM38ボディーガード・エアウェイトも一部限定的に存在が確認されているとのこと。

日本警察の一部限定的とは具体的にどこの部署かは不詳で、SPであるかも不明です。なので参考情報としてしてください。田中社長どこですか?
報道でもこの銃を公開した事例はなく、実際の配備は不明。
ハンマーシュラウドと呼ばれる特異なフレーム形状をしており、咄嗟の抜き射ちでもハンマーが衣類に引っかからない同タイプのリボルバーはボディーガードの名が示すとおり、アメリカでは警護官などに愛用されているほか、非番の警官のバックアップ用として定評があります。
まとめ
配備不詳のM38を除けば、SPの使うけん銃はいずれも15発から17発程度の弾丸を装填できる複列弾倉式かつ自動式の軍用・警察向けのモデルです。
制服の地域警察官の持つスミス&ウェッソン・サクラという装弾数5発の回転式けん銃に比べると、「火力」がまるきり違うのがお分かりでしょうか。
明らかに昭和の古き良き時代に比べて、威力・装弾数ともに増強されたSPのけん銃たち。もうあんな悲劇は起きて欲しくありませんよね。
2021年には東京オリンピック警備用公式けん銃(!?)としてSFP9が全国の警察本部警備部に導入されています。
多くは警備部機動隊の銃器対策部隊やERTなどでの配備と見られていますが、SPが手にした姿も見られるかも知れませんね。
でも無課金おじさんもかっこいいですよね。