アメリカの警察官と日本の警察官では、拳銃の運用思想および装備体系に明確な差異が見られる。
例えばロサンゼルス市警察(LAPD)などアメリカの主要都市警察では、9mm口径の自動拳銃が広く採用されており、グロック、S&W M&Pシリーズ、SIG SAUER P320など、近代的なポリマーフレーム拳銃が主流となっている。
これらは高装弾数マガジンやアクセサリーレールを備え、タクティカルライトや予備マガジン、テーザーなどと併用されることが一般的である。
装備は勤務形態にもよるが、オープンキャリー(腰部ホルスター携行)を基本とし、即応性を重視した構成となっている点が特徴である。
一方、日本の警察官の拳銃運用は、米国とは大きく異なる前提のもとに設計されている。日本では一般的に警察官の拳銃携行は職務中に限定され、銃器使用の基準も厳格に定められている。

装備としては回転式拳銃(リボルバー)が長らく主流であり、現行配備はM360Jなどの小型軽量モデルが使用されている。ただ、警視庁や大阪府警の地域警察官の一部では近年、グロック45への更新も進められた。

しかし、いずれの場合も、装備の構成は米国のような多機能モジュール化よりも、シンプルかつ限定的な運用を前提としている。
この違いは単なる装備選択の差ではなく、治安環境と法執行思想の違いに起因している。
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戦後日本の警察制度は「アメリカ式」だった?──拳銃携行とGHQの影響
アメリカの多くの警察組織では、勤務中の警察官は拳銃を常時携行する運用が一般的である。
また、非番時の携行についても、連邦法(LEOSA)に基づき一定の条件下で許可されている。こうした制度は、銃器犯罪を含む突発的事案への対応を前提とした運用思想の影響を受けている。
現在の日本においては、警察官が勤務時間外に拳銃を携行することは原則として認められておらず、勤務終了後は所属署の銃庫に厳重に保管することが義務付けられている。

この運用は「銃器管理の厳格化」と「治安維持のための抑制的運用」という日本独自の警察文化に根ざしているといえる。
しかし、戦後まもなくの日本では事情が異なっていたことは留意すべきである。終戦直後、1945年から1954年までの期間に存在した自治体警察(Municipal Police)制度の下では、警察官が勤務を終えた後、自宅に拳銃を持ち帰ることが容認されていた例があったという。

この制度の背景には、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)による占領政策と、米国型の分権的警察制度を模倣した再編方針が存在する。
GHQは、旧内務省による中央集権的な国家警察体制を「日本の軍国主義そのもの」と見なし、これに代わるものとして米国の市警察(municipal police)に倣った地方分権型警察制度の導入を推進した。
このため、戦後の日本警察には、国家地方警察と、各自治体が独自に設置・運営していた自治体警察があった。
結果として、当時の自治体警察ではアメリカのように警察官が拳銃を私物感覚で扱い、日常生活においても携行する実態があったとされる。すなわち、戦後初期の旧警察法における日本警察制度は、まさに「アメリカ式」とも呼べる構造を一部有していたといえる。
ただし、現在の日本警察では勤務終了後には拳銃を必ず所属部署の銃器保管庫に返納し、非番中の携行は厳格に禁止されている。
この点において、たとえばの話だが、日本で免許センターの警察官が拳銃を着装しているというような光景は想定しえないが、アメリカでは“窓口の警察官の武装”は日常の一風景にすぎない。

両国におけるこのような治安環境・犯罪発生頻度・制度的哲学の差異は、拳銃の機種選定から運用方針に至るまで、装備体系に濃厚に反映されている。
現在、アメリカの法執行機関の大部分がグロックを配備しているが、それは、単なる技術的・性能的優位性に留まらず、警察力のあり方そのものに通底する文化的・制度的背景の理解なしには語りえないのである。

このように、日本とアメリカでは、銃器の文化的背景・法制度・治安観の相違が、警察官の日常的な拳銃携行に対する社会的受容の差として表れている。
かつてはアメリカ的運用が試みられた日本でも、やがては社会的・文化的な土壌に即した厳格な銃器管理制度へと移行して現在に至っている。そのプロセスは、日本の治安政策史における重要な一章であろう。

アメリカの警察官は好きな銃を使えるのか?

ハリウッド映画に影響された多くの日本人にとって、最も気になるのが「アメリカの警察官は、自分の好きな拳銃を自由に選んで使えるのか?」という疑問ではないだろうか。
その答えは「所属機関の規定による」というのが実情である。
警察官個人の希望がほぼ通らない日本と比較すれば、アメリカの警察では装備の選択肢は格段に広いが、それでもアメリカの法執行機関では、各州警察・市警察ごとに「制式拳銃」が指定されており、その範囲内での選択である。

ニューヨーク市警(NYPD)の実例

たとえば、ニューヨーク市警(NYPD)では、グロック19(G19)、S&W M5906 DAO、SIG SAUER P226 DAOの3種の中から選択する。

実際には、全体の6割以上がグロック19を選んでいるとされる。
NYPDにおいては、銃器ごとに「トリガープル(引き金の重さ)」の調整が義務付けられており、独自の厳格な使用規定に基づいて運用されている。
また、特例的な運用も存在する。同じくNYPDでは50歳以上のベテラン警官に限って回転式拳銃(リボルバー)の携帯が許可されている。一方、ロサンゼルス市警(LAPD)では、内勤職員のみリボルバーの使用を認めている。
このように、選択の自由は一部に認められているものの、「.44マグナムで武装したダーティハリーのような警官」が実在するわけではない。余談だが、LAPDではギャングから押収した一部の銃を警察用に転用している。
なお、1980年代以前の一部州警察(たとえばハイウェイパトロールなど)では、.357マグナム弾を使用する回転式拳銃が広く使われていたが、現在では9mmパラベラム弾を使用するセミオートマチック拳銃が主流となっている。

非番の警官と拳銃の携帯および事故:教訓と現実
非番時の銃の携帯については、州法および所属機関の方針によって異なるが、一般的には「指定されたモデルの中から選択し、自己負担で購入したものを携帯する」という形式が多い。
人気が高いのが、小型の回転式拳銃(スナブノーズ・リボルバー)である。

これらは装弾数が5発程度と少ないものの、構造がシンプルで安全性が高く、私服の下にも隠しやすいため、日常的に「潜在的な脅威」に備える必要のあるofficerに適した選択肢とされている。
たとえば、ロサンゼルス市警(LAPD)では非番時にSmith & Wesson Model 649(.38口径)を携帯することが許可されている。
万一、非番中に買い物先の店舗で強盗事件などに遭遇した場合でも、即座に対応できるようにとの配慮から、こうした小型拳銃の携帯が推奨されている。
ただし、拳銃の扱いには当然ながら厳格なルールがあり、たとえば酒類を摂取する場合や、公的任務に関与しない特定の私的活動中は携帯が免除されることもある。
非番中の拳銃携帯は、一定の安全管理意識を前提として許可されているが、現実にはそれが十分でないことによる事故も報告されている。
代表的な例としては、2018年、非番のFBI捜査官がナイトクラブでダンス中に銃を落とし、拾い上げる際に暴発させて観客に被弾させる事故が発生した。このときの拳銃はグロックであった。
また、2015年にはオハイオ州で、非番の警察官がエレベーター内で拳銃を誤って作動させ、自身が跳弾で被弾する事故も起きている。いずれも、日常における緊張感の緩みと、安全教育の徹底不足が指摘されている。
このような状況は、グロックがアメリカの法執行機関に広く導入され始めた1980年代末から1990年代初頭にかけての混乱を彷彿とさせる。
グロックもまた、伝統的なダブルアクション拳銃とは異なり、マニュアルセーフティ(手動式安全装置)を搭載していない構造であり、それが迅速な射撃動作を可能にする一方で、取り扱いに不慣れな者には危険が伴うとの評価もあった。
実際、ニューヨーク市警察(NYPD)では、1990年代初頭にグロック9mmセミオートマチック拳銃の導入を試験的に行なった際、ジャムや暴発のリスクが高いとの理由から、一度は.38口径回転式拳銃の使用を継続する判断もなされている。
▶ 出典:https://www.ojp.gov/pdffiles1/Digitization/145560NCJRS.pdf
この文書は、1992年にニューヨーク市警察(NYPD)の当時の警察委員長であるリー・P・ブラウン氏によって作成された報告書であり、officerに支給する拳銃として、従来の.38口径リボルバーからセミオートマチック拳銃への移行を検討するための調査結果をまとめたものである。

報告書では、NYPDが213名の経験豊富なofficerに対して、9mm口径のグロック拳銃を支給し、パイロットプロジェクトを実施した結果、以下の問題点が指摘されている:
機械的な故障:セミオートマチック拳銃は、リボルバーに比べて機械的な故障が発生しやすく、特に薬莢の排出不良などにより、発砲不能となる事例が報告された。
暴発のリスク:セミオートマチック拳銃は、リボルバーに比べて暴発のリスクが高く、訓練不足の警察官による誤射の可能性が懸念された。
発射弾数の増加:セミオートマチック拳銃は、リボルバーよりも装弾数が多いため、発射弾数が増加し、周囲の市民や警察官への危険が増す可能性があるとされた。
これらの理由から、報告書では、セミオートマチック拳銃の全面的な導入には慎重な姿勢を取るべきであると結論づけている。
これは、「装備の優劣」だけではなく、人員の練度、訓練制度、運用方針の整備状況などが総合的に勘案されるべきであることを示している。
特に、マニュアルセーフティが存在しない近代的なセミオート・ピストルでは、確実なホルスター操作やトリガー管理といった“安全操作技術”の習得が前提となるため、現場に導入するには相応の教育と訓練体制が求められるといえるだろう。
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