【特集】SIG SAUER P226R─海上&陸上自衛隊特殊部隊が選んだ実戦仕様ハンドガン─

SIG SAUER P226R:海上自衛隊特殊部隊に配備される高性能ハンドガン

軍事組織にとって、狭隘空間・市街地・船舶内といった閉所戦闘において、ハンドガンの性能が直接的に生死を分けることは、すでに常識であり、時には小銃以上に多用されている。もちろん、自衛隊特殊部隊にとっても極めて重要な要素である。

ともかく、自衛隊特殊部隊の装備体系は2025年の現在においても「情報統制」が非常に厳しく、公開されること自体が稀である。その中にあって、ドイツとスイスの合作銃器メーカーSIG SAUER(ザウエル&ゾーン)社製のP226Rの配備事実は、公式発表ではなく写真や調達情報の断片から軍事マニアの間で推察・注目されてきた。

現在では、この推察は概ね正しかったと見られており、海上自衛隊の精鋭部隊「特別警備隊(Special Boarding Unit, SBU)」が使用する制式拳銃に、P226Rが確認されたことは特筆に値する出来事だ。

海上自衛隊特殊部隊『特別警備隊』の装備と部隊概要

興味深いことに、P226Rは海自のみならず陸上自衛隊への配備も、ある程度の根拠が見られる。それは自衛隊公式カレンダーに掲載された一枚の写真である。この思わぬ公布物に添付された写真には、一般隊員とは明らかに異なる装備を着用している陸自隊員が、そのレッグ・ホルスターにSIG SAUER系のデザインを有する拳銃を備えているのが確認されており、こちらも「P226Rではないか」と話題になった。

シグ・ザウアーP226。陸上自衛隊

写真の引用元 防衛省発行『陸上自衛隊2011年公式カレンダー』

いずれも防衛省からの公式な型式公開は行われていないが、「自衛隊が正式に調達したSIG SAUER製拳銃」は事実として存在しており、海自・陸自ともに訓練資機材や装備調達の中に、その存在が確認されている。

都道府県警察では3種類の回転式および、2種類の自動式けん銃が主流

海自特殊部隊での採用──「実戦的」拳銃P226Rの選定

防衛省がかつて公表した調達情報には、同社製の「特殊拳銃」の導入実績が明記されており、これがP226Rであると考えられている。さらに決定的な裏付けとなったのが、報道カメラマン宮嶋茂樹氏が撮影した特別警備隊の公開訓練写真である。望遠レンズで捉えたその一枚には、フラッシュライトを装着した拳銃が映っていることなどからP226Rと推測されていた。

この「ライト装着」は、艦内や船舶接舷後の閉所戦闘(CQB)における敵の炙り出しと目潰し効果を重視した実戦的構成であり、同部隊が単なる模擬訓練ではなく本格的な戦闘能力の向上を志向していることを如実に物語っている。

タナカ SIG P226 Mk25 エボリューション 2 オールヘビーウェイト モデルガン完成品

出典 宮嶋茂樹 儂・サイト
http://www.fushou-miyajima.com/gekisya/080528_01.html

もっとも、同氏の写真だけでは判別が困難だが、ザウエル&ゾーン社製の「特殊拳銃」として調達情報が開示されているほか、後述の訓練資機材の導入から事実上、配備は確定づけられている。

P226とは

オリジナルのP226シリーズは、米海軍特殊部隊SEALsやイギリスSASをはじめとする世界の特殊作戦部隊で高い評価を得てきた。そのP226の信頼性と耐久性に加え、戦術ライトなどのアクセサリ装着に対応できるピカティニーレールを搭載したモデルが「P226R」である。まずはその原点であるP226を見ていこう。

1980年代から米国の法執行機関や軍に広く採用されてきた信頼性の高い自動拳銃

SIG SAUER P226は、1980年代初頭にスイス企業 SIG とドイツの J.P. Sauer & Sohn によって共同開発され、1983年に完成。従来の単列式拳銃P220を、多弾倉化しつつ装弾数を増やしたダブルカラム仕様のフルサイズモデルとして設計された。当初は米軍の制式拳銃選定(XM9トライアル)に参加し、装弾数や堅牢性で高く評価されたものの、最終的にはベレッタ92が選ばれた。

1984年、アメリカ陸軍の制式拳銃採用試験(XM9トライアル)で勝利し、ベレッタM92Fに代わる新制式拳銃の有力候補として注目された。

【日本警察が使うベレッタM92】SITが採用した理由&アメリカでの歴史とスペック解説

最終的にはベレッタが採用されたものの、SIG P226は高性能を評価され、多数の米国内警察機関や連邦法執行機関で採用された。ただし、高品質・高性能を誇る一方で価格も高めである。

1988年頃、FBIにおいても公正な銃器比較評価を経て高く評価され、当時、スミス&ウェッソン製モデル19「コンバット・マグナム」を経て、セミ・オートのS&Wモデル459やブローニング・ハイパワーを使用していたFBI SWATの任務用としてP226が選ばれた。なお、P226はFBIの一般捜査官用に転用された他、派生型のSIG P228も一般捜査官用に選定されている。1990年代以降、SIG SAUER P226は、米海軍特殊部隊「NAVSPECWARDEVGRU(SEALs)」や特殊部隊で使用が広がり、耐久性や精度に定評があることから標準装備の一つとなった。ただし、米全軍で「M11」として制式となったのはコンパクトタイプのP228である。

後継のP226R登場

その後、P226は改良を重ねられ、ピカティニーレール装備仕様が登場。さらにグリップ形状やフレームなども人間工学的に改善され、これらを反映した現行モデルが「P226R」である。P226Rは 9mmパラベラム弾をはじめ、.40 S&W、.357 SIG に対応し、安全にハンマーを落とせるデコッキングレバーや、Nitron表面処理のスライドなどを備えた高機能モデルとなっている。

さらに希少モデルとして、2011年に製造された完全ドイツ製の「P226R German」が存在。これはピカティニーレール装備の本格的なドイツ製バージョンで、米国市場におよそ1,000丁のみ輸出された限定モデルとされる。

こうした歴史を経て、P226 は設計から40年以上を経過した2024年に「40th Anniversary Edition」が発表され、その歴史と名声を象徴する記念品としてファンやコレクターの注目を集めている。

機構と仕様

P226は、以下の3種類の口径が用意されている:

  • 9mmパラベラム弾(9×19mm)

  • .40S&W弾

  • .357SIG弾

特に9mmモデルでは、15発入りのマガジンに加え、薬室に1発、計16発の装填が可能である。

この銃の大きな特徴の一つとして、一般的な手動式のセーフティレバーを廃し、代わりに「デコッキングレバー」が搭載されている点が挙げられる。これにより、ハンマーを安全に戻す操作がスムーズに行える設計となっている。

ケイエスシー(KSC) P226R ヘビーウェイト 18歳以上ガスブローバック

また、近年登場した「P226 E2(イーツー)」モデルでは、フレーム下部にレイルを追加し、グリップ形状も一体成型に変更されるなど、操作性とフィット感が大幅に向上している。


部品名 説明
フレーム 耐久性の高いステンレススチール製フレーム。
スライド 同じくステンレススチール。
バレル 精密加工されている。
トリガー トリガープル調整可能。
マガジン 15発または20発装填可能のマガジン。
セーフティ 手動安全装置非搭載。デコッキングレバーのみ。
アイアンサイト 調整可能なフロント・リアサイト。
グリップパネル 握りやすいエルゴノミックデザインのグリップパネル。
エキストラクター 使用済み薬莢の排出を確実に行える。

SIG SAUER P226の公式情報ページのリンク:https://www.sigsauer.com/owners-manuals


🔧 SIG SAUER P226 基本分解手順(フィールドストリッピング)

※ 法律で許可された者のみが行うこと。

※ 必ず弾薬をすべて取り除き、安全を確認した状態で行うこと。

  1. 安全確認
     ・マガジンを抜き、チャンバーが空であることを確認。
     ・スライドを後退させ、スライドストップで保持し、目視で確認。

  2. スライドの後退と分解レバーの操作
     ・スライドを後退させた状態で、左側の分解レバー(テイクダウンレバー)を90度下に回転させる。

  3. スライドの前方への取り外し
     ・スライドストップを解除すると、スライドが前方に滑り出る。慎重に前方へ引き抜く。

  4. リコイルスプリングとガイドロッドの取り外し
     ・スライド裏側にあるリコイルスプリングとガイドロッドを前方に押しながら持ち上げて取り外す。

  5. バレルの取り外し
     ・銃身(バレル)をスライドの中から上方に持ち上げて後方に引き抜く。


🔄 再組立て(リバース手順)

・バレル → リコイルスプリング → スライド → スライドを戻し → 分解レバーを元に戻す → 動作確認


この基本分解では、フレーム、スライド、バレル、リコイルスプリングアセンブリ、マガジンが主要構成要素となる。


参考:

SIG SAUER公式ユーザーマニュアル(英語):https://www.sigsauer.com/media/sigsauer/resources/SIG_ClassicMiniManual_8501154Rev03_LR.pdf

その他の機種に共通する安全・分解手順も記載されている。

分析:自衛隊はなぜP226Rを選んだのか? その選定理由と意図

あくまで、推測でしかないが、自衛隊がすでに長年にわたって運用してきたSIG SAUER P220(日本では“9mm拳銃”として知られる)の配備実績が深く関係していると考えられる。

自衛隊の9mm拳銃(P220)とは?

自衛隊は1980年代以降、9mm口径の制式拳銃としてSIG SAUER P220を国内ライセンス生産した「9mm拳銃」として採用してきた。これは陸海空3自衛隊共通装備として、長期間にわたって運用されてきたものである。結果として部隊における操作性の知見や整備部隊における整備ノウハウ、教育課程における訓練体系の確立などがすでに整っていたことが、「SIG系列拳銃」の導入を技術的・後方支援的に容易にしたと見ることができる。

SIG SAUER P226は、P220をベースに複列弾倉(15連発)に拡張されたモデルであり、装弾数・射撃継続能力の面で明確な優位がある。しかもP226R(“R”はレールを意味する)では、以下の特性を持つ。

  • CQB用途のフラッシュライト装着(ピカティニーレール)

  • 米軍特殊部隊でも採用実績(信頼性)

  • デコッキングレバー等の操作性がP220と類似

したがって、P220で訓練された隊員が、追加訓練なしでP226Rに即応できるという合理性は十分にありえる。

また、P226Rは米軍SEALsでも採用されており、海自の特別警備隊が日米共同訓練を行う際の相互運用性(interoperability)の観点からも、理にかなった選定といえる。

採用例・・日本警察も

日本国内でのP226運用状況は、警視庁や神奈川県警SAT、海上保安庁特殊部隊などでも確認されている。

未使用 KSC P226R EXカスタム HW ヘヴィウェイト 限定品

KSC P226Rタクティカル 07HK ガスブローバック

訓練用のP226(ペイントボール仕様)

実戦配備されているP226Rとは別に、海上自衛隊の特殊部隊では訓練用途として、ペイントボールを発射する訓練用P226も使用された。これは和歌山県のエアガンパーツメーカー「PDI」が開発したもので、実銃に酷似した操作感を維持しつつ、安全に訓練を行うことが可能である。実質的にこの訓練資機材の導入が、海自におけるP226Rの極秘配備を裏付けているといえる。

参考情報:https://www.hyperdouraku.com/colum/pdi/index.html

まとめ

このように見ていくと、P226Rは単なる「代替モデル」ではなく、既存知見を最大限に活用しつつ、任務特性に適合させた“自衛隊特殊作戦対応型拳銃”の延長線上にある装備であったと評価できる。SIG SAUER P226Rは、優れた信頼性と実績により、海上自衛隊をはじめとする多数の精鋭部隊に支持されている名銃である。

また、銃そのものよりも、注目すべきは、P226Rの採用が正式なプレスリリースなどによって発表されたのではなく、軍事カメラマン・宮嶋茂樹氏の撮影や、防衛省が発表した調達資料、あるいは自衛隊公式カレンダーに写り込んだ細部描写など、「断片的情報」から追跡されてきたという事実である。

今回のように現場を撮るプロのジャーナリストの目や、注意深く解析する研究者によって、「実戦的装備の実像」が浮き彫りになった、今回のP226Rの配備情報。

特別警備隊という特殊部隊の性格上、装備の公開に制限が設けられることはやむを得ない。共同訓練を行う外国軍が意図せず、自衛隊の秘匿装備を公開してしまう事例もある中で、今でも防衛省では特殊部隊の配備する銃器の一部にモザイク加工を行うなど、露骨に情報統制を行っている。

しかし、情報統制の下でもこうした事実が浮かび上がること自体、装備選定においても合理性と実戦性が重視されていることの傍証なのだ。

自衛隊フィクション作品の着地点──特殊部隊・諜報機関をめぐる“想像”と“現実”の交錯

Visited 24 times, 1 visit(s) today

7 件のコメント

  • […] ちなみに、警察庁がSAT(特殊急襲部隊)の装備を公式に動画で紹介したのは2002年のことです。その映像によれば、当時のSATにはSIG P226、H&K USP、グロック19など、いずれも9ミリ口径のセミオートピストルが配備されていたことが確認されています。 […]