陸海空自衛官に課せられた「品位を保つ義務」と「挙措容儀基準」とは?

自衛隊員の髪型規定:「品位保持義務」に基づく厳格な統制

自衛隊員は、自衛隊法第58条により「品位を保つ義務」が課されており、これに伴い頭髪に関しても厳格な基準が定められています。男性隊員は基本的に短髪とされており、髪を伸ばすことは認められていません。女性自衛官については、長髪の場合、後ろで束ねることが規定されており、男女問わず脱色や奇抜なカラーリングなどは許可されていません。

このように、自衛隊員の髪型はすべての部隊で厳しく統制されているのが実情です。

なお、航空自衛隊を題材にしたテレビドラマ『空飛ぶ広報室』において、長髪の男性隊員が登場したことに対し、元自衛官などから「現実の空自にはあのような髪型の男性隊員はいない」との指摘があったことも話題となりました。

最近の自衛隊広報誌『MAMOR』などでは、若者風の髪型の男性隊員が登場することもありますが、長髪の男性隊員は実際にはほとんど見られません。

かつての自衛隊広報誌「セキュリタリアン」と現・準広報誌「MAMOR」との違いは?

実際の自衛隊では、隊員の威厳や国民からの信頼を損なわないために、派手な髪型や脱色などは認められていないのです。

また、「自衛官=スポーツ刈り」と思っている方も多いかもしれませんが、これは一部正しく、一部誤解でもあります。新入隊員の教育段階では、男子は全員スポーツ刈り、女子はベリーショートが基本となっており、着隊直後にバリカンや外部の美容師による調髪が行われます。

■部隊配属後は一定の自由も

教育期間を終了し部隊に配属されると、一定の範囲で髪を伸ばすことが可能になります。ただし、引き続き服装容儀基準は厳格であり、国民から信頼される髪型であることが求められます。

■部隊によって髪型にも差

実際の陸海空自衛隊員の髪型を見ると、多くが裾を刈り上げた精悍なスタイルをしていますが、さらに短髪にしている部隊もあります。陸上自衛隊の戦闘職種、特に第1空挺団や水陸機動団などの精鋭部隊では、格闘戦などを考慮して、いわゆる「マリーンカット」と呼ばれる丸刈りに近い髪型を採用しているケースも見られます。

また、左右と襟足を刈り上げた「三辺刈り上げ」と呼ばれる髪型は、陸自の戦闘部隊でよく見られるスタイルであり、精鋭部隊の象徴とも言えるでしょう。

■海自の特殊部隊も精悍な髪型か

海上自衛隊の特別警備隊(SBU)も同様に、精悍な髪型が求められると推察されます。特警隊が手本とする米海軍のNavy SEALsを描いた1990年の映画『ネイビーシールズ』では、比較的自由な髪型の隊員が登場していましたが、実際のSEALsも教育課程では丸刈りにされるのが通例です。

日本の特別警備隊の隊員は、公の場ではバラクラバやヘルメットで顔を隠しているため、詳細な髪型についての情報は公開されていませんが、米海兵隊にならい「マリーンカット」のようなスタイルが採用されていると考えるのが妥当でしょう。

■女性隊員も教育段階ではベリーショート

女性自衛官についても、教育期間中はベリーショートが基本です。部隊配属後は長髪も認められますが、後ろで束ねることが義務づけられており、男性隊員と同様に、脱色や派手なスタイルは禁止されています。

自衛隊では、教育期間を終えて部隊に配属された女性隊員についても、一定の条件のもとで髪を伸ばすことは可能とされています。ただし、勤務中に長髪である場合には、後ろで束ねることが規定されています。

たとえば航空自衛隊においては、女性隊員の容儀に関して非常に詳細な基準が設けられています。サングラスやカラーコンタクトの使用には許可が必要とされ、髪の脱色は禁止です。染色については「自然な見栄えに限る」とされており、化粧もあくまで「身だしなみの範囲内」と定められています。

そのほかにも、刺青(タトゥー)の禁止、制服のプレス、香水の使用は控えめにすること、ストッキングの着用義務など、細やかな規定が存在します。また、婚約・結婚指輪の着用は認められていますが、ピアスについては許可制となっており、身だしなみ全般に対して高い規律が求められているのが現状です。

ちなみに、航空自衛隊ではモヒカンカットや逆毛を立てるようなパンクスタイルといった、奇抜な髪型は一律で禁止されています。

「女性兵士の髪型」の在り方を象徴的に描いた作品としては、アメリカ映画『G.I.ジェーン』がよく知られています。物語は、アメリカ海軍のインテリジェンス部門に所属するジョーダン・オニール大尉が、海軍特殊部隊「Navy SEALs」への入隊を志願し、12週間にわたる過酷な訓練を経て部隊に加わるまでを描いたものです。

同作品の中では、主演のデミ・ムーア演じるオニール大尉が、自ら理髪店で電動バリカンを使って丸刈りにする場面も登場し、話題となりました。米軍では、イラク戦争やアフガニスタン紛争において、実に148名の女性兵士が戦死しています。女性兵士の髪型の問題は、前線への配置といった任務のあり方とも密接に関係しており、多くの議論を呼んできました。

アメリカ軍では2013年以降、女性兵士による特殊部隊訓練への参加が正式に認められるようになり、2016年までにはNavy SEALsの選抜訓練に女性兵士が参加する計画も進められました。

なお、日本では近年、女性自衛官に対する任務制限の一部が見直され、戦闘機パイロットや戦闘ヘリコプターパイロット、さらには潜水艦の乗組員、特殊部隊の一部における任用制限が段階的に廃止されました。これにより、女性自衛官が担うことのできる職務の幅は、従来よりも大きく広がっています。

ずばり!女性自衛官を戦闘職種に就かせなかった理由

自衛官の散髪事情

自衛官の散髪については、勤務中に理髪することが許可されています。これは、自衛官に「常に品位を保つ義務」が課されているためであり、整髪は恒常的な勤務の中でも優先されるべき事項として位置づけられています。

ほとんどの基地や駐屯地には「厚生棟」と呼ばれる隊員向けの福利厚生施設があり、その中に理容店が設けられているためです。勤務の合間に、ゆったりと髪を整えることができる環境が整っています。

自衛官と「ひげ」

一方で、自衛官の「ひげ」に関しては、若干異なる基準が適用されています。広報誌などで、立派な口ひげをたくわえた自衛官の姿を見ることがありますが、これは上司の許可を得ている場合に限り、容認されているものです。髪型に比べると、やや柔軟と言えます。

自衛官の容儀まとめ

他の公務員における容儀基準については一概に申し上げられませんが、自衛隊においてはきわめて厳格な規定が存在します。ただし、近年では情報戦(インテリジェンス)、すなわち諜報や防諜といった分野への注力も進められており、そうした任務に従事する場合には「とても自衛官には見えない」ような風貌や服装も、今後は珍しくなくなる可能性があります。

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