【千葉・習志野】
陸上自衛隊の精鋭部隊「第1空挺団」は、日本で唯一の機動運用部隊として、ヘリボーンや空挺降下による空中機動作戦を遂行する専門部隊である。陸上総隊の直轄部隊として、習志野駐屯地(千葉県船橋市)を拠点に、迅速な戦力展開を可能とする即応力を誇る。
全国の普通科部隊が中隊規模で編成される中、第1空挺団は3個大隊を擁し、規模・機能ともに突出している。所属する隊員は高い身体能力と精神力を備え、空挺徽章およびレンジャー徽章を取得することで、その練度と覚悟が証明される。
毎年1月、習志野演習場では「降下訓練始め」が実施され、空自のC-1およびC-130H輸送機、陸自の大型ヘリCH-47などから完全武装でのパラシュート降下が披露される。この訓練は一般公開されることもあり、自衛隊の即応力を象徴する恒例行事となっている。
作戦時には、ヘリボーンと呼ばれるヘリコプター(CH-47、UH-1)による人員・装備の迅速な空輸と、航空機を用いた空挺降下の双方を駆使し、迅速かつ広範な展開を可能にしている。また、対正規軍作戦に加え、ゲリラ・コマンドゥによる不正規戦への対応も任務の一環だ。
同部隊はかつて東部方面隊の隷下にあったが、2007年に中央即応集団の隷下となり、地域にとらわれず全国規模での任務遂行が可能となった。2018年には同集団の再編に伴い、陸上総隊の隷下へと再配置されている。
現在の第1空挺団は、特殊部隊「特殊作戦群」が同居する習志野駐屯地に本拠を置き、1個普通科群、1個特科大隊、対戦車隊などの直轄部隊、さらには教育機関としての空挺教育隊を含む計8個部隊、約1500名で構成されている。
同じ陸上総隊隷下の中央即応連隊とは、任務において明確な違いがある。空挺団は国内有事における空中機動による緊急展開が主任務であり、レンジャー資格を有する隊員が中心。一方の中央即応連隊は、国際平和協力活動など国外任務への先遣派遣が主軸だ。規模も空挺団の約2000名に対し、中央即応連隊は約700名と異なる。
装備面でも第1空挺団は特殊性を持つ。携行火器には折曲銃床型の89式小銃が用いられ、装甲車搭乗時にも扱いやすい仕様となっている。これは戦車乗員と空挺団にしか支給されない特別なモデルである。ほかにも9mm拳銃、M24SWS狙撃銃、ミニミ軽機関銃、無反動砲や迫撃砲など多岐にわたる火器が整備されている。
近年では20式小銃も優先的に配備され、暗視装置(AN/PVS-14の国産ライセンス品)や防弾盾といった夜間・市街戦を意識した装備も拡充された。これらの扱いは高度な訓練のもとで徹底的に習得されている。
国外任務としては、海上自衛隊の海外拠点が初めて設置されたジブチにおいても、同団の隊員が施設警備任務にあたっている。現地では過酷な環境を想定し、砂漠用の迷彩服「防暑服4型」を着用。防衛大臣の視察も受けるなど、国際的な自衛隊の顔としての側面も担っている。
在外邦人救出のための「誘導隊」、かつて第1空挺団内に編成
それぞれの項目に飛べます
陸上自衛隊の精鋭・第1空挺団では、災害派遣任務への即応体制に加え、かつて海外での有事を想定した在外邦人の避難誘導部隊「誘導隊」が1999年に団内に編成された。これは紛争地に取り残された邦人を、政府専用機を活用して安全に避難させる目的で構想されたものだ。装備や行動計画は極秘とされていた。
この誘導隊はのちに再編され、現在は中央即応連隊の「誘導輸送隊」として運用されており、2021年8月にはアフガニスタンに派遣され、首都カブールにおける邦人輸送任務を遂行している。
「空挺レンジャー」を育成――国内最難関の教育課程
第1空挺団では、同団に併設された空挺教育隊が中心となり、隊員の多くが「空挺レンジャー課程」を履修する。これは陸上自衛隊が各部隊で実施しているレンジャー教育の中でも最も厳しいとされ、幹部・曹に加えて海上自衛隊の特殊部隊員も対象となる。
特筆すべきは、他部隊でレンジャー課程を修了した陸士であっても、第1空挺団では改めて同課程を履修しなければならない点である。これは高度な技能と精神力を要する空挺任務における一貫した訓練水準を確保するためだ。
習志野駐屯地には高さ83メートルの「落下傘訓練塔」が設置され、パラシュート降下の基礎訓練が行われる。実際の降下訓練では、「ひとにいさん(696MI)」と呼ばれるフランス製のパラシュートや、自由降下傘を装着し、輸送機や大型ヘリからの降下が実施される。
かつて訓練中の事故で4名の隊員が殉職したことから、降下訓練前には全員が遺書を記すという慣習もあり、任務の過酷さを物語っている。
空中機動のもう一つの形「ヘリボーン」とは
第1空挺団の空中機動展開は、落下傘による空挺降下に加え、「ヘリボーン」と呼ばれるヘリコプターからの戦術展開も含まれる。これはヘリが地上に着陸、または上空でホバリングする中、隊員がロープ降下する方式で、局地的・迅速な展開を可能とする。
ただし、ヘリボーンには敵からの視認性や速度面での脆弱性という課題もある。そのため任務終了後の撤収時には、機内に収容せず「エクストラクションロープ」によって隊員を吊り下げる形で離脱し、被弾のリスクを低減している。
空挺団員への登竜門――厳格な選抜基準
空挺団員として任務に就くには、肉体的・精神的に高い資質が求められる。候補者には年齢、身長、体重、胸囲に関する厳格な基準が課され、さらに知能・性格・適性検査および体力検定に合格する必要がある。
項目 | 内容 |
---|---|
年齢制限 | 陸曹は36歳未満、陸士は28歳未満 |
適性検査 | 知能・性格・作業素質・職業適性の各検査に合格すること |
体力検定 | 一般は5級以上 |
身体条件 | 身長161cm以上、体重49kg以上、胸囲78.5cm以上 |
空挺隊員となるには、通常の隊員以上の練度と意志、そして任務に対する強い覚悟が必要不可欠とされる。
映画や漫画に描かれた第1空挺団の姿
第1空挺団は、映画や漫画の題材としても描かれてきた。1963年に公開された『第八空挺部隊 壮烈鬼隊長』では、架空の部隊を通じて空挺隊員の訓練や士気が表現されている。コメディ作品『右向け左!』では、実際の空挺団員が出演し、本物の装備での降下シーンが収録された。
また、『グラップラー刃牙』の作者・板垣恵介氏は第1空挺団に5年間在籍していた経歴を持ち、自衛官時代の経験が創作活動に大きな影響を与えたことを公言している。
精鋭部隊・第1空挺団の現在
2020年には女性隊員として初の空挺団員が誕生。
第1空挺団は現在も、陸上総隊直轄の即応部隊として、国内外を問わず多様な任務に備える態勢を維持している。
全隊員がレンジャー資格を有する実質的なレンジャー部隊であり、特殊作戦群など陸上自衛隊の特殊部隊にも人材を輩出している。空挺仕様の89式小銃の装備も、彼らが精鋭であることを象徴する。
[…] 陸上自衛隊第1空挺団は東京タワーの天辺と同じ高さを新幹線と同じ速度で… […]