陸上総隊の創設とその意義 ― 中央即応集団からの進化 ―
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2018年3月27日、陸上自衛隊において従来の「中央即応集団(CRF:Central Readiness Force)」が廃止され、その後継組織として「陸上総隊(JGSDF Ground Component Command)」が新編されました。これにより、陸上自衛隊の部隊運用体制はより統合的かつ柔軟な構造へと移行しています。
陸上総隊とは?
陸上総隊は、従来の中央即応集団と同様に、東部・中部・西部・北部・南西といった各方面隊には属さず、防衛大臣直轄の統合作戦部隊として位置づけられています。このため、地理的な縄張りや方面隊の区域に制約されることなく、日本全国をその警備担任区域として機動的に部隊を展開できるのが最大の特徴です。
さらに、陸上総隊は陸自部隊に対する統合運用の中核として、防衛大臣から直接指揮を受け、平時・緊急時を問わず、迅速に作戦行動に移ることが可能です。
ただし、空自の航空総隊や海自の自衛艦隊のように各部隊を平時から統合指揮する常設指揮機構とは異なり、陸上総隊が方面隊を常時指揮する権限は持っていません。あくまで方面隊とは並列関係にあり、平時においては方面隊の上位組織ではありません。
しかし、有事においては防衛大臣の命令により、方面隊の部隊の一部または全部を陸上総隊司令官の指揮下に置くことが可能とされています。
陸上総隊の直轄部隊
陸上総隊が直接指揮する部隊(直轄部隊)は、大きく分けて以下の2つのカテゴリに分類されます。
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機動運用部隊(Rapid Deployment Forces)
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各種専門機能部隊(Specialized Functional Units)
機動運用部隊
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第1空挺団(習志野駐屯地)
陸自唯一の空挺部隊で、即応性と機動力に優れた精鋭部隊。1900人規模で、日本全国への空挺降下や緊急展開が可能。 -
水陸機動団(相浦駐屯地)
離島奪還など水陸両用作戦に特化した部隊で、「日本版海兵隊」とも称される。沿岸・水路からの潜入や展開能力を有する。 -
特殊作戦群(習志野駐屯地)
陸自唯一の特殊部隊。対テロ作戦、対ゲリラ戦、要人救出など高度な専門任務を遂行する。隊員数は非公表だが、推定300名規模。 -
中央即応連隊(宇都宮駐屯地)
国際平和協力活動や緊急展開任務を主眼とした中核部隊であり、陸上総隊の主幹戦力として機能。人道支援や在外邦人保護任務にも対応。 -
第1ヘリコプター団(立川駐屯地)
陸自最大の航空輸送部隊。第1空挺団や特殊作戦群、水陸機動団の展開を航空機動で支援。大型輸送ヘリによる迅速展開能力を持つ。
専門機能部隊
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中央特殊武器防護隊(大宮駐屯地)
核・生物・化学(NBC)兵器への対応に特化した部隊。福島第一原発事故の際も派遣された。 -
対特殊武器衛生隊(宇都宮駐屯地)
NBC攻撃に備えた医療・除染・防疫任務を担う衛生専門部隊。 -
国際活動教育隊(宇都宮駐屯地)
国連平和維持活動(PKO)や国際緊急援助活動のための教育・訓練を担当する。
陸上総隊の特長と意義
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指揮系統の一元化
防衛大臣直轄の指揮により、有事に迅速な判断と統合的な部隊運用が可能。 -
方面隊の枠を超えた運用
日本全国を担当区域とし、特定の地域にとらわれず必要な地点へ即応展開できる。 -
精強な直轄部隊の保有
空挺部隊、水陸両用部隊、特殊部隊、機動展開部隊など、陸自最精鋭の部隊が配備されており、即応力と戦力投射能力を兼ね備える。 -
国際協力への貢献
国際平和維持活動、人道支援、海賊対策、在外邦人の輸送・救出任務など、国外での任務も視野に入れて運用される。
終わりに
陸上総隊は、中央即応集団の機能を引き継ぎつつ、より統合的かつ迅速な部隊運用を実現するために編制された新たな戦略部隊です。現在、約4000人規模の兵力を擁し、陸自最精鋭の部隊群を隷下に抱える、いわば「陸自の即応中枢」として、その存在感は年々高まっています。防衛・災害対応・国際貢献のいずれにおいても、今後ますます重要な役割を担う存在です。