陸上自衛隊に『輸送防護車』新配備。導入はアルジェリア人質事件による自衛隊法改正

陸上自衛隊、「輸送防護車」配備 海外邦人救出任務に備えブッシュマスター導入

2013年1月に発生したアルジェリア人質事件を受けて、自衛隊法が改正され、陸上自衛隊による邦人救出任務において、車両を用いた陸上輸送が新たに認められるようになった。これにより、自衛隊が国外での即応的な人員救助に本格的に乗り出す道が開かれた。

こうした法制度の変化に対応する形で、陸上自衛隊では「輸送防護車」の導入が進められた。2015年には中央即応連隊の誘導輸送隊に4両が配備されている。配備された車両は、オーストラリアのAustralian Defence Industries(ADI)が開発し、現在はフランスの防衛大手タレス社が製造を手がける「ブッシュマスター防護機動車」である。

この車両の最大の特徴は、高い防御性能と柔軟な運用性にある。市街地での公道走行が可能なサイズで、特別な許可を要せずに移動できるほか、航空自衛隊のC-130輸送機に搭載して空輸できる点は、海外派遣任務において大きな利点となる。

輸送防護車はイラクやアフガニスタンでの対テロ戦争で路上に仕掛けられた即席の爆破装置(IED)による(中略)が多発した米軍が2007年に購入し、使用してきた。

引用元 毎日新聞社 「輸送防護車海外テロでの邦人対象に…陸自が配備」

http://mainichi.jp/articles/20151218/k00/00m/040/022000c

実際にブッシュマスターは、米軍が対テロ戦争を展開していたイラクやアフガニスタンなどで、路上に仕掛けられた即席爆発装置(IED)への対処として活用された実績を持つ。車体底部は地雷の爆風を逃がすV字型構造とされており、乗員の安全を確保する設計がなされている。

日本仕様のブッシュマスターには、ミニミ軽機関銃が搭載されるほか、ワイヤーカッターやウインチ、空調設備が標準装備されている。オプションとしては、遠隔操作が可能な機銃システム「RAVEN R-400」も搭載可能であり、兵員が車外に出ることなく応戦できる能力を備える。

車内には完全武装の兵員9名と、三日分の食料や水などの物資を積載可能で、現地での活動を自立的に展開することができる。すでにオーストラリア軍や英軍、オランダ軍でも導入が進んでおり、高い実績を誇る車両だ。

自衛隊の装備体系において、こうした「輸送防護車」の配備は、従来の防衛任務に加え、新たに浮上した国際的な邦人保護という課題への具体的な対応の一環といえる。今後の運用と拡充が注目される。

「輸送防護車は使えない」との一部からの指摘

「輸送防護車は使えない」 装備面の課題に専門家が苦言 邦人救出に不安も

2015年に陸上自衛隊が新たに導入した「輸送防護車」について、一部の専門家からはその運用に対する厳しい指摘が相次いでいる。とりわけ、軍事評論家でジャーナリストの清谷信一氏は「輸送防護車は使えない」と断言し、導入の在り方に強く疑問を呈している。

ブッシュマスターの車内 引用元/Wikipedia

清谷氏は自身が海外で実際にブッシュマスターに試乗した経験を踏まえ、装甲兵員輸送車としての性能そのものは高く評価している。しかし、陸上自衛隊が想定する邦人救出任務においては「極めて限定的な運用にしかならない」とし、その理由としていくつかの構造的問題を挙げている。

最大の問題点として指摘されたのが、同車に匹敵する防御性能を持つ野戦救急車が現在、自衛隊に一両も配備されていないという現実だ。ブッシュマスターが被弾した場合、乗員の応急救護を行う手段が確保されていないという事実は、救出任務全体の安全性を大きく損なうとされる。

また、車両が攻撃を受け横転した際などに備えた工作車両や回収車といった支援装備も不十分であるとし、バックアップ体制の欠如を強く批判した。

加えて、ブッシュマスターは本来、完全武装の兵士を戦場へ輸送するための車両であり、救出対象となる幼児や妊婦、高齢者などの民間人にとっては乗降や移動が困難であることも問題視されている。「民間人輸送という視点が欠けている」と清谷氏は述べ、「そもそも最適な選択だったのか疑問だ」と批判のトーンを強めた。

同氏は朝日新聞のインタビュー記事(※下記典拠)において、「輸送防護車だけを導入しても邦人救出は実現できない。無理をすれば、多大な犠牲を出して作戦が失敗に終わる恐れがある」と警鐘を鳴らしている。

ブッシュマスターはオーストラリア以外にオランダ、英国なども採用しているが、このブッシュマスター=輸送防護車だけを導入しても邦人救出作戦は実行できない。無理をすれば多大な犠牲を出して失敗する。

典拠元:朝日新聞デジタル
「日本はどこへ――安保法を考える政治・国際陸自が導入した輸送防護車は使えない机上の空論では済まない邦人救出の現場 清谷信一」
http://webronza.asahi.com/politics/articles/2015100200004.html

現時点では、陸上自衛隊による輸送防護車の運用方針や展開計画は明確に示されておらず、今後の実地訓練や検証を通じた改善が求められる段階にある。ブッシュマスター導入が邦人保護の体制強化につながるのか、それとも懸念が現実のものとなるのか、自衛隊の運用能力が今後問われることになりそうだ。

「輸送防護車」まとめ

政府は輸送防護車による陸上輸送を邦人保護の「足掛かり」としているが、現状では不十分な装備体系にとどまっており、実際の救出任務に直結する即応性や安全性はまだ確保されていない。

なお、海外での邦人保護や移送には、政府専用機など空路による対応が併用されることが通例であり、輸送防護車が単独で果たせる役割は限定的だといえる。今後、より現実的な運用体制の構築が求められている。

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