自衛隊の配備する政府専用機、特別輸送隊の任務とは?

実は2つある!自衛隊の「政府専用機」

政府専用機と聞けば、航空自衛隊が運用するジャンボ機を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし実は、陸上自衛隊にも「政府専用機」が存在するのです。こちらはヘリコプターによる要人輸送に特化した機体で、特別な任務を日々担っています。


陸上自衛隊の政府専用ヘリ ― EC225「スーパーピューマ」

陸自の要人輸送用ヘリコプターは、当初ユーロコプター製のAS332 シュペルピューマが導入されていましたが、2005年にすべて退役。現在は後継機であるEC225 スーパーピューマが活躍中です。

機内は革張りのシートにレッドカーペットを敷いた豪華な内装が施されており、政府高官や皇族などの輸送任務に対応しています。

この政府専用ヘリの運用を担っているのは、千葉県・木更津駐屯地に司令部を置く第1ヘリコプター団 特別輸送飛行隊
航空自衛隊の政府専用機が北海道・千歳基地の特別航空輸送隊により運用されているのとは対照的に、首都圏へのアクセスを重視してこの体制が組まれています。


航空自衛隊の政府専用機 ― ボーイング777

航空自衛隊の政府専用機は、北海道・千歳基地に配備された**特別航空輸送隊(Special Airlift Group)**が運用を担当しています。長らくボーイング747-400型機が使われていましたが、2019年(平成31年)4月1日よりボーイング777-300ER型機へ更新されました。

この政府専用機は、総理大臣や皇族の海外訪問をはじめ、国際平和協力活動(PKO)や緊急時の邦人輸送などにも使用されています。

たとえば2013年に発生したアルジェリア人質事件では、犠牲となった日揮関係者の遺体を日本に搬送する任務も担いました。


「空中輸送員」=高い訓練を受けた自衛官

政府専用機における客室サービスは、自衛官である「空中輸送員」が担当します。彼らは接客業務に必要なスキルを民間航空会社(日本航空など)で研修しており、女性隊員にはメイク方法までレクチャーされるという念の入れようです。

その丁寧なサービスは、いわゆるLCC(格安航空会社)とは一線を画すといわれています。

また、空中輸送員には外見や身だしなみの基準が存在し、儀仗隊や司令部付隊員などと同様に、一定の容姿条件が選抜基準に含まれているとされています。


しかし空中輸送員は“戦う”クルーでもある

空中輸送員は単なる接客要員ではありません。彼らは閉所戦闘に特化した戦技訓練を受けており、特に女性隊員も9mm拳銃を用いた実戦的な訓練をこなしています。

これはジャーナリスト・宮嶋茂樹氏の著書でも明らかにされており、政府専用機の乗員が単なる「丁寧な案内係」ではなく、万が一の事態にも対応可能なプロフェッショナルであることを物語っています。

その腕前は非常に優れており、上級の資格を取得しているうえに、格闘技の有段者でもあります。

普段はエプロン姿で穏やかな印象を与える彼女たちですが、要人のすぐそばで任務にあたる立場である以上、緊急時における警護も重要な任務の一つです。したがって、突発的な事態が発生した場合には、セキュリティ要員として敵に立ち向かう役割を担うことも想定されています。それにしても、SFP9は一体どこに隠しているのでしょうか。

なお、政府専用機の機内では、寿司や高級ワインなどの豪華な料理が提供されますが、これらは大臣や閣僚など限られた人物に限られております。同行する警察のSPやSAT、そして報道関係者などには、ソーセージや目玉焼き、ハム、サラダなど、質素ながらもきちんと整った一般的な料理が供されているそうです。

また、報道写真家・宮嶋茂樹さんのウェブサイトでは、政府専用機の機内の様子を撮影した写真が公開されています。
http://www.fushou-miyajima.com/gekisya/080523_01.html


政府専用機に備えられた「隠しタラップ」と、もう一つの重大任務

退役したB-747型政府専用機には、非常に興味深い特別装備が施されていました。

通常、B-747型旅客機で乗客が搭乗する際は、空港に備え付けられたボーディング・ブリッジやタラップを利用します。本機も通常は、訪問先の空港で用意されたタラップから要人が乗降する形となります。なお、B-747の標準仕様には、機体内部に格納式の昇降用階段は設けられていません。

しかしながら、特定の国では政治的な理由などにより、意図的にタラップを提供しないといった事態も想定されます。そのため、政府専用機には非常用の内蔵タラップが追加装備されています。この「隠しタラップ」は、機体右側の貨物用ドアの内側に設けられており、使用する際には貨物ドアを開放し、乗員が手動で展開する構造になっています。

実はこうした装備は、日本に限らず多くの国の政府専用機にも見られます。たとえば、アメリカ合衆国大統領専用機であるVC-25(通称エアフォース・ワン)にも、同様の格納式タラップが備えられています。


この隠しタラップは、あくまで緊急時の使用を想定しており、日本の政府専用機は、海外において紛争などに巻き込まれた邦人を救出する任務にも活用される設計となっています。タラップを設置する時間すらない状況では、陸上自衛隊の誘導輸送隊がブッシュマスター装甲車で邦人を運び、隊員の護衛・誘導のもとで、この隠しタラップを使い、迅速に機内へ収容することが想定されています。

実際、1985年にイランの首都テヘランがイラクとの戦争により緊迫した際、当時のイラク大統領サダム・フセイン氏が「3月19日20時30分以降、イラン上空を飛行する航空機はすべて撃墜する」と宣言しました。このため、各国は自国の航空機を派遣して自国民の緊急脱出を行いました。

ところが、日本の航空会社の労働組合はこれを拒否し、日本人は脱出できない事態に陥りました。その際、トルコ政府が協力を申し出てくれたおかげで、トルコ航空の臨時便により日本人が無事に脱出することができたのです。このエピソードは、今なお語り継がれています。


今後同様のケースが発生した際には、現在2機体制で運用されている政府専用機が、その任務にあたることとなります。必要に応じて、方面隊に所属せず全国を担当区域とする陸上総隊の中央即応連隊をはじめ、第1空挺団、特殊作戦群など、特別な覚悟を持つ隊員たちが政府専用機に搭乗し、89式小銃やM4、さらには防弾盾を携えて邦人救出に向かう手はずとなっています。

このように、政府専用機は総理大臣や天皇陛下の外遊だけでなく、海外紛争地における邦人避難にも用いられる極めて重要な装備であり、航空自衛隊が責任を持って運用しているのです。

ちなみに、かつては政府専用機の飛行経路が、驚くほど簡単に把握されてしまう時代もあったようです。

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