陸上自衛隊は2000年代初頭、専用の「対人狙撃銃(M24 SWS)」を導入し、狙撃要員の教育・配備を本格化させました。
M24 SWSはアメリカ製で、2002年(平成14年)ごろに評価・調達手続きが開始され、その後順次、全国の普通科連隊や第一空挺団・特殊作戦群などに配備されました。
さらに2025年現在はM24の後継として、ヘッケラー&コッホ社製HK G28E2の調達と部隊配備が開始されています。

狙撃銃導入までの期間は、冷戦期から1990年代にかけて陸上自衛隊が専守防衛を前提とした部隊編成を行い、戦術上も中距離精密射撃の優先度が低かったことが背景にあります。
そのため、陸自における専用の狙撃銃の本格的な配備は先進諸国の軍と比較すると、“極めて遅い”導入となりました。
このように、長い歴史の中で、狙撃銃を長らく導入してこなかった陸上自衛隊。
しかし、本当に過去、狙撃銃は必要なかったのでしょうか?
陸上自衛隊はなぜ狙撃銃を導入してこなかったのか

画像の出典 陸上自衛隊 第48普通科連隊 @48i_regiment
狙撃を戦術として重視していなかったこと、ならびに64式の狙撃銃転用でまかなえたから
一言で言うと、そうなります。
陸上自衛隊が長らく専用のボルトアクション狙撃銃を広く配備してこなかった理由の一つは、当時の主力だった64式7.62mm小銃を狙撃銃仕様に仕立てて運用できた点にあります。

群を抜いた精度の高い個体に専用のスコープを装着した64式で、練度の秀でた射手が狙えば、専用の狙撃銃に匹敵するとまではいきませんが、短中距離における精密射撃では良好な精度だったと言われています。
陸上自衛隊でも、M24導入以前には少数の専用狙撃銃を試験用に導入し、戦術研究自体は当時から行われていたとみられます。
しかし、当時の段階では一般の普通科連隊に専用狙撃銃は配備されておらず、狙撃という戦術そのものがまだ制度化されていなかったのです。

画像の出典 陸上自衛隊 第48普通科連隊 @48i_regiment
専任狙撃手の教育や訓練も限定的で、必要に応じて普通科連隊内で兼任する形が多く、戦術上の制約もあったといえます。
とはいえ、専用の狙撃銃は銃身や弾道特性で命中精度が有利であり、とくに弱装弾を使う64式では、長距離での集弾性やストッピング・パワーに差が出てしまい、対人狙撃能力には限界がありました。
さらに、64式小銃の更新時期となり、後継の89式小銃に普通科連隊の主力が移っていったのです。

89式小銃は、5.56mm小口径高速弾を使用するため、64式小銃のような長距離の狙撃が困難になりました。
これは現在主力となりつつある20式小銃でも同様です。

アメリカ軍では中隊、分隊の中で即応的な狙撃の任務にあたるマークスマンという兵士がいます。

ついに専用の対人狙撃銃の配備へ
こうして本格的な狙撃銃調達の機運が高まっていったのでした。
陸上自衛隊におけるM24導入の意義は明確です。


まず、陸自普通科連隊における精密射撃能力が向上し、部隊戦術の選択肢が拡大したことが背景にあります。
また、狙撃手教育や訓練が体系化され、狙撃班の運用が部隊内で専門的に位置づけられるようになりました。
これにより、部隊間の訓練や特殊作戦との連携においても精度の高い射撃能力が活かされるようになっています。
つまり、陸上自衛隊のM24導入は、専守防衛体制下での戦術的要請と部隊能力向上の両面を反映したものであり、部隊の運用における精密射撃能力を体系的に確立する重要な一歩といえます。
なお、海上自衛隊の特別警備隊(SBU)にも狙撃要員が存在するとされ、ドイツ製セミオートマチック狙撃銃MSG90の配備が、防衛省によって公開された文書から読み取れます。
一方、航空自衛隊の基地警備隊や教導隊では、専用の対人狙撃銃の配備は確認されておらず、今後の導入計画も不明とみられます。

国際的な対テロ任務
さらに、1990年代末から2000年代初頭にかけて、国際的にはテロ活動への対応が軍事組織にとって急務となりました。
特に9.11同時多発テロ以降は、先進国軍における狙撃手や専用狙撃銃の教育・配備の重要性が広く認識されました。
陸自もこの流れを受け、特殊作戦群や第一空挺団などで狙撃能力を体系化する必要が高まりました。
公開資料では9.11を直接の導入理由として明示してはいませんが、国際情勢と対テロ任務の重要性が導入を後押しした背景要因の一つと考えられます。
まとめ
すなわち、2000年代初頭に陸上自衛隊がM24SWSを導入した背景には、従来の64式小銃転用による狙撃任務の限界と、国際的な安全保障環境の変化が関係しているといえます。
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