陸上自衛隊が「7.62mm対人狙撃銃 G28E2」を新規導入で狙撃戦術はどう変わる?
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陸上自衛隊が「7.62mm対人狙撃銃 G28E2」を新規導入で狙撃戦術はどう変わる?

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引用元 水陸機動団@jgsdf_gcc_ardb
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2025年、陸上自衛隊は7.62×51mm弾を用いるヘッケラー&コッホ社製「HK G28 E2」を調達、「7.62mm対人狙撃銃 G28 E2」として各普通科連隊等に配備を開始しました。

これまでボルトアクションのM24で行われてきた陸上自衛隊の狙撃・運用戦術の概念がどのように変化するのかを詳しく見ていきましょう。

画像の出典 陸上自衛隊 水陸機動団 公式 @jgsdf_gcc_ardb(2025年11月12日)
引用内容 実際のHK G28 E2による訓練の様子の画像

陸上自衛隊の「7.62mm対人狙撃銃 G28E2」導入の経緯と目的

引用元 水陸機動団@jgsdf_gcc_ardb

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即応的精密射撃を担う新装備─「HK G28 E2」導入で変わる陸自の狙撃戦運用

防衛装備の近代化や運用上の多様化のなかで、対人精密射撃を作戦単位の「一発無力化」任務だけでなく、部隊の即応援護や中距離での精密火力支援として幅広く活用するニーズが高まっている現代の陸上自衛隊。

防衛省および防衛装備庁が2023年に公表した文書によると、今回の「7.62mm対人狙撃銃 HK G28 E2」調達は、既存のM24を置き換えるための装備更新が目的と説明しています。

「HK G28 E2」は普通科部隊等が装備し、各種状況下において、遠距離からの精密な射撃により敵部隊を撃破するために使用します。現有の対人狙撃銃(※M24)の後継装備として、射撃性能を向上させた新対人狙撃銃を取得します。

出典 防衛省(お知らせ)令和5年1月23日 防衛省 新たな重要装備品等の選定結果について

さらに、「射撃性能の向上」つまり、従来の対人狙撃銃M24よりも精度・有効射程・または実効的な狙撃能力を高める意図があることが読み取れます。

文面は簡潔ですが、「後継」「射撃性能向上」「普通科配備」といった文言からは、単なる“銃本体の置き換え”にとどまらない、普通科の部隊運用の近代化や装備体系の見直しを意図した計画であるとも見て取れます。

陸上自衛隊はなぜ狙撃銃を導入してこなかったのか
陸上自衛隊は2000年代初頭、専用の「対人狙撃銃(M24 SWS)」を導入し、狙撃要員の教育・配備を本格化させました。M24 SWSはアメリカ製で、2002年(平成14年)ごろに評価・調達手続きが開始され、その後順次、全国の普通科連隊や第一...

その計画とは。

狙撃手と小銃手の中間的射手を陸自が整備し始めたのか?

アメリカ陸軍ではマークスマン用のDMR(Designated Marksman Rifle)として、まさにG28EをM110A1として、すでに配備しています。

マークスマン(指定射手/選抜射手)」とは、正規の狙撃手(スナイパー)ではないものの、分隊/中隊レベルにおいて中距離での精密射撃能力を持つ“即応狙撃手”とも呼ぶべき歩兵です。

米軍の「マークスマン」は狙撃手ではない?
歩兵の戦闘では「射程」と「即応性」のバランスが常に問題になります。通常の小銃手(ライフルマン)は近〜中距離(概ね0〜300メートル)での即応射撃に優れ、狙撃手は長距離(概ね600メートル超)での精密射撃に特化しています。マークスマン(指定射...

陸上自衛隊では特殊部隊である特殊作戦群向けの限定配備ではなく、陸自の主力である普通科で広く配備する……という公表事実に目を向けましょう。

これは合理的に推測すれば、“各種状況下”において、陸自全体の狙撃戦術の運用概念の変化を示唆していると考えられます。

要するに、M24を単独で“遠距離からの精密な射撃により敵部隊を撃破するために使用”してきた従来の運用方針から、G28E2導入を機に「分隊や普通科の運用に組み込みやすい即応狙撃の概念」へと比重を移す可能性があります。

「マークスマン(指定射手)」に近い「即応狙撃手」の概念とは

引用元 水陸機動団@jgsdf_gcc_ardb

さきほど、米軍のMarksman(マークスマン)という指定射手の仕組みを出しましたが、その装備は一般の歩兵小銃手が持つM4とは異なり、M38、Mk12、M110A1(G28E)などが代表的です。

マークスマンは単独で潜入任務を行うことはなく、分隊の一員として行動し、迅速に精密射撃を行うことで部隊全体を直接支援します。

「HK G28 E2」導入は陸自がアメリカ軍に倣って、即応性と部隊統合を重視し、狙撃手と小銃手の中間に位置する射手を整備しようとしている動きと見ることもできます。

「HK G28 E2」はセミオートでの即応性と高い集弾精度を両立しており、従来のボルトアクション式狙撃銃M24とは明確に異なる特性を持ちます。

このため、G28E2の導入は米軍の「指定射手(Designated Marksman)」が担うような役割、すなわち分隊・中隊レベルで中距離をカバーし、即応的な精密射撃能力を普通科部隊に付与する構想に沿ったものであると読み取れます。

したがって、「陸自が米軍のマークスマンと同様の構想を取り入れ始めた」と言える部分があると考えられます。

「HK G28 E2」の基本仕様

G28E2 は、ドイツの銃器メーカー ヘッケラー&コッホ(Heckler & Koch, HK)社 が開発した、HK417シリーズを基礎とするセミオート式のマークスマンライフル(選抜射手銃)です。

市販の競技用設計を軍用要件に再構成したことで高精度を実現

G28はヘッケラー&コッホの民間向け半自動競技用ライフル MR308を基に開発されています。 

昨今の軍用小銃の流行であるタンカラーが全体に施されています。

7.62×51mm NATO弾を使用し、20発弾倉を基本とします。

工場保証で最大1.5 MOA(約45mm/100m)程度の精度が謳われ、標準でSchmidt & Bender 製などの高倍率ズーム光学照準器を組み合わせることで600〜800m、条件次第では1,000m級まで「狙える」性能を有するとされています。

ニュージャージー州陸軍州兵、第44歩兵旅団戦闘団、第1-114歩兵連隊 by SGT Michael Schwenk

重量は約5.1〜5.8kg(本体のみ)で、バイポッドや調節式ストック、レールなど、戦術と運用性を高める装備が整備されています。 

陸上自衛隊が調達したE2モデルはSchmidt & Bender 3–20×50 PM II を搭載したスタンダード・タイプです。

ほかにSchmidt & Bender 1–8×24 PM II を搭載した G28 E3 (パトロール) があります。

実戦運用面では「狙撃銃(スナイパー)と制式歩兵小銃の間を埋める」役割、すなわち小隊あるいは中隊レベルでの選抜射手(DM)用途に最適化されています。

配備諸国

現在、G28を使用している主な軍はドイツ連邦軍、韓国の第707特別任務団、トルコ軍特殊部隊OKK、特殊作戦軍 (ロシア連邦)、米陸軍(M110A1)、日本の陸上自衛隊です。

採用実績としてはドイツ連邦軍が主要採用国であり、派生仕様は欧州の複数部隊でも確認されています。

アメリカ陸軍関連では、G28 をベースに改良した機種が Compact Semi-Automatic Sniper System(CSASS)関連の話題に登場したことを報じる報道もあります。

G28E2と417の関係性

G28は7.62mm系プラットフォームを基にした指定射手用(マークスマン)ライフルですが、技術的には7.62x51mm弾を使用するHK417系列の民間向けセミオート・モデル(MR308/MR762)を基に軍用要件を反映して設計されたものです。

MR762の実際の射撃精度を確認する様子です。

したがって単に『HK417そのものがG28のベース』ではなく、『HK417系を民間向けに整理したMR308を基礎に、軍用仕様へと再設計したライフルがG28』と表現するのが正しいです。

また、HK416から派生したモデルにはM38 SDMR Squad Designated Marksman Rifleがあります。

M38 SDMR Squad Designated Marksman Rifle 画像の出典 アメリカ海兵隊公式サイト

つまり、HK416 → HK417 → G28 という系譜は、「アサルトライフル」から「スナイパーライフル」への進化の流れを示しており、G28E2はその最終形のひとつに位置づけられます。

また、G28は、銃身の延長・重量化による弾道安定性の向上、可変倍率スコープや高精度トリガー、専用ストックの採用など、射撃精度を重視した構造となっています。

その改良型である G28E2 は、より軽量化と信頼性向上が図られており、電子光学機器やサプレッサーなどの最新装備にも対応します。

米軍では「M110A1 SDMR」という名称でマークスマンライフルとして制式採用されており、歩兵分隊の中距離火力を補完する役割を担っています。

ガスピストン方式による作動の安定性や高い信頼性が評価され、各国でも特殊部隊用として広く使用されています。

サイレンサーも同時導入

陸上自衛隊は新型狙撃銃G28E2の配備に合わせ、サプレッサー(俗に「サイレンサー」)も同時に導入しています。

これまでのM24対人狙撃銃でもサイレンサーの導入は行われてきましたが、今回も配備されます。

G28向けのサプレッサーはH&Kの協力企業であるBrügger & Thomet(B&T)などが製造する専用型が用いられるのが一般的で、銃声の低減やマズルフラッシュ(発射時の閃光)抑制、発射ガスの逆流低減といった運用上の利点が主な目的です。

これにより射手の聴覚保護や発見リスクの低減、暗視装置使用時の視認性向上などが期待されます。 

「7.62mm対人狙撃銃 G28E2」調達価格は

既に公表されている防衛装備庁の公表資料によれば、「7.62mm対人狙撃銃 G28E2」は複数回にわたり契約が進められています。

今回の防衛省の契約相手方は防衛省自衛隊、警察庁・警視庁ほか各道府県警本部、東京消防庁、各自治体と取引実績のある「新成物産株式会社」となっています。

日本政府が国民へ公知した情報によると、以下のようになっています。

なお、量産単価は約700万円、ライフサイクルコスト※は約93億円(約 900丁取得時)と見込んでおり、引き続き精査を行っていく。 ※選定手続きにおける一定の条件下での見積りであり、今後、変更があり得る。

出典 防衛省(お知らせ)令和5年1月23日 防衛省 新たな重要装備品等の選定結果について

防衛省によれば、最大で900挺を調達対象に含めるとしています。まず、2023年度分は182丁を契約し、契約額は1,422,220,800円、2024年度分は195丁を契約し契約額は1,512,868,500円となっています。

単純計算した契約単価はそれぞれ約7,814,000円、約7,758,000円です。ただ、上述の資料によると、防衛省でも今後の変更があり得るとしており、契約書に何が含まれるか(光学機器・訓練・整備等)によって金額は変動するするものとみられます。

一方、M24について過去の米軍向け公表値の目安(約USD $5,750)を現在の為替(1 USD ≒ 153.73 JPY)で換算すると約¥884,000となり、単純比較ではG28 E2はM24想定単価の約8.8倍前後に相当します。

ただし、陸上自衛隊はM24SWSを米国政府によりFMSで購入しており、また参考値は2000年頃の概算であり、軍事契約は“銃+α”が含まれるのが一般的です。

つまり、H&K社からのインストラクター派遣なども含まれている可能性があります。

参考として、民間のMR308/MR762価格(米国内の新品小売)は概ね 約$3.7k〜$4.8k → 約¥57万〜¥74万 程度です。

もちろん、MR308/MR762と軍用であるG28E2と細部はかなり違いますが、それらに比べてもG28E2の調達単価は約10倍前後です。

しかし、これは『銃本体だけ』の比較ではなく、軍事調達が光学機器、夜間装備、予備部品、訓練、保守、トレーニング、試験・統合などを一括して契約する“システム価格”であるためと見られます。

少数ロット・軍仕様化・サポート費用が加わることで、1丁あたりの契約単価は民間小売価格より大幅に高くなるのが通常です。

したがって、両者の契約に含まれるシステム構成概要やサービスの範囲が異なるため、単純に直接比較はできません。

いずれにせよ、公表された調達価格を見る限り、『7.62mm対人狙撃銃 G28E2』は、これまでのM24 SWS(システムを含む想定値)と比べても、高額な狙撃銃であることに変わりはありません。

まとめ

引用元 水陸機動団@jgsdf_gcc_ardb

結論として、「HK G28 E2」の素早い連続射撃が可能なセミオート式の利点を活かし、まさに中距離(600〜800m級)での即応火力支援を担うことが期待されています。

M24の後継として、セミオート式狙撃銃を導入した事実は、こうした戦術変化の背景があるものと見られます。

すべてのM24が置き換わるかは不明ですが、実運用面で、ボルトアクション式のM24が担っていた「精度での一発必中」を今後は「HK G28 E2」の導入によって、より機動的なDMRとして部隊の中間的精密火力を補完する役割を持つ可能性が高いです。

自衛隊における採用は、米軍に倣った近代的な選抜射手運用を見据えた狙撃戦術の刷新として、極めて重要な意味を持つといえるでしょう。

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