【史上初】特殊作戦群の実働訓練画像を防衛省の正式公表前からオーストラリア軍側が公開→削除してSNSでは物議。その背景には何が?

2022年8月に行われた「令和4年度日豪実動訓練」は、日本の陸上自衛隊特殊部隊『特殊作戦群』と、オーストラリア陸軍特殊部隊『特殊作戦コマンド』との合同訓練でした。この訓練が注目される理由の一つは、特殊作戦群の訓練の様子が史上初めて公開されたことです。

特殊作戦群は、2004年に発足し、2022年には編成から18年目を迎えており、その間に培われた高度な訓練や装備は、一般にはほとんど知られていません。

不正規戦に対応する陸上自衛隊特殊作戦群とは

今回の訓練公開は、その一端を国民、それも一部のマニアに詳細に装備の情報を伝える貴重な機会となりました。

訓練の内容としては、両国の特殊部隊が共同で実施する実働訓練で、特に都市部での戦闘やテロ対策、戦術的な協力の強化が目的とされていたようです。日本側からは、特殊作戦群だけが参加しており、これにより日本の特殊部隊の戦闘能力や国際的な連携の重要性が浮き彫りとなりました。

防衛省がこの訓練の様子を国民に広報した背景には、特殊作戦群の存在とその役割をより広く認識させ、国内外の安全保障に対する理解を深める狙いがあったと考えられます。

ところが、とんだ騒動を巻き起こしてしまいました。

陸上自衛隊特殊作戦群は、豪陸軍特殊作戦コマンドと実動訓練

訓練目的(成果)は以下の通りです。

陸上自衛隊特殊作戦群は、豪陸軍特殊作戦コマンドと実動訓練を実施し、作戦遂行能力を向上させるとともに、インド太平洋地域における「特別な戦略的パートナー」である豪州との一層の連携強化に寄与

出典 陸上自衛隊公式 ニュースリリース https://www.mod.go.jp/gsdf/news/press/2022/pdf/20221006.pdf

つまり、今回の日豪合同訓練は、アジアで影響力を拡大する中国を牽制するため、防衛協力を強化する狙いがあると見られています。

また、本年7月に韓国国内ではカルト宗教として認知されている『統一教会』をめぐって、奈良県内で同団体の信者家族で元海上自衛官に暗殺された安倍元首相への“餞(はなむけ)”の意味合いも重なっている可能性があります。

というのも、安倍氏は過去、総理大臣としては初となる特殊作戦群への視察を敢行した実績があるためです。

出典・在日本オーストラリア大使館公式サイト

2018年、安倍首相(当時)はオーストラリアのターンブル首相と共に、特殊作戦群を視察しました。背後には、陸上自衛隊が新たに導入したオーストラリア製輸送防護車があり、日豪両国が対中国防衛で価値観を共有していることを象徴していました。

また、2023年にはオーストラリア政府が自国施設に設置された中国製監視カメラを破壊するパフォーマンスを行い、対中姿勢を鮮明にしています。

安倍元首相は、特殊作戦群の訓練を自ら見届けたうえで、次のように述べました。

総理として初めて視察した特殊作戦群は、その練度の高さに目を見張りました。事柄の性質上、これ以上の感想は差し控えなければならないのは大変残念なことでありまして、私が何に驚いて、何に感動したかということは、差し控えさせていただきたいと思います。

出典 故・安倍元首相の発言 首相官邸公式サイト https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201809/03jieitai_konshinkai.html

故・安倍元首相が視察時に目にしたのが、いわゆる「標的間に隊員を立たせる訓練」だったのかは、今となっては分かりません。同氏は、特殊作戦群の何に驚き、何に感動したのかも語られることなく凶弾に倒れました。

今回、“特殊作戦群18年目にして史上初”となる訓練の一部公開が故・安倍元首相への餞(はなむけ)と捉えられるかは、筆者の推測にすぎません。

特殊作戦群は陸上自衛隊で最も秘匿性の高い部隊であり、その訓練や装備の詳細は、これまで納入に伴う公文書などから推測するしかありませんでした。

防衛省は今回、オーストラリア政府と調整のうえで公表に踏み切りましたが、防衛省公式アカウントで正式に公開された訓練中の写真はわずか2枚。1枚は座学の場面、もう1枚はやや不鮮明な訓練中の一コマにとどまっています。

画像の引用元 陸上自衛隊公式Twitter

陸上自衛隊が公式Twitterアカウントで公開した特殊作戦群の訓練画像には、思わぬ反響が巻き起こっています。画像は薄暗い室内で撮影されたもので、デジタルカメラの感度を上げて撮影したのか、それとも意図的に画質を粗くしているのか、いずれにせよ鮮明ではありません。しかし、隊員がフラッシュライトを頼りに室内を索敵している姿や、頭部に装着されたナイトビジョンがわずかに確認できます。

この不鮮明な画像公開は、特殊作戦群の装備や活動内容が特定されないようにする意図があったのかもしれません。少なくとも、特殊作戦群に関心を持つ人々が期待していたような写真ではなく、一般的な訓練の一コマとして公開されたのではないかと思われます。しかし、防衛省としては、これが公開できる限界のラインだったのでしょう。

ところが、この画像が公開されたことで、SNSを中心にある騒動が広がっています。

防衛省が10月6日に特殊作戦群の訓練画像を公式に発表する前に、画像が流出していた可能性が指摘されています。というのも、豪軍の公式サイトにおいて、9月27日の時点で既に日本の部隊の画像が複数確認されていたというのです。

オーストラリア陸軍では、この部隊を「マスクをつけたサムライ」と呼称しており、画像には特殊作戦群の隊員が映っていました。しかし、その後、これらの画像は日本の防衛省が正式に公開する前に削除されており、その理由は明らかにされていません。

この経緯を受けて、多くの人々が「オーストラリア側が公開したため、仕方なく防衛省も公開せざるを得なかったのではないか」と指摘しています。

この指摘が事実であれば、防衛省は結果的に「成り行きで仕方なく公開した」という不名誉な立場に立つ可能性も。

意図的に画像を公開したわけではなく、オーストラリア側が先に公開したために防衛省が対応せざるを得なかったという形になりかねません。

一方、10月8日になって夕刊フジがこの問題を報じたところによれば、両国は画像公開に関して合意に達しており、「運用能力や隊員個人が特定される情報を除外する」という条件のもとで公開されたとのことです。

これにより、防衛省としては情報漏洩や隊員の安全が脅かされないよう配慮しつつ、公表したということが強調されているようです。

この合意が「流出後」に形成されたのか、それとも事前に予定されていたものかは不明ですが、少なくともオーストラリア側が画像を削除したことから、防衛省がその後に公式に発表するという流れになったことは明らかです。

オーストラリア側が一度公開した画像には、薄暗い室内で小銃を構える陸上自衛隊の隊員が写っており、その構図は防衛省が後に公開したものと似ているものの、より鮮明に装備品の詳細が確認できるという点で異なります。この画像では、特殊作戦群の隊員が4眼仕様のナイトビジョン『GPNVG-18』を装着しているほか、各種アクセサリーが搭載されたM4系またはHK416A5の小銃を持っている様子が映し出されています。

DOUBLE BELL HK416 GEISSELEタイプ 10.5inch SMRハンドガード メタル電動ガン ブラック M4 M16 No.811

画像は市販のエアソフトガン

特殊作戦群には黒系の戦闘服、いわゆる『戦闘服市街地用』が配備されていることが、以前から編成式典時の報道で確認されています。

この戦闘服は、日本政府の旗章を着けた黒い装備で、前進する自衛隊員の様子も今回の写真の中にありました。興味深いのは、この戦闘服の上に装備されたオーストラリア軍迷彩が見られる点です。これは、現地で借り受けたものと思われます。

また、以前から特殊作戦群がM4小銃を使用していることが推測されていましたが、これらの装備の様子を見ても、洗練された先進国の特殊部隊と同等の水準にあると推測できます。

特に、装備や訓練の質から、特殊作戦群が非常に高いレベルの戦闘能力を有していることが伺えます。

陸上自衛隊の『一部』で配備されるM4に関する「ある事件」とは?

オーストラリア軍が公開した特殊作戦群の詳細な装備画像については、いくつかの理由が考えられます。一つは、オーストラリア側があまり深く考えずに公開した可能性です。

国際的な軍事協力の一環として訓練や作戦が行われている中で、装備品や隊員の姿が公開されることは珍しいことではありませんが、それが詳細に識別できる形で公開されてしまったことに対して、後で問題が発覚した可能性もあります。

また、こんな実例もあります。オーストラリアのクイーンズランド警察が“自衛隊の迷彩服を着用し、MP5を構える日本警察特殊部隊SAT隊員”の画像を警察の広報誌に載せた騒動はとても興味深い事例です。日本側としては非常に敏感な情報であり、警察や自衛隊が特殊部隊のの装備が公にされることに対して警戒感を抱くのは理解できます。

実際に日本では、こうした情報が積極的に公開されることは少なく、秘密主義的な文化が強く影響しています。しかし、オーストラリア側では、積極的に公開する方針が取られている場合もあり、その文化的な違いがこのようなズレを生んでいるのかもしれません。

一方で、警察庁がSATの訓練動画を定期的に公開していることは、テロ対策などの一環として情報公開が進んでいる証拠ですが、防衛省と警察庁のアプローチには明確な違いがあります。防衛省は特に秘密主義が強く、特殊部隊の装備や訓練内容が詳細に公開されることは非常に少ないため、オーストラリア軍が公開した画像が意図的でないにしろ、防衛省にとっては非常にマズい事案だったのでしょう。

最終的に、オーストラリア軍側がその画像を削除した理由について、日本側の反響を受けて削除に至った可能性も考えられますが、不詳です。

どちらにせよ、今回のケースは今後の情報公開に関する方針にも影響を与える先例になるかもしれません。

Visited 1 times, 1 visit(s) today