捜査用覆面パトカーってどこらへんを見抜くの?

覆面パトカーは大別すると、刑事部や生活安全部に所属している私服勤務者が乗る捜査用覆面パトカーと、もっぱら交通部の制服警察官が乗車して交通違反取締りに使用される交通取締り用覆面パトカーの2種類に分けられます。交通用覆面パトカーの特徴については、前回お伝えしたとおりです。

交通取締用覆面パトカーの特徴と装備品

この記事は、捜査用覆面パトカーになります。

交通用覆面パトカーは国費による配備で、ほぼ全国的にセダン型ですが、捜査用覆面パトカーは国費によるものでもセダン型のほか、ハッチバック型やステーションワゴン型など、車種が実に豊富です。さらには軽自動車までも採用されています。

そのため、捜査用覆面パトカーには独特の面白さがあり、胸のときめきが止まらないのです。

画像は捜査用覆面パトカーのトヨタ・アリオン。おばさん向けの何気ない中型セダンも、各種装備品の架装を施せばとたんに怪しさ一杯の魅惑的な働くセダンになる。

2025年現在、全国の警察本部刑事部機動捜査隊で配備される『機動捜査用車』は主力車両がマークXからカムリへ更新されています。

機動捜査隊に配備される機動捜査用車と搭載装備品とは?

 

一方、署轄ではアリオン、カローラセダンといった中型セダンのほか、スイフトやフィットなどハッチバックも優勢です。

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スカイラインもかつては機動捜査隊の顔でした。エコカーの覆面ではホンダのインサイトが大量配備中。トヨタのプリウスも少数ながら捜査車両として配備が確認済み。

街でがんばるプリウスの覆面パトカー特集

そしてスズキからは近年配備された伝説のキザシ。

スズキ・キザシが覆面パトカーに選ばれた理由と見分け方を解説

捜査用覆面パトカー……その特徴は着脱式警光灯であること

捜査用覆面の最大の特徴と言えるのがマグネット・タイプの着脱式警光灯。

緊急走行の際は乗員が自分の手で直接ルーフに載せるのが、交通用覆面の反転式赤色灯とは異なります。

覆面パトカーの着脱式赤色灯と反転式赤色灯の違いとは?

刑事課は交通違反の取り締まりに従事しない

事事件の捜査をする機動捜査隊や刑事課などの警察官は、交通違反の取り締まりに従事していません。したがって、基本的に捜査用の覆面が交通取り締まりを行うことはありません。

機動捜査隊などは信号無視や一方通行を逆走などをした車がいた場合、事件などにかかわっている犯人が乗っている場合が多く、その場で現行犯逮捕して身柄を拘束したいときは信号無視などをした時間を記録し、交通課や地域課員、自動車警ら隊などに応援要請をしています。

交通課員が捜査覆面で交通取り締まりを行うイレギュラー運用はあり得る

一方、めったに見られない光景ですが、外見が捜査用の覆面であっても、中身が交通警察官なら交通取り締まりを行う場合も。所轄の刑事・生活安全系の捜査覆面が交通課の交通取締りパトカーとして一時的にレンタルされているのです。

例えば東京都内では捜査用のアリオンに交通課の警察官が青服で乗り込んで駐車禁止エリアの取り締まりを行っているほか、ある県警ではスイフト覆面で一時停止違反やシートベルト取り締まりを行っていることがTwitterで報告されています。

2018年、警視庁が行った大規模な交通取り締まりではなんとあのキザシも交通覆面として投入。

画像出典 テレビ朝日のニュース報道

ただし、捜査用の覆面パトカーにはストップメーターが搭載されておらず、速度違反の取り締まりには対応していません。

どんな車が捜査用覆面パトカーとして採用されるのか

基本的に警察庁では、車両の購入を入札で決定しており、ある程度の仕様は指定しても、具体的な車名までは指定しません。そのため、キザシのような例が発生するのです。

メーカーが覆面パトカーの入札に投入するのは、売れ行きの悪い車種や、最低グレードの廉価モデルが多い傾向にあります。

近年では、ハッチバックの台頭によりセダンの人気が一般市場で低下し、販売不振が続いています。そのため、メーカーはセダンの生き残り策に頭を悩ませており、警察が大量にセダンを採用してくれれば、在庫を捌くことができるのです。

ただし、当局側もセダンだけでは捜査に支障をきたすと考えたのか、近年では「私服用ハッチバック型無線車」という名目で、スイフト、フィット、SX4、ジュークといった車種の採用が増加しています。特にフィットは市場でも人気があり、「売れない車が覆面に採用される」という法則は崩れつつあります。

そのほかにも、エルグランド、アルファード、セレナ、ステップワゴンなど、ワゴンやミニバンタイプの車両も覆面として採用されています。

また、警察車両の購入には、国が一括で購入し都道府県に配備する「国費モノ」、都道府県が独自に購入する「県費モノ」があります。

パトカーの県費購入と国費購入とは?

さらに「寄贈モノ」といった形態があるため、県によって捜査用覆面のラインナップはさまざまです。

高級車のパトカーはほぼ民間からの寄贈車両

「覆面パトカー」は警察の正式名称ではない?

一般車両に偽装された警察用の捜査車両や交通取り締まり車両を、世間一般やテレビ報道では「覆面パトカー」と呼びます。しかし、警察の公式な仕様書などの書類上では「私用概態警ら車」や「私服用セダン型無線車」などと表記されます。

ただし、「覆面パトカー」という言葉は俗語でありながら、警察官自身も使用することが多いようです。2014年6月に放送されたテレビ東京の「警察密着24時」では、機動捜査隊員が「覆面車両をこっちに持ってきてください」と無線で指示を出していました。

また、多くの県警本部の公式サイトでも「覆面パトカー」という表記が見られるため、警察内部でも一般的に使われていると考えられます。

とはいえ、某県警の公式サイトがWikipediaの記述をそのまま引用していたのには驚きました。

交通・捜査用覆面パトカーを判定する最低限の要素

交通取締り用の覆面パトカーは、基本的に2名乗車で制服着用が原則。車種はクラウンなどのセダン型が圧倒的に多く、ダブルミラーや反転式パトライトを装備している点が特徴です。

一方、捜査用覆面パトカーも2名乗車が多いですが、乗員は私服で、黒系の作業服やスーツを着用することが一般的です。特に警視庁ではスーツ着用が多く、地方都市ほどカーゴパンツやスニーカー、釣りベストを着用することが多いようです。これは「警察24時」などの番組でもよく見かける光景です。

基本的に、捜査用覆面パトカーに制服警察官が乗務することはありませんが、当直の刑事や所轄の運用次第では例外もあります。

また、捜査用覆面パトカーの最大の特徴として、乗員が窓から腕を伸ばして着脱する「マグネット着脱式パトライト」が挙げられます。

そのほか、交通・捜査用の覆面パトカーに共通する要素として、TLタイプ、アマチュア無線タイプ、ダイバーシティ偽装アンテナなど、デジタル警察無線用のアンテナが装備されている点が特徴です。

覆面パトカーのアンテナを種類ごとに解説!偽装アンテナから車内アンテナの増加へ

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しかし、昨今では例のアンテナ窃盗事件の影響か、警察も秘匿に躍起になってきており、外部露出型のアンテナを備えない覆面パトカーも。

警視庁の覆面パトカーからアンテナを盗んだ犯人の目的は?

 

また、悪い人みたいなスモークを貼ったセダンも、覆面パトカーのお家花と言えます。警察本部によっては「後付けのスモーク」が禁止されている所もあるということです。

覆面パトカーの見分け方として車体の塗色も実は重要なファクターです。ある警察本部の場合、車体色がホワイトの「捜査用覆面パトカー」は過去に、公安を除いて存在せず、黒か灰色のレガシィやアリオンが広く使われていたようです。

このような法則があった警察は全国的にも珍しいですが、キザシの配備後はこの法則が崩れ、捜査用覆面にホワイトカラーが達入される運びとなったようです。

セダンからハッチバック……覆面パトカー業界に新風

覆面パトカーはセダン型が大半を占めていますが、必ずしもそれだけに限っているわけではありません。スズキのハッチバック型SX4、スイフト、ホンダのフィット、最近では警視庁の捜査部門ではダイハツを覆面パトカーに採用しています。

今までの覆面パトカーの見分け方のポイントとしては、セダン型、グリル内埋め込み式orオートカバー仿装前面警光灯、乗車人数、乗員の服装や髪型など容貌、補助ミラー、鉄ッチン、フォグランプの有無などでしたが、捜査用ではハッチバックタイプの導入がセダンと平行して進められているため、知識のない方にとっては見分けが難しいのが現状です。

「どうせ偽覆面だろう」という先入観は捨てて、最低限の予備知識は持っておくべきです。

警視庁の軽の覆面パトカー。

大阪府警交通部門にはステージアの覆面が。
http://www.youtube.com/watch?v=SacS8CU5rFk

覆面パトカーは特殊車両だから「88ナンバー」なの?

覆面パトカーは特別な装備を積み込んだ「特装車」です。では、覆面パトカーは特殊車両区分の8ナンバーに該当するのでしょうか。実際、過去に配備されていた覆面パトカーは、ほぼすべて特殊な改造を施した車両として登録され、8ナンバーが交付されていました。

しかし現在、警察で配備されている覆面パトカーは8ナンバーではなく、通常の3ナンバー車となっており、かつての『88ナンバー』ですぐに見破られてしまう時代は、すでに過去のものとなっています。

一方、自衛隊の憲兵である警務隊が配備している覆面パトカーは8ナンバーです。ピカピカの白いブルーバードシルフィや、古いクラウンで8ナンバーの怪しい車両があれば、それは痛~ィマニアではなく、自衛隊警務隊の車両である可能性が高いです。警務隊では制服を着用して捜査を行うこともありますが、必要に応じて私服での捜査も認められています。

なお、かつては一般人が自家用車を特殊用途の『広報宣伝車』として88ナンバーを取得することが横行していましたが、代行業者が不正登録で次々に摘発されたため、現在ではそのような事例はほとんど見られなくなっています。

主な覆面パトカーの装備や特徴

警察の覆面パトカーは主に下記の保安装置や装備を積んでいます。

  1. Aピラー両側に赤色灯コードをひっかけるためのクリップ
  2. 着脱式赤色灯
  3. 助手席側にカーメイトのミニミラー(稀に交通でも)
  4. 機捜隊の車両には身元を照会するのに使うPDAも搭載。

また、覆面の装備といえば、ルーフ上の赤灯ですが、最近の捜査用覆面パトカーの着脱式赤色灯には下に黒いゴムがついています。これは道路運送車両の保安基準の一部改正によるものとみられます。

多くの場合、覆面パトカーのルーフに載せる赤色灯は一灯のみですが、警視庁や神奈川県警、大阪府警、広島県警で二個載せが導入されています。二個載せは全国的に見ると珍しい運用です。

覆面パトカーが着脱式赤色灯を『二個載せ』する理由は?

捜査用覆面パトカーの「屋根ピン」「ポッチ」も興味深い「装備」。覆面パトカーのルーフには、前述の着脱式赤色回転灯が落下しないように固定するためのピンが取り付けられており、これを俗に屋根ピンと呼び、捜査用覆面パトカーの見分けのポイントになっています。

ただ、同じように着脱式赤色回転灯を使う警察以外の緊急車両(総務省の車両など)でも屋根ピンがあります。

機動捜査隊など最前線で犯罪捜査に挑戦する第一線部隊では、上記装備に加えて防弾チョッキ、さすまた、ストップスティック(車両強制停止装置)、レスキューハンマーなどが積み込まれ、さらにモノモノしいようです。

機動捜査隊に配備される機動捜査用車と搭載装備品とは?

交通取締り用覆面パトカーの場合はさらに 、ストップメータ(自車の等速を利用して対象車両の速度を測定する装置)、パトサイン(起倒式の小型電光掲示板) 、カラーコーン や交通表示板 、後部補助警光灯 (トランクルームのトランクハッチ内側に設置。トランク開放時に屋根のパトライトが見えなくなるのでその対策) などが積み込まれています。

かつては、覆面パトカーといえば、なぜか青マットも特徴でした。

個性を演出する小物たちで覆面パトカーの車内を彩り、「覆面パトカーに見せないための偽装工作」を行う刑事たちの涙ぐましい努力

捜査用覆面パトカーは警察車両と見破られないため、多様な偽装工作を行い、日々努力を重ねています。

秋葉原事件では警視庁の機動捜査隊や万世橋署の捜査車両が幾台も現場に集結しましたが、その中の覆面の一台には、走り屋のよく貼るカーチューニングパーツの企画、製造、販売企業BLITZやHKSのシールを貼っていた車両がいたようです。

『この手』の工作を地道に行っている警察本部の例は多くあるようで、ペットボトルのおまけのキャラクターマスコットのストラップをワイパースイッチに引っかけたり、アニメのマスコットキャラをダッシュボードに飾っている捜査車両、ハンドルカバーをハメてワッパを太くしている捜査車両の写真もありました。

札幌市のある警察署では覆面パトカーのレガツーに、ドコモダケの人形がぶら下がっていました。もし、緊走で追い抜いてゆくレガシイ・ツーリングワゴンの運転席にて、ドコモダケがゆらゆら踊っていたらヤリキレナイ想いを感じてしまいそうです。

「ドコモダケ」典拠元
http://www2.famille.ne.jp/~mst-hide/back5/110815.html

さらに、なんとステップワゴンやセレナの捜査車両には「赤ちゃんが乗ってます」というマグネットサインまで。ミニバンでこんなマグネットサインを貼られると、単なる幸せな家族の車に見えなくもありません。

これらの偽装工作はおそらく警察官個人の涙ぐましい努力、または実際に乗務する捜査員のアソビゴコロとみられますが、中身、つまり乗っている私服の捜査員たちの雰囲気をまず、幸せな家族のように変えることが先決と思います。

内規によっては小うるさい警察本部もありそうですが、このような刑事個人の遊び心は傍から静かに覆面を見守っている側としては興味深いものです。

覆面パトカーのまとめ

  1. 覆面パトカーは捜査用と交通取締り用の二種
  2. 捜査用覆面はセダンばかりではない
  3. 交通は制服、刑事は私服。ただしイレギュラーはありえる。

それにしても覆面パトカーとは、奥が深いものです。