【女性警察官のスカート廃止】警察官の制服、旧制服と現行制服は何が違う?

警察官の制服は、国家公安委員会規則によって細かく様式が定められており、鑑識活動服などの特殊な被服を除けば、現在は47都道府県すべてで統一されています。

ワッペンに記載された都道府県名やシンボルマーク、胸の識別章の番号票を除けば、すべての警察本部で「見た目は同じ」となっています。

ただし、着用や着こなしに関する規定については、各都道府県警察本部の訓令や裁量によって異なる場合があります。

署長による装備品点検の様子。装備品を吊るす帯革は上着の下に着装され、けん銃ホルスターは上着の右腰ポケットのスリットから出していることがわかる。写真の出典 宮古毎日新聞社『合い服に衣替え/宮古島署』http://www.miyakomainichi.com/2013/11/56395/より

現在、警察官が恒常勤務で着用している現行の制服は、平成6年(1994年)4月1日から全国で一斉に配備されたもので、機能性と国民からの「親しまれやすさ」に重点を置いてデザインされています。

この制服の改定に伴い、それまで使用されていた木製警棒は特殊警棒に変更され、けん銃吊り紐はカールコード式に改められました。

また、肩から斜めに吊るしていた帯革(たいかく)用の吊り紐も廃止されるなど、いくつかの装備品の変更が行われました。

さらに、けん銃ホルスターを除くカールコードや黒手錠を市民の目に触れにくくするため、装備品を吊るす腰の帯革(たいかく)を制服の上着の下に隠し、それまでの警察官の「厳つい印象」を払拭しようとしたことが、デザイン当初のコンセプトでした。

制服で並ぶ男性警察官。腰にはけん銃と特殊警棒を着装。制服には両そでのそで口に近い部位に、前面から後面にかけ斜め上向きのラインが入っていることにも留意。この線の色はそれぞれの階級に応じ、紺色、金色、銀色となっている。写真の引用元 https://www.photo-ac.com/

けん銃ホルスターを出すために設けられたスリット

現行制服では、着装したけん銃ホルスターを冬および合制服の上着の右腰から出すため、専用のスリット(横向きの裂け目)が入っています。

実際、このようなデザイン変更により、スマートなシルエットへと生まれ変わり、その姿について「まるで守衛のようだ」という声があったほか、特にライトブルーになった夏服のシャツについては「米国の警察のようだ」という意見も見られました。

沖縄県警察警察官と米国海兵隊の共同訓練における場面。半袖と長袖の夏服を着用した警察官が混在しています。写真の引用元 在日米国海兵隊公式Facebook

基本的に、警察官の制服は夏服・合服・冬服の3種類があり、季節ごとに衣替えが行われます。

春から夏の時期である4月から5月の2か月間に着用される「合服」は、冬服と同型ですが、生地がより薄く、快適に過ごせる仕様になっています。

合服のシーズンでも、特に暑い日には上着を着用せず、白いワイシャツのみで執務を行うことが認められています。

6月になると、夏服であるブルーのシャツに衣替えされます。

夏服には半袖と長袖の2種類があり、個人の好みに応じて選択が可能です。

ただし、式典などで統一が求められる場合には、いずれかのタイプに揃えられます。

警察官の制服の衣替えは全国の警察本部で一斉に行われる?

全国の警察官の制服が夏服に切り替わるのは、毎年6月1日です。

しかし、沖縄県では本土との気候の違いから、他の県警本部より1か月早い5月1日に衣替えを行うのが慣例です。

このため、沖縄県警が「合服」を着用する期間は4月のみとなり、他県警よりも1か月短くなります。

なお、東京都から約1,000キロ離れた警視庁小笠原警察署の署員は、一年を通じて夏服を着用しています。

小笠原諸島の12月の平均気温は約20度前後であるためです。

警察官の制服のフォーマットは警察庁によって統一されていますが、予算は都道府県ごとに異なり、入札に参加して納入する企業によっては各警察本部で若干の「質」の違いが生じることがあります。

なお、愛知県警では松坂屋に制服を発注しています。

警察官の制服はどこでクリーニングしているのか?

シャツの洗濯については、自宅で警察官本人や配偶者が行うことが多いようです。

クリーニングを利用する場合は警察署指定のクリーニング店に出すことになります。ただし、指定がない県警も存在します。

クリーニング代は警察官本人の自己負担となっています。

活動服

警察官に貸与される被服には、スーツ型の冬制服・合制服のほか、丈の短いブルゾン型の「活動服」と呼ばれる制服も含まれています。

現在、街中で見かける地域警察官のほとんどが、この活動服を着用しています。

活動服は丈が短く、腰回りの警棒やけん銃に手が届きやすいため、地域警察活動を主に担う外勤員にとって、非常に機能的なデザインとなっています。

都道府県警察では3種類の回転式および、2種類の自動式けん銃が主流

なお、本部執行隊である自動車警ら隊も活動服を着用しています。

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したがって、現在の警察官の制服は、職務の内容に応じて適切な機能性が備えられたデザインとなっているのです。

警察庁のソフト化計画と現状について

警察庁は、「(中身はともかく)まずは制服改正によって国民から親しまれやすい印象を与える」ことを目指し、ソフト路線を掲げました。

しかし、現在の地域警察官の主流は、腰道具がむき出しになった活動服であり、結果として当初の構想は有名無実化してしまいました。

むしろ、活動服の導入によって、警察官のシルエットはアメリカの警察に近い印象を強め、腰道具がより目立つ結果に。

そのため、「親しみやすさ」とはかけ離れたイメージになってしまったと言えます。

もちろん、犯罪者を威圧するという目的であれば理に適っているかもしれません。

しかし、600億円もの予算をかけて構想されたとされる当初の市民に親しまれやすい警察官を目指すという目的とは、いったい。

正式な制服ではない活動服は着用制限が厳しい

職務質問を行う地域警察官。活動服の上に冬季用の外套を着用している。

ところが、地域警察官が着用しているこの活動服は、実は正式な意味での「制服」ではなく、制服とは別の扱いになっております。

その典拠の一例として、警視庁警察官服制規程では、「制服または活動服」と両者を区別して記載されています。

ただし、これらを総称して「制服等」と呼んでいるため、便宜上、活動服も制服の範疇に含まれると考えて問題はないでしょう。

しかし、活動服の着用に関しては、各警察本部の裁量に委ねられているのが実情であり、着用が認められる場面にも一定の制限が設けられています。

腰道具にすぐに手が届くよう、丈を短くした活動服は『お巡りさん』の象徴にもかかわらず、部内では『着てはいけないシーン』も。
活動服

例えば、京都府警察の場合、活動服はあくまでも補助的な制服として位置付けられており、訓令に定められた業務(主に地域警察活動)に従事する場合のみ着用が認められています。

そのため、表彰式や公式の儀式、式典などの場では活動服の着用は一切認められておりません。

また、皇族の警衛や国賓等の警護に際しても、着用は可能ですが、儀礼上の配慮を第一に考え、慎重に対応するよう求められています。

一方、北海道警察においても、「警察官の服制に関する規程の運用について」において、京都府警察とほぼ同様の対応を取っています。

このことからも分かるように、「儀礼としての制服」と「機能的な活動服」は明確に区別されているのが実態です。

また、幹部警察官はほとんどの場面で活動服を着用せず、冬制服または合制服の上着を着用することが一般的です。

なお、活動服を着用する際には、「活動帽」と呼ばれる略帽をかぶることになっています。

活動服のリサイクルについて

余談ですが、警察本部によっては、警察官が使用した活動服を交番相談員用の制服としてリサイクルする場合があります。

その際、「交番相談員」の名称を背中に入れたり、相談員用のワッペンに換装するなどの修繕を施し、再利用されています。


警察官の制服に付属するエンブレム・ワッペン

警察官の制服には、右上腕部分にエンブレムのワッペンが取り付けられています。

夏服用のワッペンは、洗濯回数を考慮してシリコンゴム製になっていますが、冬服の場合は刺繍製となっています。

このワッペンは、47都道府県および警察庁ごとに異なるデザインとなっています。

警察庁は「警察庁」、警視庁は「警視庁」、道府県警察はそれぞれの道府県名を金色で表記し、その上部には各都道府県のシンボルマークを配置しております。

例えば、

東京都(警視庁) → 都の木であるイチョウの葉をモチーフに「TOKYO」の文字
埼玉県警察 → 県鳥「シラコバト」
栃木県警察 → 県木「栃の木」
神奈川県警察 → 鳩のマークに「KP」の文字
静岡県警察 → 富士山と県域図マークに「SP」の文字
千葉県警察 → 「CP」の文字のみ
茨城県警察 → 県花のバラ
北海道警察 → 道の公式章「七光星」
山梨県警察 → 武田菱にちなんだ菱マーク

このように、各都道府県ごとに異なる特徴を持っており、とても興味深いものとなっております。

なお、警察庁本省所属の警察官のワッペンには「日章旗」がデザインされています。

また、警察官とは厳密には異なりますが、警察庁付属機関である皇宮警察の皇宮護衛官のワッペンには「皇宮」の文字と桐紋が使用されています。


警察官の礼装について

警察官は、結婚式などの場において、正装用の「礼装」と呼ばれる制服を着用することができます。

これは警察官本人のみならず、親族の冠婚葬祭等においても、社会慣習上必要と認められる場合に限り着用が認められます。

ただし、礼装はすべての警察官に貸与されているわけではなく、着用を希望する場合は警察本部総務室装備施設課に願い出て、その都度借用する必要があります。

また、礼装時にはけん銃や警棒などの装備品を携行しません。

なお、自衛官や消防吏員にも通常の制服とは別に礼装が存在し、同様に結婚式などの場で着用されます。

女性警察官の制服

女性警察官の制服について

女性警察官にはスカートおよびスラックス(ズボン)が貸与されていましたが「現場の機動性重視」を目的として、2024年度で廃止されました。

女性警察官とかつての“スカート”

「女性警察官がスカートを履く国は北朝鮮と日本だけ」と、かつては揶揄されたこともありましたが、実際にはそのような単純な話ではありません。

日本の女性公務員の制服の中で、女性警察官のスカートは最も短いとされていました。その理由は、街中での動きやすさを考慮したためといわれています。

実は、戦後すぐの時期にも女性警察官へのスラックス導入が検討されていましたが、GHQ(連合国軍総司令部)が却下したという経緯があります。

出典:『発見!意外に知らない昭和史: 誰かに話したくなるあの日の出来事194』

警察官の旧型制服

『日本の警察官の制服』の原点を遡ると、明治7年に警視庁が初めて導入した黒い上着と白いズボンが、その始まりといえるでしょう。

戦前から戦中にかけて、警察官の制服は詰襟型が基本でした。

しかし、敗戦後、GHQ(連合国軍総司令部)の指導により、アメリカの警察のようなデザインへ変更されました。

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これにより、詰襟型から開襟のワイシャツ・ネクタイ・ブレザー型の制服へと移行し、1956年から1993年まで、このスタイルが日本民主警察の象徴として長く定着しました。

警察庁によると、昭和31年(1956年)までは警察官の制服が全国で統一されておらず、まずは全国統一が課題とされていました。

そして、昭和43年(1968年)に『時代に即したデザインおよび色調』の新型制服が登場し、同年には男性警察官の制服の全国統一が完了しました。

ただし、女性警察官の制服の全国統一が完了したのは、それより遅れた昭和51年(1976年)でした。

1971年に当時の警視庁が発表した女性警官の新しい制服。左から外とう、冬服、夏服、盛夏略装(東京都千代田区の警視庁前)(1971年01月28日) 写真の出典元 時事通信社公式ウェブサイト

斜め吊革の廃止について

旧・男子用制服の特徴は何といっても肩から斜めにかけられた斜め吊革です。

この帯革を吊って腰回りの重量を肩に分散させるための『斜め吊革』は、『前時代的で威圧的、古いデザイン』とみなされ、1994年の制服改訂に伴い廃止されたことは前述のとおりです。

警察官の制服まとめ

このようにして、日本の警察官の制服は時代とともに変遷を重ねてきました。

なお、警察官の制服は当然ながら厳重に管理されており、万が一、貸与された制服の数が合わない場合、大規模な捜索が行われることになります。

大阪では、義理の兄である現職警察官の制服を盗んで着用していた男が逮捕されています。

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当然ながら、警察官など公的機関の制服やその模造品を部外者が公の場で着用することは、軽犯罪法違反となります。

また、納入前に民間企業側の不手際によって制服が紛失する事例もあります。

例えば、2003年には愛知県警察の制服を納入するために県警本部へ輸送していた配送業者が、制服の入った段ボールごと車両から落として紛失させるという事件が発生しました。

また、中には制服類を横流しする警察官も存在します。

2004年には、愛知県警察の現職警察官が制服などの装備品を他人に有償で譲渡していたことが判明し、大きな問題となりました。