画像の出典 乱数放送で北朝鮮からラジオ周波数で届く暗号を読み解く
警備警察には、国際テロリズムなどの情報収集をはじめ、主に外国人に関わる警備犯罪の捜査を担う部門があり、一般に「外事警察」と呼ばれています。
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外事警察の役割について
外事警察は、ロシアや朝鮮半島情勢に関する防諜活動をはじめ、近年ではイスラム過激派対策が重要な任務となっています。それぞれの課や係ごとに特定の地域や分野を担当し、情報収集や監視を行っています。
日本の警備警察の中でも、最も規模が大きいのは警視庁の外事課であり、第一課から第三課まで存在しています。
警視庁外事第一課(ソトイチ)
「ソト」は外事、「イチ」は一課を意味し、これが通称「ソトイチ」の由来です。外事第一課では主に極東ロシアに関する諜報活動の中でも、防諜(スパイ対策)を担当しています。
防諜とは、国内の公的機関の機密情報(防衛機密など)が外国の諜報機関によって流出するのを防ぐ活動のことです。
ボガチョンコフ事件
1999年から2000年にかけて発覚したボガチョンコフ事件は、日本における代表的なスパイ事件の一つです。海上自衛隊の三等海佐が、ロシア駐日武官であるボガチョンコフに騙され、海上自衛隊の内部資料を渡してしまいました。
ボガチョンコフの正体がロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)の情報将校であることを突き止めたのは、神奈川県警警備部外事課でした。この事件では、三等海佐の家族の不幸につけこみ、親密な関係を築いた上で機密情報を引き出すという手口が用いられました。警視庁のソトイチと神奈川県警の合同捜査本部が捜査を進め、三等海佐は現行犯逮捕され、懲役10か月の判決を受けました。しかし、ボガチョンコフは外交特権を利用して逮捕を免れ、二日後に帰国しました。
また、古典的な手法として「ハニートラップ」が挙げられます。駐屯地や基地の近くの飲食店で働く外国人女性と親しくなり、関係を持った後に、写真や動画を撮影され、それをネタに内部資料の提供を強要されるケースも発生しています。
このような外国のスパイ活動を摘発するのが、スパイハンターの異名を持つ警視庁外事第一課、通称「ソトイチ」です。
なお、警視庁外事第一課は、東京都民への犯罪経歴証明書の発行も担当しています(他の都道府県警察では刑事部の業務)。犯罪経歴証明書は、外国政府へのビザ申請や永住許可申請などに必要な公文書であり、申請時には指紋の採取が行われます。また、封をした状態で交付されるため、開封すると無効となります。
外事第二課(ソトニ)
外事第二課は、アジア地域を担当し、北朝鮮や中国に関連する団体の監視を行っています。特に北朝鮮に関する情報収集や対策については、詳細な分析が行われています。
外事第三課(ソトサン)
外事第三課は、国際テロ関連の情報収集を担当しています。特に中東地域を中心に、イスラム過激派組織の動向を監視し、関連団体の視察を行っています。
かつての勢力と比べて衰えたとはいえ、依然として世界各地でテロ活動を続ける「イスラム国(IS)」には、日本人も参加していたことが判明し、国内でも大きな問題となりました。
例えば、2014年には北海道大学の学生がイスラム国に感化され、その活動に参加しようとしたとして「私戦予備・陰謀」の疑いで警視庁外事第三課(ソトサン)の家宅捜索を受けています。
2019年7月の書類送検
2019年7月には、元北海道大学生を含む5人が「私戦予備・陰謀」の罪で警視庁公安部により書類送検されました。この5人には、元同志社大学教授でイスラム学者の中田考氏やフリージャーナリストの常岡浩介氏、さらに、渡航を呼びかけた千葉県の男性や、勧誘の張り紙をした古書店関係者などが含まれています。同罪が適用されたのは、これが初の事例でした。
ISに参加した初の日本人
日本人として初めてISに参加したとされるのは、立命館大学の元准教授モハメド・サイフラ・オザキ容疑者です。
オザキ容疑者はパキスタン出身ですが、日本人女性と結婚し、日本国籍を取得していました。2016年7月1日にバングラデシュのダッカで発生したレストラン襲撃事件では、日本人7人を含む22人が犠牲となりましたが、オザキ容疑者は実行犯らを過激派に勧誘した疑いが持たれています。さらに、彼は日本国内の若者を勧誘し、トルコを経由してISに参加させていたとされています。
2019年5月時点で、オザキ容疑者はイラクの刑務所に収監されているとみられています。
外事警察の諜報活動を支える「ヤマ」と技官たち
諜報活動とは、国家の安全を守るために行われる情報収集活動のことを指します。日本では、都道府県警察の公安部門のほか、外務省、内閣情報調査室、防衛省情報本部、公安調査庁なども諜報・防諜活動を行っています。
また、内閣情報調査室は、NHKやラヂオプレスといった民間機関に委託し、北朝鮮や中国の国営放送をモニタリングする「オープン・ソース・インテリジェンス(OSINT)」活動を行っています。
外事警察の日常業務の一環として、外国の通信を傍受する「シギント(Signals Intelligence=SIGINT)」にも従事しています。この活動は、警察庁情報通信局の技官と協力しながら行われ、外国の暗号通信や乱数放送の傍受が主な任務となっています。
特に、東京都日野市には「警察庁第二無線通信所」とされる施設があり、全国の傍受施設を統括する役割を担っていると考えられています。これは、公式には存在しない施設とされており、情報収集の拠点となっています。
警備警察や公安警察についての詳細は、以下の記事で解説しています。