一見すると、ただのセダン。しかし、違反車両を確認した次の瞬間、ルーフから赤色灯がせり上がり、サイレンが鳴り響きます。覆面パトカーは、一般車に紛れる秘匿性と、緊急車両としての即応性を両立するため、特殊な装備や構造を備えています。
特に注目されるのが、「覆面パトカーが赤色灯をどのように隠し、どう展開しているのか」という点です。
取締り当局では、とくに警察車であることを明らかにせずに交通捜査(取締まり)を行う必要があると考えており、そのために一般車両に偽装した警察車を運用しています。
警察庁としては、運転者に取締りの有無にかかわらず交通関係法令を遵守させ、限られた体制の下で効果的に交通秩序を維持するためには、警察用車両であることを明らかにせずに交通取締りを行う必要があると考えている。
現在、日本警察で運用される覆面パトカーの赤色灯には、部隊や用途によって大きく2種類の方式が存在します。ひとつは、天井内部に昇降式の赤色灯を備えた「反転式」。そしてもうひとつが、乗員が手で赤色灯をルーフに装着する「着脱式」です。

さらに、これらの覆面パトカーは、屋根上の赤色灯だけでなく、車内やフロントグリル内部に補助警光灯を備える場合も多く見られます。

これは、白黒パトカーと比較して、より一般車両に擬態した外観となっている覆面パトカーの、視認性の低さを補うためですが、一部の県警では交通取り締まりを効率的に行うために利用していた運用例もあります。

この記事では、覆面パトカーが一般車に擬装されながらも、一瞬で緊急走行態勢へ移行できる理由について、赤色灯の収納機構や展開方式を中心に解説します。
警察庁では、とくに交通取り締まりにおいて覆面パトカーを使う理由を以下のように国民に説明しています。
捜査用覆面は着脱式赤色灯

捜査用覆面パトカーでは着脱式赤色灯『HKFM-101G』、さらに助手席サンバイザーに設置された補助警光灯『フラットビーム』で一般車両に対して警告を発し、サイレンを吹鳴させながら緊急走行します。

この着脱式赤色回転灯『HKFM-101G』の製造と納入をしているのはパトライト社です。
また、一部では小糸製品も納入されており、同社製品は同じ流線型ながらも形がパトライト製品と微妙に異なっていました。
小糸は現在も白黒パト用の赤色灯を納入しています。
着脱式赤色灯は通常、覆面パトカーが緊急走行する場合、ルーフ上に載せられて運用。
メーカーのテストによれば、『HKFM-101G』はリミッター上限の180キロで走行しても外れません。

『HKFM-101G』には専用の収納ケースもパトライト社からラインナップされており、通常、捜査車両では助手席の足元へ収納袋にて秘匿搭載していますが、収納ケースを使わずにそのまま車内の足元に転がしている運用もあるようです。
マニアはHKFM用の収納袋さえも、どこからともなく入手し、さりげなく助手席に置いておくという念の入れようです。
覆面パトカーは予備の赤色灯もトランクルームに搭載していることがあります。
着脱式赤色灯がアメリカで『コジャックライト』と呼ばれる理由は?
現在、アメリカの警察機関で運用される覆面パトカーでは、LED式警光灯や車内設置型ストロボライトが主流です。
しかし、1970〜80年代頃までは、日本と同様に、ルーフへ手で装着する涙型の着脱式赤色灯が一般的に使われていました。
そして、この“涙型のライト”は、アメリカでは俗に『コジャックライト(Kojak Light)』と呼ばれることがあります。由来は、あの名作刑事ドラマ『Kojak』です。
作中では、NYPDマンハッタン・サウス分署のコジャック警部補(演:Telly Savalas)が、覆面仕様のBuick Centuryのルーフへ、涙型赤色灯をポンと載せて緊急走行へ移るシーンが何度も登場します。
あの独特のスタイルが強烈な印象を残した結果、「着脱式の涙型警光灯=コジャックライト」という俗称が広まったとも言われています。
もっとも、アメリカでは1990年代以降、覆面パトカーの警光灯はダッシュボード内設置型やグリル内蔵型へ移行。現在では、日本式の“ルーフ載せ”を見かける機会はかなり減りました。
一方、日本では2025年現在も、機動捜査用車などで着脱式赤色灯がバリバリ現役。むしろ「覆面パトカーらしさ」の象徴です。

それにしても、『コジャックライト』。日本風に言えば『コジャック灯』。
この、妙に昭和っぽくて、それでいて妙に格好いい響き。個人的にはかなり好きです。これからは「着脱式警光灯」ではなく、「コジャック灯」と呼びたくなってしまいます。
米警察専門誌のPolice Magazine でも、2002年の記事で普通に「Kojak Lights」という言葉が使われていますし、警察装備界隈では“古典的な覆面車両用アイテム”の愛称として生き残っています。
えっ?ベテランの警察マニア界隈では47年前から普通にそう呼んでいる?
……先輩方、失礼しました。
ダッシュボードの上でパトライトを点灯
ダッシュボード上に着脱式赤色灯を置き、そのまま点灯させて緊急走行を行う―。
このスタイルは、1970〜80年代の刑事ドラマではおなじみの演出でした。しかし実際の捜査用覆面パトカーでも、状況によってはダッシュボード上に赤色灯を設置して使用する例があると言われています。
京都で偽覆面のトヨタ・ヴィッツがダッシュボードの上で赤色灯を点灯させ、本物のパトカーに追い回された事件では、取材を受けた元警察官でジャーナリストの故・Akio Kuroki氏が、「非常に眩しく運転しづらいため限定的な方法だが、皇族警護(警衛)などで実際に行われる場合もある」とコメントしています。
たしかに、フロントガラス越しに赤色灯を発光させる方法は、視認性や反射の問題もあり、常用向きとは言い難いでしょう。しかし、咄嗟の場面で即座に警光を出せるという点では、一定の合理性もあるのかもしれません。
また、専門誌・ラジオライフ誌によれば、警視庁の捜査用覆面パトカーでは、駐車禁止区画へやむを得ず駐車する際、「これは警察車両ですよ」と暗に示すため、ダッシュボード上へ赤色灯を消灯状態で“さりげなく”置いておくこともあるそうです。
もっとも、それでも駐車監視員や女性交通課員に普通に確認票を貼られてしまうこともあるとか。
覆面パトカーの“秘匿性”が、思わぬ形で裏目に出ているのかもしれません。
捜査用覆面の屋根は傷だらけ
着脱式赤色灯を使用する覆面パトカーでは、緊急走行のたびに赤色灯をルーフ上へ設置する必要があります。
しかし、この方式には避けられない問題もあります。それが、ルーフの傷。
着脱式赤色灯は、強力なマグネットによって車体へ固定されますが、赤色灯下部とルーフの間に砂や小石を噛んだ状態で走行すると、振動によって細かな擦り傷が発生します。
特に、急加速や急旋回を伴う走行を繰り返せば、ルーフ表面へのダメージは避けられません。実際、使い込まれた捜査用覆面の中には、赤色灯設置位置に細かな擦過傷が集中している車両も見られます。
こうした傷を防ぐため、警護車では、助手席側ルーフへ透明保護フィルムを貼り、その上へ赤色灯を設置して運用する例もあるようです。

もっとも、警護車の多くは反転式警光灯を採用しており、着脱式赤色灯は一部の幹部車両などで見られる程度です。
交通用覆面 / 警護車は反転式赤色灯
交通機動隊や高速道路交通警察隊が運用する主力の覆面パトカーの場合、高速走行中に窓から手を出して着脱式赤色灯を設置するのは危険を伴います。そのため、車内コンソールのスイッチ操作によって、赤色灯をモーターで自動展開する「反転式」が主流となっています。

現在主流となっているPatlite製モデルでは、赤色灯を上下逆さまに収納するのではなく、45度横向きの状態でルーフ内部へ格納。スイッチ操作から起立完了まで約2秒、収納も約1.8秒と、高速アクションを実現しています。
なお、Toyota Motor Corporation製の交通覆面パトカーでは、トヨタ系企業で製造された反転式赤色灯ユニットが搭載される例も見られます。
また、要人警護に使用される警護車両でも、即応性を重視して反転式赤色灯が採用されるケースが多く見られます。
外国人が日本警察の反転式赤色灯に「卑劣だ!」と嘆いた理由は?
交通用覆面パトカーや警護車で広く採用されている、日本警察の「反転式赤色灯」。
日本では見慣れた存在ですが、どうやら海外、とくに“覆面パトカーに反転式赤色灯文化が存在しない国”の人々から見ると、かなり特殊な装備に映るようです。
実際、海外YouTubeでは、日本の交通覆面パトカーを紹介した動画に『SNEAKY UNDERCOVER JAPANESE COP CAR!!』というタイトルが付けられていました。
ここで使われている “sneaky” という単語には、「こっそりした」「ずる賢い」「隠密的」といったニュアンスがあります。
つまり投稿者としては、「日本の覆面パトカー、隠れ方が巧妙すぎるだろ……」という驚きを込めていたのでしょう。
もっとも、アメリカでも覆面パトカー自体は昔から存在します。
1970〜80年代には、いわゆる「コジャックライト」のような着脱式警光灯が使われ、その後はダッシュボード設置型ライトやグリル内蔵型LEDへ移行。現在では、外から警察車両と分かりにくい覆面車両も多数運用されています。
そのため、最初は筆者も、
「日米で、そこまで違いはないのでは?」
と思っていました。
ところが、アメリカの覆面パトカー事情を調べていくと、日本との大きな違いが見えてきます。
実はアメリカでは州によって、交通取締り専用としての覆面パトカー運用を制限、あるいは禁止している場合があります。
また、ハイウェイパトロール(ステート・トルーパー)では、完全な覆面ではなく、ドア部分だけマーキングを入れた“半覆面仕様”が採用されることも少なくありません。

その背景としてしばしば語られるのが、偽の覆面パトカーを悪用した犯罪事件の存在です。
なかでも有名なのが、「ブルーライト・レイピスト事件」と呼ばれる事件でしょう。

覆面パトカーが着脱式赤色灯を『二個載せ』する理由
着脱式赤色灯と一言で言っても、捜査用覆面パトカーに関しては、その載せ方には1灯載せと2灯載せのスタイルがあるようです。
2020年9月、広島RCCテレビによる広島県警機動捜査隊への取材で同機動捜査隊のマークXの機動捜査用車(覆面パトカー)が紹介されていました。
2人の隊員は機動捜査用車(覆面パトカー)が緊急走行時、どのように赤色灯を使用するのか丁寧に解説。
この機動捜査用車は赤色灯を二つ使っていました。
広島県警察本部機動捜査隊の機動捜査用車両。運転席側にもメタルコンセントが設置されており、足元に赤色灯が転がっている。なぜ運転席側なのか?その理由。 画像の出典 https://news.rcc.jp/archive.php?i=6784
まずは運転席側から車内の紹介。足元に着脱式赤色灯が。覆面パトカーの代表的な装備品です。
しかし、なぜ運転席側に?
画像の出典 https://news.rcc.jp/archive.php?i=6784
警察密着取材番組でもお馴染みのシーンですが、たいていの場合は助手席の隊員が窓から1灯載せることが多いのではないでしょうか。
と、思っていると、今度はもう一人の隊員が助手席側からも、もう一つの赤色灯を載せます。
屋根には合計2個の赤色灯が並びます。
こちらの車両は赤色灯を2個搭載しており、緊急走行時には二つの赤色灯をルーフに装着するそうです。
そして、その理由を以下のように隊員が説明。

画像の出典 https://news.rcc.jp/archive.php?i=6784
広島県警察本部機動捜査隊の機動捜査用車両は『取り扱う事件が多い、緊急走行が多い、遠距離になることもよくある』という理由から視認性を良くするために赤色灯を二つつけているとのことです。
広島県警機動捜査隊では扱う事件の件数も多いようです。
そのため、必然的に緊急走行の回数が増え、また遠距離走行も多くなるとのこと。
安全のために『2つつけて視認性を良くしている』という理由だそうです。
「こちらの方にパトランプが積載されておりまして、緊急走行をするときに、こちらを点けて走行しています。こちらとあちらに、2つ。取り扱う事件・事故も多いですし、緊急走行する機会も多い。遠距離ということも多いですので、2つ点けて視認性を良くしています。」(広島県警 機動捜査隊 安田友隆隊員)
出典 RCC NEWS
赤灯2個載せ覆面パトカーの秘密 ― 実は「偉い人」の目印?
この様に広島県警をはじめ、福岡県警、大阪府警、神奈川県警などでは以前から覆面パトカーに赤色回転灯を“2個”載せたスタイルが採用されています。
ところが――警視庁の事情はちょっと違います。
実は警視庁でも赤灯2個載せの覆面パトカーが一部で使われていますが、こちらは「現場に来る幹部用車両」と、それ以外の車両を区別するための印なのだそうです。
この情報の出典は、『ラジオライフ』1996年2月号。そこには「(赤色灯2個載せは)警視庁では2年前から見られるようになった運用」と記されており、つまり1994年ごろから始まったことになります。
つまり――警視庁における「赤灯2個載せ覆面」は、緊急走行のためというよりも、“偉い警察官が乗っている”ことを示すサインだったのです。
警視庁での赤色灯2個載せ覆面パトカーの運用、実は単なる「幹部の目印」ではなく、実用的な理由もありそうです。
現場に指揮用車両で臨場してくる指揮官クラスの警察官は、たいてい運転手の捜査員と後部座席の指揮官の2名乗車体制。この場合、助手席に誰も乗っていないため、緊急走行中にマイクを使って周囲に注意喚起をするのが難しくなります。
そこで、安全性を高めるために赤灯をもう1つ追加して視認性を上げる――というのが本来の目的だったようです。
結果的に、「赤灯2個載せの覆面パトカー=偉い警察官が乗っている車両」というイメージが広まり、象徴的な“印”として定着したわけですね。
たしかに、偉い人を助手席に座らせてマイクで「前の車、止まってください」と言わせるわけにはいきません。それじゃあ品格が台無しです。
さらに面白い話が『ラジオライフ』2004年9月号の「三菱製パトカー特集」(執筆:大井松田吾郎師匠)に登場します。
警視庁捜査一課管理官が使用するギャランの覆面パトカーの一部には、なんとアメリカのパトカーのような「ヒュンヒュン」サイレン音(YELP音?)を発する謎車両も存在。
その特徴的な音から、マニアの間ではこの車両、「ヒュンちゃん」という愛称で親しまれていたそうです。
赤灯の数やサイレンの音――ちょっとしたことですが、警察車両の運用哲学や裏話が詰まっていると思うと、パトカーの装備も、ますます奥が深いですね。
それにしても、そこまで再現してくれる刑事ドラマは今後出るのでしょうか。
覆面パトカーの着脱式赤色灯と反転式赤色灯の違いのまとめ
このように、日本では捜査用の覆面パトカーの警光灯には、手で直接ルーフに着脱するタイプの『着脱式』が主に使われ、交通用の覆面パトカー、それに要人警護に使用される警護車には電動で展開・格納できる『反転式赤』が主に使われています。

とはいえ『捜査用覆面パトカーが着脱式赤色灯を使う』のは今でこそのお話。
70年代、80年代では機動捜査隊の覆面パトカーも反転式だったのです。
今でも捜査用覆面の一部では交通機動隊など、他所の部署から反転式赤色灯搭載の交通覆面をお下がりとして融通されて使うイレギュラー配備もあり、捜査用=必ず着脱式というわけではありません。

逆にショカツの交通課が刑事・生活安全系の捜査車両を一時的に使用して、携帯電話使用、シートベルト未装着などの違反取り締まりを行う場合も。中身をよく見ると青い制服を着ていることも。
また、反転式赤色灯を覆面パトカーが搭載されているのは、日本の警察だけなのかはわかりませんが、少なくともハリウッド映画に出てくるアメリカの警察の覆面で日本のような反転式機構は見たことがありません。
ただ、パトライト社は外国警察にも反転式の売り込みを行っているかもしれません。『外国で反転式を見たよ』という情報があれば教えてください。
それにしても日本警察では着脱式や反転式、車内設置など、いろいろな使い方がありますよね。
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