『安全ゴム』に見る日本警察のけん銃管理

世界的に見ると、回転式けん銃(リボルバー)には、手動の安全装置(マニュアル・セイフティ)が付いていないのが一般的です。

これは、日本の警察が配備している回転式けん銃――S&W M37エアウェイト、ニューナンブM60、そして現行のM360Jサクラ――いずれも同様。

その理由は、リボルバー自体の内部構造に、そもそも複数の安全装置(たとえば、転倒安全装置やハンマーブロックなど)が組み込まれているため。

加えて、日本独自の「物理的な暴発対策」が存在しています。それが“安全ゴム”と呼ばれる方法です。

日本警察独特の暴発対策「安全ゴム」

その名の通り、銃のトリガー(引き金)の後部にゴム片を挿入し、引き金を物理的に引き切れないようにするというもの。

つまり“銃のロック”をアナログかつ確実に行う、日本らしい工夫です。

もっとも、この「安全ゴム」の運用は全国一律ではありません。

都道府県警察ごとに対応が異なっており、たとえば神奈川県警では、少なくとも一部の時期には安全ゴムを使用していないと見られる事例も。

M37エアウェイト、ニューナンブM60、そしてサクラを携行する神奈川県警の警察官の写真からは、いずれも安全ゴムが確認できないようです。

それでも、多くの警察本部では今なおこの安全ゴムが使われており、現行配備のサクラでも引き続き運用されているようです。

この“日本警察特有の安全ゴム”が劇中で描写された作品として知られているのが、1988年公開の映画『リボルバー』。

【せつなさ炸裂】一挺のニューナンブM60と共に人々は南から北へ駆けた。1988年公開の邦画『リボルバー 』

トリガーに安全ゴムが仕込まれていることに気づかず「引き金が引けない」という滑稽な描写がされています。

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銀行強盗、警察官から奪った銃の安全ゴムに気がつかず

安全ゴムは、けん銃が万が一強奪された際、即座に使用されるのを防ぐという意味でも有効です。

実際、これが思わぬ形で役立ったとされる事件が、1979年の「三菱銀行人質事件」でした。

この事件では、梅川昭美という男が猟銃を持って三菱銀行北畠支店に押し入り、42時間に及ぶ人質立てこもりを起こしました。

最初に駆けつけた大阪府警の楠本正己警部補は、現場で威嚇射撃を行ったものの、梅川に猟銃で応射され殉職。
梅川は続けて、楠本警部補や別の警察官からけん銃を奪取しようとしました。

その際、手に入れた拳銃の引き金を引いた梅川は、「故障しとるわ」と言って銃を放り捨てたといいます。
実はその銃には、安全ゴムが仕込まれていた。

暴発防止のための措置が、思わぬ形で事件の被害拡大を抑えた――そう評価する向きもあるようです。

まとめ……安全装置の多層化 ― 日本警察におけるけん銃暴発対策

こうした安全装置の追加装備や、前述の「安全ゴム」による物理的ロックは、いずれも日本警察における銃器運用の安全対策の象徴です。

とくに「安全ゴム」は、日本独自の発想に基づく極めてアナログながらも効果的な手法として、多くの警察本部で継続的に使用されてきました。

また、万が一けん銃が強奪された場合でも、安全ゴムが噛まされていれば、即座に発射される危険性が低減されます。

このことは、暴発対策に加えて、犯罪抑止的な副次的効果と言えます。

皮肉にも知られるようになってしまった“安全ゴム”の存在

もっとも、そうした秘匿的運用が常識でなくなってしまったのが、2018年の富山交番襲撃・けん銃強奪事件です。

この事件に関する報道で「安全ゴム」やその運用実態が新聞記事に取り上げられたことで、これまで警察マニアの間でしか知られていなかった情報が一般に広く認知されることとなりました

これはある意味では、安全対策の存在を周知させる効果もありますが、一方で、対策の効果を損なう恐れもはらんでいます。

強奪対策はさらに強化されている

とはいえ、日本の警察は安全対策を進化させ続けています。2019年からは、警視庁をはじめとする一部の地域警察官に対して、強奪防止機能を備えた新型ホルスター(樹脂製)の配備が始まっています。

全国の警察官へ新配備となった新型『アンモナイト・ホルスター』は『従来型より迅速に取り出せる構造かつ本人以外は抜けない構造』でも『アレ』は廃止しなかった!

これにより、けん銃の抜き取りがより制限されるようになり、仮に警察官が襲撃された場合でもけん銃を奪われるリスクを物理的に低減させる構造が導入されています。

「安全のためにできることは、どんな細かいことでもやる」――この日本らしい思想が、警察当局による、けん銃という致命的な武器の運用にも表れています。