2002年にアメリカで導入された「Federal Flight Deck Officer Program(FFDO)」は、民間航空機のパイロットが武装して機内の安全を守る制度である。9.11同時多発テロを受けて設立されたこの制度は、ハイジャックなど航空機を狙ったテロ行為への即時対応を目的としている。
選抜されたパイロットは、連邦政府による訓練と審査を経て拳銃の携行が認められ、機内で限定的に連邦法執行官としての権限を持つ。連邦航空保安官の補完的役割として、今も密かに機内の安全を支えている制度である。
FFDO(Federal Flight Deck Officer)プログラムに参加し、正式な認可を受けるためには、候補者が身体的および心理的評価をクリアしなければならず、加えて銃器の取り扱いや制圧術、自己防衛戦術に関する訓練を含む、一週間の集中トレーニング課程を修了する必要がある。
この訓練を修了した操縦士には、連邦法執行官としての限定的な権限が与えられ、アメリカのどの州の上空を飛行している場合でも、その権限が法的に有効とされている。
この制度の対象となるのは、アメリカ国籍を有し、旅客機、貨物機、あるいはチャーター機に従事する民間航空会社の乗務員である。条件を満たす者であれば、誰でもこのプログラムに参加する資格を持つ。
FFDOプログラムは、テロ対策の一環として、飛行中の航空機の安全確保に寄与することを目的としている。ただし、その武装はあくまでも操縦室(フライトデッキ)への侵入を阻止することに特化しており、客室内の治安維持は本来的な任務ではない。
この点で、同じく機内の安全に携わる連邦航空保安官(FAMS)によるスカイマーシャル制度と比較された場合、FFDOプログラムはより限定的かつコスト効率が高い制度として評価されることもある。
一方で、2012年には当時のバラク・オバマ大統領がこのプログラムの予算を50パーセント削減することを提案し、予算上の優先度に疑問を呈した。また、当時の国土安全保障長官ジャネット・ナポリターノも、「最終的な防衛線は武装パイロットではなく、コックピットの強化ドアそのものである」との見解を示し、制度の意義に対して懐疑的な姿勢を見せた。
▶︎ 参照:ヘリテージ財団 Senior Visiting Fellow, Japan Jessica Zuckerman
「連邦航空保安官(Federal Air Marshal:FAM)」の制度・任務・運用実態・課題については、別項にて掘り下げて解説する。
また、日本でも旅客機内に私服警察官を配置させる「航空機警乗警察官スカイマーシャル」を行なっている。