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大統領警護だけではない、金融犯罪捜査スペシャリストとしてのシークレットサービス

アメリカ合衆国シークレットサービス(Secret Service)は、「大統領の護衛部隊」としてのイメージが強いが、その任務はそれだけにとどまらない。もともとは南北戦争後の偽札横行に対処するため、1865年に財務省の下で創設された機関であり、現在も金融犯罪、特に通貨偽造・電子的詐欺・サイバー金融犯罪に対する捜査権限を持つ。

つまり、警護任務と並んで「金融犯罪取締」という捜査機関としての顔も持っているのである。

これにより、シークレットサービスの職員は要人警護のスペシャリストであると同時に、極めて高度な捜査技術を持つ連邦捜査官でもある。大統領警護と通貨保護――この二つの柱を同時に担う、極めてユニークな法執行機関である。

護衛だけじゃない・・アメリカ大統領の盾、シークレットサービスの二重任務

アメリカ合衆国シークレットサービス(United States Secret Service)は、一般には「大統領を警護する機関」として知られ、日本では首相警護の任務につく警視庁警備部警護課のSPが相当する。

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だが、日本と違い、シークレットサービスには意外な任務がある。そのもう一つの本質的な役割は、金融犯罪捜査の専門機関であるという点にある。この捜査機能こそが、シークレットサービスの本来の出発点であり、現在に至るまでその重要性は失われていない。

連邦法執行官としてのシークレットサービスの役割と歴史

現在では大統領や副大統領、その家族など要人の警護機関として広く知られているが、その本質は連邦法執行官(Federal Law Enforcement Officer)としての機能にある。実際、同機関の創設は1865年にさかのぼり、当時の主たる目的は偽札の取り締まりであった。

1865年、南北戦争直後のアメリカで大量の偽札が流通していた状況を是正するため、当時の財務長官ヒュー・マカロックの提案によって創設されたのだ。

当時、流通している紙幣のおよそ3分の1が偽札だったとされ、通貨制度そのものの信頼が根底から揺らいでいた。シークレットサービスはこの危機に対応するため、財務省の管轄下で発足し、長らく偽札・証券・小切手の偽造摘発を中心に活動していた。

近代のシークレットサービス

20世紀初頭まで、主に通貨の保全を目的とした捜査機関として活動していたが、1901年にウィリアム・マッキンリー大統領が暗殺された事件を契機に、大統領警護の任務も与えられた。この時点で、シークレットサービスは捜査と警護という二重の役割を担うこととなった。

その後、任務の拡大とともに扱う犯罪領域も変化し、クレジットカード詐欺、金融機関への攻撃、ハイテク犯罪、個人情報の不正使用といった現代的な金融犯罪にも対応するようになった。これらの捜査活動は、FBIなど他の連邦機関と協力しつつ、独自の専門性と管轄権に基づいて遂行されている。

2003年には国土安全保障省(DHS)に移管され、テロ対策や国家安全保障の観点から、より広い視野での警護・捜査活動が求められるようになった。今日のシークレットサービスは、約7,000人の職員を擁し、警護・捜査・情報分析の三本柱を通じて、国家と国民の財産と生命を守る戦略的な法執行機関となっている。

その後、経済の発展と共に金融犯罪の手口も巧妙化し、コンピュータを利用した詐欺や電子送金システムへの不正アクセス、企業間の金融スキミング、個人情報の盗難など、サイバー空間を通じた経済犯罪への対応が急務となった。これに応えるかたちで、シークレットサービスは専門の電子犯罪タスクフォース(ECTF: Electronic Crimes Task Forces)を設置し、全米各地の支局で金融機関や民間企業、地域警察と連携した共同捜査体制を築いている。

特に1990年代以降、オンラインバンキングやクレジットカード決済、暗号化通信の普及に伴い、犯罪者は国外からでもアメリカ国内の金融インフラに攻撃を仕掛けられるようになった。これを受けて、シークレットサービスは国外における電子犯罪グループの摘発にも乗り出しており、国際的な捜査共助を通じて、ロシア、東欧、アジア圏などに拠点を持つ犯罪組織の摘発にも貢献している。

2003年には国土安全保障省(DHS)の傘下に移されたものの、その金融犯罪捜査機関としての性格は保持されており、警護と捜査という二重の任務を担う極めてユニークな存在となっている。現在でも、通貨偽造、電子詐欺、金融機関への攻撃といった事件において、FBIや地元警察と並び、あるいはそれ以上の専門的な対応力を発揮する場面も少なくない。

採用

シークレットサービスの捜査官は、単に警護の訓練を受けた要人警備の専門家ではなく、金融システム、デジタル証拠、暗号化技術、法的手続きに精通した高いスキルを持つ捜査官でもある。このため、採用に際しては情報セキュリティ、経済犯罪、コンピュータフォレンジックなどの分野における専門知識が重視される。

テロと金融犯罪の最前線

つまり、シークレットサービスは単なる「大統領のボディーガード部隊」ではなく、金融と法の最前線でアメリカ経済の安全保障を支える、知的かつ実践的な捜査機関なのである。

アメリカ警察特集コラム 第8回

『アメリカの警察以外の法執行機関』
▶︎ https://amateurmusenshikaku.com/security/us_police_column_no_8/


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