僕が三才ブックスの「警察の本シリーズ」で一番好きな話『日本警察のけん銃には照星はあっても照門はない』

※バナー写真は日本の公的機関で配備されている回転式けん銃『SAKURA』。批評および研究のため、国土交通省公式サイトが国民に公表している広報資料から引用したもの。

以前、三才ブックスの「警察の本シリーズ」で、「日本警察のけん銃には照星(フロントサイト)はあっても、照門(リアサイト)はない。なぜなら、日本警察は銃の使用目的を攻撃ではなく、防御においているためである」という主旨が紹介されていました。

ストライクアンドタクティカルマガジン 2021年 11 月号 [雑誌]

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照星はフロントサイトとも呼ばれ、通常は銃身の前方に設置されます。そして、照星と対となるのが、銃の後方に設けられている照門(リアサイト)です。この二つがあってはじめて、狙いをつけるための照準器として機能します。

ただし、銃であっても散弾銃の一部では照星のみしか搭載されない場合があります。文字通り、弾を散らすため、それほど正確な照準は不要であり、また野生動物を狙う際には、目標、照星、照門という三つを重ねる作業の手間を省くことも設計思想の一つと言えます。

しかし、けん銃であれば話は別です。

わが国の警察で配備されるニューナンブ、エアウェイト、サクラといった制服警察官が愛用するリボルバーの御三家、それに刑事部で主に配備されるP230やM3913。

都道府県警察では3種類の回転式および、2種類の自動式けん銃が主流

さらにはSITのベレッタ92、SP用のP2000やグロック、特殊部隊用のP226、けん銃以外のMP5など特殊銃に至るまで、どれも照星はあっても照門が「無い」という話は、元警察官の著書や専門書籍では確認できません。

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警察の銃器.2 『特殊銃』MP5から自衛隊89式、対物狙撃銃まで

公開訓練などで報道された写真でも、そのような特異な銃が登場したことは皆無です。それどころか、一部のベレッタやMP5に至っては精確な照準を期すため、ダットサイト(光学照準装置)まで搭載されています。「あえてリアサイトを外して納入されている」などという話は、この本以外で証言されていないのではないでしょうか。

実際、日本警察ではけん銃を被疑者の制圧のために使用していることは明白であり、フロントサイトはもちろん、リアサイトもなければ使い物にならないはずです。

ニューナンブM60で射撃訓練を行う警察官。画像の出典 北陸朝日放送公式ページ 『警察官が射撃の技術競う 2018.10.9放送』

では、なぜライターは「日本警察のけん銃に照星はあっても照門はない」と書いたのでしょうか。

考えられる理由は、ニューナンブおよびその原型になったスミス&ウェッソン社の回転式けん銃の形状にあるのではないでしょうか。

例えば、M37エアーウェイトを真横から見ると、フロントサイトのみが確認できますが、リアサイトは見当たらないような印象を受けます。しかし、銃を構えて後ろからきちんと狙いを定めれば、リアサイトがきちんと設けられていることは明白です。

タナカ S&W M37 ジェイポリス 2インチ スチールジュピター フィニッシュ バージョン2 モデルガン完成品

 

もし、ニューナンブやM36、M10にコルト社の回転式けん銃のように大型のアジャスタブル(調整式)リアサイトが備わっていれば、このライターが映画などでけん銃を真横から見たことしかなかったとしても、「日本警察のけん銃には照星はあっても照門はない!なぜならば」などとは書かなかったのではないでしょうか。

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もっとも、この”溝”をリアサイトではないと主張するのであれば、話は別です。

警視庁のSITなどが使うベレッタ92には、レーザーサイトやダットサイトなどの光学式照準器が搭載され、標的に対して精確にサイティングが可能です。しかし、一般の警察官が携行するけん銃にはそのようなものは搭載されておらず、勝手に装着することもできません。

刑事部の『SIT』と警備部の『SAT』の違いはひとつだけ

したがって、銃本体に付属するアイアンサイトを直接覗き込んで狙いをつけることになります。

日本警察は銃の資料に関しては、自衛隊と違い情報公開をしないために、実情は見えにくいものです。しかし、各県警本部公式サイトの警察学校紹介ページには射撃訓練中の様子など、参考となる資料があります。

そこでは、足を大げさに広げ、腰を低く沈めて両手でけん銃を握って構える警察官の写真が掲載されています。これは近年、広く普及しているアメリカンスタイルの射撃方法です。

正確な射撃を行うための訓練を見れば、日本の警察官はけん銃を発砲する際に「防御のために……」という感覚で撃っているとは言い難いのではないでしょうか。

誤解してほしくありませんが、誰かのように揚げ足を取ったり、皮肉ったり、批判する意図はありません。

子供の頃に読んだ「警察の本」の愛読者として、今でも覚えていて、なおかつ好きなネタがこれなのです。