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シグナリーファン編集部では、警察装備や運用に関する国内外の公開情報・公式資料・報道記事・学術文献を継続的に調査・分析しており、本記事もそれらの調査結果に基づいて構成しています。

CIAは逮捕しない─スパイ機関「中央情報局CIA」の役割と実像に迫る

1947年、国家安全保障法(National Security Act)により設立されたCIA(中央情報局:Central Intelligence Agency)。実は「捜査機関」ではない。この誤解はしばしば映画やフィクションの影響により広まりがちだが、法制度上も運用上も、CIAは警察権・逮捕権・国内法の捜査権限を一切持たない。その任務は、あくまで対外的な情報収集と分析活動=インテリジェンスの収集・解析・工作に特化している。

以下、その法的根拠、任務の実態、FBIDEAなどとの明確な違い、そしてなぜ「捜査機関ではない」のかについて掘り下げて述べる。


■ CIAの設立根拠と任務

第二次世界大戦中のOSS(戦略諜報局)の後継として、冷戦初期に本格的な情報機関として制度化されたものである。

その目的は、主に以下にある。

  • 外国政府、外国組織、外国人に関する政治・経済・軍事・科学技術等の情報収集と分析

  • 大統領や国家安全保障会議(NSC)への報告と助言

  • 合法的・非合法的な海外工作活動(Covert Action)の実行

  • 対外諜報網の運営と管理(ヒューミント/シギント)

法的には、CIAは「国内での警察活動・法執行活動に関与してはならない」と明記されており、その組織構成や運用上も一貫して「非警察的」な体制が取られている。

その役割は以下のように定義されている。

  • 対外諜報活動(外国政府、外国組織の動向分析)

  • 政策決定者への情報提供(国家安全保障会議=NSCなど)

  • 特殊活動(covert actions:隠密工作)の実行

つまりCIAは、「誰かを捜査し、起訴のために証拠を集める」という機関ではない。これは、FBIとの最大の違いである。


■ なぜCIAは「捜査」しないのか

アメリカの「捜査(investigation)」とは、刑法・連邦法違反に対する法的責任の追及を前提とした活動である。具体的には:

  • 被疑者の特定

  • 物証・証拠の収集

  • 事情聴取・令状請求・逮捕

  • 起訴手続きへの連携

このような一連の手続きは、司法制度の枠組みの中で行われるものであり、捜査機関(FBI、DEA、ATFなど)や地方警察に限って許されている権限である。

対してCIAは、情報収集に特化した「インテリジェンス機関」であり、目的は「逮捕」や「起訴」ではなく「政策判断の材料となる情報の獲得と分析」である。たとえば、アメリカ国内に潜伏するスパイの摘発はFBIの管轄であり、CIAは関与しない。逆に、CIAは外国にいるスパイや工作員の動向を追跡する立場にある。そのため、国内の犯罪を捜査・摘発する権限は一切ない。日本で言えば、全く捜査権限のないインテリジェンス機関の防衛省自衛隊情報本部のようなものだ。

自衛隊さん、無線などからシギント (Signals Intelligence:SIGINT)してしまう


■ FBIとの違い

したがって、CIAとFBIでは、役割も法的根拠も、任務対象もまったく異なる

機関 対象 主な任務 拘束・逮捕権
FBI 国内(合衆国領内) 犯罪捜査、テロ防止、対諜報、サイバー犯罪など あり(連邦捜査官)
CIA 国外(外国政府・機関) 対外情報収集、諜報活動、秘密工作 なし(非法執行機関)

つまり、FBIは「法に違反した人間を探し、起訴のための証拠を集める機関」だが、CIAは「国益のために情報を探り、政府に報告する機関」である

たとえば、アメリカ国内でテロの計画が発覚した場合、その捜査を行うのはFBIであり、CIAはその関連する外国情報(資金ルート、国外協力者など)を提供する立場にある。

■ CIAが関与した歴史的誤解・逸話

  • ウォーターゲート事件(1972):FBIの捜査に対し、ニクソン政権がCIAを使って妨害しようとした。結果、CIAと捜査権限の境界が社会問題化した。

  • ドラッグ密輸疑惑(1980年代):ニカラグア反政府勢力への秘密支援のなかで、CIAが麻薬密輸に目をつぶっていたという疑惑が浮上したが、捜査権がないため真相解明が遅れた。

  • 9.11以前のテロ情報共有不足:CIAが国外のテロリスト情報をFBIと十分に共有していなかったと批判され、後に情報共有の枠組みが整備された。

これらはすべて、「CIAが捜査機関ではない」ことによる構造的制限や齟齬が背景にある。


■ 具体例:捜査の主体は誰か?

● 例1:スパイの摘発

国内で外国のスパイが活動している場合、その摘発・立件を行うのはFBIのカウンターインテリジェンス部門である。
CIAはその人物の背景や国外の関連組織に関する情報を共有するが、逮捕するのはFBIである。

● 例2:麻薬密輸の摘発

麻薬組織が海外から密輸するケースにおいても、捜査・逮捕を担うのはDEA(麻薬取締局)であり、CIAは関連する外国の勢力やコネクションに関する情報を収集・共有するだけである。

秘密工作(covert action)部門

CIAには、秘密工作(covert action)を担う部門が存在し、「戦闘行為に近いことを行っているではないか」との誤解が生まれやすい。

たとえば、ドローンによる標的殺害、外国政府の転覆支援、武装組織への資金供与などはCIAの「特殊活動部(SAD)」が担当するが、これも軍事作戦であって捜査ではない

たとえ対象がテロリストや犯罪者であっても、その排除が司法的意味での「逮捕」や「立件」ではなく、国家安全保障上の「工作活動」として行われる点が本質的に異なる。

CIAは諜報活動のプロフェッショナル集団であり、司法・捜査の世界とは明確に一線を画した存在である。法的にも制度的にも「捜査」を行うことは想定されておらず、その役割は国家安全保障のための情報戦略、外国情報の収集、 covert action の実施に限られている。

ゆえに、FBIやDEAと同列に語るのは誤解であり、CIAは「法執行機関ではない情報機関」として理解すべきである。

ハートアタックガン、「MKウルトラ計画」など非人道的な行為の数々

数々の工作活動が問題視されたCIAは1975年の米国上院の特別委員会である「諜報活動に関する政府活動を調査する米国上院特別委員会(通称・チャーチ委員会糾弾されることとなった。なお、左派団体に対するFBIの工作活動「COINTELPRO」も調査対象となった。

中でも、冷戦期にCIAが開発したとされる、対象者に“自然死”を装わせるための特殊な暗殺兵器「ハートアタックガン(Heart Attack Gun)」の存在は衝撃的だった


■ ハートアタックガンの概要と仕組み

この特殊な銃は1975年、アメリカ議会で行われたチャーチ委員会(Church Committee)の公聴会で初めて公に存在が示唆された。CIAによる暗殺計画や極秘作戦を調査する過程で、議員たちの前に提示されたのが、この異様な「銃器」であった。

表向きには心臓発作(心筋梗塞や心停止)によって死亡したように見せかけることが可能とされていたため、「心臓発作銃」とも呼ばれる。

ハートアタックガンは通常の火薬ではなく、圧縮ガスなどで駆動する静音型小型銃で、発射されるのは極小の毒針(dart)であった。この毒針は氷のような素材(もしくはゼラチン状)で構成されており、対象者の皮膚を貫通した後、体内で即座に溶けて毒素を放出し、心臓発作を引き起こすという設計だったとされる。

毒素には貝毒やフグ毒(テトロドトキシン)のような、死後に血液や臓器検査で検出しづらい成分が想定されていたという証言もある。針が小さすぎるため、着弾に気づかず、死因も自然死に見えるという。

この銃はCIA自身が開発したとは公式には明言されていないが、1975年の公聴会で提示された実物が存在していたこと、また当時のCIA長官ウィリアム・コルビーがその機能について簡潔ながらも証言を行ったことで、大きな注目を集めた。

ただし、実際に使用されたかどうかは一切明らかにされておらず、未確認である。また、その後この兵器に関する公式文書は一切公開されていないため、都市伝説的な扱いも一部にはある

ハートアタックガンは、「見えない殺人」「痕跡を残さない暗殺」という冷戦期特有の心理戦・情報戦の文脈で語られることが多く、現代の暗殺技術の象徴としてもたびたび取り上げられる。陰謀論の文脈でも登場することがあるが、その基礎となった証言や議会での提示は事実に基づくものであり、完全なフィクションとは断言できない。

「MKウルトラ計画」

正式名称「MK-Ultra Mind Control Program(MKウルトラ精神操作計画)」とは、CIAが1950年代から1960年代にかけて極秘裏に実施していた、洗脳・精神操作に関する研究計画である。薬物・催眠・感覚遮断・拷問・電気ショックなどの技術を用いて、人間の意識を操作・支配できるかどうかを探ることを目的としていた。

第二次世界大戦後、米ソ冷戦が始まる中で、アメリカ情報機関はソビエトや中国が洗脳(brainwashing)技術をすでに確立し、捕虜やスパイに使用しているという情報に危機感を抱いた。これを受け、CIAの科学技術局(Office of Scientific Intelligence)および諜報局が中心となり、1953年、CIA長官アレン・ダレスの指示のもと、「MKウルトラ」が正式に始動した。プログラムの資金と命令系統は極めて秘密主義的であり、CIA内でも一部の上層部のみが関与を許された。

MKウルトラでは、以下のような極端な実験手法が用いられたとされている:

  • LSDやメスカリン、バルビツール酸系薬物などの大量投与

  • 被験者に無断での薬物投与(病院、刑務所、大学で実施)

  • 長期にわたる感覚遮断や睡眠剥奪

  • 催眠術と心理暗示を組み合わせた実験

  • 高圧的な尋問や人格崩壊を目的とした暴力・拷問

これらの実験の被験者には、囚人、精神障害者、麻薬中毒者、ホームレス、軍人、大学生などが無断で含まれていた。また、一部の実験はカナダや韓国、日本など国外の施設でも行われたとされる。とりわけ、LSDを用いた実験は、CIA内部でも異常な頻度で実施され、一部の職員が薬物中毒になった例や、自殺に至った例(例:フランク・オルソン技師)も存在する

MKウルトラの存在は、1975年のチャーチ委員会および1977年の上院情報小委員会(Kennedy Hearing)**で初めて議会において表面化した。当時、CIAは計画に関するほとんどの文書を既に焼却していたが、誤って保管されていた2万ページあまりの予算文書が発見されたことで、実態の一部が明るみに出た。

CIAは後に公式に謝罪し、「MKウルトラは既に終了しており、再発のないよう内部規則を見直した」と表明した。

MKウルトラ計画は、国家機関が市民を対象に非同意の実験を行っていたという重大な人権侵害として、アメリカ史における暗部のひとつとされている。実験の被害者やその遺族が政府を訴えた裁判も複数存在するが、多くは国家安全保障上の理由で却下や和解となっている

現代においても、MKウルトラは陰謀論やフィクション作品でしばしば取り上げられており、「CIAによる記憶操作」「洗脳兵器の開発」といった噂の原型として今なお語り継がれている。


■ 補足:参考情報

  • チャーチ委員会(1975年)議事録

  • 当時提示された「CIA暗殺兵器」の映像は、米公共放送(PBS)などで記録として残されている

  • 米国政府の文書公開制度(FOIA)では、関連資料は部分的に黒塗りで一部開示済み

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