本記事は、前回の「MP5SD」の考察に関して、サプレッサーの仕組みの続きである。
簡潔に言うと、私たちが「銃声」として聞く音は、火薬の破裂する「ばーん!」という音と、弾丸自体が音速を超えたときに発生する衝撃波の、「どかーん!」という主に二つの成分が合わさって聞こえている。
単なる花火の音とは違うわけである。
なぜそうなるのか?詳しく解説していこう。
弾丸と速度
銃弾の多くは9mm弾やライフル弾に関わらず、発射時の速度が音速(およそ343 m/s=1225 km/h、気温20℃の場合)を超えることが一般的だ。
そして、音速を超えた場合に発生する衝撃波は戦闘機の音速飛行においても、地上に届い他場合には、窓ガラスが割れるなどの被害が発生することがある。
音速を超える弾丸はソニックブーム(衝撃波)を発生させる
つまり、銃についても同じである。弾丸が音速を超える速度で飛ぶと、その先端が衝撃波を作り、「破裂音」が炸裂する。
これは弾自体が作る音なので、サプレッサーで抑制するにも限界がある。
サブソニック弾とはなにか
しかし、弾が音速未満の場合、衝撃波は発生しないため、衝撃音は出ない。
そして、この衝撃波を抑えるために、サプレッサーを使用する銃では音速を超えない特殊な「サブソニック弾」を用いるのである。
サブソニック弾は発射速度が音速未満に設計されている。これにより、弾丸自体が飛ぶ際に衝撃波を作らないため、弾丸の発射音は非常に小さくなるのが特徴だ。
結果として、発射音の大部分は火薬の爆発によるガス噴出音のみが支配的になり、弾が超音速のときと比べてはるかに静かになる。
実際の消音器との関係
そして、サブソニック弾を使う場合は、サプレッサー使用時が多いのである。

MP5SD のようなインテグラルサプレッサーは、標準弾でも発射ガスを膨張・減圧して音を抑える。さらにサブソニック弾を使うと、弾丸のソニックブームもなくなるため、より静かになる。
逆に超音速弾を使うと、サプレッサーで火薬音は低減できるが、弾丸自体の衝撃音(ソニックブーム)は消せないのである。
ただし、完全無音になるわけではなく、火薬の爆発音や周囲の反響は残る。
また、けたたましい銃声を黙らせても、薬莢が排莢される際の音や、内部機関が作動する金属音までは消せない。そのため、自動拳銃の代表例としては、特殊部隊向けのS&W M39ベースの「Mk.22 Mod0」は発射音を極力抑えるために亜音速特殊弾Mk.144 Mod0と専用のWOX-1A サプレッサーを装備するが、スライド音を抑えるために強制的にスライドを固定するスライドロック機能を備えている。
欠点は?
サブソニック弾(弾速が音速未満の弾薬)は「超音速弾に比べてソニックブームが出ない」「消音器と組み合わせれば非常に静かになる」といった利点があるが、その代償としていくつかの欠点もある。
運動エネルギーと貫徹力の低下
射撃特性面での副次的問題として、重い弾頭や低速弾の使用は銃口圧や反動感、銃身の精度・ハーモニクスに影響して実射精度が変わる。
まず最も明確な欠点は「運動エネルギーと貫徹力の低下」である。サブソニック弾は一般に初速が遅いため、同口径・同形状でも弾丸が持つエネルギーは低くなりがちだ。
そのため遠距離では有効性や貫通力が有意に落ち、ターゲットへの致命的効果や貫徹を期待しにくくなる。特に防弾チョッキや車体など硬い目標に対しては不利である。
弾道特性の悪化
次に「弾道特性の悪化」だ。初速が低いことで弾道がより放物線的になり、距離に対する落差(弾道落下)が大きくなる。
風の影響(横風流されやすさ)も相対的に増すため、精密射撃・遠距離射撃では照準補正が大きく必要となり、実効射程が短くなる。
作動不良のおそれ
半自動火器や一部の機関銃での「作動信頼性の低下」も看過できない。
多くの自動・半自動機構は薬莢の排出やボルトの後退を発生させるために一定量の反動・ガス圧を必要とするが、サブソニック用に装薬を抑えた弾はそのエネルギー量が不足し、ガスピストン式や短動作の機種で作動不良(不完全作動、給弾不良、閉鎖不良など)が生じることが有意に多い。
加えて、ある種のサブソニック弾は燃焼が不十分になりやすく、堆積物(カーボン)や鉛の付着が増えて、銃のメンテナンス負荷が高まる場合がある。
弾薬の選択・入手性とコスト
サブソニック弾は一般弾に比べてラインナップが限られ、重い弾頭を使うことが多いため、種類や価格で制約を受ける。
まとめ…サプレッサーで「無音」は幻想だ
まとめると、「銃声=(火薬の爆発音)+(弾丸が超音速ならその衝撃音)」であり、サプレッサーは主に前者を抑え、サブソニック弾は後者の発生を抑える―という構図である。
つまり、サブソニック弾は「静音性」を得るための有効な手段だが、“無音にできる”わけではないということである。
超音速の衝撃音は抑えられるが、発砲の際の火薬ガス噴出音は残り、近接での発砲は依然として大きな音を発する。
サプレッサーとサブソニック弾の併用で「より静か」にはなるが「無音ではない」という点に留意したい。
したがって、銃にサイレンサーをつけただけでは、その音量を下げることができないのが実情であり、また、その代償として「エネルギー低下による致命性・貫徹力の低下」「弾道性能の悪化」「作動信頼性の問題」「弾薬の入手性・コスト」「無音ではない点」「メンテナンス負荷の増加」といった欠点がある。


