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シェリフや警察とどう違う?アメリカのコンスタブル(Constable)制度を解説

アメリカの法執行制度において、「コンスタブル(Constable)」は、日本語に明確な定訳が存在しない法執行官のひとつである。日本の警察制度とは大きく異なる、州ごと、郡ごとに制度が異なるローカルな治安制度のなかで存続しているため、「警察官」と訳すと実態と乖離し、「保安官」とも異なる役割であるため、直訳が困難な存在となっている。

以下では、コンスタブルの起源、法的地位、任務内容、州による違い、シェリフやポリスオフィサーとの違いを踏まえ、なぜ定訳が困難なのかを解説する。


■ 起源と歴史的背景

「コンスタブル」という語は、ヨーロッパの封建制度に起源を持つ。中世イングランドにおいて、コンスタブルは領主に仕える下級の治安官であり、地域の秩序維持、召喚状の執行、軽犯罪者の拘束などを任されていた。

アメリカ合衆国の建国後も、この制度は英法の伝統を受け継ぐ形で一部地域に残存し、州や郡単位で制度が継承・再編されて現在に至っている。


■ コンスタブルの法的位置づけと権限

アメリカにおけるコンスタブルは、州や郡により職務範囲・権限・採用方法が大きく異なる。多くは郡レベルで設置される下位の治安職であり、その法的地位は州法や郡条例によって定められる。

一般的な特徴は以下の通り:

  • 選挙で選ばれることが多く、有権者により数年ごとに再選される。

  • 治安権限(arrest authority)を持つか否かは州により異なる

  • 裁判所の命令(召喚状、差し押さえ令状、民事命令など)を執行することが主な任務である。

  • 地方によっては交通取締りや軽犯罪の対応も行うが、都市部では実質的な警察活動はほとんど行っていない。

たとえば、テキサス州やケンタッキー州では、コンスタブルには警察官と同等の逮捕権限と武装権限が付与されており、実際にパトロールを行う者も存在する。一方で、ペンシルベニア州などでは、基本的には裁判所命令の執行と民事的手続きに限定された役割しか持たない。

引用元 https://www.texasobserver.org/editorial-defund-the-constables/


■ 他の職種との違い

◉ 警察官(Police Officer)との違い:

  • 都市部の法執行を担う常勤の公務員であり、基本的には訓練を受けたプロフェッショナル。

  • 職務は捜査・パトロール・逮捕・交通取り締まり・事件対応と広範。

  • コンスタブルは非常勤である場合が多く、活動が限定的な場合が多い

◉ 保安官(Sheriff)との違い:

  • シェリフは郡のトップの治安責任者であり、刑務所運営や郡裁判所の保護、郡全体の法執行を担う選挙職

  • シェリフの下には多数の保安官補(Deputy Sheriff)が存在する。

  • コンスタブルは一般にシェリフより下位の職であり、補助的、または民事執行が主務


■ 地域差と実態の幅広さ

以下に代表的な州ごとの特徴を示す。

州名 コンスタブルの特徴
テキサス州 郡単位で選出され、フルタイムで交通取締りや逮捕などを行う。制服・パトカー・拳銃装備あり。
ケンタッキー州 州法で逮捕権が認められているが、活動は郡により異なる。
ペンシルベニア州 主に民事命令や裁判所関係の書類送達を行う。制服はあるが実戦的警察業務は稀。
マサチューセッツ州 一部地域では名誉職的であり、実務は行わないこともある。

■ 定訳が存在しない理由

日本語で「警察官」と訳すと、常勤・組織所属・統一訓練を経た国家公務員的存在を想起させるが、コンスタブルには以下のような特徴があるため、直訳が難しい。

  • 業務範囲が狭い(主に民事手続き)

  • 選挙で選ばれる(非職業的)

  • 州によって活動実態がまったく異なる

  • 名誉職的・儀礼的な存在の地域もある

そのため、日本語においては「(郡)治安官補助員」「民事執行官」「郡選出の法執行官」などの説明的翻訳で代用されることが多く、定訳は確立していない。


■ 結語

アメリカの「コンスタブル」は、法的には明確な地位を持ちながら、州ごとに実態が大きく異なり、現代の日本における警察制度とは直接的に対応しにくい職種である。民事執行や地方裁判所関連業務を担当する地域限定の法執行官と捉えるのが実情に近く、「警察官」「保安官」とも異なる存在として理解する必要がある。

したがって、日本語においては定訳を設けず、「コンスタブル」とカタカナ表記し、必要に応じて脚注や文脈で補足するのが最も適切な方法といえる。

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