【お知らせ】
シグナリーファン編集部では、警察装備や運用に関する国内外の公開情報・公式資料・報道記事・学術文献を継続的に調査・分析しており、本記事もそれらの調査結果に基づいて構成しています。

【自衛隊も使う】航空機内でも撃てる!警乗で使う「フランジブル弾」が“砕ける”仕組みとその運用実態とは

画像の引用元 陸上自衛隊松本駐屯地@JGSDF_matsumoto

拳銃弾といえば「貫通力」が注目されがちだが、現代の法執行機関ではむしろ“貫通しすぎない”弾丸が求められている。

そこで登場するのが、金属粉を圧縮して成形された特殊な弾丸、「フランジブル弾」だ。これは標的に命中した際に砕け散り、とくに背後への貫通リスクを大幅に抑えるよう設計されている。

とくに都市部や屋内、航空機内での銃器使用を想定する警察部隊では、跳弾や誤射による被害を抑える有用性からフランジブル弾の配備を進めている。

日本警察も例外ではない。

武器を持ったハイジャック犯への対処として、日本の航空機警乗警察官(スカイマーシャル)も欧米のスカイマーシャルと同様、小型武器の携行と使用を想定して乗り込んでいる。

日本政府は具体的に「フランジブル弾」と明言してはいないものの、2004年に航空機警乗警察官の拳銃弾について、「特殊な弾丸」を使用すると公表している。

日本警察の使うグレイザー・セーフティ・スラッグ(フランジブル弾)

空港出発ロビーの喧騒の中、一人の女性が地味なジャケット姿で人々に紛れていた。外見は、ごく普通のビジネスウーマン。だが、その内ポケットには、9mm仕様のグロック19が静かに収まっている。

彼女は、千葉県警警備部に所属するスカイマーシャルである。極秘裏に、国際線の旅客機に搭乗し、万が一のハイジャックなどに即応する警乗員だ。その任務の存在は乗員にも伏せられており、非常事態が起きない限り、職務中に自ら名乗ることはない。関係者用ゲートもあえて使わない。

機内に着席した彼女は、離陸のアナウンスに合わせて目を閉じた。耳を澄ませば、客室乗務員の笑顔の声、子どもたちの笑い声。誰にも気づかれることのない「最後の盾」として、彼女の緊張と覚悟、そしてグロック19は、はるか高空へと上昇していく。

2001年の米同時多発テロ以降、世界的に航空機内のセキュリティ強化が進み、日本でも警察官が民間航空機に同乗する「航空機警乗制度」が導入された。

スカイマーシャル(航空機警乗警察官)とは?

背景と発表の概要(2004年)

警乗官が航空機内で拳銃を使用せざるを得ない状況が想定される中で、日本政府は2004年、警察庁を通じて、以下のような理由で「通常とは異なる特殊な弾丸」を用いると国民に公知した。

日本のスカイマーシャルの実施状況について、政府はセキュリティ上の理由から詳細な人員数や装備などを公表していないなかで、具体的な手の内を明かすのは異例ともいえる。

このため、現在はスカイマーシャルが特別な弾丸を装填した拳銃を携行するというのが一般的な知識だ。

特徴

すでに欧米で広く導入されているスカイマーシャル組織での運用と対比して、これらの条件に適合する特殊な弾種として、フランジブル弾が最有力であると考えられている。

米国の「連邦航空保安官」(Federal Air Marshal)の任務とは?日本とどう違う?

フランジブル弾は「グレイザー・セーフティ・スラッグ」とも呼ばれ、以下の特徴を持つ。

  • 機体に損傷を与えない

  • 燃料系や操縦系統への誤射リスクを抑制

  • 乗客への跳弾被害を抑える

フランジブル弾(frangible ammunition)は、標的に命中した際に意図的に粉砕・破砕するよう設計された特殊な弾薬であり、その特徴と通常弾(フルメタルジャケット弾など)との違いは、構造・用途・安全性・貫通力など多岐にわたる。

フランジブル弾の特徴

1. 粉砕性構造

フランジブル弾は、金属粉末(多くは銅やスズ)を圧縮・焼結して成形された弾頭を持ちます。この構造により、硬い物体に衝突した瞬間に弾頭が粉々に砕けるように設計されている。

2. 貫通力の抑制

鋼板やコンクリート壁、飛行機の隔壁、鉄骨など硬質素材への貫通を防ぎ、跳弾や貫通後のリスクを抑えるために用いられる。

3. 室内・航空機・原子炉内など特殊環境向き

施設内のCQB(近接戦闘)訓練や、航空機・原発施設内など「壁や設備を傷つけたくない」「跳弾を避けたい」状況での使用が想定される。SWATや機内警備、特殊部隊などが用途例。


■ 通常弾(例:フルメタルジャケット弾)との主な違い

比較項目 フランジブル弾 通常弾(FMJ等)
構造 金属粉末を圧縮した焼結体 鉛芯を金属ジャケットで覆った構造
命中時の挙動 粉砕・崩壊 貫通・変形
跳弾の可能性 非常に低い 高い
二次被害 最小限に抑えられる 通常はあり得る
用途 室内戦闘、機内警備、訓練施設 野外戦闘、通常任務
装備との相性 ボディアーマーを貫通しにくい 9mm等では貫通困難だが、ライフル弾なら可能
弾頭の素材 焼結金属粉末(無鉛のものも) 鉛芯+被覆(鉛毒性の懸念あり)
価格 高価(訓練用や特殊用途) 比較的安価(大量生産品)

■ 利点と制限

◎ 利点

  • 跳弾リスクを抑える → 室内戦・空間制限のある状況で安全

  • 建造物・設備・航空機の機体等への損傷を最小限にできる

  • 訓練用として弾着を明確に可視化しやすい

× 欠点・制限

  • 装甲(ボディアーマーなど)に対する貫通力が低い

  • 遠距離での威力や精度は通常弾に劣る場合がある

  • 粉砕後の破片は飛散するため、至近距離では被害を与えることもある

  • 一部の自動装填銃で給弾不良を起こすことがある(弾頭の強度が弱いため)


■ 使用例と導入実績

  • アメリカでは法執行機関(FBI HRT、SWAT)で一部使用実績あり

  • 日本政府の公式発表で「特殊な弾丸」の配備を公表している

自衛隊での配備実例

陸上自衛隊では主に「鉄の的」に対する射撃訓練で使用している。

紙的と違い、着弾の音で射手が瞬時に命中判定を行えるため、感覚を養う効果がある。

また、海上自衛隊特別警備隊も敵艦艇に乗り込み、閉所での銃撃戦を展開する特性上、跳弾を防ぐ目的でHK416用のフランジブル弾を使用しているとされる。

同様の理由から、警察の特殊部隊SATなどでも、フランジブル弾の配備が行われている可能性がある。

特殊急襲部隊SATが被疑者の「頭部」を狙う判断──致死的制圧力が意味するもの

結論

警察の行うスカイマーシャル(航空機警乗)では、弾丸は貫通力の高い通常弾頭ではなく、砕けやすいグレイザー・セーフティ・スラッグ(フランジブル弾)を装填していると類推される。

高度3万フィートの与圧された機内で通常の弾丸を使用すると、機体に穴が開き、与圧が失われる可能性がある。

そのため、欧米のスカイマーシャルでは、固い物に命中すると砕け散る特殊な弾丸「フランジブル弾」が使用されると考えるべきである。

Visited 10 times, 1 visit(s) today

\ 最新情報をチェック /