【お知らせ】
シグナリーファン編集部では、自衛隊の装備や部隊について防衛省の公開情報・公式資料・報道記事・学術文献を継続的に調査・分析しており、それらの調査結果に基づいて記事を構成しています。

東京マルイ製「市街地戦闘訓練用教材(20式小銃型エアガン)」ついに自衛隊が制式導入!……89式電動ガンとの違いは?

2020年に採用された陸上自衛隊の新型小銃「20式小銃」の操作感や重量感を再現した“エアソフトガン型訓練用教材”が、2025年10月に国内で初めて一般公開され、話題になっています。

20式5.56mm小銃は『ある目的』を想定して開発された

10月1日から3日にかけて開催された展示会「SEECAT 2025」において、玩具銃メーカー大手の東京マルイが製作した「市街地戦闘訓練用教材(20式小銃型エアガン)」が展示されました。

アームズマガジンエクストラ 20式5.56mm小銃と陸上自衛隊の精鋭 (ホビージャパンMOOK1222)

今回の「市街地戦闘訓練用教材(20式小銃型エアガン)」について、“うちのガスブロの中で一番、○が大きい”と、東京マルイの広報担当者が公式に認めています。

これは自衛隊側が以前から公表している仕様書で求めていた、ある事項について、東京マルイが技術仕様でしっかりと応えたものと見られています。

それでは、実射性能や以前の閉所戦闘用教材・89式電動ガンなどの違いを詳しく見ていきましょう。

【注意事項】
公開時の報道では、会場での撮影制限があったことが伝えられているため、外観や内部仕様については取材可能な範囲で報じられた情報に依拠しています。また、「市街地戦闘訓練用教材(20式小銃型エアガン)」は訓練目的の官庁向け製品であり、一般向けの販売が行われるかどうかは現時点で不明で、東京マルイ広報担当者も言及していません。上記の点をご理解ください。

自衛隊の「教材」としての東京マルイ製品

公開された20式小銃タイプの「市街地戦闘訓練用教材」は、実弾を使用しない、いわゆるエアソフトガン(BB弾を発射する模擬銃)であり、外観や操作感を実銃に近づけた設計が施されています。

今回の導入は、89式電動ガンなど従来型の模擬銃で知見を積んだ自衛隊ならではの一例といえます。

89式5.56mm小銃は軽量小銃?”近接戦闘(CQB)仕様” とは?

 

なぜ「オモチャ」を訓練で使うのか・・89式電動ガンで初の導入

既に当サイトでも報じている通り、自衛隊では2006年から東京マルイ製の89式電動ガンを訓練教材として、陸上自衛隊の全部隊規模で導入しています。

自衛隊はエアガンで訓練している!89式の次は「発射音を伴う20式エアガン」も導入予定!?

建物内部を想定した閉所戦闘訓練では、実弾を用いることが難しいため、低威力の模擬銃が活躍します。

外観は実銃とほぼ同じながら、射撃時の反動や操作性を再現することで、隊員は安全に、かつ実戦に近い感覚で訓練を行える利点があります。

ストライクアンドタクティカルマガジン 2015年 07 月号 [雑誌]

国内における実弾や火薬を伴う非致死性弾薬(いわゆるシムニション等)の扱いは法令や安全管理上の制約が大きいといえます。

陸上自衛隊などの訓練では、空薬莢の回収や実弾射撃が可能な射場の確保など厳格な管理が求められるため、都市空間を想定した市街地戦闘訓練の全過程で実弾を用いることは困難です。

自衛隊で薬莢を無くすと起きること

一方でエアソフト教材は、比較的低コストで繰り返し使え、屋内での連続的な教練や装備操作訓練、行動パターンの確認に適しています。

発射威力が低く、取扱い規制が比較的緩やかな模擬銃を用いることで、室内や狭隘空間での装備操作訓練、標的に対する射撃精度確認、フォース・オン・フォース(対人模擬交戦)を段階的に実施できる利点があると説明されています。

なお、自衛隊で使用されるマルイ製89式電動ガンは、実銃と誤認防止と訓練外での誤搬出・誤使用を防ぐため明確な識別(カラーリング等)によって管理されています。

加えて、機関部や光学機器、ライト操作など“操作手順”の習熟にも適しています。

なお、東京マルイではガス・ブローバックタイプの89式エアソフトガンも製造販売しており、こちらのほうが電動ガンよりもさらにリアルな操作を追体験できます。

アームズマガジンエクストラ 自衛隊の銃器 (ホビージャパンMOOK 1113)

どのような訓練で使われるか

主に建物内など閉所戦闘訓練

市街地戦闘訓練は、街路や建物内部など射距離が短い環境での戦術・機器運用を想定する訓練で、段階的に装備の操作を学ぶ「フォース・オン・ターゲット(FoT)」から、実際に互いに撃ち合う「フォース・オン・フォース(FoF)」まで含まれます。

模擬銃はまず操作と照準・射撃動作の習熟に用いられ、最終段階で対人を想定したFoF訓練に活用されることが想定されています。

こうした段階を踏むことで、安全に実戦に近い状況を再現できる点が利点とされます。

伝えられた市街地戦闘訓練用教材(20式小銃型エアガン)の実射レポートと仕様など

エアソフトガン・レビューサイト「ハイパー道楽」が伝えたところによれば、今回の展示では、写真撮影こそ禁止だったようです。

ただ、実際の試射は許されたそうで、警察官、自衛官が多くいる中、同サイト運営者の方がその中に混じって、試射したそうです。

試射の感想として、射撃時の反動(リコイル)を再現する機構が強めに感じられ、操作性や感触の再現に重点が置かれていることが強調された記事になっています。

市街地戦闘訓練用教材(20式小銃型エアガン)の仕様

冒頭の東京マルイ広報担当者の発言からも分かる通り、「市街地戦闘訓練用教材(20式小銃型エアガン)」は、ガス・ブローバックタイプのエアソフトガンとして製作されています。

同会場で確認された市街地戦闘訓練用教材の刻印は、マガジンハウジング左側およびレシーバー右側に「HOWA」、マガジンハウジング右側に小さく「MARUI」、レシーバー左面に「市街地戦闘訓練用教材」のレーザー刻印が施されているとのことです。

また、アルミ削り出しのアッパーや樹脂製ロア、細部の造形が実物に似せられていると報じられています。

一方で、外観の一部は実銃と意図的に差異を設けているように見られ、たとえば実銃のストックでは黒色ですが、教材ではOD(オリーブドラブ)系の色が採用されるなど、配色の変更が確認されています。

こうした措置は89式教材を踏襲していると見られます。つまり、外見からの識別性で実銃と区別をつけ、安全を図る措置とみられます。

弾丸は市販のエアソフトガンと同様に6mmのBB弾を用いる方式で、駆動はガス(HFC‑134a)を使用しているという説明です。

BB弾の初速は国内の準空気銃規制、いわゆる「1ジュール規制」の範囲内に抑えられます。

従来の89式訓練教材と同様に、自衛隊の訓練であっても、あくまで市販の玩具銃を流用することが最適であり、それを使うにあたり、銃刀法や安全基準を超えるような仕様を求めるのは適切でないと判断したと思われます。

ガス・ブローバック仕様には短所もある

取材者によれば、ガスブローバック・タイプのエアソフトガンである「市街地戦闘訓練用教材(20式小銃型エアガン)」にはZシステムが搭載されているそうです。

「Zシステム」は東京マルイが2010年代中盤以降にガスブローバックライフルの耐久性と作動安定性を高めるために開発・導入した独自機構で、市販のモデルではM4A1 MWSなどに搭載されています。

これはBB弾の発射と同時にボルトキャッチ(ボルトが後退してホールドオープンしたときにボルトを受け止める機構)周りの衝撃を分散・吸収して破損や摩耗を防ぐことを目的としています。

ただ、フロンガス(HFC134a)を使うガス・ブローバックガンは、低温環境で性能低下が起きやすく、寒冷期の実用性は電動(AEG)や低温に強いCO2ガスに比べて劣る可能性が高いといえます。

HFC134aは家庭用エアコン等に使われる代替フロン系ですが、夏場や常温では安定作動する一方で、一般にCO2や一部の低温対応ガスに比べると低温での蒸気圧が低く、寒冷環境では特に影響を受けやすい傾向があります。

このため、「市街地戦闘訓練用教材(20式小銃型エアガン)」が、電動ガンである89式教材と同様に、年間を通して使用できる教材であるかは不明です。

気温にもよりますが、冬場ではブローバック機能のないガスガンでは辛うじて発射可能でも、ブローバック・ガスガンの機能を完全に作動させるとなると、フロンガスでは困難となります。

実用上の影響として、発射の初速が下がる、ボルトの戻りが弱くホールドオープンできないなど、動作不良などが現れ得ます。

この点で言えば、市販の製品にはCO2仕様のガスガンもあり、冬季でも快適に作動します。

しかし、東京マルイではCO2の使用については否定的であり、現在もガスガンのラインナップにおいては全てフロンガス専用製品となっています。

ただし、フロンガス仕様のガスガンでも、エアタンクによる圧縮空気を使うことで、気温に左右されずに安定した発射が可能となります。

とはいえ、自衛隊がエアタンクを背負って訓練を行う可能性は低く、マルイ自体が製品仕様としてエアタンクの使用を推奨していないものと思われます。

もちろん、この部分の情報は不足しており、自衛隊とマルイ側がどのような対策を行っているのかは不明です。

なお、東京マルイでは2018年にガス・ブローバック仕様の89式を製造販売しましたが、防衛省ではガスブロ仕様の89式を制式導入していません(個別の部隊で訓練用に使用されている可能性はあります)。

以下は、同社のガス・ブローバック仕様の89式のプロモーション動画です(実際の自衛隊の訓練ではありません)。

「うちのガスブロの中で一番、○が大きい」という市街地戦闘訓練用教材(20式小銃型エアガン)に対する広報担当者の表現

東京マルイの広報担当者は、今回公開された「市街地戦闘訓練用教材(20式小銃型エアガン)」の“発射に伴う部分”について、「うちのガスブロの中で一番大きい」と表現しています。それは、「リコイル時の発射音(作動音)」です。

取材者による試射を通じて得られた報告と、同社広報担当者の証言から、東京マルイは自衛隊側の求めていたこの要求を反映させ、発射音(作動音)を実銃に近いレベルで実現する方向で設計を行ったとみられます。

「市街地戦闘訓練用教材」に関する調達・契約に関する公的資料(入札情報)はすでに防衛省によって公開されていますが、それによれば「発射音を伴うこと」と明記されており、発射時の発射音(作動音)の再現も自衛隊の要求項目の一つになっており、ミリタリーマニア界隈でも深く考察されていました。

試射を行ったサイト運営者、東京マルイ広報担当者の言葉を見る限り、今回、同社ではそれをしっかりと受け止め、実用レベルに落とし込み、自衛隊の訓練に耐えうるレベルに実現させたようです。

まとめ

なお、「市街地戦闘訓練用教材(20式小銃型エアガン)」は2025年9月30日時点で、自衛隊向けに400丁以上が納入されていると報じられています。

今回の公開により、20式小銃型訓練用教材の実物に即した設計や発射音や作動音に特化した内部機構の一端が確認されました。

今後の訓練での運用や納入状況の詳細は、各師団の公式サイトなどで確認される見込みとなるでしょう。


出典(参考)

  • SEECAT 公式サイト(展示会情報)。Seecat

  • 「市街地戦闘訓練用教材を撃ってみた! SEECAT 2025」(取材記事、Hyperdouraku)— 会場での展示・試射報告。ハイパー道楽

  • 陸上自衛隊関連の入札・契約書類(防衛省・陸上自衛隊 公文書)— 訓練教材に関する入札情報。防衛省

  • 関連展示・報道(Hobby Watch、SNS等の会場報告)。HOBBY Watch

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