実際問題、特殊警棒でガラスは割れる?『ガラスクラッシャー機能』とは?

警察官が携行する「特殊警棒」(正式には特殊警戒用具)は、被疑者の制圧のみならず、車両の窓を破って救出を行うなど、さまざまな法執行シーンで使用されるマルチツール的存在である。

現行型は「65式特殊警棒」、かつて主力だったのは「53式特殊警棒」。どちらも金属製で伸縮機構を備え、素早い展開と高い威力を持つ……とされている。

しかし、「警棒でガラスは本当に割れるのか?」という問いに対しては、必ずしも力強い「Yes」が返ってくるとは限らない。

現行配備の65式、旧タイプの53式それぞれの特殊警棒の解説はこちら。

警察さんの特殊警棒が2倍も太くなった理由とは?

実際、ガラスは割れにくい──警察密着番組が映した真実

これはただの噂話ではない。かつてフジテレビ系で放送された警察密着ドキュメント『踊る!大警察』では、神奈川県警・機動捜査隊のER34覆面パトカー「広域243」が不審車両と接触する緊迫の瞬間が記録されていた。

サイレンを響かせて迫るER34「広域243」に、一度は速度を落として停車した不審車。ところが、突如として「広域243」に体当たり。乗車していた隊員2名とカメラマンは衝撃を受けながらも即座に対応。

この時、堪忍袋の緒が切れたベテランの杉浦警部補が助手席の新人隊員に叫ぶ。

ガラスを割れ!

隊員は即座に『広域243』から飛び出し、逃走車両に駆け寄ると腰のホルダーから引き抜いた特殊警棒を逃走車のサイドウインドウへと叩きつけた──。

しかしその直後、不審車両は逃走。後の捜査によって判明したのは衝撃の事実だった。

サイドウインドウは割れておらず、割れたのはポリカーボネート製のドアバイザーのみ。

現場にいた杉浦警部補が苦笑いしながら、助手席ドアポケットに差してあった「レスキューハンマー」を指して一言。

積んであったんだよ……

新人隊員はというと、照れ笑いで一言。

あとから思い出しました。

このやりとりは、現場のリアルを象徴する印象的なシーンとなった。

機動捜査隊に配備される機動捜査用車と搭載装備品とは?

この一件が示すように、特殊警棒は「あらゆる場面で万能」というわけではない。強化ガラスである自動車のサイドウインドウは、正しい角度や専用の道具がなければ意外なほど割れないものだ。

実際の救助・突入現場では、ガラス破砕専用のレスキューハンマーグラスブレーカーが重要視されることが多く、警棒はあくまで「制圧・威嚇・間接的な支援」の役割にとどまる。

それでも、特殊警棒を握る警察官たちの姿は、一瞬の判断力と冷静な機動力の象徴として記憶に残る。

『ガラス・クラッシャー機能』つき特殊警棒の登場

警察官が携行する特殊警棒は、被疑者の制圧や緊急救出など多用途に活用される法執行装備である。

とりわけ自動車のサイドウインドウを破砕する場面では、従来のように警棒を振り下ろして割る方法ではなく、現在はグリップエンドに内蔵された「ガラスクラッシャー機能」を使うのが一般的となっている。

現場映像に見る「割れないガラス」と「正しい装備の使い方」

ある実際の動画では、警察官の降車命令を無視して車内に立てこもる運転者に対し、捜査員らが車両の周囲を取り囲む様子が映し出されている。

私服の捜査員が特殊警棒を片手に繰り返し警告を発するが、車内の人物は応じない。

 

やがて捜査員は警告ののち、警棒をサイドウインドウに何度も叩きつける。しかし、ウインドウはびくともせず、現場は膠着状態に。

そこへ現れた制服警察官が、「クラッシャーありますよ」と一言。

すかさず警棒のグリップエンドでウインドウを一突き──その瞬間、窓ガラスは粉砕され、捜査員が車内になだれ込んで運転者を確保した。

この「クラッシャー」とは、特殊警棒の底部に内蔵されたピン型の突起機構。使用時に引き起こし、ガラスに対して垂直に突くことで破砕する設計となっている。

まさに、警棒の後部にレスキューハンマーを融合させた一体型装備だ。

この『ガラス・クラッシャー』機能付き警棒は、東京都渋谷区の武田商店が製造・納入を行っており、山口県警察などに導入されている。

宮崎県警察が開発した「ガラスクラッシャー改良型警棒」

一方、宮崎県警察が独自に開発・意匠登録した「ガラスクラッシャー改良型警棒」も、さらに進化した装備として注目されている。

この改良型警棒は、従来の「引き出し式ピン型」クラッシャーではなく、グリップエンド全周を山型に加工することで、警棒をそのまま横方向に振るだけでガラス破砕を可能としたもの。

この設計によって、

  • ピンの引き起こし不要

  • ウインドウに対して垂直に突く必要なし

  • 操作が簡便で、受傷リスクが著しく低減

と、法執行と救出活動の両面で大きな安全性と迅速性を実現している。

交換費用も1本あたり約2000円と導入のハードルが低く、まさに実用装備の進化形と言える。

この改良型警棒は平成24年10月、警察庁主催「警察装備資機材開発改善コンクール」において、最高賞である警察庁長官賞を受賞している。

参照元

宮崎県警察公式サイト、週刊ダイヤモンド 2016年7/30号、警察危機管理防災委員会視察報告(埼玉県)

法執行と救助の切り札へ──グリップクラッシャーの現在地

かつては立て篭もる被疑者を確保する場合、「ガラスを割れ!」という叫びとともに、警棒を力任せに振り下ろす光景が事実としてあった。

しかし現在では、特殊警棒のグリップエンドに備わったガラスクラッシャー機能こそが、現場で信頼されるガラス破砕の標準装備となっている。

事故現場や災害、そして逃走車両との対峙の中で、いかに速く、正確に、そして安全に警察官がガラスを割るか──

その答えは、時代とともに進化する一本の警棒のグリップエンドに込められている。