見当たり捜査班とは?警視庁の指名手配犯専門チーム解説
2014年当時、日本全国で警察が指名手配していた容疑者の数はおよそ800人に達していた。その捜査の最前線に立つのが、各都道府県警察本部の刑事部に設置されている「捜査共助課」である。
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街の中で“顔”を追う――警視庁「見当たり捜査班」の素顔
なかでも警視庁において、指名手配犯の追跡に特化したチームとして知られているのが、「見当たり捜査班」だ。彼らは駅や繁華街、さらにはパチンコ店やゲームセンターといった人の出入りが多い場所に身を置き、何万人もの通行人の顔を一人ひとり観察して、手配中の容疑者を探し出す。
刑事たちのポケットに収められているのは、4センチ四方の写真がずらりと並んだ手配犯リスト。約500人分の顔がプリントされた、小型のファイルブックである。
彼らの服装も特徴的だ。一般の刑事とは異なり、茶髪や無精ひげ、ジーンズ姿で労務者のような雰囲気を演出し、捜査対象の目を欺く。街の空気に自然と溶け込む姿勢は、まさに“動く監視カメラ”と呼ぶべき存在だ。
実際、警視庁の見当たり捜査班はこの手法によって、年間100人近い指名手配犯の逮捕に貢献している。
容疑者を捕まえるための手段「指名手配」とは
指名手配とは、全国の警察が凶悪犯などを特定・追跡する際に、市民からの情報提供を促すための捜査手法である。対象となった容疑者の顔写真や特徴はチラシやポスターにまとめられ、全国の交番や公共施設などに掲示される。
さらに、特に重大な犯罪に関与したとされる容疑者は「特別手配」という枠組みに分類され、警察庁が全国の警察機関に一斉通達を行う。これまでには、連合赤軍の元メンバーやオウム真理教の関係者などが、特別手配の対象となってきた。
なお、2003年には警察庁が方針を転換し、未成年の容疑者であっても、必要に応じて氏名や顔写真を公表できる体制が整えられた。
また、国外逃亡者に対しては国際刑事警察機構(インターポール)を通じて「国際手配」が行われ、世界各国の警察に情報が共有されている。
公的な「懸賞金制度」導入――警察庁の「捜査特別報奨金制度」とは
2007年度、警察庁は重大事件の解決を加速させる新たな方策として、「捜査特別報奨金制度」を導入した。この制度は、特に凶悪な事件において、犯人の検挙につながる有力な情報を市民から広く募るためのもので、情報提供者に対して懸賞金(報奨金)が支払われる仕組みである。
懸賞金の基本額は300万円とされているが、事件の重大性や社会的関心の高さに応じて、警察庁長官の判断により最大1000万円まで増額することが可能である。
支給対象とその条件
報奨金が支払われるにはいくつかの要件がある。まず、情報の提供者は一般市民に限られ、警察官やその家族、犯人本人、共犯者、または匿名の通報者などは対象外とされている。さらに、情報の入手過程に違法行為があった場合も、報奨金の支給対象とはならない。
この制度が注目を集めた代表例の一つが、2007年に発生したリンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件である。警察庁は当時、逃走中だった容疑者・市橋達也に対し、上限額である1000万円の懸賞金を設定。整形外科クリニックの医師やフェリー会社の職員など複数の通報者の情報により、市橋容疑者は2009年に逮捕された。
このケースでは、制度が実際に機能した初の大型適用例となり、逮捕後には「1000万円の分配先」が報道でも取り上げられた。結果として、報奨金は4人の情報提供者に分割して支給された。
初の「国家的懸賞金制度」
以前より、被害者遺族が私的に懸賞金を掲げる事例は存在していたが、警察庁が公式に制度化したのはこの「捜査特別報奨金制度」が初めてである。導入以降、報奨金の支給実績は複数件にのぼっており、国民との協働による捜査体制の一環として、一定の成果をあげている。
参考文献:
2014年10月2日放送 テレビ朝日『列島警察捜査網 THE追跡』より構成。