引用元 1996年6月20日付 南日本新聞
1996年4月、鹿児島県鹿児島市に所在する玉江交番において、複数の勤務中の警察官が同一の不可解現象を体験したとする報道がなされた。
具体的には、交番2階の仮眠室において勤務員が「白装束の女性の霊」のような存在を視認し、また別の者は「白いもや」のようなものが空間内を移動するのを目撃したという。
これらの現象が、同一の物理空間において複数回にわたり確認されたこと、またその後、神社からの護符の設置により現象が収束したとされる点から、本件は一過性の錯誤や幻覚として処理するには慎重な検討が求められる。
本稿では、事件の報道内容および玉江交番の立地、建築的背景、また同様の事例と照らし合わせながら、本件が示唆する警察組織と「非科学的現象」との接点について考察を加える。
以下は、当時の実際の報道である。
鹿児島県鹿児島市下伊敷町の玉江交番に幽霊が出現、泊まり勤務の警察官らを怖がらせている。
近くの神社のお礼をかけて以来、出てこなくなったが、「寝不足で勤務に支障があったら」 と鹿児島県警本部地域課でも ”重視”、調査を検討している。
同交番で幽霊が確認されたのは4月下旬。
永吉警部補(57)と浜田巡査長(34)がそれぞれ6畳の仮眠室で仮眠していた際、永吉さんが髪の長い白い衣装を着た女に押さえ付けられる夢を見て、うなっていた。
隣室の浜田さんが声に気付いて見たところ、ファーと離れて消えたらしい。
また、2人を起こしに来た警察官も、白くモヤモヤしたものがスーッと動くのを目撃したという。
浜田巡査長は「てのひらを上にして手招きをしていた。思い出すだけでも、背筋がゾーツとする」と振り返る。
同交番は以前草牟田2丁目にあったが、約20年ほど前に移転した。
2階仮眠室は、以前から当直員が金縛りにあったり、「何か出る」といわく付きのところで、警察官のなかには怖がって近くの伊敷交番で仮眠し、絶対に玉江交番では寝ない人もいたらしい。
警察官3人が目撃したことから、同交番ではさっそく近くの護国神社に厄除けのお札を買いに行き、仮眠室にかけている。
それ以来、幽霊の出現はなく、快適な仮眠がとれるようになったという。
県警本部の地域企画指導官は「目撃した3人には報告書を出してもらった。仮眠も大切な仕事。勤務に差し支えるようであれば、調査をする必要があるかもしれない」と話している。
引用元 1996年6月20日付 南日本新聞
事案の概要
1996年4月下旬、鹿児島県鹿児島市に所在する玉江交番において夜間宿直中の警部補および巡査長が、それぞれ仮眠中または仮眠室内において以下のような現象を体験した。
-
白装束の長髪の女性が寝ている警察官の胸元にまたがる形で出現(夢ではなく、別の警察官も視認)
-
白くもやのような物体が空間を移動
-
「手招き」をする女性の霊のような存在
仮眠室は、交番が移転してから設置されたもので、以前より「寝ると体調が悪くなる」「金縛りに遭う」などの証言が署内に複数存在していたことが明らかとなっている。
その後、交番の署員により護国神社の護符が調達され仮眠室に設置されたところ、不可解な現象は報告されなくなったという。
なお、玉江交番はのちに統廃合されており、現存していない。
認知の問題と職務環境
本件は幻覚や集団心理の可能性を完全に排除するものではない。
しかし、目撃者は訓練を受けた警察官であり、厳格な報告義務と職務上の観察力を求められる職種である。そのような公職者が、3名にわたり同様の不可解体験をし、公式に報告を行っている点は重要である。
また、報道によれば鹿児島県警本部も「仮眠も大切な職務の一部である」とし、勤務への影響を懸念して調査の必要性を示唆している。
この対応からも、現象の主観性のみならず、組織的な影響が考慮されていたことがうかがえる。
建築的・土地的背景
玉江交番は当時において、20年前に当該地に移転している。
交番建設以前の土地の来歴や宗教的因縁については公的記録には明らかでないものの、当該交番では以前より、不可解な現象が起きるといった噂があり、交番職員の中には他の交番で仮眠をとる例も存在した。
このような施設内部での“忌避”が発生する背景には、土地にまつわる潜在的記憶や、建物の構造(閉塞感、通気性の悪さ、低照度など)が心理的影響を与えている可能性がある。
また、一方で、神社のお札設置によって現象が終息した点から、単なる心理的要因では説明しがたい理由も存在している。
同様事例との比較
全国の留置施設等において、非公表ながら同様の現象の噂が存在する例はあとを絶たない。
特に仮眠室や留置場、旧庁舎の跡地などでの「不定形の影」や「白い服を着た人物」、「囁く声」といった口伝は全国各地で散見される。
これらの現象はしばしば“錯覚”として処理されるが、仮に職務に支障が出る場合には、組織として何らかの「対策」を講じるケースもあることは、今回の事例からも確認できる。
結論と今後の課題
現象自体の科学的解明は未だ困難であるものの、「目撃された」「職務に支障を来した」「護符の設置後に収束した」という一連の流れは、警察組織内における“怪異の現実性”の社会的構成という観点からも注目に値する。
本件は、警察組織という極めて現実主義的な機関においても、現在の科学では否定できない現象が発生すること、そしてそれに対し宗教的手段をもって対応が図られた稀有な事例と結論づけられる。
今後は、職場環境の心理的衛生のみならず、「現在の科学では解明および説明不能なものを組織としてどう受け止め、どう適応するか」というリスクマネジメントの課題として、本件を記録・共有する意義があると考える。