64式小銃、第一線を退くもなお現役――後方部隊や他組織で活用続く
かつて陸上自衛隊の普通科部隊における主力小銃として広く制式配備されていた64式小銃。
だが、89式5.56mm小銃の普及、2021年配備の20式小銃によって、2025年現在、その役割を終えて、第一線の普通科部隊では旧型装備として置き換えが進んだ。
一方で、陸自特殊作戦群におけるM4カービンの秘匿配備、海自特警隊のH&K HK416導入、さらに警察特殊部隊(SAT)によるMP5の運用など、国内でも特殊部隊における装備の高度化・国際化が進む中、陸自では半世紀近くにわたって日本の防衛を支えてきた64式はその役割を終えた。
しかし、海自や空自、海上保安庁からは、64式は依然として完全に姿を消したわけではない。
航空自衛隊では基地警備隊や教導隊、海上自衛隊の陸警隊といった部隊においては、現在も現役装備として使用が継続されている。
航空自衛隊基地警備隊では近接戦闘を想定し、64式にフォアグリップを追加装備するなどの改良も施されている点が興味深い。
ただし、空自でも64式の後継として20式をすでに導入しており、徐々に置き換えが進むものと見られている。
64式小銃は、警察庁の特殊急襲部隊(SAT)の前身であるSAPにもかつて配備されていたほか、現在でも海上保安庁においては主力小銃である。
戦後日本の安全保障を半世紀以上にわたって支えてきたこの小銃は、今後もしばらくは各現場での任務を担い続けることになりそうだ。
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64式小銃諸元
項目 | 内容 |
---|---|
名称 | 64式7.62mm小銃 |
種類 | 自動小銃(バトルライフル) |
口径 | 7.62mm |
使用弾薬 | 7.62×51mm NATO弾(減装薬弾) |
作動方式 | ガス圧利用(ショートストロークピストン式)、ティルトボルト式 |
給弾方式 | 20発入り着脱式箱型弾倉 |
全長 | 約990mm |
銃身長 | 約450mm |
重量 | 約4.3kg(弾倉および付属品を除く) |
発射速度 | 最大約500発/分 |
銃口初速 | 約700m/秒(減装薬弾使用時) |
有効射程 | 約400m |
製造メーカー | 豊和工業 |
制式配備年 | 1964年 |
特徴 |
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64式製造は豊和工業――小銃から迫撃砲まで支える老舗重工メーカー
64式小銃を製造したのは、愛知県に本社を置く豊和工業株式会社。空気油圧機器や工作機械のメーカーとして知られる同社は、自衛隊の制式小銃である64式、89式の製造を担うなど、国内の防衛装備産業を長年支えてきた。
同社はまた、警察特殊部隊(SAT)にも採用されたボルトアクションライフル「M1500」や、各種迫撃砲の開発・製造も行っている。かつてはアメリカ製アサルトライフル「AR-18」の単発モデルをライセンス生産し、海外に輸出していた実績もあるが、これが連射可能な状態に改造され、北アイルランドの武装組織IRAに使用されたことが判明。安全保障上の懸念から、同モデルの生産は中止されたという経緯がある。
64式小銃には通常の被覆鋼弾(フルメタルジャケット)に加え、徹甲弾や曳光弾など複数の弾種が用意されている。特に被覆鋼弾は、国際法であるハーグ陸戦条約に準拠し、「人体に不必要な苦痛を与えない」弾種として世界の軍隊で広く採用されている。一方で、ホローポイント弾のように体内で大きく変形することはなく、あくまでも軍用としての基準を満たす設計とされている。
64式小銃、海上保安庁による“実戦使用”──北朝鮮不審船事件から読み取る対応の実態
1999年に発生した「能登半島沖不審船事件」は、海上保安庁が初めて準軍事的装備を実戦で用いた事例として知られている。1999年3月23日、北朝鮮の工作員と見られる2隻の不審船が日本海の能登半島沖に接近。2隻に対して巡視船による追尾・警告ののち、実弾射撃が行われた。
この際に投入された装備のひとつが、豊和工業製の64式7.62mm小銃である。本来は陸上自衛隊の制式小銃として採用されたものであるが、当時、海保でも一部部隊が保有・訓練しており、巡視船の標準装備として配備されていた。
64式は、7.62mm弾を使用し、威嚇射撃の際にも高い視認性と制圧力を発揮する。実際、当該事件では曳光弾と通常弾がほぼ半数発射され、不審船に対して相当の圧力を加えたとされている。報道によれば、発射総数は1,000発を超えていたという。
この対応により、不審船は逃走を図るも、結果として事件は日朝間の緊張を高める一因となった。一方、海上保安庁にとっては、これが法執行機関としての“武力の行使”の限界とその運用上の課題を改めて認識させる契機となった。
その後、海保では訓練や装備体系の見直しが進み、類似の事件への対応能力が段階的に強化された。ただし、64式のような小銃は普段の巡視活動では用いられず、巡視船内に備え付けである。
64式小銃の実戦投入は、日本の法治国家としての姿勢と治安維持機関の限界、そして現実に即した装備運用のあり方を問いかけた、ひとつの重要な分岐点であったと言えるだろう。