実銃ニューナンブが高倉健主演の有名映画に登場していた!?現代映像作品に欠かせないプロップガン(ステージガン)とは

現在の映画やドラマでは、ごく当たり前のように使われている「プロップガン(ステージガン)」。これは、実銃に似せて作られた撮影用の小道具で、電着銃とも呼ばれます。

低予算作品や単に発砲シーンを撮るだけであれば、市販のモデルガンをそのまま流用するケースも少なくありません。

しかし、モデルガンを1度でも撃ったことがある方なら分かると思いますが、ドラマに登場するプロップガンと比べて迫力が劣ります。

それもそのはず、両者では使う火薬の量がケタ違い。

モデルガンは“キャップ火薬”、対して電着銃は原則として火薬類取扱保安責任者の資格が必要な“イベント花火級の火薬”。ちょっとした危険物です。

従ってドラマや映画などを迫力のあるシーンを撮影したい意図がある場合は、電着銃の使用が一般的。

また、発砲に加えて「着弾シーン(例えば人体への命中)」を演出する場合には、より本格的な特殊効果である『ガンエフェクト』が必要になります。これも、電着銃を応用したものです。

このエフェクトによって、観客はまるで本物の銃撃シーンを目の当たりにしているかのような迫力のある臨場感を味わえるのです。

しかし、現代よりもはるかに以前の日本映画界では、こうしたガンエフェクトは言うに及ばず、プロップガン自体の技術がまだ十分に確立されていない時代がありました。

そのため、昭和30年代までは警察当局の協力と正式な許可を得た上で、警察官が立ち会いのもとで実際の拳銃に空砲を装填、発砲して撮影が行われることもありました。

今では考えられないような方法ですが、モデルガンがまだ市販されていない時代背景ゆえだったのです。

警察さんって射撃訓練で年間何十発くらい撃つんですかあ?

高倉健の映画に登場した”ニューナンブ”の正体は

1981年に公開された、降旗康男監督・高倉健さん主演の映画『駅 STATION』は、今もなお語り継がれる不朽の名作。

主人公・三上英次(演:高倉健)は、北海道警察本部刑事部に所属する警察官で、けん銃射撃の術科特別訓練員。

メキシコオリンピックの射撃代表として金メダルが期待されるほどの実力者で、日々を合宿と訓練に捧げていました。

しかし、競技者としての禁欲的な生活の代償は大きく、家庭を顧みることなく、妻子と別れが。

さらに、ある日、先輩刑事が手配犯の確保中に撃たれて殉職するという痛ましい事件が発生。

本来の職務である刑事として現場復帰し、犯人を追いたいという思いが募る三上。

しかし、オリンピック代表として国民の期待に応えよという北海道警察上層部の思惑の前で、彼の心は大きく揺れ動きます。

そんな葛藤の末に、夢を絶たれた男が刑事として歩む11年間――その間に出会う女性たちとの愛と別れを、淡々と、そして切なく描いた『駅 STATION』。

いやあ、稲葉氏も自分を重ねたんでしょうかねえ。

ちなみに、公開当時の北海道の警察さんは、現在のように「日本で一番悪い奴ら」などと揶揄されるような存在ではなく、むしろ本作の影響で、道内の映画館には多くの警察官が詰めかけたとも伝えられています。

そしてもうひとつ、この作品の重要な舞台のひとつでもある「増毛駅」について。かつては日本最北の終着駅として知られていましたが、2016年に廃駅に。

とはいえ、駅舎自体は今も観光施設として残され、近年では「髪の毛の聖地」としても親しまれています。

駅前にある「風待食堂」も、現在は観光案内所として活用されています。

警察の実銃「ニューナンブ」が映画に?

本作を語る上でマニアが注目すべきは、主人公・三上英次(演:高倉健)が劇中で扱う銃、それを射撃する各場面。

ざっとあげると、本作に登場する三上の扱う銃はミリタリー&ポリスM10、ワルサーGSP、そしてニューナンブ。

とくに携行するニューナンブM60(3インチモデル)のリアルな描写です。

作中に登場するその拳銃は、当時の映像技術と相まって、どう見ても本物そのもの。

プロップガン(撮影用銃)の黎明期とは思えないほど、細部まで作り込まれており、銃器描写のリアリティは今見ても色褪せることがありません。

実は、これらの銃、時代背景や銃のリコイル、造形などを検証すると、やはり、すべて実銃の可能性が非常に高そうです。

まずは、冒頭の射撃訓練シーン。黙々と標的射撃を行っている三上ですが、銃の発砲シーンで映るのは、S&W ミリタリー&ポリスM10、それにワルサーGSPの二種。

M10は.38口径の大きなリコイルが特徴的。さらに、ドイツのワルサー社が1968年に発表した、ラピッドファイア競技用シングルアクション・ピストル「GSP」は22口径ですが、こちらも快調にエジェクションしています。

しかし、これらはおそらく現職警察官による実銃による射撃と思われます。

実際、M10の場面で高倉さんが全身で映る場面で銃を構えるシーンでは、撮影用のプロップガン「ハイパト」を手にしています。

「ハイウェイ・パトロールマン(通称・ハイパト)」はS&WのM27を模して1972年にMGCが発売したプラスチック製モデルガン。

当時の刑事ドラマでは警察側のけん銃として広く劇中に登場しました。

以降、三上が道警本部捜査一課SIT(特殊班)として捜査中に携行する銃は基本的にハイパトのようです。

とくに、先日、札幌の立てこもり事件で出動した道警本部捜査一課SIT(特殊班)ではペッパーライフルを携行していましたが、三上の時代は当然、けん銃を携帯。

捜査一課特殊班(SIT)が配備している『Pepperball VKS』の機能とは

三上がラーメン屋の店員に仮装し、ラーメンの配達用オカモチの中にガムテープで貼り付けたハイパトを仕込み、犯人の元へ配達に向かうわけです。

ところが、さらに劇が進む中である問題の場面が。

画像は研究と批評のため『駅 STATION』より引用。

署内で三上刑事らしき人物が制服用の77mm(3インチ)長銃身のニューナンブM60に実包を装填するシーン。

黒光りする銃身、シリンダーのスレ具合、シリンダーラッチの特有の形状、造形の美しい小豆色のグリップがリアルです。

81年当時、こんなリアルなニューナンブのプロップガンを用意できたのはどこの小道具会社なのでしょうか。

【7mmキャップ火薬付】 HWS J-Police.38S ポリス 3inch HW 拳銃 ヘビーウエイト 発火モデルガン ブルーブラック仕上 警察

当時ニューナンブのモデルガンなど発売されてはいないものの、CMC製M36ベースの『それらしき』プロップガンは存在。

しかし、これはそんなモドキではありません。

ハートフォード J-Police.38S 発火モデルガン カート付き ニューナンブ

人気のハートフォード製ニューナンブM60。表面仕上げ、グリップの造形など細部までリアル。

果たしてこのニューナンブのリアルなプロップガン、この映画『駅 STATION 』のために特別に作られたものなのでしょうか。

と思いきや、実はこれ、警察の撮影協力で登場した実銃のニューナンブとみられます。

当然、実銃であることから俳優である民間人・高倉健さんが手に持つこと自体は許されなかったようで、アップのシーンでニューナンブを持つのは現職と思われます。

ただ、撮影に関しては道警が協力したのか、東京で警視庁が撮影に応じたのか、エンドロールにクレジットは一切入っていませんので詳しくは不明です。

警察当局としても、そこはあえて公にはしたくなかった思惑があったんでしょうか。

選挙演説中に“空包”を投げつけた女性が“ニューナンブのようなもの”の画像をツイートし騒然&大炎上!→削除からの意外な事実判明!

昭和30年代ごろの映画では警視庁が頻繁に撮影協力していた

さて、上述の『駅 STATION』における実銃の扱いでは、俳優が実銃を手に持つことは許されなかったらしく、別撮りだったようです。

しかし、実は昭和30年代ごろまでの映画では警視庁が頻繁に撮影協力しており、撮影には警察用の回転式けん銃M36チーフスペシャルや、自動式のコルト.32オートが使用され、空包(音が鳴るだけの訓練弾)を装てんした実銃を撃つことも俳優に許されていたとのことです。

当然ロケ現場には警察官が立会っての撮影。

戦後の日本警察で配備された旧型けん銃の種類

この情報はジャック天野氏公式ブログの記事『日本映画でも実銃が使われた時期もありました』を参考とさせていただいた。

日本初のモデルガン会社・MGCが設立され、日活に小道具としてのプロップガンの製作を打診された同社が製作したのがコルト.32オートを模した電着銃。

これが日活の作品で広く使用され有名になる『日活コルト』です。

コルト32AUTO HW ブラック 「MGC REVIVAL MODEL」 (モデルガン完成品)

画像は市販のモデルガン

その後、さらにモデルガン会社がいくつか立ち上がり、リアルなモデルガン(当時は金属製だった)の市販が一般化。

それをベースにしたプロップガンが発展していったことで、警察の協力も必要が無くなり、日本映画に実銃が登場することはなくなっていきました。

そして、警察当局が協力して装備品の実銃が登場した最後のケースが前述の映画『駅 STATION 』(1981年)と見られています。

今では全く考えられない「刑事物映画や土間への警察の協力」。昭和の時代は警察の撮影協力も意外とおおらかで当事は日本の映画に実銃が登場するのは珍しくなかったようです。

とは言え、近年でこそ、「教場」への神奈川県警の撮影協力があったようです。

余談ですが、『駅 STATION』では銃の他、機動隊車両のいくつかについても北海道警察に配備された実物という指摘も。

打って変わって現代の警察はパトカーの撮影協力にも渋い対応のよう。これについてはパトカーの劇用車のページで紹介しています。

刑事ドラマに警察はパトカーなどの撮影協力をしてくれるの?