原子力関連施設といった「重要防護施設(重防)」には、現在ではMP5サブマシンガンで武装した警察の機動隊員が常駐しています。しかし、こうした警備体制が整備されたのはごく最近のことです。
かつては、原発の警備といえば民間の警備会社に任されており、警察官が常駐することはありませんでした。今思えば、かなり危うい体制だったと言えるでしょう。
とはいえ、警察官の常駐が始まってからも課題は残っています。なかでも深刻なのが「誤射事故」の発生です。これには原発警備の信頼性そのものを揺るがしかねない、看過できない問題だという指摘も。
実際、2023年3月25日には、北海道電力・泊原子力発電所で誤射事故が起きました。この発電所の警備を担当していた北海道警察の機動隊員が、施設内に停車中の警察車両の中で、誤って銃を発射してしまったのです。
発射したのは20代の巡査長。ホルスターから銃を抜く際に、何らかの原因で弾が発射されたと報道されています。
今回の件については、警察による発表や報道を見る限り、希死念慮やテロ実戦などといった背景は報じられていません。そのため、ここでは「誤射事故」として捉え、検証していくことにします。
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巡査長がホルスターから銃を抜いた理由は『不具合を確認するため』
巡査長は如何なる理由で勤務中にホルスターから銃を抜いたのでしょうか。『ホルスターから銃を取り出す作業』は必要だったのか?どうやら、必要だったようです。

画像の出典 ロイター https://jp.reuters.com/article/idJP2023032501001021
道警によると、誤射があったのは25日午後0時半ごろ。巡査長がけん銃入れ(ホルスター)から自動式けん銃を抜いた際に弾が発射されたという。
本人の説明によれば、『不具合を確認するため』にホルスターから取り出したとのことで、当時巡査長が携行していたけん銃にはなんらかの不具合が生じていたとされています。

画像の出典 HTB https://news.yahoo.co.jp/articles/d7d26ee884d6a8966511c8111bb95f04349c0e1a
『北海道電力泊発電所』でのけん銃誤射事故は『自動式けん銃』だった
報道によれば、今回事故を起こした機動隊員が携行していたのは自動式けん銃。一般的な地域警察官への貸与が主流の回転式ではなかったようです。
しかし、報道記事によっては重要な部分に触れず、詳細を記載していないため、回転式けん銃であると勘違いしてしまう人も。
日本の警察が所持している拳銃はリボルバーでマニュアルセーフティが無く手動でハンマーを起こさない限りトリガー引いても発射されないのに誤射なんて起きるのかな?
泊原発敷地内で拳銃を誤射 警備中の20代男性巡査長が警察車両内で「銃器の状況確認」銃刀法違反の疑いもhttps://t.co/tzsOHqgEBc
— ぶるっくん (@kagerouoor) March 26, 2023
我が国の警察においては、連射性に優れ装弾数の多い自動式けん銃(反動利用式セミオート・ピストル)は機動捜査隊、警備部の機動隊、SAT、SPに広く配備されています。
ただ、近年では警視庁自動車警ら隊の地域警察官にグロックの配備も。
機動隊員のけん銃の主流は?
現在、日本の警察で広く配備されている自動式けん銃はSmith & Wesson M3913、日本独自仕様に改修されたSIG SAUER P230の2種。
いずれも刑事部、警備部で主に使用され、極少数ですが地域部での使用例も。
このうち、M3913は比較的威力のある9mm口径で組織犯罪対策部や機動隊の銃器対策部隊などに広く配備されたことが明らかに。
P230も90年代から2000年代初頭にかけ、機動隊など第一線部隊への配備が行われていますが、見かけなくなっている様です。
推測できる自動式けん銃は?筆者は『Heckler & Koch SFP9』を予想!
無論、上述したP230、M3913のほか、警備部ではP226、USP、グロック、P2000などの9mmオート系の配備も確認されていますが、少数精鋭のSATやSPへの配備が多いようです。
それでも、”東京オリンピック開催前”であれば、機動隊員であってもP230の貸与は十分に現実的だったのではないでしょうか。
しかし、重要防護施設警備の任務につく機動隊員の腰に32口径では、あまりにも心ともなかったのか、新たなけん銃の配備が行われたのです。

当サイトを読んでいる読者なら覚えているはず。2021年、北海道警察管内における警備において、新型自動けん銃のSFP9(VP9)がスクープされたことを。
もっとも、SFP9を一括購入したのは警察庁であって、道警本部独自の配備ではありません。また、今回の事故がSFP9によるものと確定したわけではなく、可能性の一つであることをあらかじめ留意していただきたく思います。
とはいえ、今回の誤射事故の渦中の『自動式けん銃』とは、まさにこのSFP9ではないかと筆者のみならず、誰もが推測するはずでは。
ドイツの新聞報道ではH&K社への取材として、日本警察が東京オリンピックの警備を目的に調達したSFP9の数量は2,000丁。
これが今、全国の第一線の機動隊各機能別部隊の新たなる主力けん銃となっていても、何ら不思議ではありません。
さて、ここで気になるのが冒頭で引用した報道記事の中にある『不具合』という不穏な言葉です。これは当該巡査長に貸与された個別の銃だけの問題なのか、全ての同モデルに広く起きうる問題なのか現時点では不明。
しかし、SFP9を巡ってはドイツのベルリン警察が不具合があるとしてメーカーに返品したことを報じられているのは事実(H&K社は否定)です。
残念ながら、我が国においては2006年から配備が始まった『M360J SAKURA』でも、200丁あまりの同銃の銃身にクラックが見つかるなどの不具合が発覚しており、銃の不具合は起きえないトラブルではありません。
ただ、SFP9は陸上自衛隊でも導入がすでに進んでいますが(陸自が導入したのはSFP9M)、こちらではとくに暴発等の事故があったなどは報道されておらず、巡査長がストライカー方式のSFP9の扱いに完熟していなかったがための暴発という線も拭いきれません。
妄想ついでに、まさか東京から流れてきたグロック45とか…?ないない(笑)
2023年7月、調査結果公表
7月に調査結果が公表されました。
本来は警備の業務に就く際に、安全確認のため拳銃の弾倉に弾が入っていないことを確かめた上で空撃ちしますが、巡査長は弾倉の確認を怠り撃ってしまったということです。
引用元 HTB北海道ニュース https://www.youtube.com/watch?v=hA-jMcp4Row
弾を込めていないと思い込んだまま、空撃ちをしたようです。えっと、当初の「不具合」とは?
なお、銃種については今回も「自動けん銃」のみで、詳細は不明です。
また、巡査長は訓告の処分を受けたとのことです。
『北海道電力泊発電所』での自動式けん銃誤射事故のまとめ
この記事、数年かけて後から色々追記しているのですが、今にしてみれば、SFP9に申し訳ないなって思うのです。
だって、日本警察の導入したSFP9、自衛隊とは違って、マニュアルセイフティ付きだったんです。
道警の調査結果によれば、今回の誤射は「銃の弾倉に弾が入っていないことを確認したうえで空撃ちするべきところを、巡査長がその確認を怠って引き金を引いてしまった」とされています。
とはいえ、少し銃の基本を知っている人なら、こう疑問に思うかもしれません。「自動式拳銃って、弾倉に弾が入っていたとしても、遊底(スライド)を引いて薬室に装填しなければ、撃てないのでは?」と。
実際その通りで、弾倉が装着されていても薬室に弾が装填されていなければ発射されることはありません。この点について詳しく説明するべきか迷うところですが、銃の基本的な安全管理に関わるため、最低限の理解は必要でしょう。
また、警察の内規では「自動式拳銃については、所属長が特に指示した場合を除き、薬室に弾を装填してはならない」とされています。つまり通常は薬室が空の状態が前提です。しかし、今回のような原子力施設の警備となると、所属長が「装填しておくように」と特別な指示を出していた可能性も考えられます。
それにしても、本件を単なるヒューマンエラーとして片付けてしまっていいのかは疑問が残ります。というのも、当初の説明では「不具合を確認しようとしていた」とされており、状況が完全には解明されていないようにも感じられるからです。
そしていつものように、こうした「重防」に関わる事件では、「警備の手の内は明かせない」として、使用されていた装備の詳細は明らかにされませんでした。
とはいえ、「再発防止に努める」とのことなので、どのような対策がとられるのかは気になるところ。銃の安全管理については、サバゲーにも応用できるので、できれば北海道警さんにも、そのあたりぜひご教示していただきたいですよね(笑)
全国の警察官へ新配備となった新型『アンモナイト・ホルスター』は『従来型より迅速に取り出せる構造かつ本人以外は抜けない構造』でも『アレ』は廃止しなかった!
いずれにせよ、重防の警備任務に就く機動隊員の腰に吊られているのが『不具合のある自動式けん銃』とは、いささかお寒い話ではないでしょうか。