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MP7やP90は、小型で携行性に優れ、防弾装備にも対処できるサブマシンガン(PDW)であり、近接戦闘に特化した火器である。
これらは、欧米や韓国などの要人警護部隊や対テロ部隊では広く採用されているが、日本の警察では今のところ導入されていない。
この事実に対して、「では、なぜ警察部隊の一部には自動小銃(形式不明)が配備されているのか?」という疑問が生じる。
しかしこれは、任務と想定される脅威の違いによる配備目的の差で説明できる。
2020年に発足した『沖縄県警察国境離島警備隊』に自動小銃を配備 海上民兵対策で従来のMP5は威力不足?小銃のモデルは?
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MP5の限界
MP5が現代の警察任務に適応しずらい状況になって久しい。
だが、日本の警察において、サブマシンガン(SMG)やPDW(パーソナル・ディフェンス・ウェポン)の代表格である「MP7」(H&K製)や「P90」(FN社製)は、現在までのところ公式に採用されたという確たる情報は存在しない。
これは装備マニアや法執行機関ウォッチャーの間では長年の話題であり、なぜ導入されないのかについてはいくつかの現実的な要因が考えられる。
P90の仕様
P90(Project 90)は、1980年代末から90年代初頭にかけて、ベルギーのFN Herstal社(旧ファブリック・ナショナル)によって開発されたPDW(Personal Defense Weapon)=個人防衛火器である。冷戦終結後のNATO構想「新しいタイプの後方支援兵用武器」に対応する形で開発された。
P90は銃身の後方に機関部を持つブルパップ式を採用しており、全長を短く保ちながら十分な銃身長を確保。排莢口も下向きで、左右どちらの肩でも使える設計がなされている。
ポリマー製マガジンは弾薬を銃軸に対して直角方向に装填し、内部の回転機構によって弾頭を進行方向に回転させて供給。装弾数50発を薄型の構造で実現し、携行性にも優れる。
FN社が開発したこの高速小口径弾は、ボディアーマーを貫通しつつ低反動を実現。特に従来の9mm弾では貫通困難だったケブラー系防弾ベストを100m前後で突破可能とされる(SS190弾など)。
上部にはピカティニーレールを備え、光学照準器やレーザー照射機器などの装着が可能。軍用仕様のP90には、専用の光学サイトが組み込まれているモデルもある。
1996年ペルー日本大使公邸人質事件におけるP90の使用事例
1996年、ペルー・リマの日本大使公邸がトゥパク・アマル革命運動(MRTA)によって占拠された事件に対し、同年4月22日、ペルー政府は特殊部隊による突入作戦「チャビン・デ・ワンタル(Chavín de Huántar)」を実施した。
この作戦に参加したのは、ペルー陸軍特殊部隊であり、当時の報道映像や記録写真から、突入部隊の一部がベルギーFN社製のP90サブマシンガンを携行していたことが確認されている。これは、P90が実戦で使用された初の例とされ、特殊部隊向け近接戦闘用火器として注目を集めた。
P90はコンパクトなデザインと高い装弾数(50発)、さらに5.7×28mm弾による防弾チョッキへの貫通性能を特徴とし、こうした市街地・屋内戦に適した性能が評価された可能性がある。
ただし、戦闘は屋内で行われたため、実際の実戦での使用は屋上での射撃の様子程度しか確認できない。ペルー政府は突入作戦の詳細な装備構成や交戦記録については正式に公表しておらず、P90が実際に射撃に用いられたかどうかなど、運用の実態については明確な情報が存在しない。
MP7の仕様
MP7は、ドイツのHeckler & Koch(H&K)社が2001年に開発したPDW(Personal Defense Weapon)=個人防衛火器である。近接戦闘に特化しつつ、防弾ベストを貫通可能な新型小口径高速弾を使用するという目的で設計された。
H&K社は、NATOが1990年代に提唱した「PDWプログラム」(従来の拳銃・SMGの限界を超える新カテゴリー)に応じてMP7を開発し、FN社のP90と並ぶPDWの代表的存在となっている。
ストック伸長時で約640mm、縮小時で約415mm。重量は約1.9kg(弾倉なし)。極めて軽量・コンパクトで、片手射撃や車内携行にも対応する。完全密閉式ボルトキャリアにより、発射ガスの逆流を抑えるなど、屋内戦・CQBでの使用を想定した設計。
MP7は以下のような国や部隊で採用されている(公表・映像確認等に基づく)
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ドイツ連邦軍(KSK、連邦警察GSG-9等)
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イギリスSAS、ドイツGSG-9、韓国707部隊および大統領警護処など
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ノルウェー軍(歩兵部隊でのPDWとして)
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アメリカ海軍SEALsや特定の法執行機関(ただし米軍全体としての正式制式ではない)
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日本の陸上自衛隊(装備名:4.6mm短機関銃(B))として一部配備。MP7との一致性が高いが、公式には明言されていない。
1. 弾薬の特殊性と調達の制約
MP7は4.6×30mm弾、P90は5.7×28mm弾を使用する。
これらはいずれもNATO制式ではあるが、極めて特殊な小口径高速弾であり、国内での備蓄や調達体制が整っていない。
日本の警察は、長年にわたり、高性能拳銃用には9mmパラベラム弾を中心に、弾薬を標準化してきた。
MP5やグロック17、SIG P230など、装備の多くが9mm系で統一されているのもその一環であり、新たな口径を導入すれば訓練、保管、補給、安全管理のコストが跳ね上がる。
2. 過剰な貫通力と市街地運用のリスク
MP7やP90のようなPDWは、ボディアーマーを貫通する高貫通力が最大の売りである。
しかしこれは逆に、市街地での使用時に二次被害のリスクが高まることを意味する。
実際、日本の警察官が想定する状況では、交戦距離は数メートルから十数メートル。
壁を抜けるほどの弾丸は、むしろ危険であるとの判断が支配的だ。
SAT(特殊急襲部隊)などが一部でHK416やライフル系の訓練をしている報道はあるものの、市街地用にはMP5のような、連射は可能だが拳銃と同じ9mmの火器が依然として主力である。
3. 政治的・社会的な視線と予算
日本では、法執行機関の装備強化には常に「過剰装備ではないか」という国民的な視線がつきまとう。
事実、陸上自衛隊がいつまでも特殊部隊の装備品(HK416)にモザイクをかけているのはそういうことだ。
沖縄国境離島警備隊や銃器対策部隊の自動小銃は、「対外有事対応装備」として国民にも説明しやすい。
一方、MP7やP90をSPやSATが装備した場合、「警察が過剰武装している」といった市民感情やメディアの反発を受けやすく、装備の見せ方・説明責任のハードルが高い。
とくに新型火器の導入には「必要性の説明責任」が発生する。P90のように特徴的な銃は、市民感情に与えるインパクトが大きく、「軍用装備の導入」という批判を招く可能性がある。
また、日本の警察予算は潤沢とは言い難く、訓練弾の取得も満足は言い難く、装備の更新にも極めて慎重であり、既存装備の延命が優先されがちである。
4. 既存装備での対応が可能と判断されている
現在、SATや銃器対策部隊にはMP5シリーズ、豊和M1500ライフル、グロック系拳銃などが配備されており、これらでほぼ全ての想定事態に対応できるというのが警察当局側の見解と思われる。※ヒグマを除く
PDWが本領を発揮するのは高強度ボディアーマーを着用した敵、あるいは車両装甲越しの射撃など、やや軍事寄りの状況であり、日本国内ではそのような事態の発生確率は極めて低いと見られている。
自衛隊がMP7を配備か
国内においては、すでに陸上自衛隊がH&K(ヘッケラー&コッホ)社製のMP7短機関銃を装備している可能性が指摘されている。これは、防衛省が過去に公表した調達情報において「4.6mm短機関銃(B)」という名称で調達された装備に該当するもので、「ヘッケラー&コッホ」およびMP7の使用弾薬とされる「4.6×30mm弾」の指定が一致していることから、MP7のほかに該当する銃器はないと見られている。
ただし、防衛省や自衛隊からMP7であると明示されたことはなく、正式名称や仕様の詳細、調達数、運用方針などは公開されていない。配備先についても公表はないが、装備の性格や過去の関連報道などから、陸上自衛隊の特殊作戦群(SFGp)で運用されている可能性があると考えられている。
2025年現在、SFGpでは国外訓練の様子を頻繁に防衛省公式SNSにて公開しているが、HK416系の小銃を使用していることが明らかになっている。ただし、MP7とみられる装備が国外での共同訓練などにおいて明確に確認された例はなく、部隊運用上の秘匿性が未だに保たれているようだ。
よって、現時点で確認できるのは装備名と口径に関する調達情報のみであり、実際の運用実態については引き続き不明な点が多い。
韓国・大統領警護処におけるMP7配備の実態
韓国の大統領警護処(경호처、Presidential Security Service)は、国防部・警察庁から独立した大統領直属の警護機関であり、要人警護任務に特化している。
また「CAT(Counter Assault Team)」は、突発的な襲撃やテロに対応する警護処の専任部隊だ。
◉ MP7配備の確認
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韓国CATでは実際にMP7を装備した要員が公的な式典や映像に登場している。
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例:2023年および2025年の大統領就任関連の訓練・展示の公式映像や、来日警護時の現場映像(銀座での大統領外遊)などで、黒色MP7A1らしき火器を携行した要員の姿が複数確認されている。
◉ MP7採用の背景
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コンパクトながら高貫通力(4.6×30mm)のMP7は、防弾チョッキを装着した襲撃者にも対応可能。
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銃器犯罪が増加する韓国において、火力と取り回しのバランスが取れた装備として現場運用が進んでいるとみられます。
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市街地・車列警護・空港施設等での展開を前提にしており、実際に可視化された警護でも用いられています。
ただ、一方で文在寅・元大統領が市場視察の際の警護官がMP7機関けん銃を露出させた「大邱七星市場機関短銃暴露論議」が起きている。
「なんで韓国や日本警察はベレッタのマイナーモデル使っとるんや…?」いまいち不人気な東京マルイのベレッタPx4もMP7との組み合わせで精鋭警護部隊に!?
仮にMP7やP90が日本警察に配備されるとしたら?
まず前提として、日本の要人警護においては、いまだ「見せない警護」や「重装備への忌避感」が根強いことが挙げられる。
それは例えば、SPが90年代まで小口径の拳銃を使用していた事実だ。
実効性よりイメージ重視の傾向が続いているのは、安倍元総理狙撃事件後も変わらない。痛ましい教訓がありながらも、装備の更新は進んでおらず、MP7やP90のような火器が配備される兆しも見られない。
今後、警護の再設計には、機動力・携行性・貫通力を備えた装備の限定導入も議論の対象となるかもしれない。韓国CATのような先行例を「過剰警備」と見るか「必要な備え」と見るかは、日本社会が再び突きつけられる問いではないだろうか。
MP7やP90は従来の9mmパラ弾の火器(MP5)とは性質が異なる装備体系全体の変革を伴う特殊な火器である。そのため、全面的な導入は非現実的だ。
よって考えられるのは以下のような「局所的・限定的な運用」ではないか。
1. 特殊部隊の車両・要人防護用火器として
最も現実的なのは、SAT(特殊急襲部隊)やSP(警護課)における対テロ任務や要人警護の近接火力としての携行だ。
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MP7: ボディアーマーを着用した襲撃者への即応射撃や、車両越しの脅威に対処するために。小型・軽量でボディアーマーの上からでも携行可能。
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P90: 高威力・高装弾数(50発)により、短時間での火力制圧が求められる状況下で。たとえば、襲撃車両への対応や複数犯への反撃など。
この場合、MP5との併用運用、あるいは「要人移動中の随伴員が携行する緊急用」といった補完的用途に限定される可能性が高い。
2. 原発や国会周辺、首相官邸の特殊警備
特異な貫通力、狭隘空間での即応射撃にも理想的な特性を持つP90。
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P90は全長が短く、ブルパップ方式で携行性に優れる。機内などでの取り回しに最適。
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ただし高貫通力の弾丸が客室壁面や座席を貫通する可能性があり、弾種の検討(フランジブル弾)も重要課題となる。
3. 銃器対策部隊による現場即応火器
都道府県警察の銃器対策部隊が、拳銃武装した犯人が立てこもったケース等でMP7やP90を用いることも想定可能。
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特に拳銃とショットガンに対して、PDWは軽装備ながら確実な制圧力を提供するかもしれない。
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通常はMP5で対処するが、防弾チョッキを装着した凶悪犯や銃撃戦が予見されるケースではMP7が合理的かもしれない。
4. 限定導入による試験運用(パイロットユース)
実際に導入される場合、最初は数挺単位の試験導入(パイロット運用)が実施される可能性が高い。
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警視庁SATや神奈川県警SATなど、全国対応のレギュラーチームで運用・評価。
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実射試験・装備訓練・弾薬管理の検証を経て、問題点の洗い出しが行われる。
導入のハードル:弾薬管理と世論
上記運用が「技術的に」可能であっても、日本の世論・報道対応・政治的ハレーションを考えると、以下の課題が浮かび上がる:
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特殊弾薬(4.6mm, 5.7mm)の備蓄・保管に関する懸念。
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国会やメディアからの「軍用化」批判のリスク。
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一部政治勢力による「警察の重武装化」へのアレルギー反応。
よって、実現するとしても、市民の目に触れない限定用途(特殊部隊や非公開の空港警備)にとどまるだろう。
結論:配備されるなら、静かなる“補助火器”として
日本警察において、MP7やP90といったPDWが未導入である一方、機動隊の銃器対策部隊に高威力の自動小銃が配備されている(ただし報道公開はされていない)のは、用途と位置づけの違いによるものであり矛盾ではない。
日本警察がMP7やP90を導入するとすれば、それはやはり全面配備ではなく、SATにおける限定的運用に限られるだろう。