M3913は、米国S&W(スミス&ウェッソン)社が1990年代に展開したコンパクトな9mm口径セミオートピストルで、第三世代オートの一つでした。
現在はカタログ落ちしており、生産・販売が終了しています。
ステンレス製のスライドとフレーム、シングルカラムマガジン(8発)、そして安全装置付きのダブルアクション/シングルアクション(DA/SA)機構が特徴で、隠密携行用として米国では私服警察官や護身用に人気がありました。
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日本警察のM3913
日本警察は少なくとも2000年台初頭よりM3 913を導入しており、刑事部のSITや組織犯罪対策局、機動隊の専従部隊である銃器対策部隊などで配備されています。
制服の警察官、つまり地域警察官や交通警察官の主力は、今も昔も回転式けん銃。
その主流の中で自動式拳銃となるM3913はどんな用途に使われるのでしょうか?
実力(威力・運用)の考察

画像の引用元 http://www.imfdb.org/wiki/Smith_%26_Wesson_3913
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弾薬:使用する9mmパラベラム弾は、現在の標準的な拳銃弾としては威力十分。フルメタルジャケット(FMJ)弾では貫通力に優れますが、実際には限定的な用途に抑えられています。
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精度:スライドとフレームが密着したオールステンレス構造で、精度は非常に高く、反動の制御もしやすい設計です。
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サイズと携行性:全長約173mm、重量約700gとコンパクトで、私服警官のホルスター内携行に最適。これも日本での採用理由の一つです。
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命中精度と安全性:日本警察では警告射撃が前提で、精度と安全操作が重視されます。M3913はその要件を十分に満たしていました。
口径と弾薬
日本警察では38口径(.38スペシャル弾)が圧倒的多数派です。ただ、その威力はといえば、9mmを100%とした場合、およそ50〜70%程度。
そこに颯爽と現れるのが9mm口径のM3913。.38スペシャルの最大2倍の威力。これなら「実際に効く」拳銃としての役目も果たせそうです。
……ただし、シングルスタックマガジンなので装弾数は最大で8発。多弾数のグロックと比べると火力が劣る印象は否めませんし、ポリマーフレームの軽量銃と比べるとやや重い。

M3913を被疑者の立てこもる家屋に向ける警視庁SITの刑事たち。SATとは微妙に違う耐熱アサルトスーツやタクティカルベスト、装備品がよくわかるベストショット。右から二番目のSITはかなり高い位置に構えているが、グリップからコードが伸びている様子はない。 写真の引用元「決定版 世界の特殊部隊100」白石光さん著(写真・柿谷哲也さん)
M3913は、強大で組織的な犯罪者たちに立ち向かうために、危険度の高い捜査員に配備される、いわば“火力強め”のけん銃です。
まさか、白バイ女子のポニーテールがこれを持ってる姿を見ても、ちょっと笑っちゃいますよね。
でも、もし敵がトカレフやXM177、手榴弾にロケットランチャーまで持ってきたら、対抗する側も強力な装備を持たざるを得ません。
そんな装甲厚めの敵に「P230を支給する!(ドヤア」と言ったら、それこそ例のドラマ並みですから。
M3913はSnag-freeが特徴
S&W M3913はハンマーがスライドの中に一部隠れているような独特の形状になっています。
これは、主に携帯性と安全性を重視した結果です。
このモデルは、警察官や捜査官、あるいは護身用のユーザーに向けて開発されたコンパクトオートであり、素早く安全にホルスターから抜き撃ちすることに適した仕様となっています。
そのため、ホルスターや衣服に引っかかる可能性のあるハンマースパー(親指で起こす部分)を廃して、スライド内に半ば隠すような形状にした、いわゆる「スナッグフリー」が採用されたのです。
また、M3913はダブルアクション/シングルアクション(DA/SA)方式の一般的な拳銃と同じメカニズムです。
スライドを弾いて初弾をチャンバーに装填すれば、ハンマーも自動的に起きます。
そのまま引き金を引けば発射できますし、スライド上のセーフティーレバー兼デコッキングレバーを下に下ろせば、デコッキングされます。
その後、長くて重いトリガープルでハンマーを起こしつつ発射すれば、その後はスライド作動によりハンマーが自動でコックされ、軽いシングルアクショントリガーで連射が可能です。
確かに、意図的にハンマーを親指で起こそうとすれば、スライドに半ば隠れた突起を爪で引き起こすことは可能ですが、現実的にはスライドを少し引いてハンマーをコックする方が実用的です。
いずれにせよ、この設計は誤って引っかけてコックされたりするリスクを最小限に抑えるためのもので、あくまで実用性を重視した構造です。
見た目の特殊さに反して、M3913のハンマー配置は非常に理にかなった設計と言えます。
レディスミス(Ladysmith)との違い
M3913には「レディスミス(3913LS)」という派生型があります。
名前は「女性向け」の印象を与えますが、デザインの違いなどごくわずかです。
比較項目 | M3913 | 3913LS(レディスミス) |
---|---|---|
スライド形状 | オリジナル | 若干の違い |
フレーム形状 | オリジナル | 銃身下から伸びる斜め直線が優美 |
ロゴ・刻印 | オリジナル | “LADYSMITH”の刻印あり |
対象層 | 一般 | 主に女性 |
性能的な差はなく、外観の違いといったデザインにとどまります。
日本警察が採用しているのはM3913オリジナルです(LSモデルではない)。
レディスミスシリーズは、滑らかな曲線やコンパクトなサイズ感で女性ユーザーへ訴求力を高めた製品です。
しかし、基本設計はあくまでS&Wの堅牢な構造そのもので、護身用・警察用に求められる信頼性は十分に備えています。
現代版「レディスミス」シリーズ(1980年代以降)
以下のモデルが主に「Ladysmith」シリーズとして販売されていました。
モデル名 | 形式 | 口径 | 特徴 |
---|---|---|---|
Model 60LS | リボルバー | .38 Special | ステンレス製・小型・軽量 |
Model 65LS | リボルバー | .357 Magnum | 若干大型。強装弾に対応 |
3913LS | オート | 9mm | コンパクトオート。M3913の派生モデル |
642LS | リボルバー | .38 Special | DAO(ダブルアクションオンリー)モデル |
ドラマで活躍
テレビドラマ『アンフェア』(2006年、フジテレビ系)における篠原涼子演じる主人公・雪平夏見刑事が使用していた拳銃が「S&W M3913 Ladysmith(レディスミス)」でした。
他の男性刑事たちは無印のM3913(標準モデル)を使用していたのに対し、雪平のみがLadysmithという描写は、意図的な演出であったと感じます。
無論、日本警察はレディスミスは配備していません。ここに「敢えて」のフィクション性を絡める遊び心が逆に嬉しいものです。
主人公・雪平は刑事としてタフでありながらも、どこか壊れた美しさや繊細さを持つキャラクターとして描かれている本作。
実在する装備を忠実に再現しつつ、主人公にだけは印象的なディテールを与える。この「Ladysmith」は彼女の“女性であること”を象徴するアイテムとして、際立たせたい意図が伺えます。
なお、『アンフェア』で使用されたプロップガンの製作担当は、特殊部隊SATなどでもおなじみのMP5まで手がけるPYROTECH(パイロテック)さん。
あの定番・信頼のMP5も彼らの手によるものです。
そして、雪平が使っていた「S&W M3913 Lady Smith」の刻印を手がけたのが、業界では知られた存在、ガン&RCショップ「マッドポリス」さん。
このM3913、ステンレス・シルバーのピカピカ仕様で、見た目からして「威嚇力、MAX!」といったたたずまい。
通常なら艶消しの黒が考慮されるはずのSIT(特殊捜査班)突入係にまで配備されていたりします。ええ、あの突入係りにも、銀ピカ拳銃。
ピカピカのシルバー仕上げなので、無駄に美人刑事が持ってこそ映える銃。
マル暴専用の防弾「よう撃捜査用車」に乗った柔剣道有段者枠採用の組対の人が、コレを隠し持ちつつコウカクする姿を想像するとチョット。家裁の人みたいに言うのやめなよ……。
結論:日本警察のM3913は強いのか?
9mmの威力はニューナンブの38口径やP230(JP)の32口径より確実に強い
M3913は最新鋭のストライカー式ポリマーフレーム拳銃に比べれば、やや古さを感じさせる設計です。
しかし、日本警察が重視する「操作の確実性」「誤射防止」「堅牢性」「携行性」においては今でも十分通用します。
一発ごとの命中と抑止を重視する日本警察にとって、M3913は“必要にして十分”、むしろオーバースペック気味な「堅実な戦力」と言えるでしょう。
ただ、現在の刑事部SITでは、ベレッタ92バーテックが使用されるなど、ほぼ2倍となる装弾数の拳銃を並行配備しています。
なお、昨今では警視庁の自動車警らなど1部限定でグロック45の配備が行われており、こちらは装弾数が17発というハイキャパシティです。